54 / 62
40話~59話
54:「レシピ」 父ちゃんの料理
しおりを挟む風邪をひくと、学校を休まないといけない。友だちと遊べないし勉強も出来ない。身体も熱が出てふらふらするし、あちこちが痛くなる。
でも、一つだけ良い事がある。この日だけは父ちゃんがご飯を作ってくれるからだ。
「どうした、学校いかないのか?」
布団の中で丸くなっていると父ちゃんが様子を見にきた。たぶん、学校から電話があったんだと思う。
「ごめんよ父ちゃん。朝飯作れなくて」
学校からの電話で父ちゃんは起こされたみたいだ。ちょっと不機嫌だったけど、オデコに手を当てると風邪をひいているのが伝わったみたいだ。
「熱があるな。ちゃんとに寝ていろ」
と、言うと父ちゃんは出掛けて行った。
窓越しに青空が見える。こんなに天気が良いのなら布団を干したい。掃除もしたい。カーテンも洗った方が良いのかな・・・、家の中も外も静かだな。学校行きたいな・・・、
~・~
学校から帰ると母さんと妹の三人でハンバーグの材料を買いに行った。今日の夕飯は手作りハンバーグだからだ。
材料をカゴに入れる時に母さんが鮮度の見方を教えてくれた。
「ニンジンはね、ヒゲ根が出ているのは時間が経っているのよ。ヒゲ根を伸ばすのに、栄養を使うから味も落ちるのよ」
僕と妹は、ニンジンを見比べていた。
「ホントだ。こっちのヒゲの生えているニンジンはシワシワだぁ」
「母さんすごい」
僕と妹は大根とかも見て回った。
「はーい。二人とも手を洗って来たら、ボールの中の材料を良く捏ねてくださいね」
妹はボールを抱えると、
「私が先にやるから、お兄ちゃんは見てて」
一所懸命に捏ねていても、手が小さいから上手く出来てない。
「はい、お兄ちゃんにもやらせてあげるね」
「ありがとう」
と、捏ねていると、
「こんどは、私の番」
と、持って行ってしまう。妹とのやり取り見ていた母さんが、ボールを覗き込むと、
「そろそろ、良い感じかな? では、四個ハンバーグを綺麗に作ってくださいね」
僕と妹は、「はーい」と返事をした。
「お兄ちゃん、綺麗に作ってくださいね」
最近、妹は母さんみたいな言い方をするなと思っていたら・・・、ますます母さんに似てきた。
四人分に分けると小判型に形を整え、
「これが、お父さんの分」
「これが、お母さんの分」
「これが、お兄ちゃんの分」
「これが、私の分」
と、お皿に並べていった。
そうしたら、母さんが、
「ハンバーグは真ん中を少し凹ませると美味しく焼けるのよ」
と、次々と真ん中を押していった。
「お母さん、ズルイ~」
僕と母さんが笑うと、妹も笑っていた・・・・
~・~
夢を見ていた。一緒に夕飯の支度をしている夢だった。よく覚えていないけど楽しそうだった。
「どうだ、お粥を作ったぞ」
父ちゃんが、枕元までお粥を持ってきた。
「父ちゃん、ありがとう」
お粥にタンポポの葉っぱが刻んで混ぜて、タンポポの花を湯がいたのが載せてあった。父ちゃん自慢のお粥だった。
「風邪の時は、これが一番だ。なんと言っても父ちゃんの父ちゃんが教えてくれた粥だから」
起き上がると食べた。苦みのないあっさりしたタンポポの葉っぱが、少し塩の効いたお粥と合ってとても美味しかった。
「タンポポと言っても、その辺に生えているのとは違って関東タンポポは苦味がなくて旨いんだ」
去年も聞いたお粥の話だけど、何度聞いても嬉しかった。父ちゃんが僕のために作ってくれたからだ。お粥の炊き方から、関東タンポポと西洋タンポポの違いとか、最近この辺に白花タンポポが増えてきたとか色々教えてくれた。そして、父ちゃんの父ちゃんが教えてくれたと自慢するんだ。
お粥は温かくて美味しい、父ちゃんの自慢話も嬉しい。
聞いているうちに寝てしまった・・・。
父ちゃんの手の温かさで目が醒めた。
「どうだ。調子は?」
身体の痛みはなくなっていた。ぐるぐる回る感じもなかった。
「大丈夫だよ。学校に行けるよ」
「そうか、それは良かった」
父ちゃんが頷いている。
「父ちゃんの作ってくれたお粥、美味しかったよ」
父ちゃんがニヤリとした。
「また、食べたいよ」
ペシッ
「イタた・・・」
「昨日は働き過ぎた。腹減ったよ」
父ちゃんは発泡酒を飲みながら言った。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる