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一章 新世界にて
そして彼女は話し合う 精霊種
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そうしてのんびりと話しながら、楽しく食事を終えた。
頑張って食べ進めてみたものの、流石に用意されたものを全部食べ切るのは無理だった。
相変わらず満腹感を覚えたりするわけではないのだけれど、やはり、見た目に量が多すぎる。
食べ進めてみるものの、量がほとんど減らない。
流石に無理だと、何度か手を止めれば、アンナリタ様から、勧められ、また少し手を動かす。
そんなことを数回繰り返せば、今度は顔色まで悪くなってきたのか、アルマリンダ様からストップが入る。
「確かに、もっと召し上がられたほうがいいとは思いますが、無理をしすぎるものでもないでしょう。
それで、体調を崩しては元も子もないのですから。」
「ほんに御子様は食が細いのう。
最低限は大丈夫であろうが、食べねば大きく育てませんぞ。」
とはいわれても。
成長期は終わっていますし。
元々、食事をとること自体苦痛だったので、最低限しか食べなかったので。
同年代に比べて、かなり小柄な自覚はあるのだけど。
「これからは、食事の内容も少し考えましょう。
量を食べられないのであれば、質を高めればいいのです。」
何やら、ディネマが奮起している。
申し訳ないと思うものの。
流石に、食卓にずらりと並ぶ料理を全部食べろと言われても、無理。
正直、一皿、二皿くらいがここに来る前の私の限界量。
「さて、御子様。
今日は如何お過ごしか?」
下げられた食事に代わり、出されたお茶を各々手に取っていると、そうアンナリタ様に聞かれる。
「私が国王様に猿人種の追放をお願いしましたので、そのことに関してこの国の代表者の方に話をしようかと。」
そういえば、そのあたりの説明をアンナリタ様にはしていなかった。
「ほう。滅ぼせと言わないとは、御子様はずいぶんとお優しい。
わざわざ、話を聞くこともなかろうに。妾に一言仰せ頂ければ、たちどころに種をこの世界から消して見せますが?」
「アンナリタ、御子様の決めたことです。」
「ふむ。そうではあるが、御子様はまだまだ幼くていらっしゃる。
年長者として助言の一つ、二つ、差し上げるのも務めであろうよ。
なに、それで勘気を買ったところで、我が身一つで収まろう。」
何というか、確かに振る舞いは自由ではあるのだけれど。
それを支える余裕をアンナリタ様から感じる。
こういうのを鷹揚とか、器が大きいといえばいいのだろうか。
「下々に心を砕く御子様をおとめするのは、流石に行き過ぎです。
些事と切り捨ててもいいことまで、お心を砕いてくださる様は尊いものですよ。」
「ふむ。上のものがあまり些事にかまけるのも、下にとっては窮屈化と思うが。
のう、坊。そのあたりはそちのが詳しかろう?
年若いとはいえ、長としての知見をここで披露してみてはどうかの?」
アンナリタ様がオレイザードに話を振る。
「ふむ。私よりはるかに長く生きておられる方々を前に、年長者ぶるのは気恥ずかしいものがありますが。
まぁ、要は、程度の問題ですな。あとは受ける側がどうとるか。それにつきますな。」
そういって、一度カップを傾けるオレイザード。
改めてその視線がこちらに向き、目が合う。
がらんどうだと思っていた、目の奥には何やら不思議な光が。
「上のものがあまりに遜れば、それは敬おうという姿勢を無下にすることにもなります。
しかし、それを当然と思い、下のものをいないかの如く振舞えば、いつかは離れていくことでしょう。
その加減は、それこそ長い時をかけて学んでいけばよいことですな。」
なにごtも、ほどほどがいいと、そういうことらしい。
そのほどほどが全く分からないのです。
むしろ私の中で、私は下のものなのです。
なんとなく、責められているようにも感じてしまう。
「なに、今は難しくとも、それに長けた物が周りにおるのです。
人をうまく使うのも上のものの務め。
直に、慣れていくでしょうよ。」
そういって、オレイザードが呵々と笑う。
「なかなか道理の通った言葉ではないか。あの坊も成長したものよ。
そうですぞ御子様。御身はまだまだ幼い。我らのように、無駄に歳ばかり食ったものをうまく使えばよい。」
「アンナリタのようになさるのはやめていただきたく思いますが、私も御用とあらばいつなりと。」
頼もしい。
それと同時に、少し後ろめたい。
早く、うまくできるようになればいいな。
「ええと、それでですね。
オレイザード様と、アルマリンダ様。今はアンナリタ様ですが、にはお会いさせていただきましたので。
今日は他の方のもとに伺わせていただこうかと。」
ずいぶんそれてしまった話を元に戻す。
「ほう、それならば精霊種は如何ですかな?
あれらも我々同様、いつも暇を持て余しております故。」
「アンナリタ。あの子たちはそこにいて、場を整えることが一番大事な仕事です。
あなたのように、気ままにあちらこちらをふらふらしているわけではないのですよ。」
「おお、そういえばこの世界の精霊共はそなたの子のようなものであったか。
これは、失言であったか。まぁ許せよ。何分久しぶり故な。」
「あなたは、いつでもそうではありませんか。」
そうして、話を聞いているうちにまた、知らないことがたくさん。
それにしても、精霊種。
どういった方なのだろう。
言葉の響きだけで考えれば、なんだか、自然の中に生きていそうな感じだけれど。
「今の長は世界樹の精霊。昨日御子様にお越しいただいた、あの樹に宿る精霊でございます。」
あら。それではまたあそこに。
なんとなく、気を失わなければ、そのままお会いできたのに。
そんなことを考えてしまう。
出不精だった私が顔をのぞかせてしまっている。
「おお、アレか。あれもまだ大分幼い。御子様の良き話し相手になるやもしれんな。
何分我らのような年寄りばかりに囲まれていては、御子様も窮屈でしょう。」
あれだけ大きな木を幼いといってしまえる方々がすごい。
「私の主観では、まだ20年も生きていないのですが。」
そっと数字を盛った。
ちょっと見栄を張りたい。
ここに来てから、病人扱いを通り越して子ども扱いされることが多いから。
いや、実際の年齢を比べれば、子供どころの話ではないのだろうけれど。
ただ、私の言葉に、皆少し驚いたようだ。
アルマリンダ様はその長い裾を使い、口元を隠している。
アンナリタ様は大きく目を見開いている。
ディネマも初めて見る顔をしている。
オレイザードは、よくわからない。
「よもや、意識を持たれてから、その程度の期間とは。
ふむ、あの事件が起こっていなければと、そう思わずにはおれんな。」
「ええ。私も驚きました。あの時点で、方向性のようなものは見え始めていましたので。」
どうやら、驚かせてしまったようだ。
放っておくと、またついていけそうもない話が始まりそうなので。
「ええと、それでは、昨日と同じ場所に向かえば、精霊種の長の方とお会いできるのでしょうか?」
軌道修正を図ってみる。
「なに、わざわざ御身が足を運ぶこともありますまい。
アルマリンダもいるのでな。呼べばすぐに来るであろう。」
そういって、アンナリタ様がアルマリンダ様を見れば。
「イグレシア。少しこちらにいらっしゃい。」
何処か遠くに声をかける。
なんとなく、それが分かった。
そのすぐ後に、また違和感が。
「なーにー。母様呼んだー?」
気が付けば、アルマリンダ様の顔の下にかわいらしい顔が。
「ええ、御子様があなたにお話があるそうです。」
「んー?御子様って?
あ、アンナリタがいる。久しぶりー。」
どうやらマイペースな子のようだ。
それに、あの樹の精霊と聞いて想像していたよりも、かなり小さい。
アルマリンダ様の膝の上で喋る様子は、本当にただの子供のようにも見える。
「うむうむ。久しぶりじゃの、イグレシア。しばらくぶりではあるが、そのほうももそっと頑張って成長せねばな。」
「んー。最近はご飯が増えてきたから、これから大きくなれそうかもー。」
「イグレシア。御子様の前ですよ。
二位の御方の、お子様です。ちゃんとなさい。」
「おー。どっか行ってたのに、帰ってきたのー?」
ぱたぱたと、体を動かしながらしゃべる姿はほほえましい。
「初めまして、イグレシア様。」
「初めましてー。わー。大変だ―。」
あまり大変ではなさそうな調子でイグレシア様が続ける。
「すっごい、ぼろぼろー。ちょっと前のアンナリタよりもひどいんじゃない?」
そこまで行ってしまった後に、アルマリンダ様に口元を抑えられる。
それでももごもごと何かを続けている。
「はっはっは。やはり幼子というのは直接的よの。御子様も、これぐらい素直に振舞ってみるのも、楽しいかもしれませんぞ。
いやいや、アルマリンダ。妾が稚気に溢れているというが、流石の妾も言葉は飾るぞ。」
なんだか、アルマリンダ様が一回り小さくなった気がした。
「あの、私は気にしていませんので。
それに、体をいたわれと、会うたびに言われているほどです。
イグレシア様の仰りようが正しいのでしょう。」
ぼろぼろと、一目見てはっきり言われるほどとは思っていなかったけれど。
「むぐむぐ。」
イグレシア様が何か言っているが、口はまだ開放してもらえないようだ。
「えーと、アルマリンダ様。お話があってお呼びさせていただいたわけですし。」
「御子様。このままで構いません。この子にはお言葉を頂けるだけで十分です。」
アンナリタ様が、子供のようなものといっていた以上に、アルマリンダ様は自分の子供と思っているのかな。
イグレシア様も母と呼んでいるようだし。
そうであれば、アルマリンダ様自身も樹木が本体ということだろうか。
ただ、それは違う気がする。
特に理由もなく、勘でしかないけれど。
「いえ、流石にそういうわけにも。」
そういえば、抱え込む様に口を押さえていた手が離される。
それと同時に、お茶のお供に用意されていたお菓子に手を伸ばし、それをはたいて止められている。
「ダメなのー?」
「お話の後で、ですよ。」
どうやら、早く話してしまったほうがいいようだ。
「そのですね。私の我がままで、そちらのオレイザード様にお願いして、この国から猿人種を追放しようということになりまして。
それで、何かご迷惑があるのではないかと。」
「あー。何日か前に、言ってたねー。
いいんじゃない?いなくてもー。国から追い出したって、みんな、会いたかったら、いつでも会えるだろうしー。
それに、私は猿人種のお友達いないから、どうでもいいやー。」
そうとだけ答えて、食べていいかを聞いてくる。
なんだか、想像していた以上に軽い答えで、肩の力が抜ける。
神霊種の方も、精霊種の方も、とてもあっさりだ。
ディネマを見ると、頷いてくれたので、どうぞと勧める。
アルマリンダ様が、天を仰いでいる。
「よいよい。やはり幼子はよく食べ、よく遊び、よく寝るのが本分よ。
御子様もイグレシアを見習って、しっかり食べねばな。」
「御子様ご飯食べないのー?
大きくなれないし、怪我も治らないよー?」
自分より幼い見た目の子供に、とても不思議そうに言われてしまう。
ここで食べないというのが、後ろめたく、無理に口にお菓子を運ぶ。
「ねー。おいしいねー。」
とても無邪気な笑顔に、毒気を持つことはできないのだけれど。
こう、すこし。
のどのすぐそこまで。
食べ物が詰まっている感じが。
「申し訳ありません、御子様。
我が子らではあるのですが、この子は精霊の中で確かに最年長なのですが、何分本来生きる時間と比べれば、見目の通りでして。」
「いえ、お気遣いなく。」
なんだか、変な返しをしてしまった気がする。
悪い気分ではない。
それは確かなのだから。
「その、思った以上に早く終わってしまいましたが、この後他の方に会いに行くことはできますか?」
「なにー?御子様遊びに行くの?
私も一緒に遊んでいいのー?」
「いえ、遊びに行くわけでは。」
「えー。」
「いけませんよ、イグレシア。御子様の邪魔をしては。」
なんとなく、悪いことをしている気になってくる。
「それでは、イグレシア様。またの機会に、ぜひ一緒に遊びましょう。
いまは、少し忙しいので。」
「ざんねーん。じゃあ、お母さま遊んで―。」
そうイグレシア様が言えば、アルマリンダ様が困った顔。
そして、ちらりとアンナリタ様を見る。
「ええと、たぶん大丈夫ですよ。アンナリタ様も、私に大変よくしてくださっているのはわかりますから。」
「ですが。」
「お母様も遊んでくれないのー?最近忙しいからって遊んでくれなーい。」
「今は、妾がおる。その方が子供と安心して時間を過ごせるくらい、妾も気を配ろう。
これでも、自分で口にした約定をたがえた覚えはないぞ。
幼子のために、骨を折るくらいの気概はきちんと持ち合わせておるよ。」
そう、アンナリタ様が告げる。
「では、お言葉に甘えまして。御子様、失礼いたします。
じゃあ、イグレシア。久しぶりにゆっくり遊びましょうか。」
「わーい。」
そんな言葉を残して、二人が薄れて消えてゆく。
なんだか、イグレシア様だけではなく。
アンナリタ様もどこか嬉しそうで。
さて、私がまだ見ぬ母に会うときに、あんな振る舞いを期待されているのだとしたら。
確実に無理。
そんなことを思ってしまった。
頑張って食べ進めてみたものの、流石に用意されたものを全部食べ切るのは無理だった。
相変わらず満腹感を覚えたりするわけではないのだけれど、やはり、見た目に量が多すぎる。
食べ進めてみるものの、量がほとんど減らない。
流石に無理だと、何度か手を止めれば、アンナリタ様から、勧められ、また少し手を動かす。
そんなことを数回繰り返せば、今度は顔色まで悪くなってきたのか、アルマリンダ様からストップが入る。
「確かに、もっと召し上がられたほうがいいとは思いますが、無理をしすぎるものでもないでしょう。
それで、体調を崩しては元も子もないのですから。」
「ほんに御子様は食が細いのう。
最低限は大丈夫であろうが、食べねば大きく育てませんぞ。」
とはいわれても。
成長期は終わっていますし。
元々、食事をとること自体苦痛だったので、最低限しか食べなかったので。
同年代に比べて、かなり小柄な自覚はあるのだけど。
「これからは、食事の内容も少し考えましょう。
量を食べられないのであれば、質を高めればいいのです。」
何やら、ディネマが奮起している。
申し訳ないと思うものの。
流石に、食卓にずらりと並ぶ料理を全部食べろと言われても、無理。
正直、一皿、二皿くらいがここに来る前の私の限界量。
「さて、御子様。
今日は如何お過ごしか?」
下げられた食事に代わり、出されたお茶を各々手に取っていると、そうアンナリタ様に聞かれる。
「私が国王様に猿人種の追放をお願いしましたので、そのことに関してこの国の代表者の方に話をしようかと。」
そういえば、そのあたりの説明をアンナリタ様にはしていなかった。
「ほう。滅ぼせと言わないとは、御子様はずいぶんとお優しい。
わざわざ、話を聞くこともなかろうに。妾に一言仰せ頂ければ、たちどころに種をこの世界から消して見せますが?」
「アンナリタ、御子様の決めたことです。」
「ふむ。そうではあるが、御子様はまだまだ幼くていらっしゃる。
年長者として助言の一つ、二つ、差し上げるのも務めであろうよ。
なに、それで勘気を買ったところで、我が身一つで収まろう。」
何というか、確かに振る舞いは自由ではあるのだけれど。
それを支える余裕をアンナリタ様から感じる。
こういうのを鷹揚とか、器が大きいといえばいいのだろうか。
「下々に心を砕く御子様をおとめするのは、流石に行き過ぎです。
些事と切り捨ててもいいことまで、お心を砕いてくださる様は尊いものですよ。」
「ふむ。上のものがあまり些事にかまけるのも、下にとっては窮屈化と思うが。
のう、坊。そのあたりはそちのが詳しかろう?
年若いとはいえ、長としての知見をここで披露してみてはどうかの?」
アンナリタ様がオレイザードに話を振る。
「ふむ。私よりはるかに長く生きておられる方々を前に、年長者ぶるのは気恥ずかしいものがありますが。
まぁ、要は、程度の問題ですな。あとは受ける側がどうとるか。それにつきますな。」
そういって、一度カップを傾けるオレイザード。
改めてその視線がこちらに向き、目が合う。
がらんどうだと思っていた、目の奥には何やら不思議な光が。
「上のものがあまりに遜れば、それは敬おうという姿勢を無下にすることにもなります。
しかし、それを当然と思い、下のものをいないかの如く振舞えば、いつかは離れていくことでしょう。
その加減は、それこそ長い時をかけて学んでいけばよいことですな。」
なにごtも、ほどほどがいいと、そういうことらしい。
そのほどほどが全く分からないのです。
むしろ私の中で、私は下のものなのです。
なんとなく、責められているようにも感じてしまう。
「なに、今は難しくとも、それに長けた物が周りにおるのです。
人をうまく使うのも上のものの務め。
直に、慣れていくでしょうよ。」
そういって、オレイザードが呵々と笑う。
「なかなか道理の通った言葉ではないか。あの坊も成長したものよ。
そうですぞ御子様。御身はまだまだ幼い。我らのように、無駄に歳ばかり食ったものをうまく使えばよい。」
「アンナリタのようになさるのはやめていただきたく思いますが、私も御用とあらばいつなりと。」
頼もしい。
それと同時に、少し後ろめたい。
早く、うまくできるようになればいいな。
「ええと、それでですね。
オレイザード様と、アルマリンダ様。今はアンナリタ様ですが、にはお会いさせていただきましたので。
今日は他の方のもとに伺わせていただこうかと。」
ずいぶんそれてしまった話を元に戻す。
「ほう、それならば精霊種は如何ですかな?
あれらも我々同様、いつも暇を持て余しております故。」
「アンナリタ。あの子たちはそこにいて、場を整えることが一番大事な仕事です。
あなたのように、気ままにあちらこちらをふらふらしているわけではないのですよ。」
「おお、そういえばこの世界の精霊共はそなたの子のようなものであったか。
これは、失言であったか。まぁ許せよ。何分久しぶり故な。」
「あなたは、いつでもそうではありませんか。」
そうして、話を聞いているうちにまた、知らないことがたくさん。
それにしても、精霊種。
どういった方なのだろう。
言葉の響きだけで考えれば、なんだか、自然の中に生きていそうな感じだけれど。
「今の長は世界樹の精霊。昨日御子様にお越しいただいた、あの樹に宿る精霊でございます。」
あら。それではまたあそこに。
なんとなく、気を失わなければ、そのままお会いできたのに。
そんなことを考えてしまう。
出不精だった私が顔をのぞかせてしまっている。
「おお、アレか。あれもまだ大分幼い。御子様の良き話し相手になるやもしれんな。
何分我らのような年寄りばかりに囲まれていては、御子様も窮屈でしょう。」
あれだけ大きな木を幼いといってしまえる方々がすごい。
「私の主観では、まだ20年も生きていないのですが。」
そっと数字を盛った。
ちょっと見栄を張りたい。
ここに来てから、病人扱いを通り越して子ども扱いされることが多いから。
いや、実際の年齢を比べれば、子供どころの話ではないのだろうけれど。
ただ、私の言葉に、皆少し驚いたようだ。
アルマリンダ様はその長い裾を使い、口元を隠している。
アンナリタ様は大きく目を見開いている。
ディネマも初めて見る顔をしている。
オレイザードは、よくわからない。
「よもや、意識を持たれてから、その程度の期間とは。
ふむ、あの事件が起こっていなければと、そう思わずにはおれんな。」
「ええ。私も驚きました。あの時点で、方向性のようなものは見え始めていましたので。」
どうやら、驚かせてしまったようだ。
放っておくと、またついていけそうもない話が始まりそうなので。
「ええと、それでは、昨日と同じ場所に向かえば、精霊種の長の方とお会いできるのでしょうか?」
軌道修正を図ってみる。
「なに、わざわざ御身が足を運ぶこともありますまい。
アルマリンダもいるのでな。呼べばすぐに来るであろう。」
そういって、アンナリタ様がアルマリンダ様を見れば。
「イグレシア。少しこちらにいらっしゃい。」
何処か遠くに声をかける。
なんとなく、それが分かった。
そのすぐ後に、また違和感が。
「なーにー。母様呼んだー?」
気が付けば、アルマリンダ様の顔の下にかわいらしい顔が。
「ええ、御子様があなたにお話があるそうです。」
「んー?御子様って?
あ、アンナリタがいる。久しぶりー。」
どうやらマイペースな子のようだ。
それに、あの樹の精霊と聞いて想像していたよりも、かなり小さい。
アルマリンダ様の膝の上で喋る様子は、本当にただの子供のようにも見える。
「うむうむ。久しぶりじゃの、イグレシア。しばらくぶりではあるが、そのほうももそっと頑張って成長せねばな。」
「んー。最近はご飯が増えてきたから、これから大きくなれそうかもー。」
「イグレシア。御子様の前ですよ。
二位の御方の、お子様です。ちゃんとなさい。」
「おー。どっか行ってたのに、帰ってきたのー?」
ぱたぱたと、体を動かしながらしゃべる姿はほほえましい。
「初めまして、イグレシア様。」
「初めましてー。わー。大変だ―。」
あまり大変ではなさそうな調子でイグレシア様が続ける。
「すっごい、ぼろぼろー。ちょっと前のアンナリタよりもひどいんじゃない?」
そこまで行ってしまった後に、アルマリンダ様に口元を抑えられる。
それでももごもごと何かを続けている。
「はっはっは。やはり幼子というのは直接的よの。御子様も、これぐらい素直に振舞ってみるのも、楽しいかもしれませんぞ。
いやいや、アルマリンダ。妾が稚気に溢れているというが、流石の妾も言葉は飾るぞ。」
なんだか、アルマリンダ様が一回り小さくなった気がした。
「あの、私は気にしていませんので。
それに、体をいたわれと、会うたびに言われているほどです。
イグレシア様の仰りようが正しいのでしょう。」
ぼろぼろと、一目見てはっきり言われるほどとは思っていなかったけれど。
「むぐむぐ。」
イグレシア様が何か言っているが、口はまだ開放してもらえないようだ。
「えーと、アルマリンダ様。お話があってお呼びさせていただいたわけですし。」
「御子様。このままで構いません。この子にはお言葉を頂けるだけで十分です。」
アンナリタ様が、子供のようなものといっていた以上に、アルマリンダ様は自分の子供と思っているのかな。
イグレシア様も母と呼んでいるようだし。
そうであれば、アルマリンダ様自身も樹木が本体ということだろうか。
ただ、それは違う気がする。
特に理由もなく、勘でしかないけれど。
「いえ、流石にそういうわけにも。」
そういえば、抱え込む様に口を押さえていた手が離される。
それと同時に、お茶のお供に用意されていたお菓子に手を伸ばし、それをはたいて止められている。
「ダメなのー?」
「お話の後で、ですよ。」
どうやら、早く話してしまったほうがいいようだ。
「そのですね。私の我がままで、そちらのオレイザード様にお願いして、この国から猿人種を追放しようということになりまして。
それで、何かご迷惑があるのではないかと。」
「あー。何日か前に、言ってたねー。
いいんじゃない?いなくてもー。国から追い出したって、みんな、会いたかったら、いつでも会えるだろうしー。
それに、私は猿人種のお友達いないから、どうでもいいやー。」
そうとだけ答えて、食べていいかを聞いてくる。
なんだか、想像していた以上に軽い答えで、肩の力が抜ける。
神霊種の方も、精霊種の方も、とてもあっさりだ。
ディネマを見ると、頷いてくれたので、どうぞと勧める。
アルマリンダ様が、天を仰いでいる。
「よいよい。やはり幼子はよく食べ、よく遊び、よく寝るのが本分よ。
御子様もイグレシアを見習って、しっかり食べねばな。」
「御子様ご飯食べないのー?
大きくなれないし、怪我も治らないよー?」
自分より幼い見た目の子供に、とても不思議そうに言われてしまう。
ここで食べないというのが、後ろめたく、無理に口にお菓子を運ぶ。
「ねー。おいしいねー。」
とても無邪気な笑顔に、毒気を持つことはできないのだけれど。
こう、すこし。
のどのすぐそこまで。
食べ物が詰まっている感じが。
「申し訳ありません、御子様。
我が子らではあるのですが、この子は精霊の中で確かに最年長なのですが、何分本来生きる時間と比べれば、見目の通りでして。」
「いえ、お気遣いなく。」
なんだか、変な返しをしてしまった気がする。
悪い気分ではない。
それは確かなのだから。
「その、思った以上に早く終わってしまいましたが、この後他の方に会いに行くことはできますか?」
「なにー?御子様遊びに行くの?
私も一緒に遊んでいいのー?」
「いえ、遊びに行くわけでは。」
「えー。」
「いけませんよ、イグレシア。御子様の邪魔をしては。」
なんとなく、悪いことをしている気になってくる。
「それでは、イグレシア様。またの機会に、ぜひ一緒に遊びましょう。
いまは、少し忙しいので。」
「ざんねーん。じゃあ、お母さま遊んで―。」
そうイグレシア様が言えば、アルマリンダ様が困った顔。
そして、ちらりとアンナリタ様を見る。
「ええと、たぶん大丈夫ですよ。アンナリタ様も、私に大変よくしてくださっているのはわかりますから。」
「ですが。」
「お母様も遊んでくれないのー?最近忙しいからって遊んでくれなーい。」
「今は、妾がおる。その方が子供と安心して時間を過ごせるくらい、妾も気を配ろう。
これでも、自分で口にした約定をたがえた覚えはないぞ。
幼子のために、骨を折るくらいの気概はきちんと持ち合わせておるよ。」
そう、アンナリタ様が告げる。
「では、お言葉に甘えまして。御子様、失礼いたします。
じゃあ、イグレシア。久しぶりにゆっくり遊びましょうか。」
「わーい。」
そんな言葉を残して、二人が薄れて消えてゆく。
なんだか、イグレシア様だけではなく。
アンナリタ様もどこか嬉しそうで。
さて、私がまだ見ぬ母に会うときに、あんな振る舞いを期待されているのだとしたら。
確実に無理。
そんなことを思ってしまった。
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目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
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