39 / 52
ハーグスの死闘
冷酷無比
しおりを挟む忌々しい陣地構築作戦から一週間ほど経ったある日の事だった。その日まで特に戦線に動きはなく睨み合いの状況が続いていた。
その日はやけに塹壕内が騒がしく感じ、中腹の簡易な兵舎から出た。外に出ると数多くの兵士らが踏み台に登り何か騒いでいた。不思議に思って俺も踏み台に足をかけ、塹壕から頭を覗かず格好で麓を見下ろした。敵の塹壕だった。ここ数日で作り上げたのだろうか、塹壕の規模はかなり大きく、こちら側の塹壕と同じように有刺鉄線や車両どめなども敷設してあった。こちら側とあちら側の距離は数100m程度か、或いはそれ以上だろう。とにかく長期戦を覚悟した。
俺は自分の分隊と合流して、所定の位置につき任務を開始した。と言っても警戒をするだけで、ただ中腹から眺めているだけだ。正直この時間は俺にとって1番楽な時間だった。敵の攻撃もなく、一瞬だけだが戦場の緊張感を忘れる事が出来るからだ。警戒任務を開始して程なく、高地の頂から1人の将校が狙撃兵数名を引き連れてやってきた。将校は敵の出方を伺うぞと言い、狙撃隊を配置させた。狭い塹壕内を慣れた手つきでライフルを取り出し、二脚を立てて構えた。スポッターも付いている。
「注意しろ1時方向の塹壕。切り株付近のだ。」
構え始めてすぐにスポッターが言った。
「ああ、視認した。標的は1人。M24装備か?」
「ソイツだ。標的は0.2ミルの高さ。」
「角度は0か」
「そうだ。推定300m。」
「塹壕の奥の方だぞ?他の敵は?」
「最前線の塹壕に沢山いる。先に後方のスナイパーからやるぞ。」
「分かった。奴に照準を合わせる」
射手の言葉を最後に命令待機に入った。お互い顔を見ずに話し合っている。10分ほどして射撃命令が降りた。しばらくの沈黙が続いたかと思うと静まり返った塹壕内に1発の重い銃声がした。射手は手早にボルトを引いて薬莢を排出した。俺は彼らが狙う敵塹壕を双眼鏡で見ていた。
「命中」
おおと歓声がしたが動じずに狙撃隊は別の標的に照準を合わせて加えて発砲した。
「命中。最前線を攻撃せよ。」
狙撃隊は各々の数発ずつ撃ち込んだ。敵の最前線の塹壕内は混乱に陥っていて多くが壁に張り付いていた。撃ち抜かれた兵士は仰向けで倒れ、壁際にひこずられている。そんな中、壁際の過密さのせいで尻もちついて際からあぶれた兵士が射線に飛び出て来た。あっと思うと銃声がして、その兵士は頭を撃ち抜かれヘルメット越しに血潮が真上に噴き上がった。撃たれた兵士は信頼のある者だったのだろう。その遺体には何人もの兵士が集まり何か叫んでいるように見えた。
俺は狙撃兵が羨ましく思えた。俺は双眼鏡でその光景を見ているだけで心が痛くなるのに彼ら狙撃隊は感情に左右されずに容赦なく次々撃ち抜いて行くからだ。
どうしても死を悼む気持ちが抜けなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる