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9 占い研究部ってなんだよ?

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 占い研究部は先生に隠れて活動している部活のため、基本的に人に言ってはいけない。
「占い研究部ってなんだよ?」
 弥生くんが眉を寄せる。
 ぐいぐい押してくる弥生くんの圧に負けて、口がすべってしまった。
 サツキくんを見ると、「あちゃ~」と頭を抱えている。
「聞いたことねぇぞ、そんな部活」
「ウワサでしかない部活だからね」
 慌てるぼくを見かねたサツキくんが、ぼくと弥生くんの間に割って入ってくれた。
 今までサツキくんに気づいていなかったのか、突然のサツキくんの登場に、弥生くんが目を細める。
「……アンタがその怪しい部活に、如月を誘ったのか? 人に言えないような後ろめたいモンに如月を巻き込むな」
「失礼な。結果も残してる、ちゃんとした活動だよ。誰にも言わないって約束できるなら、明日の放課後、西棟三階の部室においで。占ってあげる」
「……分かった」
 二人の間にバチバチと火花が飛んでる……ような気がした。
「おーい、神崎! 休憩終わるぞー!」
「あっ、じゃあな、如月」
 サッカー部の人に呼ばれ、弥生くんはぼくに手を振って行ってしまった。
 ぼくはサツキくんに詰め寄る。
「どうしよう、弥生くん、明日来るって!」
「どうしようも何も、その弥生くんにも説明して、秘密にしてもらうしかないよねぇ」
 サツキくんは空っぽのゴミ袋をぶらぶらしながら、再び校庭を歩き始めた。
「弥生くんとやらは、ずいぶんと如月くんにご熱心なようだけど、どういう関係なの?」
「どういうって……ただの従兄弟だよ」
「ふーん」
 リズムをとりながらランニングする陸上部。
 大きな声で監督にあいさつをしている野球部。
 校門の前では、他校の制服を着た女子が誰かを待っていた。ウェーブがかった長い黒髪が風に揺れている。
 色んな人たちがそれぞれの時間を楽しむ中、ゴミのない道を、トングをカチカチさせて歩いていくサツキくん。
 ぼくは、おそるおそる、その小さな背中に問いかける。
「女装、は……しなくても、いいよね……?」
サツキくんは満面の笑みで振り向いた。
「ダメでーす!」
 その日のボランティア部の活動は、それで終わりとなった。
 掃除道具を部室のロッカーに戻し、サツキくんと解散して、ぼくは帰り道をとぼとぼと歩く。
「はぁ……どうしよう……」
 弥生くんの前でも、女装をすることになってしまった。
 もう、占い師の正体がぼくらだってバレてるんだから、変装も何もない。
 ただ、サツキくんが楽しんでいるだけだ。
 ──そうわかってはいても、逆らおうとは思わない。
 逆らったところで、説得されるだけだろうし……。
 別に、女装がイヤだとかそういう感情はない。
 ただ、知り合いに女装しているのを見られるのが恥ずかしいだけだ。
 弥生くんはセーラー服を着たぼくを見て、いったいどんな顔をするかな……。
 多少はびっくりするだろうけれど、正直、優しい弥生くんのことだから、そこまでドン引きしたりはしない、と、思う……たぶん。
 うぅ……、自信なくなってきた……。
「きゃっ」
「わっ」
 考えごとをしていたら、歩いてくる女の子に気づかなかった。
 正面からぶつかってしまう。
 向こうも向こうで歩きスマホをしていたようで、彼女の手からスマホがこぼれ落ちる。
「す、すみません……! 考えごとしてて……」
 カタン、と乾いた音を立てて、女の子のスマホがアスファルトに落下した。
それをぼくが拾おうとすると、
「あ! 大丈夫です、大丈夫です! すみません!」
 ウェーブのかかったロングヘアの女の子は、勢いよく、ぼくの手を払いのけるように、スマホを拾い上げた。
 慌てた様子のまま、駆け足で去っていく。
 あまりのスピードに、ぼくはその後ろ姿をぽけっと見送ることしかできない。
 取り残されたぼくの中に、いくつかの疑問がぷかぷか浮かんでくる。
 今の人、さっき校門の前にいた他校の人だよな……?
 学校の誰かを待っていたようだけど、一人で歩いていたってことは……待ち合わせじゃなかったのか……?
 それに──チラッと見えたスマホ画面。
 あれは、弥生くんの写真がたくさん載せられたSNSのアカウント。
 しかも、ぼくが見えた限りでは、カメラ目線の写真は一つも見当たらなかった。
 弥生くんはSNSに興味がなく、何一つやっていないと言っていたはず。
 どうして、彼が映ったSNSアカウントが存在しているんだろう――?
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