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ひまわりシステム
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ビデオ担当スタッフが子役に台本を説明している。
価格の安さで高日射反射率塗料は売れているが、地球温暖化防止に効果がある事を直感的に分かるように実験でアピールしたい。そこで子どもの理科の実験レベルでビデオを作成する事にした。我々側としてもギリシャのサントリーニ島に視察に行って白色の街並みの効果を体感はしている。建造物が蓄熱しない事で夜の過ごしやすさも実感した。しかし、体感ではなく実験を通して確認したい。それに数値で差が捉えられるなら説得するにも大きな力になる。
「あの子役たちは、マレーシアから連れてきたのか?」
ドクター・ワンは、子どもたちの英語のイントネーションに自分たちとの違いを感じていた。
「替えた方が良いのですか?」
ビデオ担当スタッフにしてみれば、クライアントの気まぐれは日常茶飯事だった。
「そう言う意味ではない。良い配役だ」
ビデオ担当スタッフは配役の意図に気づいて貰えた嬉しさ以上に、細部まで見抜かれる緊張感の方が大きかった。しかし、自分たちの仕事に関心を示さないクライアントに比べれば心地良い緊張感であった。
「台本は打ち合わせの時に説明した通りです。では撮影を始めます」
体育館の中央に置かれた水槽の前にリチャード・ワンと子役が並んで立っている。
「こんにちは、先日の記者発表から高日射反射率塗料に賛同頂ける施主様が増えております。とてもありがたい事です。これで少しでも地球温暖化を遅らせる事が出来たらと思っています。皆様に賛同頂いている高日射反射率塗料の効果を実験で確認して普及に弾みをつけたいと思います。そこで、二つの水槽を地球に見立てて実験するために室内の影響を最小限にする為に体育館を借りて実験をする事にしました。そして、実験のお手伝いをしてくれるフィラス君とアマリアさんです。よろしくお願いします」
二人はお辞儀をすると水槽の裏側に回った。台本の指示通りに地球表面と同じ割合で陸地と海洋が再現された上に植物の模型、雲の模型、ビルの模型を並べていった。フィラスのビルは黒色。アマリアのビルは白色だった。
「並べ終わりました」
子どもたちの合図でスタッフが気温を測定するための温度計を設置した。
「温度計にライトが当たらない様に日除けを付けて気温の違いを確認します」
スタッフがライトを設置してサーモグラフィカメラを設置していくのを子どもたちと見守りながらリチャード・ワンは予備の温度計を取り出した。
「この実験で使う高精度温度計は・・・、え? 小数点以下三桁まで測定出来ます。体温計が小数点以下一桁なので凄さが分かると思います。さて、子どもたちに質問です。二つの水槽の温度差は何度になると思いますか?」
台本には質問だけ書かれてあり回答は各自で考えるとなっていた。
「・・・同じじゃん?」
フィラスは言った後で、周りの期待と違う答えをしてしまったかもと大人たちの顔色を確認している。
「ちょっとだけ、違う?」
大人たちが求めている答えはこれ。と言わんばかりにアマリアが答えた。
「え・・・。フィラス君もアマリアさんも控えめな予想ですね。高日射反射率塗料の効果はもっとありますよ。僕は一度ぐらい差が出ると思っているけど?」
リチャード・ワンの予想に気まずさを感じる子どもたちだった。
「みんな予想が違うので結果が楽しみですね。実験中の記録はスタッフの皆さんにお願いして、続きの撮影は早朝になるので寝坊しないで下さいね」
「はい!」
子どもたちは元気に返事をした。
「おはようございます」
体育館のエントランスホールに設置してあるスタッフ席に三人が座っている。
「僕たちが中に入って変化を与える恐れがあると言われたので、実験の続きはスタッフ席をから行います」
リチャード・ワンはサーモグラフィの映像をモニターに表示した。
「どうでしょうか。何か差はありますか?」
子どもたちは二つのモニターを見比べて指差して言った。
「ビルの温度が違います。白色の方の温度が低いです」
「十度も違いますね。でも、温度が違うのはビルだけのようですね。では、気温は如何でしょうか? 温暖化は防げたでしょうか?」
「白色ビルの水槽は二十六・四七一度。黒色ビルの水槽は二十六・四七五度です」
リチャード・ワンは自分でも温度を確認した。
「つまり、白色ビルの水槽の方が〇・〇〇四度低い。地球温暖化抑制効果があると言う事ですね?」
温度の差は極僅かであった。セッティングの差かもしれない。温度計の位置の差の可能性もある。ビルを入れ替えて検証する必要かもしれない。
「スタッフからOKが出ました。実験は成功の様です。これでこの子たちの未来も安泰です」
ドクター・ワンは片付けが始まる前にビデオ担当スタッフに走り寄った。
「今回も素晴らしかった。ところで、実験セットを使って試したい事があるのだが可能か?」
「体育館は、明日の夕方まで借りてあるので、そこまでなら大丈夫です」
「十分だ。セッティングを手伝って貰って良いだろうか?」
ドクター・ワンは用意しておいたミニチュアをビデオ担当スタッフに渡した。
~・~・~
ひまわり計画を始めてからも地球の平均気温は上昇を続けていた。気温上昇にともなう稲作耕作地の北上は小麦耕作地の南限の北上でもあった。他の作物の適正地も変わり害虫や病気も変わっていった。それでも一年草の野菜は耕作地の見直しで収穫量の維持を図れたが果樹類は植樹して実がつくのに年数を要する。その年数分だけ収量が確実に減っていた。
気温の上昇は海水温の上昇を招き、魚の生息域が北上する事になった。漁業で生計を立てていた村では魚を追いかけ遠くまで漁に出掛けるものや、魚に合わせた漁具に買い直しを迫られた地域もあった。それでも漁業を続けられる村は良い方だった。他国の海域に魚が移動すれば漁が出来ない。村全体が存亡の危機に陥るのであった。
「ドクター・ワン、面白いビデオを入手しました」
会議室には四人が集まっていた。ドクター・ワンの着席を確認するとビデオの再生が始まった。
映し出されたのは国内で人気の旅番組だった。女優と一緒に旅をするあなたの視線で撮影されている女性同士の旅がコンセプトだった。旅の玄関口、この村のバス停から番組がスタートした。
漁業で栄えていた歴史を持つ村であったが、村中の建物を白く塗って観光にも力を入れていると紹介している。
『東洋のサントリーニ島みたいですね。屋根も白色だけどソーラーパネルの部分だけ色があって現代的なサントリーニ島ですね』
海の青色と村の白色のコントラストが映えるシーンを挟むと、村の名物海鮮料理のシーンになった。
『建物内部は昔ながらですね。屋内はヒンヤリしています。路地裏のお店に入った懐かしさがあります』
『料理は、さすが漁業の村だけあって新鮮な魚を使った絶品ばかりです』
三十分ほどの番組だった。史跡名勝の類がないのでのんびりした番組進行だった。
「どうですか? 高日射反射率塗料の活用事例になりませんか?」
ドクター・ワンはモニターから視線を動かさずに、
「番組に違和感なく台詞を挟むのはさすがプロだな」
更にコーヒーを飲んでから付け加えた。
「良く番組に気がついてくれた。ひまわり計画にどの様な影響を与えると思う?」
シナリオ担当がひまわり計画を思い返してから、
「メインシナリオを補強すると思います。活用事例があれば検討中の地域にも参考になるでしょう。ひまわり計画のバージョンアップにも繋がると思います」
ドクター・ワンもシナリオを思い返していた。
「分かった。知名度を上げるにも役立つだろう。では、株主提案のイベントを進める事にする」
~・~・~
株主総会は春から初夏にかけて多くの企業が実施している。株主の発言の重さは株式の保有比率で決まり過半数を保有すれば社長を変える事が出来る。三分の一以上を保有すれば重大な議案を否決出来る。提案するだけなら一パーセント以上で可能になる。
株式を上場している企業なら、地球温暖化防止に関する提案だと安易に否決は出来ない。SDGsの活動をしていれば『目標:十三 気候変動に具体的な対策を』に関する提案なら更に否決は困難になる。仮に提案を否決しても議事録には残り環境活動家に口実を与えかねない。提案出来れば目的はほぼ達成出来たと言って良かった。
株主総会を前にドクター・ワンは投資会社の役員を訪ね歩いていた。役員の携帯に直接アポイントを取ると応接室まではフリーパスだ。
どこの投資会社も派手さはないが高級品だと分かるもので設えてあった。客に選ばれる投資会社である前に客を選ぶ投資会社である証拠だった。少なくとも窓口対応以上の場合と言う事だろうと思いながら静かに役員を待っていた。
どこの投資会社でも必ず待たされる。社としての対応を考えているのだろう。
「お待たせした。最近物覚えが悪くてリチャード・ワン様と名刺交換をした場所が思い出せなくてね。投資界隈で有名な方ではあるけど、不思議な事に顧客リストにお名前が見つからなくてね?」
どこの投資会社の役員も社交的だ。それに分からない事は本人に訊けばよいと思っているのも同じだ。
「お忙しい中、お時間を作って頂き感謝します。父も面識はないと言っておりましたが、協力はして貰えるはずだからと言っておりました」
あくまでも父の代理で動いている。言われたままに訪問して、言われた通りの成果を持ち帰る事だけに関心があるように見せておく必要があった。
「そうですか・・・・。来社の目的は高日射反射率塗料の件ですよね? あの件も不思議ですよね。筆頭株主でもないのに他の株主が協力して会社に商品化させた訳ですから?」
別の切り口で探りを入れて来るのもどこの投資会社も同じだ。もっとも、こちらも役員を選んでアポイントを取っている。断りそうな相手と交渉をしても時間の無駄だからである。
「株主提案の件も同じですが、社会的意義とリターンを説明させて頂きました。どの株主様もご納得頂けたので商品に出来ました」
この件でも経済的メリットがあると匂わせておくのは初歩の話だ。『ノー』と言えない投資会社には賛同社リストに貢献して貰っている。他社の動向を気にせずに判断出来る投資会社には影響を受けるサプライチェーンのレポートを渡している。
「そうですか・・・・。我が社にもペンキの塗り替えの株主提案に賛同しろと?」
「はい。地球温暖化を防ぐには賛同頂ける企業を増やす必要があります。その一つの手段として大々的に株主提案で社会的インパクトを起こしたいと考えております。幸いどの投資会社様からも快諾を頂けております」
この役員は自社が最初の交渉相手ではないと理解したようだ。それならば他社が引き出したメリット以上が手に入るのか? 話を断っても失うものが無いのなら強欲に出る可能性もある。
「そうですか・・・・。この株主提案でのリターンは何ですか? 投資会社として顧客への説明も必要ですから」
「スーツに着けているSDGsのマークと同じです。十七の目標を知らなくても良いのです。時代の潮流に乗っている事実がディメリットを招かないだけです」
無名な投資家が自社を脅していると感じたようだ。見下した態度を隠さない。
「そうですか・・・・。どの投資会社からも快諾を得たのですね?」
スマホを指差しながら、
「大手の投資会社に確認されるのが良いと思います。役員を紹介しましょうか?」
「大丈夫ですよ、私のスマホにあります」
と言うと役員は席を外した。
この投資会社の規模なら賛同を得られなくても問題はない。しかし、シナリオによっては役に立つらしい。捨て駒も手駒の一つだ。
「お待たせしました。あなたの父上は素晴らしい人脈をお持ちのようだ。我が社も協力しましょう」
交渉成立の握手を求めて来るが、深々とお辞儀をして応える事にした。
「こちらに株主提案の内容の書類がありますので担当に渡して頂ければと思います」
再度お辞儀をすると応接室を後にした。
今回の交渉事では『あなたの父上は』とよく言われる。子どもの頃に将棋ではなく囲碁の様に勝ちなさいと言われた事を思い出した。囲碁は相手より一目多く取れば勝ちになる。相手は石が残る事で面目を保てると。私は『将棋なら相手の駒が自分の物になる。相手を恐れる必要はない』と言い返した事があった。しかし、父に『確かにその通りだ。駒がなければ手も足も出せなくなる』と言われて、私は囲碁のように負けた事を悟った。
~・~・~
投資会社を回れば業界で話題になる。投資会社が環境問題に関する株主提案と言っても無名な投資家に協力するほどお人好しではないのは周知の事実だ。それが中堅も大手も株主提案に賛同すれば注目を集めてしまう。
「ドクター・ワン、亜州経済で特集が組まれています」
雑誌は各自に手渡された。
「先月、問い合わせがあった経済誌だね?」
特集の副題が『ひまわり計画は謎の大富豪リチャード・ワンによるものか?』となっていた。株主提案を境に関心が高まったのはひまわり計画サイトのプレビュー数で一目瞭然だった。
「世間の関心を引く活動をしなければ知名度は上がらないものだな」
ひまわり計画の成功のためには世間の関心を集めるのは必須条件だったが、小さな事で実績を上げていかないと世間は見向きもしない。正のスパイラルを作り出すのは最初の一歩目が大事だと今更ながら感じていた。
「謎の大富豪の代理で謎の美人が現れた。と書いてありますよ」
ドクター・ワンは、シナリオ担当に苦笑いを向けた。
「投資会社を回られた時の事が詳しく書かれていますね。秘書のように控えめにあって協力は取り付ける敏腕ぶりと」
四人がドクター・ワンの意外な一面を探している事に気がついた。
「私のネタ探しは会議後にして欲しい。シナリオへの影響をどう思うか?」
「この特集に限って言えば、好影響はあっても悪影響はないと思います。何故なら、彼らが取材出来た範囲で好意的に記事を書いている印象です。メールでの回答に対しても環境問題への取り組みを称賛しつつ、同一名の大富豪は他に確認出来なかったとしています。読者の関心が高まるように。我々の歓心を買おうとしています」
「私も同じ意見ですね。次の取材の手土産記事と見て良いでしょう。謎の美人秘書も読者が喜ぶアイテムです。持ち上げて落とす。救済して立ち直る。三幕構成に当てはめて連載記事にする実在の人物を使った三文小説ですね」
四人が的確に評価しつつ一言も褒めないのも珍しいと感じていた。確かに記事を分析する時と同じように使う単語、使わない単語。言い回しに表れる人間性を基に既知の人物との類似性によって将来の行動を予測すれば、鼻持ちならない奴に行きつくのは分かる。
「珍しく辛辣な言葉が並んだな。そんなに悪い事は書かれていないと思うが?」
四人の視線がドクター・ワンに集まった。そして口を開いたのはシナリオ担当だった。
「謎の美人秘書で持ち上げられたからですよ。次の取材ターゲットはドクター・ワンですよ。敏腕ぶりを記事にさせてほしいと言って、リチャード・ワンの外堀を埋めるつもりでしょう」
ドクター・ワンは、クスリと笑った。自分事は他人事と扱え、他人事は自分事と扱え。と父に諫められた事があったと。
「失礼した・・・。褒められ記事に絆されてしまったようだ。もし、取材依頼があったらどうすべきかな?」
「シナリオにないので断っても問題はないです。取材は受けても受けなくても疑惑を作って落としに来るのは間違いないです」
記事にしたタイミングを考えれば、注目度が高まっている時に掲載している。我々のアクションと相乗効果が出るタイミングにぶつけてくるのはさすがプロと言うべきだろう。記事の書き方もエンタメ要素を隠し味にした売り上げが伸びる工夫をしている。読者視点で言えば一本調子で褒め称えるより、リチャード・ワンに困難や葛藤をぶつけ乗り越えていく様を見せれば現実社会を舞台にしたエンタメ要素を含んだノンフィクションになる。先行きの展開を記者がコントロールを出来ない事で、返って読み応えは高まるはずだ。
「その時の取材申し込みは、我々が記事にして欲しいと思うタイミングを狙って来ると言う事だね。客観的に対処出来るように心の準備をしておくよ」
~・~・~
番組の打ち合わせ段階から我々にはとっては本番だった。
株主提案を使った環境問題へのアプローチは広く世間に知られる事になった。テレビ各社からも取材の申し込みが来るようになったがタレント化により本業に支障が出ないようにするために、オンライン出演を条件に経済番組に出演する事にした。
その番組の台本のすり合わせが終り、リチャード・ワンのカメラテストと本人による台本の確認が行われる事になった。
「そちらのスタッフの方に渡した台本には目を通して頂いたでしょうか?」
番組スタッフは失礼がないように気を使いながらも、余計な事をしない様に圧を掛けてもいた。
「大丈夫だ。台本の内容に不満はない。うちのスタッフとのすり合わせに満足しているよ」
本番用のジャケット姿でリチャード・ワンは番組スタッフと段取りの確認をしていた。
ドクター・ワンは、番組側に映像を送信しているビデオ担当スタッフの動きを追っていた。記者発表の時と同じと説明は受けていたが、番組スタッフ側から不測の質問にどこまで答えられるかは難易度が高いと言われていた。
「不測の質問に変わりがないのでは?」
記者発表の時は想定問答を準備していた事で難なく終わらせる事が出来た。今回は台本通りの受け答えだった。アドリブに備えた問答集も用意してあった。
「記者会見の時は前段の発表内容の制約を受けるので犬派猫派は訊かれません。でも番組スタッフはリラックスを狙って話しかけて来るので、臭豆腐の話題を振られたらどうしますか? 例えば臭豆腐が好きですか? 地域的には食べた経験があると思いますが、苦手な人が多いのも事実です。過去の発言との整合性は大丈夫ですか? となります。答えられない範囲が圧倒的に広いですが、違和感なく対処するのは難しいものですよ。その為にスタッフ席にご足労を願いました」
アドリブ対応でのフォローなら、シナリオ担当の方が適任であった。彼が中心に想定問答集を作成していたからだ。
「ワンさん、番組開始五分前です。場慣れされていますね。緊張感ないです。この調子でお願いします」
リチャード・ワンは苦笑いを向けたが、モニターの向うの番組スタッフはお義理で言葉を掛けただけだった。そのまま番組開始までの確認事項を続けていた。リチャード・ワンはカメラから目を落とすと番組の進行表を確認した。
番組の冒頭でヘッドラインニュースを流すと特集コーナーの予告を流した。
「特集三十秒前です」
番組スタッフの声がスタッフルームに流れた。
特集が始まるとメインキャスターが、リチャード・ワンの経歴を紹介した。放送映像に映るリチャード・ワンは少し緊張した雰囲気でメインキャスターが読み上げる経歴を所々頷きながら聞いていた。
「先日、亜州経済で『ひまわり計画は謎の大富豪リチャード・ワンによるものか?』と特集が組まれたリチャード・ワン氏にお越しいただきました。本日はお忙しい中、ご出演頂きありがとうございます」
「こちらこそ、よろしくお願いします。謎ではないのでスッピンで出演させてもらっています」
予想外のアドリブに笑いを堪えるメインキャスターが映ったままになった。
「あ、失礼しました。頭巾の用意を忘れました。さて、話題を戻しまして。株主提案を使って地球温暖化防止の取り組みは新しい試みだと思います。始めるきっかけを教えて頂けますか?」
メインキャスターはアドリブの分、気持ち早口になった。
「白色は熱くならない。黒色は熱くなる。理科の授業や日常生活で体感的に理解している人は多いと思います。漠然と白く塗る場所が増えれば温暖化防止に繋がると協力会社と高日射反射率塗料を開発して取り組んできました。その効果を実験で確認しようとしたところ、僅かですが確かに白色だと効果が得られました。それなら、自信をもって社屋の白色化を提案出来るとなりました」
リチャード・ワンもアドリブの分、気持ち早口で答えた。
「実験の結果は、ひまわり計画のサイトにアップロードされています。後程ご覧ください。ところで、企業に収益の最大化を求める投資家が環境問題の対策を求めるのは稀有なケースだと思いますが、どう思われますか?」
「企業の存続を含め、一語で言うと待ったなしだと思います。酷暑で苦しんだ去年より暑い夏が来て、来年は更に暑くなる可能性がある。建物を白く塗るだけで抑えられるなら、やって損をする事はないのです。経済と両立出来る事なら出し惜しみなく全て行うのが良いと思います。そして、一人では効果がないのです。沢山の人々に協力してもらう事で地球温暖化を抑える事が出来ると思います」
~・~・~
リチャード・ワンの要望に応える形で番組は終了した。視聴者の反応は踏み込んだ環境問題の扱いに難色を示す層もあったが、アドリブのお陰で好感度は上昇した。番組の最中からひまわり計画のサイトのアクセス数は伸び、一日で今までのアクセス数を超えそうな勢いだった。リチャード・ワンのアカウントのフォロワー数も桁が増えていた。
「テレビ局の影響力は健在のようだ。思った以上にアクセスが伸びている。スタッフの人数を増やしておけば良かったかな?」
「新規フォロワーのピークは今日若しくは明日ぐらいのはずなので、作業に遅れが出ても直ぐ挽回出来ます」
フォロワーのアカウントのIPアドレス、フォロー先、個人情報から勤務先、購買履歴の分析を行うとランク付けをしてリスト化していった。フォロワーのアカウントの九割は一般市民だった。将来性のある銘柄にだけ関心がある人々だった。残りの一割の中に、環境保護団体や報道関係者、一般市民とは違う動きをする人々がいた。
ひまわり計画のサイトにある問合せ先フォームに、自分たちの活動がいかに環境保護に貢献しているのかを書き込み協力を申し出る団体。協力を求める団体。銀行口座だけを書き込む個人が増え始めた。
番組終了三十分を過ぎるぐらいから、放送エリア外からのフォロワーや問い合わせが増えてきた。本部とは別に支部単位で寄付を求める書き込みも増えてきた。有名な環境団体を名乗っているが銀行口座は個人名のパターンも増えてきた。環境保護商品のメーカーからコラボ商品の提案も出てきた。
「シナリオ通りの展開だな。あまりにもシナリオ通りの展開にうんざりな部分もあるが、有益な協力者を見つけ出すのが我々の仕事だ」
環境保護団体に対しては入力されたサイトアドレスにアクセスして活動実態を読み込んでいく。本拠地が分かればその国の教育が常識として活動を縛る事になる。活動内容は分かれば組織力や実行力が分かる。協賛企業のページがあればビジネス団体だと分かる。代表の写真が掲載されていれば責任感が分かる。サイトのデザインも大事だ。相手に理解して貰う工夫も分かる。
「ドクター・ワン、この環境団体はどう思います?」
サハラ砂漠にある共和国で活動する環境保護団体だった。植林による農業の振興が活動目的となっていた。
「規模が小さく途上国で活動している団体だね。リストに入れる事で迷っている? 外す事で迷っている?」
「入れて大丈夫かで迷っています。地域的には最適ですが、資金援助をしても成果が得られるか疑問が残ります」
ドクター・ワンはODAの内容を思い返していた。
「苗が育つまでの日除けがあれば彼らは喜びそうだ。中央に行ってODAの担当に協力を依頼して来る」
「お願いします。ODA職員が彼らをサポートすれば戦力なりますね」
「ちょっと待って下さい」
シナリオ担当からストップが掛った。
「ドクター・ワン、ODA担当に協力を求めるなら他の地域でも協力をお願いしたいです。彼らは影響力があるのでシナリオの見直しは必要になりますが」
「我々の協力者が環境保護団体である必要はない?」
「はい。先ほどのお話で気がつきました。協力が得られるなら地域振興の団体でも良いと思います」
「コントロール出来れば目的を達成出来ると考える?」
不確定要素を排除して直接管理出来る外国の団体であれば目的が達成出来る。成功のカギは設置数だからだ。一つの地域にまとまった数を設置する大義名分が環境保護でなく地域振興でも良い。地域での影響力なら地域振興の方が大きい。バックに地元有力者がいるからだ。その担保にODA担当が持つ影響力が役に立つ。
「はい。協力者を資本家から環境保護団体に広げる為のアクションでしたが、地元の有力者なら有益な協力を引き出しやすいです」
子飼いの団体にすれば結果を予測出来る。
「地球温暖化防止活動の軸は守れると思うか?」
「分かりません。それなので、影響力の精査とシナリオの見直しが必要だと思いました」
「分かった、よろしく頼む」
~・~・~
ひまわり計画サイトのリニューアルに合わせて新しいビデオが完成した。
「ドクター・ワンは、中央に出張で当分戻れないと聞いている」
ビデオ担当が残念そうに見えるのは自分たちも同じ気持ちだからだ。
「承認は誰から貰えば良いですかね?」
今までは自分たちのイメージ通りの映像を作って貰うために作成現場に入り細かい指示と目的を説明してきた。今では事前の打ち合わせで希望通りの映像を作って貰えるようになった。だからと言って未承認で映像をアップロードする事はしない。彼らはプロだからこそ立ち位置を見失う事はない。
「ご苦労様です。私たちで対応します。試写会の準備をして貰えますか?」
今日はエンジニア担当が帰ってきている。ひまわり計画の物語を書くのが私の仕事だとすると彼女はひまわり計画を現実にするのが仕事だ。太陽光線を真っ直ぐ太陽に跳ね返す装置の実現を彼女が担ってきた。常に太陽に向き続けるひまわりの様に反射鏡を制御する。朝は東の空に向き夕方には西の空を向く。設置場所に電力があるとは限らない。設置する者が方位を合わせるとは限らない。モニタリング出来る事。修正プログラムを送れる事。十年は反射性能が維持出来る事。安価である事。私が書いた二百文字にも満たない仕様だが、どれだけ困難な要求なのかは分かっているつもりだった。その無理な仕様を彼女は二年で実用化した。
「大姐は中央に行っているの?」
エンジニア担当が残念そうに言う。
「ドクター・ワンはひまわりシステムの設置のためにODA担当と打ち合わせをしています」
「それでは仕方がないですね。私の方は順調に進んでいるのを、直に報告したかったのに残念ですね」
「ところで、逆熊猫になっていますね。屋外作業ばかりですか?」
「高地で実験しているからサングラスは必需品だよ。その苦労の甲斐があってハードもソフトも合格点レベルで仕上がったよ」
ビデオ担当スタッフが目配せをしてきた。
「では、試写会の準備が整ったようなので始めて下さい」
麦藁帽子を被った少年がひまわりを天高く掲げるイラストの後、体育館の中央に置かれた二つの水槽の前に立つリチャード・ワンが映った。
「みなさん、こんにちは。リチャード・ワンです。こちらの水槽を覚えているでしょうか? 白色ビルと黒色ビルによる気温の比較をした水槽です。このセットを使い照明の光を反射する比較実験を行いました。記者発表の時に中央新聞の記者から頂いたアイデアです。結果は反射鏡を設置した水槽の方が〇・〇一二度低い。地球温暖化抑制効果がありました。それなら、建物を全部白色に塗り日傘の様に反射鏡を並べれば温暖化を防げる。心が躍りました。でも、如何やって反射鏡を作るのか・・・」
リチャード・ワンが途方に暮れるシーンで映像が止まると、横から現れたリチャード・ワンがその前を横切りカメラがその姿を追った。
「僕のイメージをスタッフが形にしてくれました。これが、ひまわりシステムです」
直径九十センチメートルほどの反射鏡の中心にロッドが立っている。反射鏡の裏側には角度を調整する駆動部があった。
「地面に立ててスイッチを入れると、現在時間と設置場所を把握して自律的に太陽に向いて光を反射します」
リチャード・ワンが指を鳴らすと、四角いテーブルの形をした反射鏡に変わった。
「最初のイメージはこれでした。反射板を置き宇宙に跳ね返すだけでした。しかし、スタッフにいるエンジニアからアドバイスがありました。固定された太陽光パネルが季節や時間によっては他人の家の中を照らして迷惑になっている。季節や時間によって太陽に向いている面積が変わり効果の最大化が出来ない。モニタリング出来ないので効果を計測出来ずフィードバックが出来ない」
ロンドンのビルのニュースを表示した。
「ビルの湾曲したデザインが反射した光を集光させ、駐車中の車のサイドミラーを変形させる事件がありました。確かに迷惑を掛ける訳にはいかない。でも、電源工事が必要では誰も設置してくれないですよね? と訊きました。日差しがあれば太陽光パネルで発電が出来て太陽の自動追尾。北斗衛星を使えば位置合わせのデータを送れると言う事でした。多少スペックが高くても大量生産部品を使えば安く作れて長持ちする。僕では思いつかないアイデアで良い形にまとまったと思います。それが、このひまわりシステムです」
ひまわりシステムのプロモーションビデオに切り替わった。
太陽の移動に合わせて向きを変える反射鏡。宅配業者が少年にひまわりシステムを渡すと箱から取り出し図面を見ながら組み立て、庭に立てたポールにBSアンテナの様にネジ止めをした。反射鏡は明後日の方向を向いているが、そのまま【スタート】ボタンを押した。
『現在位置・時刻確認中』
五分ほど、確認中の文字が点滅すると、
『太陽追尾開始します』
表示が変わり、十分ほど掛けて太陽に反射鏡を向けた。
『太陽追尾 一分』
太陽の移動に合わせて向きを変えるひまわりシステム。
「誰でも簡単に設置出来ます。角度がズレていても、反射鏡の中心にあるポールで角度の補正をしてくれます。このひまわりシステムを協力者に無料配布します。でも、無限に配布出来る訳ではありませんので効果の見込める場所に限らせてもらいます。この下にある、ひまわりシステムのボタンを押してください。詳細を載せてあります。僕はひまわりシステムを世界中に設置して地球温暖化を防ぎたいのです。これからは高日射反射率塗料のひまわり計画と、ひまわりシステムのひまわり計画Ver2の二本立てで活動していきたいと思います」
試写会が終った。
「我々でドクター・ワンに代わり承認のサインをする必要があります。特にひまわりシステムの部分はどうですか?」
三人の視線の先にエンジニア担当がいた。
「私見を述べるなら・・・、実物が売るほどあるのにCGにしなくても、ですね。あとは、ひまわりシステムの外観にも説明にも問題点は感じなかったよ」
「他に問題点は?」
二人は首を横に振った。
「では、ビデオ担当スタッフには承認を出しておきます」
~・~・~
ひまわりシステムの設置協力より先に科学者がSNSで反応した。
『お金持ちの発想が自由過ぎる。ひまわりシステムのネーミングは兎も角として一基〇・六二八平方メートルで太陽光を反射して温暖化が防げるの?
地球の表面積が五百十 百万平方キロメートルもある。まるで海の水をコップで汲み上げる様な事でしかない。そんな物にどれだけの温暖化ガスを排出して製造し、運搬し、設置するのだろうか?
金持ちだから十万基ぐらい無料配布しても六・二八平方キロメートル。地球表面の〇・一二三一PPMでしかない。金持ちの自己満足の為に地球を傷つけるのは止めてほしい』
コメントに千を超える【いいね】が付いた。賛同するコメント多く書かれた。
ドクター・ワンは科学者の経歴を確認した。三流大学で教授を行う特筆する要素を持たない学者だった。暇つぶしで反応したのか、名を上げるチャンスとみたのかは他のコメントを見ても判然としなかった。
シナリオでは、このような反応を想定していた。ひまわり計画の知名度が上がる可能性があり実力行使のネガティブキャンペーンでなければスルー対応となっていた。
「太陽光の反射なのだから地球の表面積は半分若しくは断面積で計算すべきだな。」
と独り言をいいながら、科学者のコメントに【いいね】を押した。
~・~・~
ひまわりシステムの設置を申し出が来るようになった。設置場所を確認するとマンションのベランダに設置を予定している協力者だった。9時から15時の日当たりが確保出来る南向きの好立地だったが、ベランダは対象外なのを納得して貰えなかった。コメント欄に悪態が並べてあった。似たような案件が来た時には管理組合に相談して屋上設置の代案を提示したが、協力者にそこまでのモチベーションないようだ。送り先入力画面の前にサイトを閉じていた。
戸建て住宅からの問い合わせの中には、南側の窓のすぐそこに隣の住宅がある地域からもあった。屋上の設置案を提示するとBSアンテナの隣に設置するしかなかったようだ。条件未達で断るしかなかった。
欧州からの問い合わせがあったが、高緯度地域では冬場の日照時間を確保出来なかった。
問い合わせは都市部の市民からが多く関心の高さを感じられたが設置条件を満たす事は殆どなかった。
協力関係のある環境保護団体がひまわりシステムの宣伝をしてくれた。事務所の前にひまわりシステムを設置し実際の姿を見せる事で関心を高めていた。設置場所に応じた必要部材の価格と購入先をまとめたパンフレットを用意してくれていた。
どこの団体も来期の支援金の査定に影響があるのは分かっている。アイデアを公開すれば査定が上がるのも分かっている。百ドルの上乗せの為に数百ドルの労力を惜しまない。全ての価値を貨幣によって交換可能にした先人の知恵には只々敬服するばかりである。
各団体のフェイス ツウ フェイスの活動によってイノベーターと呼ばれる人たちがひまわりシステムの設置を始めた。BSアンテナのポールを伸ばしての設置。工場屋根の太陽光パネルの邪魔にならない場所。マンションの屋上。しかし、日常生活で目に付くレベルにはまだまだ遠かった。
~・~・~
ドクター・ワンは中央でのネゴシエーションを終え戻っていた。不在中の進捗はすべて把握していた。常に五人の情報は並列化されているからだ。
「ドクター・ワン、製品分解系がひまわりシステムの解説をしているのを見つけました。これから上映会やります」
予測されていた通りの動きがあった。誰がやるかは分からなくても誰かが必ずやる。それだけひまわりシステムが認知されている証拠であった。
「どの程度の解説をするのかお手並み拝見だな」
『ども。製品分解系の 仲三田郎です。環境保護投資家?のリチャード・ワンさんが開発したひまわりシステムを入手しましたので分解して性能を見て行きたいと思います。
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一メートル角の家電製品かと思う段ボールに入っております。テレビの梱包と比較すれば大きくはないですね。設置方法が二面に描いてあります。BSアンテナの様にポールに固定して、スタートボタンを押すだけのようです。設置後、モニター表示するにはスタートボタンを押すと五秒間表示が出るようです。二面に説明が表示されているのは宅配業者の伝票が貼られても大丈夫なようにですか? 土台は自分で用意するようですが、環境保護団体が説明用のパンフレットをくれました。さて、箱を開けたいと思います。
発泡スチロールの緩衝材は使わず段ボールです。製品はビニール袋に入っていません。反射鏡が圧巻です・・・。これは想像以上ですね。
分かりますか? 金尺を反射させていますが、像に歪が生じません。てっきりプレス成型のアルミ板が付いているぐらいだと思っていましたが研磨仕上げでしょうか? メチャ金掛かっています。
反射鏡の中心は太陽光パネルです。サイトの説明では、これが駆動電力と日照時間のモニタリングを行うとなっています。
これが、ポールを立てる穴ですね。中を覗くとイメージセンサですか? これで太陽の動きを追尾するようです。穴の底まで光が届けば太陽に向いている事になりますね。
裏返しにして駆動部を確認したいと思います。土台のポールにセットするネジ・ナットは本体に付いています。緩めてセットするようになっています。これは使うネジを間違わないので他の製品でも取り入れてくれると嬉しいですね。
本体は直方体ですね。ここに表示パネルとスタートボタンがあります。全自動の放置系の様です。他にボタンがありません。
では、分解していきたいと思います。・・・・ムリです。
コの字型の金具ですが、ここを見て下さい。元は三点の部品のようですがコの字の角の部分が変色しています。これは溶着の熱によるものです。X軸もY軸も同じですね。想像以上に高精密な仕上げになっています。寸分のズレもなく太陽に反射する決意を感じます(笑)
実は、本体の分解に挫折した私は師匠に相談しまして、レーザーカッターを持っている業者を紹介して貰いました。このように綺麗に切断する事が出来ました。めでたしめでたしと思って収録を再開したけれど、本体の中はポッティング材で固めてありました。屋外使用だから防水対策は必要ですよね。中を見てから気がつきました。トホホです。
また、師匠に相談したところ、ポッティング材を除去出来る業者を紹介して貰いました。製品評価をする業者です。いつも見ていると言って貰いました。食えなくなったら雇って上げると言われました・・・。 頑張ります!
気を取り直して中身を見て行きます。
本体から中身を抜き取ったのがこちらです。ステッピングモーターを二個使っています。ギアボックスの中はヘリカルギアです。どれだけ高精密制御なのでしょう。ステッピングモーターの型番で検索したら露光装置で使うグレードです。ナノメーター単位の制御が出来るようです。
今回の収録に一週間も使いました。想像以上に苦戦しましたが楽しんで貰えましたか? 宜しかったら、【いいね】と、チャンネル登録お願いします。
五人とも、何とも言えない感じだった。
「端的に言うと期待外れだった。製品分解系に製品レビューを期待したのが間違いだった」
と言いつつも、反応があった事は良い事だとドクター・ワンは思っていた。
「確かに。製品レビューが投稿されるのを待つしかないですね。ところでエンジニア担当の意見を聞きたいです」
シナリオ担当は物言いたげな仕草を見逃さなかった。
「私の意見? 目の前で壊されたら気分は良くないよ。目的をもって作られたものだからね。彼女に壊されるために現場の作業者は作った訳ではないよ。前置きはこれくらいとして。ステッピングモーターとヘリカルギアより反射鏡の方がコスト掛かっているのに気づいて貰えないのは残念だよ。ハードディスク並みの鏡面仕上げにサファイアコーティングで耐候性を上げて十年間の風雪に耐えられる。太陽熱発電所の反射鏡よりグレードを上に仕上げたのに」
「ところで、真の意味での製品レビューは我々しか出来ないと思うが?」
「大姐、この逆熊猫と増えたシミに賭けて大丈夫です」
エンジニア担当のジョークに苦笑いで応えた。
「ドローンを同じ角速度で飛ばして性能試験を行った結果、晴天であればB型千基一ユニットで成果を出せる試験結果です」
「安全率は?」
「安全率は二です。晴天であれば五百基でイケます」
「そうなると、千基単位で一地域に設置するように働きかけるのが良い事になる?」
「大姐、理想的にはそうなりますが『県』ぐらいの広さでも大丈夫です。試験では百キロメートル四方に分散設置も試しました。差はありませんでしたよ」
「ありがとう。設置の進捗はサハラ砂漠の環境団体が協力的で苗畑の日除けに使っている。後はアルゼンチン北部の放牧地の日除けで使っている程度。ODAの活用は思った以上に難しい。こちらのお願いには足元を見て来るからだ。解決策としてひまわりシステムを選ばせる形に持ち込むのに時間が掛かると言っていた。そこで、国内の酪農家団体に依頼してきた。それに合わせて中央が報道官コメントを出す事になった」
~・~・~
ドクター・ワンの働きかけの通り、政府の定例記者会見で質問が上がった。
「中央新聞です。投資家のリチャード・ワンが進めている温暖化防止策のひまわりシステムを政府で推奨して導入を働きかけていると聞きました。これは、事実ですか?」
記者の質問の途中から政府の公式回答がAIにより生成された。
「地球温暖化は国連でも議論されている僅々の課題の一つだ。これまでも、我が国は安価な太陽光パネル、電気自動車を量産する事で温暖化排出ガスの削減で国際貢献を果たして来た。更に太陽エネルギーを反射して温暖化を防ぐアイデア。彼の言う『出来る事は何でもする』に我が国としても共感した」
「太陽光を反射するだけのひまわりシステムをどの様な場所で利用するのですか?」
「事例はひまわり計画のサイトに載っている。そこで確認するように」
政府の定例記者会見で取り上げられた直後から、ひまわり計画サイトのアクセスが急増した。
ひまわりシステムの活用事例には、植林事業の現場で苗を育てる為の遮光としてひまわりシステムで屋根を作ると、黒ネットの遮光より地面の温度を下げる効果があり酷暑日に発生していた枯死を防ぐ事が期待される。
放牧地に乳牛用の遮光エリアを設置する事で地面の温度を下がる効果があり乳牛の夏バテ防止が期待される。
どちらの事例も藤棚のような土台の上に百基以上のひまわりシステムが設置された広大なエリアが映っていた。
価格の安さで高日射反射率塗料は売れているが、地球温暖化防止に効果がある事を直感的に分かるように実験でアピールしたい。そこで子どもの理科の実験レベルでビデオを作成する事にした。我々側としてもギリシャのサントリーニ島に視察に行って白色の街並みの効果を体感はしている。建造物が蓄熱しない事で夜の過ごしやすさも実感した。しかし、体感ではなく実験を通して確認したい。それに数値で差が捉えられるなら説得するにも大きな力になる。
「あの子役たちは、マレーシアから連れてきたのか?」
ドクター・ワンは、子どもたちの英語のイントネーションに自分たちとの違いを感じていた。
「替えた方が良いのですか?」
ビデオ担当スタッフにしてみれば、クライアントの気まぐれは日常茶飯事だった。
「そう言う意味ではない。良い配役だ」
ビデオ担当スタッフは配役の意図に気づいて貰えた嬉しさ以上に、細部まで見抜かれる緊張感の方が大きかった。しかし、自分たちの仕事に関心を示さないクライアントに比べれば心地良い緊張感であった。
「台本は打ち合わせの時に説明した通りです。では撮影を始めます」
体育館の中央に置かれた水槽の前にリチャード・ワンと子役が並んで立っている。
「こんにちは、先日の記者発表から高日射反射率塗料に賛同頂ける施主様が増えております。とてもありがたい事です。これで少しでも地球温暖化を遅らせる事が出来たらと思っています。皆様に賛同頂いている高日射反射率塗料の効果を実験で確認して普及に弾みをつけたいと思います。そこで、二つの水槽を地球に見立てて実験するために室内の影響を最小限にする為に体育館を借りて実験をする事にしました。そして、実験のお手伝いをしてくれるフィラス君とアマリアさんです。よろしくお願いします」
二人はお辞儀をすると水槽の裏側に回った。台本の指示通りに地球表面と同じ割合で陸地と海洋が再現された上に植物の模型、雲の模型、ビルの模型を並べていった。フィラスのビルは黒色。アマリアのビルは白色だった。
「並べ終わりました」
子どもたちの合図でスタッフが気温を測定するための温度計を設置した。
「温度計にライトが当たらない様に日除けを付けて気温の違いを確認します」
スタッフがライトを設置してサーモグラフィカメラを設置していくのを子どもたちと見守りながらリチャード・ワンは予備の温度計を取り出した。
「この実験で使う高精度温度計は・・・、え? 小数点以下三桁まで測定出来ます。体温計が小数点以下一桁なので凄さが分かると思います。さて、子どもたちに質問です。二つの水槽の温度差は何度になると思いますか?」
台本には質問だけ書かれてあり回答は各自で考えるとなっていた。
「・・・同じじゃん?」
フィラスは言った後で、周りの期待と違う答えをしてしまったかもと大人たちの顔色を確認している。
「ちょっとだけ、違う?」
大人たちが求めている答えはこれ。と言わんばかりにアマリアが答えた。
「え・・・。フィラス君もアマリアさんも控えめな予想ですね。高日射反射率塗料の効果はもっとありますよ。僕は一度ぐらい差が出ると思っているけど?」
リチャード・ワンの予想に気まずさを感じる子どもたちだった。
「みんな予想が違うので結果が楽しみですね。実験中の記録はスタッフの皆さんにお願いして、続きの撮影は早朝になるので寝坊しないで下さいね」
「はい!」
子どもたちは元気に返事をした。
「おはようございます」
体育館のエントランスホールに設置してあるスタッフ席に三人が座っている。
「僕たちが中に入って変化を与える恐れがあると言われたので、実験の続きはスタッフ席をから行います」
リチャード・ワンはサーモグラフィの映像をモニターに表示した。
「どうでしょうか。何か差はありますか?」
子どもたちは二つのモニターを見比べて指差して言った。
「ビルの温度が違います。白色の方の温度が低いです」
「十度も違いますね。でも、温度が違うのはビルだけのようですね。では、気温は如何でしょうか? 温暖化は防げたでしょうか?」
「白色ビルの水槽は二十六・四七一度。黒色ビルの水槽は二十六・四七五度です」
リチャード・ワンは自分でも温度を確認した。
「つまり、白色ビルの水槽の方が〇・〇〇四度低い。地球温暖化抑制効果があると言う事ですね?」
温度の差は極僅かであった。セッティングの差かもしれない。温度計の位置の差の可能性もある。ビルを入れ替えて検証する必要かもしれない。
「スタッフからOKが出ました。実験は成功の様です。これでこの子たちの未来も安泰です」
ドクター・ワンは片付けが始まる前にビデオ担当スタッフに走り寄った。
「今回も素晴らしかった。ところで、実験セットを使って試したい事があるのだが可能か?」
「体育館は、明日の夕方まで借りてあるので、そこまでなら大丈夫です」
「十分だ。セッティングを手伝って貰って良いだろうか?」
ドクター・ワンは用意しておいたミニチュアをビデオ担当スタッフに渡した。
~・~・~
ひまわり計画を始めてからも地球の平均気温は上昇を続けていた。気温上昇にともなう稲作耕作地の北上は小麦耕作地の南限の北上でもあった。他の作物の適正地も変わり害虫や病気も変わっていった。それでも一年草の野菜は耕作地の見直しで収穫量の維持を図れたが果樹類は植樹して実がつくのに年数を要する。その年数分だけ収量が確実に減っていた。
気温の上昇は海水温の上昇を招き、魚の生息域が北上する事になった。漁業で生計を立てていた村では魚を追いかけ遠くまで漁に出掛けるものや、魚に合わせた漁具に買い直しを迫られた地域もあった。それでも漁業を続けられる村は良い方だった。他国の海域に魚が移動すれば漁が出来ない。村全体が存亡の危機に陥るのであった。
「ドクター・ワン、面白いビデオを入手しました」
会議室には四人が集まっていた。ドクター・ワンの着席を確認するとビデオの再生が始まった。
映し出されたのは国内で人気の旅番組だった。女優と一緒に旅をするあなたの視線で撮影されている女性同士の旅がコンセプトだった。旅の玄関口、この村のバス停から番組がスタートした。
漁業で栄えていた歴史を持つ村であったが、村中の建物を白く塗って観光にも力を入れていると紹介している。
『東洋のサントリーニ島みたいですね。屋根も白色だけどソーラーパネルの部分だけ色があって現代的なサントリーニ島ですね』
海の青色と村の白色のコントラストが映えるシーンを挟むと、村の名物海鮮料理のシーンになった。
『建物内部は昔ながらですね。屋内はヒンヤリしています。路地裏のお店に入った懐かしさがあります』
『料理は、さすが漁業の村だけあって新鮮な魚を使った絶品ばかりです』
三十分ほどの番組だった。史跡名勝の類がないのでのんびりした番組進行だった。
「どうですか? 高日射反射率塗料の活用事例になりませんか?」
ドクター・ワンはモニターから視線を動かさずに、
「番組に違和感なく台詞を挟むのはさすがプロだな」
更にコーヒーを飲んでから付け加えた。
「良く番組に気がついてくれた。ひまわり計画にどの様な影響を与えると思う?」
シナリオ担当がひまわり計画を思い返してから、
「メインシナリオを補強すると思います。活用事例があれば検討中の地域にも参考になるでしょう。ひまわり計画のバージョンアップにも繋がると思います」
ドクター・ワンもシナリオを思い返していた。
「分かった。知名度を上げるにも役立つだろう。では、株主提案のイベントを進める事にする」
~・~・~
株主総会は春から初夏にかけて多くの企業が実施している。株主の発言の重さは株式の保有比率で決まり過半数を保有すれば社長を変える事が出来る。三分の一以上を保有すれば重大な議案を否決出来る。提案するだけなら一パーセント以上で可能になる。
株式を上場している企業なら、地球温暖化防止に関する提案だと安易に否決は出来ない。SDGsの活動をしていれば『目標:十三 気候変動に具体的な対策を』に関する提案なら更に否決は困難になる。仮に提案を否決しても議事録には残り環境活動家に口実を与えかねない。提案出来れば目的はほぼ達成出来たと言って良かった。
株主総会を前にドクター・ワンは投資会社の役員を訪ね歩いていた。役員の携帯に直接アポイントを取ると応接室まではフリーパスだ。
どこの投資会社も派手さはないが高級品だと分かるもので設えてあった。客に選ばれる投資会社である前に客を選ぶ投資会社である証拠だった。少なくとも窓口対応以上の場合と言う事だろうと思いながら静かに役員を待っていた。
どこの投資会社でも必ず待たされる。社としての対応を考えているのだろう。
「お待たせした。最近物覚えが悪くてリチャード・ワン様と名刺交換をした場所が思い出せなくてね。投資界隈で有名な方ではあるけど、不思議な事に顧客リストにお名前が見つからなくてね?」
どこの投資会社の役員も社交的だ。それに分からない事は本人に訊けばよいと思っているのも同じだ。
「お忙しい中、お時間を作って頂き感謝します。父も面識はないと言っておりましたが、協力はして貰えるはずだからと言っておりました」
あくまでも父の代理で動いている。言われたままに訪問して、言われた通りの成果を持ち帰る事だけに関心があるように見せておく必要があった。
「そうですか・・・・。来社の目的は高日射反射率塗料の件ですよね? あの件も不思議ですよね。筆頭株主でもないのに他の株主が協力して会社に商品化させた訳ですから?」
別の切り口で探りを入れて来るのもどこの投資会社も同じだ。もっとも、こちらも役員を選んでアポイントを取っている。断りそうな相手と交渉をしても時間の無駄だからである。
「株主提案の件も同じですが、社会的意義とリターンを説明させて頂きました。どの株主様もご納得頂けたので商品に出来ました」
この件でも経済的メリットがあると匂わせておくのは初歩の話だ。『ノー』と言えない投資会社には賛同社リストに貢献して貰っている。他社の動向を気にせずに判断出来る投資会社には影響を受けるサプライチェーンのレポートを渡している。
「そうですか・・・・。我が社にもペンキの塗り替えの株主提案に賛同しろと?」
「はい。地球温暖化を防ぐには賛同頂ける企業を増やす必要があります。その一つの手段として大々的に株主提案で社会的インパクトを起こしたいと考えております。幸いどの投資会社様からも快諾を頂けております」
この役員は自社が最初の交渉相手ではないと理解したようだ。それならば他社が引き出したメリット以上が手に入るのか? 話を断っても失うものが無いのなら強欲に出る可能性もある。
「そうですか・・・・。この株主提案でのリターンは何ですか? 投資会社として顧客への説明も必要ですから」
「スーツに着けているSDGsのマークと同じです。十七の目標を知らなくても良いのです。時代の潮流に乗っている事実がディメリットを招かないだけです」
無名な投資家が自社を脅していると感じたようだ。見下した態度を隠さない。
「そうですか・・・・。どの投資会社からも快諾を得たのですね?」
スマホを指差しながら、
「大手の投資会社に確認されるのが良いと思います。役員を紹介しましょうか?」
「大丈夫ですよ、私のスマホにあります」
と言うと役員は席を外した。
この投資会社の規模なら賛同を得られなくても問題はない。しかし、シナリオによっては役に立つらしい。捨て駒も手駒の一つだ。
「お待たせしました。あなたの父上は素晴らしい人脈をお持ちのようだ。我が社も協力しましょう」
交渉成立の握手を求めて来るが、深々とお辞儀をして応える事にした。
「こちらに株主提案の内容の書類がありますので担当に渡して頂ければと思います」
再度お辞儀をすると応接室を後にした。
今回の交渉事では『あなたの父上は』とよく言われる。子どもの頃に将棋ではなく囲碁の様に勝ちなさいと言われた事を思い出した。囲碁は相手より一目多く取れば勝ちになる。相手は石が残る事で面目を保てると。私は『将棋なら相手の駒が自分の物になる。相手を恐れる必要はない』と言い返した事があった。しかし、父に『確かにその通りだ。駒がなければ手も足も出せなくなる』と言われて、私は囲碁のように負けた事を悟った。
~・~・~
投資会社を回れば業界で話題になる。投資会社が環境問題に関する株主提案と言っても無名な投資家に協力するほどお人好しではないのは周知の事実だ。それが中堅も大手も株主提案に賛同すれば注目を集めてしまう。
「ドクター・ワン、亜州経済で特集が組まれています」
雑誌は各自に手渡された。
「先月、問い合わせがあった経済誌だね?」
特集の副題が『ひまわり計画は謎の大富豪リチャード・ワンによるものか?』となっていた。株主提案を境に関心が高まったのはひまわり計画サイトのプレビュー数で一目瞭然だった。
「世間の関心を引く活動をしなければ知名度は上がらないものだな」
ひまわり計画の成功のためには世間の関心を集めるのは必須条件だったが、小さな事で実績を上げていかないと世間は見向きもしない。正のスパイラルを作り出すのは最初の一歩目が大事だと今更ながら感じていた。
「謎の大富豪の代理で謎の美人が現れた。と書いてありますよ」
ドクター・ワンは、シナリオ担当に苦笑いを向けた。
「投資会社を回られた時の事が詳しく書かれていますね。秘書のように控えめにあって協力は取り付ける敏腕ぶりと」
四人がドクター・ワンの意外な一面を探している事に気がついた。
「私のネタ探しは会議後にして欲しい。シナリオへの影響をどう思うか?」
「この特集に限って言えば、好影響はあっても悪影響はないと思います。何故なら、彼らが取材出来た範囲で好意的に記事を書いている印象です。メールでの回答に対しても環境問題への取り組みを称賛しつつ、同一名の大富豪は他に確認出来なかったとしています。読者の関心が高まるように。我々の歓心を買おうとしています」
「私も同じ意見ですね。次の取材の手土産記事と見て良いでしょう。謎の美人秘書も読者が喜ぶアイテムです。持ち上げて落とす。救済して立ち直る。三幕構成に当てはめて連載記事にする実在の人物を使った三文小説ですね」
四人が的確に評価しつつ一言も褒めないのも珍しいと感じていた。確かに記事を分析する時と同じように使う単語、使わない単語。言い回しに表れる人間性を基に既知の人物との類似性によって将来の行動を予測すれば、鼻持ちならない奴に行きつくのは分かる。
「珍しく辛辣な言葉が並んだな。そんなに悪い事は書かれていないと思うが?」
四人の視線がドクター・ワンに集まった。そして口を開いたのはシナリオ担当だった。
「謎の美人秘書で持ち上げられたからですよ。次の取材ターゲットはドクター・ワンですよ。敏腕ぶりを記事にさせてほしいと言って、リチャード・ワンの外堀を埋めるつもりでしょう」
ドクター・ワンは、クスリと笑った。自分事は他人事と扱え、他人事は自分事と扱え。と父に諫められた事があったと。
「失礼した・・・。褒められ記事に絆されてしまったようだ。もし、取材依頼があったらどうすべきかな?」
「シナリオにないので断っても問題はないです。取材は受けても受けなくても疑惑を作って落としに来るのは間違いないです」
記事にしたタイミングを考えれば、注目度が高まっている時に掲載している。我々のアクションと相乗効果が出るタイミングにぶつけてくるのはさすがプロと言うべきだろう。記事の書き方もエンタメ要素を隠し味にした売り上げが伸びる工夫をしている。読者視点で言えば一本調子で褒め称えるより、リチャード・ワンに困難や葛藤をぶつけ乗り越えていく様を見せれば現実社会を舞台にしたエンタメ要素を含んだノンフィクションになる。先行きの展開を記者がコントロールを出来ない事で、返って読み応えは高まるはずだ。
「その時の取材申し込みは、我々が記事にして欲しいと思うタイミングを狙って来ると言う事だね。客観的に対処出来るように心の準備をしておくよ」
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番組の打ち合わせ段階から我々にはとっては本番だった。
株主提案を使った環境問題へのアプローチは広く世間に知られる事になった。テレビ各社からも取材の申し込みが来るようになったがタレント化により本業に支障が出ないようにするために、オンライン出演を条件に経済番組に出演する事にした。
その番組の台本のすり合わせが終り、リチャード・ワンのカメラテストと本人による台本の確認が行われる事になった。
「そちらのスタッフの方に渡した台本には目を通して頂いたでしょうか?」
番組スタッフは失礼がないように気を使いながらも、余計な事をしない様に圧を掛けてもいた。
「大丈夫だ。台本の内容に不満はない。うちのスタッフとのすり合わせに満足しているよ」
本番用のジャケット姿でリチャード・ワンは番組スタッフと段取りの確認をしていた。
ドクター・ワンは、番組側に映像を送信しているビデオ担当スタッフの動きを追っていた。記者発表の時と同じと説明は受けていたが、番組スタッフ側から不測の質問にどこまで答えられるかは難易度が高いと言われていた。
「不測の質問に変わりがないのでは?」
記者発表の時は想定問答を準備していた事で難なく終わらせる事が出来た。今回は台本通りの受け答えだった。アドリブに備えた問答集も用意してあった。
「記者会見の時は前段の発表内容の制約を受けるので犬派猫派は訊かれません。でも番組スタッフはリラックスを狙って話しかけて来るので、臭豆腐の話題を振られたらどうしますか? 例えば臭豆腐が好きですか? 地域的には食べた経験があると思いますが、苦手な人が多いのも事実です。過去の発言との整合性は大丈夫ですか? となります。答えられない範囲が圧倒的に広いですが、違和感なく対処するのは難しいものですよ。その為にスタッフ席にご足労を願いました」
アドリブ対応でのフォローなら、シナリオ担当の方が適任であった。彼が中心に想定問答集を作成していたからだ。
「ワンさん、番組開始五分前です。場慣れされていますね。緊張感ないです。この調子でお願いします」
リチャード・ワンは苦笑いを向けたが、モニターの向うの番組スタッフはお義理で言葉を掛けただけだった。そのまま番組開始までの確認事項を続けていた。リチャード・ワンはカメラから目を落とすと番組の進行表を確認した。
番組の冒頭でヘッドラインニュースを流すと特集コーナーの予告を流した。
「特集三十秒前です」
番組スタッフの声がスタッフルームに流れた。
特集が始まるとメインキャスターが、リチャード・ワンの経歴を紹介した。放送映像に映るリチャード・ワンは少し緊張した雰囲気でメインキャスターが読み上げる経歴を所々頷きながら聞いていた。
「先日、亜州経済で『ひまわり計画は謎の大富豪リチャード・ワンによるものか?』と特集が組まれたリチャード・ワン氏にお越しいただきました。本日はお忙しい中、ご出演頂きありがとうございます」
「こちらこそ、よろしくお願いします。謎ではないのでスッピンで出演させてもらっています」
予想外のアドリブに笑いを堪えるメインキャスターが映ったままになった。
「あ、失礼しました。頭巾の用意を忘れました。さて、話題を戻しまして。株主提案を使って地球温暖化防止の取り組みは新しい試みだと思います。始めるきっかけを教えて頂けますか?」
メインキャスターはアドリブの分、気持ち早口になった。
「白色は熱くならない。黒色は熱くなる。理科の授業や日常生活で体感的に理解している人は多いと思います。漠然と白く塗る場所が増えれば温暖化防止に繋がると協力会社と高日射反射率塗料を開発して取り組んできました。その効果を実験で確認しようとしたところ、僅かですが確かに白色だと効果が得られました。それなら、自信をもって社屋の白色化を提案出来るとなりました」
リチャード・ワンもアドリブの分、気持ち早口で答えた。
「実験の結果は、ひまわり計画のサイトにアップロードされています。後程ご覧ください。ところで、企業に収益の最大化を求める投資家が環境問題の対策を求めるのは稀有なケースだと思いますが、どう思われますか?」
「企業の存続を含め、一語で言うと待ったなしだと思います。酷暑で苦しんだ去年より暑い夏が来て、来年は更に暑くなる可能性がある。建物を白く塗るだけで抑えられるなら、やって損をする事はないのです。経済と両立出来る事なら出し惜しみなく全て行うのが良いと思います。そして、一人では効果がないのです。沢山の人々に協力してもらう事で地球温暖化を抑える事が出来ると思います」
~・~・~
リチャード・ワンの要望に応える形で番組は終了した。視聴者の反応は踏み込んだ環境問題の扱いに難色を示す層もあったが、アドリブのお陰で好感度は上昇した。番組の最中からひまわり計画のサイトのアクセス数は伸び、一日で今までのアクセス数を超えそうな勢いだった。リチャード・ワンのアカウントのフォロワー数も桁が増えていた。
「テレビ局の影響力は健在のようだ。思った以上にアクセスが伸びている。スタッフの人数を増やしておけば良かったかな?」
「新規フォロワーのピークは今日若しくは明日ぐらいのはずなので、作業に遅れが出ても直ぐ挽回出来ます」
フォロワーのアカウントのIPアドレス、フォロー先、個人情報から勤務先、購買履歴の分析を行うとランク付けをしてリスト化していった。フォロワーのアカウントの九割は一般市民だった。将来性のある銘柄にだけ関心がある人々だった。残りの一割の中に、環境保護団体や報道関係者、一般市民とは違う動きをする人々がいた。
ひまわり計画のサイトにある問合せ先フォームに、自分たちの活動がいかに環境保護に貢献しているのかを書き込み協力を申し出る団体。協力を求める団体。銀行口座だけを書き込む個人が増え始めた。
番組終了三十分を過ぎるぐらいから、放送エリア外からのフォロワーや問い合わせが増えてきた。本部とは別に支部単位で寄付を求める書き込みも増えてきた。有名な環境団体を名乗っているが銀行口座は個人名のパターンも増えてきた。環境保護商品のメーカーからコラボ商品の提案も出てきた。
「シナリオ通りの展開だな。あまりにもシナリオ通りの展開にうんざりな部分もあるが、有益な協力者を見つけ出すのが我々の仕事だ」
環境保護団体に対しては入力されたサイトアドレスにアクセスして活動実態を読み込んでいく。本拠地が分かればその国の教育が常識として活動を縛る事になる。活動内容は分かれば組織力や実行力が分かる。協賛企業のページがあればビジネス団体だと分かる。代表の写真が掲載されていれば責任感が分かる。サイトのデザインも大事だ。相手に理解して貰う工夫も分かる。
「ドクター・ワン、この環境団体はどう思います?」
サハラ砂漠にある共和国で活動する環境保護団体だった。植林による農業の振興が活動目的となっていた。
「規模が小さく途上国で活動している団体だね。リストに入れる事で迷っている? 外す事で迷っている?」
「入れて大丈夫かで迷っています。地域的には最適ですが、資金援助をしても成果が得られるか疑問が残ります」
ドクター・ワンはODAの内容を思い返していた。
「苗が育つまでの日除けがあれば彼らは喜びそうだ。中央に行ってODAの担当に協力を依頼して来る」
「お願いします。ODA職員が彼らをサポートすれば戦力なりますね」
「ちょっと待って下さい」
シナリオ担当からストップが掛った。
「ドクター・ワン、ODA担当に協力を求めるなら他の地域でも協力をお願いしたいです。彼らは影響力があるのでシナリオの見直しは必要になりますが」
「我々の協力者が環境保護団体である必要はない?」
「はい。先ほどのお話で気がつきました。協力が得られるなら地域振興の団体でも良いと思います」
「コントロール出来れば目的を達成出来ると考える?」
不確定要素を排除して直接管理出来る外国の団体であれば目的が達成出来る。成功のカギは設置数だからだ。一つの地域にまとまった数を設置する大義名分が環境保護でなく地域振興でも良い。地域での影響力なら地域振興の方が大きい。バックに地元有力者がいるからだ。その担保にODA担当が持つ影響力が役に立つ。
「はい。協力者を資本家から環境保護団体に広げる為のアクションでしたが、地元の有力者なら有益な協力を引き出しやすいです」
子飼いの団体にすれば結果を予測出来る。
「地球温暖化防止活動の軸は守れると思うか?」
「分かりません。それなので、影響力の精査とシナリオの見直しが必要だと思いました」
「分かった、よろしく頼む」
~・~・~
ひまわり計画サイトのリニューアルに合わせて新しいビデオが完成した。
「ドクター・ワンは、中央に出張で当分戻れないと聞いている」
ビデオ担当が残念そうに見えるのは自分たちも同じ気持ちだからだ。
「承認は誰から貰えば良いですかね?」
今までは自分たちのイメージ通りの映像を作って貰うために作成現場に入り細かい指示と目的を説明してきた。今では事前の打ち合わせで希望通りの映像を作って貰えるようになった。だからと言って未承認で映像をアップロードする事はしない。彼らはプロだからこそ立ち位置を見失う事はない。
「ご苦労様です。私たちで対応します。試写会の準備をして貰えますか?」
今日はエンジニア担当が帰ってきている。ひまわり計画の物語を書くのが私の仕事だとすると彼女はひまわり計画を現実にするのが仕事だ。太陽光線を真っ直ぐ太陽に跳ね返す装置の実現を彼女が担ってきた。常に太陽に向き続けるひまわりの様に反射鏡を制御する。朝は東の空に向き夕方には西の空を向く。設置場所に電力があるとは限らない。設置する者が方位を合わせるとは限らない。モニタリング出来る事。修正プログラムを送れる事。十年は反射性能が維持出来る事。安価である事。私が書いた二百文字にも満たない仕様だが、どれだけ困難な要求なのかは分かっているつもりだった。その無理な仕様を彼女は二年で実用化した。
「大姐は中央に行っているの?」
エンジニア担当が残念そうに言う。
「ドクター・ワンはひまわりシステムの設置のためにODA担当と打ち合わせをしています」
「それでは仕方がないですね。私の方は順調に進んでいるのを、直に報告したかったのに残念ですね」
「ところで、逆熊猫になっていますね。屋外作業ばかりですか?」
「高地で実験しているからサングラスは必需品だよ。その苦労の甲斐があってハードもソフトも合格点レベルで仕上がったよ」
ビデオ担当スタッフが目配せをしてきた。
「では、試写会の準備が整ったようなので始めて下さい」
麦藁帽子を被った少年がひまわりを天高く掲げるイラストの後、体育館の中央に置かれた二つの水槽の前に立つリチャード・ワンが映った。
「みなさん、こんにちは。リチャード・ワンです。こちらの水槽を覚えているでしょうか? 白色ビルと黒色ビルによる気温の比較をした水槽です。このセットを使い照明の光を反射する比較実験を行いました。記者発表の時に中央新聞の記者から頂いたアイデアです。結果は反射鏡を設置した水槽の方が〇・〇一二度低い。地球温暖化抑制効果がありました。それなら、建物を全部白色に塗り日傘の様に反射鏡を並べれば温暖化を防げる。心が躍りました。でも、如何やって反射鏡を作るのか・・・」
リチャード・ワンが途方に暮れるシーンで映像が止まると、横から現れたリチャード・ワンがその前を横切りカメラがその姿を追った。
「僕のイメージをスタッフが形にしてくれました。これが、ひまわりシステムです」
直径九十センチメートルほどの反射鏡の中心にロッドが立っている。反射鏡の裏側には角度を調整する駆動部があった。
「地面に立ててスイッチを入れると、現在時間と設置場所を把握して自律的に太陽に向いて光を反射します」
リチャード・ワンが指を鳴らすと、四角いテーブルの形をした反射鏡に変わった。
「最初のイメージはこれでした。反射板を置き宇宙に跳ね返すだけでした。しかし、スタッフにいるエンジニアからアドバイスがありました。固定された太陽光パネルが季節や時間によっては他人の家の中を照らして迷惑になっている。季節や時間によって太陽に向いている面積が変わり効果の最大化が出来ない。モニタリング出来ないので効果を計測出来ずフィードバックが出来ない」
ロンドンのビルのニュースを表示した。
「ビルの湾曲したデザインが反射した光を集光させ、駐車中の車のサイドミラーを変形させる事件がありました。確かに迷惑を掛ける訳にはいかない。でも、電源工事が必要では誰も設置してくれないですよね? と訊きました。日差しがあれば太陽光パネルで発電が出来て太陽の自動追尾。北斗衛星を使えば位置合わせのデータを送れると言う事でした。多少スペックが高くても大量生産部品を使えば安く作れて長持ちする。僕では思いつかないアイデアで良い形にまとまったと思います。それが、このひまわりシステムです」
ひまわりシステムのプロモーションビデオに切り替わった。
太陽の移動に合わせて向きを変える反射鏡。宅配業者が少年にひまわりシステムを渡すと箱から取り出し図面を見ながら組み立て、庭に立てたポールにBSアンテナの様にネジ止めをした。反射鏡は明後日の方向を向いているが、そのまま【スタート】ボタンを押した。
『現在位置・時刻確認中』
五分ほど、確認中の文字が点滅すると、
『太陽追尾開始します』
表示が変わり、十分ほど掛けて太陽に反射鏡を向けた。
『太陽追尾 一分』
太陽の移動に合わせて向きを変えるひまわりシステム。
「誰でも簡単に設置出来ます。角度がズレていても、反射鏡の中心にあるポールで角度の補正をしてくれます。このひまわりシステムを協力者に無料配布します。でも、無限に配布出来る訳ではありませんので効果の見込める場所に限らせてもらいます。この下にある、ひまわりシステムのボタンを押してください。詳細を載せてあります。僕はひまわりシステムを世界中に設置して地球温暖化を防ぎたいのです。これからは高日射反射率塗料のひまわり計画と、ひまわりシステムのひまわり計画Ver2の二本立てで活動していきたいと思います」
試写会が終った。
「我々でドクター・ワンに代わり承認のサインをする必要があります。特にひまわりシステムの部分はどうですか?」
三人の視線の先にエンジニア担当がいた。
「私見を述べるなら・・・、実物が売るほどあるのにCGにしなくても、ですね。あとは、ひまわりシステムの外観にも説明にも問題点は感じなかったよ」
「他に問題点は?」
二人は首を横に振った。
「では、ビデオ担当スタッフには承認を出しておきます」
~・~・~
ひまわりシステムの設置協力より先に科学者がSNSで反応した。
『お金持ちの発想が自由過ぎる。ひまわりシステムのネーミングは兎も角として一基〇・六二八平方メートルで太陽光を反射して温暖化が防げるの?
地球の表面積が五百十 百万平方キロメートルもある。まるで海の水をコップで汲み上げる様な事でしかない。そんな物にどれだけの温暖化ガスを排出して製造し、運搬し、設置するのだろうか?
金持ちだから十万基ぐらい無料配布しても六・二八平方キロメートル。地球表面の〇・一二三一PPMでしかない。金持ちの自己満足の為に地球を傷つけるのは止めてほしい』
コメントに千を超える【いいね】が付いた。賛同するコメント多く書かれた。
ドクター・ワンは科学者の経歴を確認した。三流大学で教授を行う特筆する要素を持たない学者だった。暇つぶしで反応したのか、名を上げるチャンスとみたのかは他のコメントを見ても判然としなかった。
シナリオでは、このような反応を想定していた。ひまわり計画の知名度が上がる可能性があり実力行使のネガティブキャンペーンでなければスルー対応となっていた。
「太陽光の反射なのだから地球の表面積は半分若しくは断面積で計算すべきだな。」
と独り言をいいながら、科学者のコメントに【いいね】を押した。
~・~・~
ひまわりシステムの設置を申し出が来るようになった。設置場所を確認するとマンションのベランダに設置を予定している協力者だった。9時から15時の日当たりが確保出来る南向きの好立地だったが、ベランダは対象外なのを納得して貰えなかった。コメント欄に悪態が並べてあった。似たような案件が来た時には管理組合に相談して屋上設置の代案を提示したが、協力者にそこまでのモチベーションないようだ。送り先入力画面の前にサイトを閉じていた。
戸建て住宅からの問い合わせの中には、南側の窓のすぐそこに隣の住宅がある地域からもあった。屋上の設置案を提示するとBSアンテナの隣に設置するしかなかったようだ。条件未達で断るしかなかった。
欧州からの問い合わせがあったが、高緯度地域では冬場の日照時間を確保出来なかった。
問い合わせは都市部の市民からが多く関心の高さを感じられたが設置条件を満たす事は殆どなかった。
協力関係のある環境保護団体がひまわりシステムの宣伝をしてくれた。事務所の前にひまわりシステムを設置し実際の姿を見せる事で関心を高めていた。設置場所に応じた必要部材の価格と購入先をまとめたパンフレットを用意してくれていた。
どこの団体も来期の支援金の査定に影響があるのは分かっている。アイデアを公開すれば査定が上がるのも分かっている。百ドルの上乗せの為に数百ドルの労力を惜しまない。全ての価値を貨幣によって交換可能にした先人の知恵には只々敬服するばかりである。
各団体のフェイス ツウ フェイスの活動によってイノベーターと呼ばれる人たちがひまわりシステムの設置を始めた。BSアンテナのポールを伸ばしての設置。工場屋根の太陽光パネルの邪魔にならない場所。マンションの屋上。しかし、日常生活で目に付くレベルにはまだまだ遠かった。
~・~・~
ドクター・ワンは中央でのネゴシエーションを終え戻っていた。不在中の進捗はすべて把握していた。常に五人の情報は並列化されているからだ。
「ドクター・ワン、製品分解系がひまわりシステムの解説をしているのを見つけました。これから上映会やります」
予測されていた通りの動きがあった。誰がやるかは分からなくても誰かが必ずやる。それだけひまわりシステムが認知されている証拠であった。
「どの程度の解説をするのかお手並み拝見だな」
『ども。製品分解系の 仲三田郎です。環境保護投資家?のリチャード・ワンさんが開発したひまわりシステムを入手しましたので分解して性能を見て行きたいと思います。
【いいね】と、チャンネル登録お願いします。
一メートル角の家電製品かと思う段ボールに入っております。テレビの梱包と比較すれば大きくはないですね。設置方法が二面に描いてあります。BSアンテナの様にポールに固定して、スタートボタンを押すだけのようです。設置後、モニター表示するにはスタートボタンを押すと五秒間表示が出るようです。二面に説明が表示されているのは宅配業者の伝票が貼られても大丈夫なようにですか? 土台は自分で用意するようですが、環境保護団体が説明用のパンフレットをくれました。さて、箱を開けたいと思います。
発泡スチロールの緩衝材は使わず段ボールです。製品はビニール袋に入っていません。反射鏡が圧巻です・・・。これは想像以上ですね。
分かりますか? 金尺を反射させていますが、像に歪が生じません。てっきりプレス成型のアルミ板が付いているぐらいだと思っていましたが研磨仕上げでしょうか? メチャ金掛かっています。
反射鏡の中心は太陽光パネルです。サイトの説明では、これが駆動電力と日照時間のモニタリングを行うとなっています。
これが、ポールを立てる穴ですね。中を覗くとイメージセンサですか? これで太陽の動きを追尾するようです。穴の底まで光が届けば太陽に向いている事になりますね。
裏返しにして駆動部を確認したいと思います。土台のポールにセットするネジ・ナットは本体に付いています。緩めてセットするようになっています。これは使うネジを間違わないので他の製品でも取り入れてくれると嬉しいですね。
本体は直方体ですね。ここに表示パネルとスタートボタンがあります。全自動の放置系の様です。他にボタンがありません。
では、分解していきたいと思います。・・・・ムリです。
コの字型の金具ですが、ここを見て下さい。元は三点の部品のようですがコの字の角の部分が変色しています。これは溶着の熱によるものです。X軸もY軸も同じですね。想像以上に高精密な仕上げになっています。寸分のズレもなく太陽に反射する決意を感じます(笑)
実は、本体の分解に挫折した私は師匠に相談しまして、レーザーカッターを持っている業者を紹介して貰いました。このように綺麗に切断する事が出来ました。めでたしめでたしと思って収録を再開したけれど、本体の中はポッティング材で固めてありました。屋外使用だから防水対策は必要ですよね。中を見てから気がつきました。トホホです。
また、師匠に相談したところ、ポッティング材を除去出来る業者を紹介して貰いました。製品評価をする業者です。いつも見ていると言って貰いました。食えなくなったら雇って上げると言われました・・・。 頑張ります!
気を取り直して中身を見て行きます。
本体から中身を抜き取ったのがこちらです。ステッピングモーターを二個使っています。ギアボックスの中はヘリカルギアです。どれだけ高精密制御なのでしょう。ステッピングモーターの型番で検索したら露光装置で使うグレードです。ナノメーター単位の制御が出来るようです。
今回の収録に一週間も使いました。想像以上に苦戦しましたが楽しんで貰えましたか? 宜しかったら、【いいね】と、チャンネル登録お願いします。
五人とも、何とも言えない感じだった。
「端的に言うと期待外れだった。製品分解系に製品レビューを期待したのが間違いだった」
と言いつつも、反応があった事は良い事だとドクター・ワンは思っていた。
「確かに。製品レビューが投稿されるのを待つしかないですね。ところでエンジニア担当の意見を聞きたいです」
シナリオ担当は物言いたげな仕草を見逃さなかった。
「私の意見? 目の前で壊されたら気分は良くないよ。目的をもって作られたものだからね。彼女に壊されるために現場の作業者は作った訳ではないよ。前置きはこれくらいとして。ステッピングモーターとヘリカルギアより反射鏡の方がコスト掛かっているのに気づいて貰えないのは残念だよ。ハードディスク並みの鏡面仕上げにサファイアコーティングで耐候性を上げて十年間の風雪に耐えられる。太陽熱発電所の反射鏡よりグレードを上に仕上げたのに」
「ところで、真の意味での製品レビューは我々しか出来ないと思うが?」
「大姐、この逆熊猫と増えたシミに賭けて大丈夫です」
エンジニア担当のジョークに苦笑いで応えた。
「ドローンを同じ角速度で飛ばして性能試験を行った結果、晴天であればB型千基一ユニットで成果を出せる試験結果です」
「安全率は?」
「安全率は二です。晴天であれば五百基でイケます」
「そうなると、千基単位で一地域に設置するように働きかけるのが良い事になる?」
「大姐、理想的にはそうなりますが『県』ぐらいの広さでも大丈夫です。試験では百キロメートル四方に分散設置も試しました。差はありませんでしたよ」
「ありがとう。設置の進捗はサハラ砂漠の環境団体が協力的で苗畑の日除けに使っている。後はアルゼンチン北部の放牧地の日除けで使っている程度。ODAの活用は思った以上に難しい。こちらのお願いには足元を見て来るからだ。解決策としてひまわりシステムを選ばせる形に持ち込むのに時間が掛かると言っていた。そこで、国内の酪農家団体に依頼してきた。それに合わせて中央が報道官コメントを出す事になった」
~・~・~
ドクター・ワンの働きかけの通り、政府の定例記者会見で質問が上がった。
「中央新聞です。投資家のリチャード・ワンが進めている温暖化防止策のひまわりシステムを政府で推奨して導入を働きかけていると聞きました。これは、事実ですか?」
記者の質問の途中から政府の公式回答がAIにより生成された。
「地球温暖化は国連でも議論されている僅々の課題の一つだ。これまでも、我が国は安価な太陽光パネル、電気自動車を量産する事で温暖化排出ガスの削減で国際貢献を果たして来た。更に太陽エネルギーを反射して温暖化を防ぐアイデア。彼の言う『出来る事は何でもする』に我が国としても共感した」
「太陽光を反射するだけのひまわりシステムをどの様な場所で利用するのですか?」
「事例はひまわり計画のサイトに載っている。そこで確認するように」
政府の定例記者会見で取り上げられた直後から、ひまわり計画サイトのアクセスが急増した。
ひまわりシステムの活用事例には、植林事業の現場で苗を育てる為の遮光としてひまわりシステムで屋根を作ると、黒ネットの遮光より地面の温度を下げる効果があり酷暑日に発生していた枯死を防ぐ事が期待される。
放牧地に乳牛用の遮光エリアを設置する事で地面の温度を下がる効果があり乳牛の夏バテ防止が期待される。
どちらの事例も藤棚のような土台の上に百基以上のひまわりシステムが設置された広大なエリアが映っていた。
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