少女漫画のヒロインに転生した男子高校生は恋愛フラグをへし折りたい

よこすかなみ

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第1章 俺が少女漫画のヒロインに!?

親友なのに犬猿の仲?

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「早乙女さんっ」
 翌日、教室に入って真っ先に、眉毛をハの字にした綾小路が俺のもとに駆け寄ってきた。
 金髪がふわふわと揺れて、女の子特有のいい匂いが漂ってくる。
 俺の体も今は美少女のはずだが、あいにく自分の体臭は感じ取れなかった。

「昨日、喧嘩したって本当ですのっ!?」
「え?」

 誰に聞いたんだろう?
 もしかして、どこかに昨日の喧嘩騒動を見ていた人がいて、ちょっとした噂になっちまったか?
 くりくりした愛らしい瞳を不安げに震わせる綾小路。
 うっ……かわいい……!
 
 俺は感情を抑えてひらひらと右手を振った。
「たまたま鬼塚といるときに、絡まれて、ちょっとな」

「お怪我はありませんか!?」

 俺の右手を綾小路のか細い両手のひらが包み込む。
 あまりの柔らかさにびっくりした。
 女子の手って、こんなに柔らかいんだ。

「な、な、ないよ。鬼塚、喧嘩強かったから」
「良かったです……」
 動揺を隠しつつ、ピンピンしている俺を見て、ようやく綾小路は胸を撫で下ろした。

 なんでこんなに心配してくれるんだろう……?

 も、もしかして、俺のこと、好きなのかな……?

 ──なんて、前世の俺だったらそんな勘違いをしていただろう。
 しかし!
 今の俺は、女子高生だ!
 女子同士であればクラスメイトが不良の喧嘩に巻き込まれた、な~んて事件を聞いたら綾小路のような態度になるのは、当然なのかもしれない。

「鬼塚くん……、昔は喧嘩するようなかたじゃなかったのに……」
 ぽつり、と零すように綾小路がつぶやいた。

 昔の鬼塚?
「そうだったのか?」
「はい……、伊集院くんといつも仲良く遊んでて……」
 え?

「……伊集院と鬼塚って、昔は仲良かったのか?」

 驚いた俺が尋ねると、綾小路はハッとしてその小さな口を手で押さえた。
「あっ、すみません、なんでもないんです。忘れてください……」

 そうして、綾小路は「早乙女さんがご無事で良かったです」と微笑んで、自席へと戻って行った。

 残された俺も自分の席へと向かう。

 ──伊集院と鬼塚の仲が良かった?

 少女漫画では、この二人は犬猿の仲だからこそヒロインを奪い合っていたはずだ。
 それなのに、もともとは仲良しだったなんて……。
 
 電球が光るかのように、俺は閃いた。
 
 この原作ストーリーをねじ曲げてしまえば──二人の仲を元通りに取り持てば、ヒロインが二人に迫られることもないんじゃないか?

 ……恋愛フラグを回避できるかもしれない!

 そうと決まれば、と俺は作戦を考える。
 仲の良かった二人が仲違いしているなら、きっと何か事件があったはずだ。
 二人がここまでお互いを嫌い合うようになった、大きなきっかけが。
 なにがあったかは見当もつかないが、意外と解決できるような問題だったりして。

 他人が介入したら、さっさと仲直りするかもしれない。

 まずは、本人たちから事情を聞いてみないことには始まらないな。
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