31 / 53
消えゆく存在と国家
31 暴かれた存在
しおりを挟む襲撃から数週間経ったある日、リストは自分の本来の立場をすっかりと忘れ去っていた。その日もICICLE隊員たちと日を過ごしていた。しかしその夜、リストの電話が鳴った。
『リスト!貴様何を考えているんだ!』
相手は州警の課長だった。
『すぐに帰還せよ。貴様には聞きたいことが山ほどあるからな!』
リストは我に返った。そうだ、俺は警察官だったんだ。
『ですが、まだ続行した方が』
『黙れ!貴様自分の立場を忘れたんじゃないだろうな。』
リストは一方的に切ってマナーモードにして、携帯をしまいこんだ。そしてリストは屋上を離れて中に入った。隊員が大勢いる待機所の入り口で足を止めて見回す。俺が最初に来た時は、捜査官としての自覚と意識があった。ICICLEらの非を暴いてやろうと意気込んでいた。けど、今はどうだろうか。彼らは悪か?彼らを全否定してしまうのは正義なんだろうか。
「どうしたリストー?浮かない顔してからよ。」
立ち尽くすリストを不思議に思った隊員が尋ねた。
「いや何でもないよ。」
リストは作り笑顔で受け答えした。だが入らずに振り返って待機所を出た。強く拳を握りながら再び屋上へと向かった。屋外には月の影が出来上がっていて、リストの心情とはまるで似合わない光景が、そこには広がっていた。しばらく1人で自問自答を繰り返していると後ろから既に聞き慣れた声がした。
「ここにいたんだ。やっと見つけたよ。どうしたの?」
レイだ。この場で1番会いたくなかった存在でもある。
「いや外に出たいと思っただけだよ。ほら綺麗な夜空じゃん。」
リストは普段全く関心のない事を焦ったばかりに口走った。
「そ、そうだよね。ほら月も綺麗だしね。」
不思議に思ったレイも変に気遣ったようだった。変に重い空気が流れる。リストにとっては地獄のような時間だった。
「大丈夫?なんかすごい辛そうな顔してるけど。」
レイがリストの顔を覗き込むように見た。リストはすぐに顔をそらしてレイの前に手をかざした。
「大丈夫なんだ。」
レイは少し戸惑いながらも頷きながら引き下がった。また間が空く。リストはその間にも思考し続けていた。それもこの女が横にいるおかげで余計に考え事が湧き続けていく。少し前に捜査の一環で聞き出した彼女の意思に触れたその日から俺は変わったのかもしれない。リストは大きく、しかしレイには気づかれないようにため息した。
「ねぇ、そういえばさあ。私リストがどこからやって来て、なんのためにICICLEに入ったのか聞いてなかったね。初心に戻って教えてよ。」
突然レイが言った。それもこちらの心の内を読んでいるかのようにジャストミート過ぎる会話だった。
「その質問に答えないといけない?」
リストは小さめの声で言い、それを聞いたレイは少し笑いながら言った。
「どうしたの?まぁ、言いたくないのなら別にいいよ。」
リストは心の内で、理由は分からないが自責の念に陥っていた。
「でもそんなこと言われたら知りたくなっちゃうな~。」
レイがからかうように言ってくる。もうダメだ。リストはレイから離れた。レイが急なリストの動きに戸惑いを隠せないでいた。
「やっぱりおかしいよ。どうしたの?」
リストはレイの問いかけを一切無視して屋内に入って行き、誰もいない室内に電気もつけずに入った。胸が熱くなっている。リストは椅子に座って携帯を取り出した。マナーモードにしていたそれの待ち受けに何件もの不在着信が入っていた。リストは大きく深呼吸して電話をかけ直した。するといきなり課長の怒鳴り声から始まった。
『貴様、帰ってきたら覚悟しておけ。命令に背き、不当に破壊活動の扶助も行いおって。』
『ですが課長』
『黙れ!言い訳など聞きたくないわ!明日の正午までには帰還しろ。いいな?』
リストは中々了解出来なかった。業を煮やした課長はさらにつめ寄る。
『貴様は治安を守る警察官だろうが!なんでそんな事も分からないんだ!自分の口で言ってみろ!お前はなんだ!ICICLEか?』
『....警察官です。』
『分ったならさっさと命令に従え!明日の正午までに帰還しろ!身近な署でいい!復唱しろ!』
『明日の正午までに帰還します。』
『裏切るなよ。』
そう言われてブチ切れられた。リストは酷く後悔した。だが、そんな彼に追い打ちをかける出来事が起きた。
ドアが開く音。リストは慌てて振り返った。リストは歯ぎしりした。レイだった。レイはリストがいわゆる裏切り者である事を知ってしまった。今にも泣き出しそうな顔をしている。リストは何も言えなかった。
「い、今のって、本当なの?」
レイが震わせながら言った。
「....本当だ。」
「......酷い。じゃあ、今まで騙してたの!?私や、他の隊員たちの想いや願いもあなたにとったらどうでもいい事だったのね!」
「違う!俺は!」
「うるさい!」
レイは勢いよくドアを飛び出していった。リストは携帯を叩きつけた。クソくらえだ。リストは液晶が粉々に砕け散った携帯を閉まって、レイの後を追おうとしたが、結果は変わらないと決めつけて、建物の外に出た。
リストは歩く。最初にレイと出会った所。拠点から街を一望できる場所。雪を踏み越えてその場についた。リストは1人で夜景を眺めていた。デカイ建物なんて1つも無いくせに、放たれる照明が見せかけの感動を誘惑していた。そんな時後ろから雪を踏む音がした。振り返るとレイがうつむきながらこっちに歩いてくるのが見えた。すると、レイが顔を上げて気がついた。レイがリストを見るやいなや戻ろうとした。
「待ってくれ!レイ!」
レイが足を止めた。
「話を出来ないかな?」
リストがそう言うと、レイは顔を合わせず歩み寄ってきた。
「レイ....聞いて欲しいんだ。俺は、俺は確かに州警の警察官で潜入捜査官としてICICLEにやって来た。最初は、君たちを検挙するために活動していた。手に入れた情報は、その大半は本部にも流した。けど、君と関わってから俺は自分のしている事が本当に正しいのかどうか疑うようになった。俺は君が想うこの島に惹かれていったのかもしれない。俺は昔君が保安庁にいた時と同じように、もう二度と戦争を起こさない平和を作るために警察官として働いていた。けど、俺は気づいたんだ。俺が守ろうとしている物は実は建前だけ立派な空虚なものなんだって、俺は君が本気で思う、目指す世界こそが真の平和だと実感している。気がつけば俺は本部の事なんて忘れてICICLE隊員になったつもりでいたんだ。そんな事していたバチが今当たったんだろうな。」
リストは胸の内を全部吐き出した。レイはうつむいて目をつむり、そして顔を上げてリストを見た。
「私は、私は父を戦争で亡くして、母を私の勤めていた保安庁が殺した。この気持ちは誰にも理解されてこなかったし、私の心に永遠に刻まれた傷だと自分でも思っていた。私はあなたなら心の底から信頼できると思っていた。なのに....ひどいよ。」
リストはただ謝る事しか出来なかった。許しなんか求めることは決して無かった。
「これからどうするの?」
レイはリストに聞いた。
「まだICICLEに居たいんだ。上手くは言えないけど、俺だって5年前は命を張って国防に徹して来た兵士だったんだ。俺は君の言った、この島の真の平和を達成したいんだ。」
「信じてもいいの?」
リストはレイの手を取った。
「信じてくれ!」
強く握りしめた。寒さでヒンヤリと冷たい手だった。そこからレイは何も答えず、建物の方へ歩いていった。後ろ姿を闇夜に消えるまでずっと見ていた。時折目をこするような動きをしていた。リストは大きく深呼吸して、また街を見下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる