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40話~59話
52:「実家」 ゴミ屋敷
しおりを挟む二十年ぶりの実家だった。幼少期を過ごした思い出の家のはずなのに、ホントに我が家なのかと疑うほどに変わっていた。縄跳びをした芝、夕飯のおかずを採ってきた母さん自慢の家庭菜園は全て雑草で覆いつくされていた。
リビングのカーテンは昔と同じだったけど、窓に張り付いていた。その理由は家から漏れ出る悪臭が全てを物語っていた。私の実家は、帰省できない間にゴミ屋敷になっていた。
事の発端は役所からの郵便だった。健康保険も年金も滞納していない。勿論税金だって滞納していない。予想外に、役所からの郵便は母の死を知らせる内容だった。身元の特定に時間が掛かったため遺骨での引き取りだったが、遺骨の引き取りにあたり住所も勤め先も全て書かされ実家に関わる引受人になる書類にもサインをさせられてしまっていた。
その上で、役所からは近隣住民から苦情が来ている事の説明があった。苦情の詳細は分からなかったが、私の逃げ場は巧妙に塞がれてしまったのだった。
玄関のカギは、家庭菜園の道具入れの中にあった。昔と変わらない事にちょっと安心したけれど問題なのはこのあとだ。恐る恐るドアを開けるとゴミの袋が山積みになっていた。テレビの向こう側だったゴミ屋敷の映像が目の前に広がっていた。
テレビと同じように業者にお願いできればどんなに楽だろうと思っていても、お願いできるお金はなかった。不幸中の幸いだったのはシフト勤務でゴミ回収日に合わせて休みを取れる事だった。
二十年ぶりに玄関を開けた悪夢から一ヶ月が過ぎていた。ゴミ集積所ではゴミの量が多いと罵倒され、仕事を辞めて片付けろと罵倒され、片づけを進めようとすると話を聞けと罵倒され、帰りの電車では悪臭のあまり私の周りに人が寄ってこない。動転して役所に言われるままに書類にサインをした自分の愚かさを呪いながら、早く終わらせて忘れ去りたい。その一心で休日の全てを使って片づけを続けてきた。
二ヶ月目に床が見えるようになった頃、リードに繋がれたままの犬の屍骸が出て来た。二十年前は元気に吠えて見送ってくれたチワワだった。
あ・・・・
チワワの周りの床は爪痕でボロボロになっていた。あんなに可愛がっていたのに、母さんはチワワの最後に気づかないで生活をしていたんだ。
二ヶ月目はゴミに埋もれる前の生活の断片が出てきた。お父さんが使っていた灰皿。回覧板。電話帳・・・。バラバラになったアルバム。
周りをテープで留めた錆びたお菓子の缶が出てきた。持ち上げると軽い、振るとカタカタと音がする。他のゴミとは何かが違っていた。
開けてみると、家族で撮った写真と便箋が一枚入っていた。
『 子どもたちへ
これを読んでいると言う事は、私は既に死んでいると思う。どういう形でこれを手にしているのか分からないけど、きっと大変な迷惑をかけて怒りながらこれを読んでいるのかもしれない。
自分が何をしたのか分からないけど、すまない事をした。
最近、自分の事が良く分からない。ゴミを捨てに行くと近所から怒られる「今日はゴミの日じゃない」、「ゴミの回収は終わった」と言われ出す事が出来ない。最初は言い掛かりをつけられていると思っていたが、買い物から帰ってくると冷蔵庫に既に入っている。寒いと思って着込むと暑くて目眩がする。そう思うと今の自分が信じられない。何を信じていたら良いのか分からない。
だから、まだ自分が自分だと分かるうちに、書き残そうと思った。
お前たちに出会えた事
お前たちと過ごせた事
私の一番の宝物
ありがとう。 』
「ちくしょう、こんな手紙残しやがって・・・」
悪臭の染みついた手紙と写真を手に、涙がいつまでも止まらなかった。
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