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ハーグスの死闘
血の春攻勢
しおりを挟む狙撃兵らが敵に恐怖を与えている間に麓の味方塹壕には沢山の兵士と戦闘車両が集結していた。かねてより計画されていた春季攻勢の始まりだった。
前の砲士官が数人の部下を連れて、狙撃隊が攻撃をしている方を双眼鏡を手にし凝視していた。以前とは違い何か緊張感に溢れているような気がした。
「時間だ」
士官が無線に向かって言った。俺は頂上の方を見上げて様子を伺ってみた。砲兵隊らはあっという間に準備を完了させ、いつでも撃てるようにして待機していた。
するとその砲士官は手にしていた指揮棒を天高く突き上げ大声で撃てと命じた。あの凄まじい射撃音と炸裂音が入り乱れた。世界でも評価の高いセグワ砲兵隊は慣れた手つきで次々撃ち込み、かつ正確に命中させた。瞬く間に敵の塹壕は土煙に覆われ、容赦ない砲弾がまるで先日の豪雨のように感じられ敵が不憫に思えたほどだった。
「ケイン大尉。お前の隊は後方支援隊に急遽変更だ。麓の塹壕から味方部隊を援護してくれ」
そんな最中、士官からの命令を受けて麓に行った。塹壕内には何人もの兵士が今か今かと突撃の合図を待ち構えている。塹壕内の外に出るために掛けられたいくつものハシゴには何人もの兵士が密集していた。やがて砲撃は終わり、静寂が歩兵部隊の緊張感をさらに刺激した。
「今こそ奴らジェネッサに我々セグワの意地を見せつけてやるのだ!勇気ある兵士諸君に命ずる。今回の攻勢を成功させ、奴らにセグワの土を踏んだ事を後悔させてやれ!」
時代に似合わないリボルバー拳銃を持った塹壕将校が突撃命令を受けた部隊を鼓舞した。そして彼は笛を加えて腕時計を見つめた。1秒1秒が言葉では表せない程の雰囲気を醸し出した。緊張感が最高潮に達した時ー
高い笛の音が塹壕内を走った。男達の威勢に満ちた怒号と共に戦車や装甲車も全走力で突撃した。
砲撃を受けた後の敵は抵抗力が少ないと将校らは予測していたのだろう。だが現実は違った。土煙の中から1発の砲弾が真っ直ぐ突撃部隊の中心に向かって飛んで来た。そして炸裂した。一瞬で付近にいた10人くらいが吹き飛ばされた。その砲弾の炸裂を皮切りに敵の猛反撃が始まった。突撃部隊はすぐさまクレーターや倒木の陰に身を伏せ応射するが火力の差は歴然だった。機甲隊が突撃兵らを庇うように前線に躍り出て敵部隊を蹂躙しようとした。
「車長!敵の攻撃が凄まじいです!」
「分かってる!マックス!対戦車兵器を持ってるやつを優先させろ!」
「了解!」
戦車兵らは蒸し暑い車内で必死に応戦した。
「車長!1時方向、エイブラムス接近!」
「マックス!」
「分かってます!」
砲塔を1時方向に旋回させ狙いを定めた。
「セグワを!舐めるんじゃねぇ!」
トリガーを引き、砲身から120㎜の砲弾が高速で放たれた。
「やった!やりましたよ!車長!敵戦車炎上!兵士らが降りていきます!追い討ちしますか」
「駄目だ!塹壕に再度照準を合わせろ!突撃部隊を何としても塹壕に送り届けろ!」
戦車の騒音にも負けない程の大声で伝達し合う。
「味方の戦車隊が抑えつけている今がチャンスだ!歩兵隊!前へー!!」
その合図で再度部隊は突撃を開始した。
「行け!行け!止まるな!怯むな!進めー!」
歩兵部隊は猛々しく突撃し、そして戦死した。
「車長!味方歩兵がなぎ倒されて行っています!」
「くそ!塹壕に乗り上げろ!内部を一掃するぞ!アレックス!全速前進」
戦車は単騎で車両止めや有刺鉄線を踏み越えて敵の塹壕をまたぐ形で停車した。
「撃てー!」
車長の怒号と共に戦車に備え付けられた全武装が火を吹いた。機関銃が何度もオーバーヒートした。
「オイ!あの戦車を破壊しろ!ハッチをこじ開けてグレネードを投げ入れるんだ!」
数人のジェネッサ兵らは砲塔が向いている逆方向から接近して砲塔によじ登った。
「いいか、合図で開けろ」
手で合図すると突破用の爆薬でハッチを吹き飛ばした。
「今だ!」
ジェネッサ兵らは同時に一斉にピンを抜いた手榴弾を投げ入れた。
「撃て!撃て!味方の突撃部隊を」
車長は言い終わらないうちに足元に転がった手榴弾に目が止まった。ドンっと篭った音と同時に戦車の攻撃は止まり、ハッチから煙が噴き上がった。
「良いぞ!敵戦車破壊!」
「サー!味方砲兵隊がセグワ戦車隊を捕捉しました。間も無く援護射撃が入ります。」
ジェネッサ兵らは息を吹き返し、反撃は更に強くなった。数台のセグワ戦車は歩兵部隊を支援しようと火力を集中させた。だが、間も無くジェネッサの砲撃が始まりその大半が吹き飛んだ。そんな中唯一生き残ったセグワ戦車が放った砲弾が塹壕の弾薬庫に命中し、大爆発が起きた。
「死んだ奴らの分まで!行け!」
セグワの突撃部隊は最後の力を振り絞り突撃した。爆発の動揺で反撃の手が緩んだため、突撃したセグワ兵らはジェネッサの塹壕に到達した。たどり着いた1人のセグワ兵が空に向けて1発のフレアを放った。
「第2波!行け!」
セグワの塹壕から第2波部隊が突撃した。
「サー!セグワの次の突撃部隊がやって来ます!」
「第1波を早急に片付けろ!戦車部隊を全面的に前へ!砲兵隊は誤射覚悟で撃ち込め!」
その命令を受けてジェネッサの戦車数十台が一斉に表に出て迎撃した。最前線の塹壕内では激しい白兵戦が繰り広げられていた。悲鳴が渦巻き、塹壕の木は血で染め上げられた。オーシア兵士がセグワ兵を殴り殺したと思うとその背後から別のセグワ兵がオーシア兵の首にナイフを突き刺す。その連続だった。第2波は全力で第1波の援護に向かうが戦車数十台の火力は伊達ではなくその大半が中間地点の真ん中にたどり着く前に倒れた。
「損害が大きすぎる!やむを得ん!撤退!撤退ー!」
第2波は撤退を開始した。取り残された第1波はその後も白兵戦を続けた。果敢に戦ったが数の差は埋められなかった。気がつく頃には立って戦えるセグワ兵は残っておらず事実上第1波は壊滅した。撤退していく第2波も砲撃が降り注ぎ形勢が逆転した。
春季攻勢は失敗した。
命からがら撤退して来た第2波の兵士たちはそれぞれ負傷していた。ジェネッサはそれ以上追撃をしてこなかった。
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