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第2章 少女漫画の定石
イケメンを背負う美少女
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一階に位置する保健室へ、屋上をスタート地点として徒歩で目指すのは、なかなかハードだった。
普段の体調ならなんてことないんだろうが。
階段を降りただけで息切れしている自分が情けない。
ようやく一階に辿り着き、あとは保健室を目指すだけ。
「あれ、伊集院?」
見覚えのある水色のサラサラ髪、そこそこの高身長、ピシッとした制服を発見した。
後ろ姿だけでも伊集院と分かって思わず話しかける。
知り合いに挨拶くらいしろ、と鬼塚に言われたのが俺の中で響いているのだろうか。
名前に反応して伊集院が振り向くと、シャンプーのCMがごとくサラリと細くて柔らかそうな髪が流れた。
しかし、線の細い顔立ちときめ細やかな肌とは反対に、口から出てくる言葉はぶっきらぼうで、
「……お前か」
と、伊集院はがっかりした風に言った。
第一声が「お前」とはなんだ。
「お前じゃなくて、俺は早乙女──って、なんか顔赤くね?」
「え……? あぁ……」
熱っぽい俺が言えたことではないが、伊集院の頬がやけに赤くなっていた。
照れとかそういうのじゃなくて、病的な火照りだった。
髪色が、青みがかっている分、頬の赤がコントラストになって余計に目立っている。
「……なにもない。保健室に行くだけだ」
そう言って、伊集院は俺に背を向けた。
まさか目的地が一緒だとは──って。
「やっぱり具合悪いんじゃん」
足取りもどこかおぼつかない。
危なっかしいふらつき方をしながらも、伊集院は保健室を目指す。
「待てって。俺も保健室行くから一緒に行こうぜ」
さすがに放っておけなくて、俺は伊集院の前に回り込んで通せんぼをする。
伊集院は首を左右に振って、俺の誘いを拒絶した。
「……別に、一人で行ける。これくらい、お前の手を煩わせることもない」
か細い声。
目線も合わせない。
裏庭での初対面を思い出せば、明らかに元気がない。
「手を煩わせるとか、そういうんじゃねぇよ。だから、俺も保健室に用があるんだって」
自分を介抱するために同行すると言い出した、と思ったようだ。
俺は伊集院の誤解を解く。
拒否られたところで、俺が立ち去るわけではないのだ。
伊集院と遭遇する前から、俺だって保健室を目指していたんだから。
目的地がそもそも同じなんだから、断ったとて気まずい空気のまま一緒に行くだけだぞ。
「……保健室に用? お前も具合が悪いのか?」
ようやく伊集院が俺の意図に気づいた。
「お前『も』って、伊集院、具合悪いんじゃん」
「あ……」
図星をつかれた伊集院は右手で口を覆う。
もう遅い。
瀕死状態のやつを放置するほど、俺の人間性は終わっていないのだ。
「ほら、一緒に行こうぜ。俺もちょっと熱っぽいんだよ」
「仕方ないな……うっ」
ようやく受け入れてくれたかと思った矢先、伊集院が俺の肩口に倒れ込んできた。
「伊集院!?」
力が抜けた男子高校生は重かった。
鬼塚よりは小さいが、伊集院も歴とした高身長。
なかなかの重量だ。
「はぁ……はぁ……悪い……」
辛そうな呼吸を繰り返す伊集院は、なんとか一人で立とうとするが力が入らないようだった。
こいつ、実はめちゃくちゃ我慢していたのか?
俺は伊集院の前髪をめくって、おでこに手を当てた。
伊集院の眼鏡が、かちゃり、とズレる。
「あっつっ!」
不調なのは分かっていたが予想以上だ。
とても一人で歩けるような状態じゃない。
こんな体調で誰にも付き添いを頼まずに、ここまで一人で歩いてきたのか。
俺は、自身の背中を伊集院の胸に密着させてしゃがみこむ。
おんぶする形になると、伊集院の全体重がのしかかってきた。
伊集院の長い足を、俺の両脇にそれぞれ挟んで、
「……んー、しょおっ!」
根性で立ち上がった。
──重ぇっ!
小柄どころか、高身長の部類に入る高校三年生の男子をおんぶするのは、なかなかの重労働だった。
加えて、俺自身のコンディションも悪いときている。
「……すまない」
自重をもっとも分かっているのは伊集院だろう。
俺が持ち上げるのは相当無茶であることも。
俺だって、高三男子の自分を高一の女子がおぶろうとしたら全力でやめさせる。
しかし、それは相手が普通の女子である場合に限る。
今回に限っては、俺は普通の女子ではない。
体こそ女子高生だが中身は運動部出身の男子高校生だ。
舐められちゃ困る。
俺だって、そこそこハードな運動部を三年間やり抜いたんだ。
根性には自信がある。
不調になりつつも、心底申し訳なさそうに謝る伊集院を安心させるため、俺は歯を見せて笑った。
「病人は黙って、運ばれてな」
俯いているせいで、俺の表情は見えていないはずの伊集院は、
「…………お前、馬鹿じゃないのか」
と、喧嘩を売ってきた。
「落とすぞ」
減らず口を叩けるようなら大丈夫だろう。
俺たちは物理的に重い足取りで、保健室を目指した。
普段の体調ならなんてことないんだろうが。
階段を降りただけで息切れしている自分が情けない。
ようやく一階に辿り着き、あとは保健室を目指すだけ。
「あれ、伊集院?」
見覚えのある水色のサラサラ髪、そこそこの高身長、ピシッとした制服を発見した。
後ろ姿だけでも伊集院と分かって思わず話しかける。
知り合いに挨拶くらいしろ、と鬼塚に言われたのが俺の中で響いているのだろうか。
名前に反応して伊集院が振り向くと、シャンプーのCMがごとくサラリと細くて柔らかそうな髪が流れた。
しかし、線の細い顔立ちときめ細やかな肌とは反対に、口から出てくる言葉はぶっきらぼうで、
「……お前か」
と、伊集院はがっかりした風に言った。
第一声が「お前」とはなんだ。
「お前じゃなくて、俺は早乙女──って、なんか顔赤くね?」
「え……? あぁ……」
熱っぽい俺が言えたことではないが、伊集院の頬がやけに赤くなっていた。
照れとかそういうのじゃなくて、病的な火照りだった。
髪色が、青みがかっている分、頬の赤がコントラストになって余計に目立っている。
「……なにもない。保健室に行くだけだ」
そう言って、伊集院は俺に背を向けた。
まさか目的地が一緒だとは──って。
「やっぱり具合悪いんじゃん」
足取りもどこかおぼつかない。
危なっかしいふらつき方をしながらも、伊集院は保健室を目指す。
「待てって。俺も保健室行くから一緒に行こうぜ」
さすがに放っておけなくて、俺は伊集院の前に回り込んで通せんぼをする。
伊集院は首を左右に振って、俺の誘いを拒絶した。
「……別に、一人で行ける。これくらい、お前の手を煩わせることもない」
か細い声。
目線も合わせない。
裏庭での初対面を思い出せば、明らかに元気がない。
「手を煩わせるとか、そういうんじゃねぇよ。だから、俺も保健室に用があるんだって」
自分を介抱するために同行すると言い出した、と思ったようだ。
俺は伊集院の誤解を解く。
拒否られたところで、俺が立ち去るわけではないのだ。
伊集院と遭遇する前から、俺だって保健室を目指していたんだから。
目的地がそもそも同じなんだから、断ったとて気まずい空気のまま一緒に行くだけだぞ。
「……保健室に用? お前も具合が悪いのか?」
ようやく伊集院が俺の意図に気づいた。
「お前『も』って、伊集院、具合悪いんじゃん」
「あ……」
図星をつかれた伊集院は右手で口を覆う。
もう遅い。
瀕死状態のやつを放置するほど、俺の人間性は終わっていないのだ。
「ほら、一緒に行こうぜ。俺もちょっと熱っぽいんだよ」
「仕方ないな……うっ」
ようやく受け入れてくれたかと思った矢先、伊集院が俺の肩口に倒れ込んできた。
「伊集院!?」
力が抜けた男子高校生は重かった。
鬼塚よりは小さいが、伊集院も歴とした高身長。
なかなかの重量だ。
「はぁ……はぁ……悪い……」
辛そうな呼吸を繰り返す伊集院は、なんとか一人で立とうとするが力が入らないようだった。
こいつ、実はめちゃくちゃ我慢していたのか?
俺は伊集院の前髪をめくって、おでこに手を当てた。
伊集院の眼鏡が、かちゃり、とズレる。
「あっつっ!」
不調なのは分かっていたが予想以上だ。
とても一人で歩けるような状態じゃない。
こんな体調で誰にも付き添いを頼まずに、ここまで一人で歩いてきたのか。
俺は、自身の背中を伊集院の胸に密着させてしゃがみこむ。
おんぶする形になると、伊集院の全体重がのしかかってきた。
伊集院の長い足を、俺の両脇にそれぞれ挟んで、
「……んー、しょおっ!」
根性で立ち上がった。
──重ぇっ!
小柄どころか、高身長の部類に入る高校三年生の男子をおんぶするのは、なかなかの重労働だった。
加えて、俺自身のコンディションも悪いときている。
「……すまない」
自重をもっとも分かっているのは伊集院だろう。
俺が持ち上げるのは相当無茶であることも。
俺だって、高三男子の自分を高一の女子がおぶろうとしたら全力でやめさせる。
しかし、それは相手が普通の女子である場合に限る。
今回に限っては、俺は普通の女子ではない。
体こそ女子高生だが中身は運動部出身の男子高校生だ。
舐められちゃ困る。
俺だって、そこそこハードな運動部を三年間やり抜いたんだ。
根性には自信がある。
不調になりつつも、心底申し訳なさそうに謝る伊集院を安心させるため、俺は歯を見せて笑った。
「病人は黙って、運ばれてな」
俯いているせいで、俺の表情は見えていないはずの伊集院は、
「…………お前、馬鹿じゃないのか」
と、喧嘩を売ってきた。
「落とすぞ」
減らず口を叩けるようなら大丈夫だろう。
俺たちは物理的に重い足取りで、保健室を目指した。
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