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インサイダー取引
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世間の関心が高い時に利用しようとするのはネット民だけではなかった。経済界でもリチャード・ワンの知名度を利用する動きがあった。以前、『ひまわり計画は謎の大富豪リチャード・ワンによるものか?』の特集を組んだ亜州経済だった。
今度は『リチャード・ワンの不可解な取引』と題してあった。おおよそ政府発表の一月前に問題となる企業の株の空売りを行い発表後に返済買いを行っていた。逆に国策で株価の上昇が見込まれる企業も一月前に購入して発表後に売り抜けを行っていた。他にも企業の小さなニュースにも大量の買い注文を入れ株価が上がりだすと売り抜ける黒に近いグレーゾーンの株価操作も仕掛けていた。外国企業に対しても、関税圧力が掛る前に空売りを行い政府発表の後に返済買いを行っていた。圧力解除の前に購入して発表後に売り抜けていた。ここ数年、あからさまと言える黒に近いグレーゾーンの取引を続けているにも関わらず、行政からの指導が入らない状態であると情報が寄せられた。と結んでいた。
「大姐、亜州経済の特集は随分踏み込んだ内容に思うけど、これはアウトですよね?」
エンジニア担当は、前回の特集とは違いリチャード・ワンにインサイダー取引を疑う内容に悪意を感じ取っていた。
「二回目の取材依頼も断ったから、こんな記事で報復しているつもりのようだ」
ドクター・ワンは説明の続きをシナリオ担当に目配せした。
「実は、彼らの行動はシナリオの範囲内です。亜州経済が嫌がらせの記事を書きたいと思う頃に取引データのエビデンス付きで証券取引所の本物のアドレスでメールを送りました。こちらの思惑通りの記事が出てきました」
エンジニア担当は納得がいかない顔をしていた。どう考えてもリチャード・ワンに不利な内容で将来の動きに制約を与える可能性が高いと感じているからだ。
「美国がガネーシャの投稿に興味を示していると情報が入ったので、ひまわり計画の主導権をリチャード・ワンが持っている事を明確にする必要がありました」
エンジニア担当は説明が足りないと促している。
「取引に有利な情報を引き出すために、ひまわり計画を売り込んだと印象付ければ良いのです。そして、実害が美国に及んでいれば軍事データのひまわり計画からインサイダー取引のひまわり計画へと認識が変わる筈です」
「美国が動いた時のシナリオが発動されたと言う事かな?」
エンジニア担当の問いに、シナリオ担当は頷いて答えた。
「今回の件も、知名度が上がった副作用と考えているが肝心のひまわりシステムの設置が進んでいない方が問題だ」
「大姐、彼らの足並みは揃いましたか?」
「想定内だが遅れを生じている。彼らは全体像を知らされぬまま個別に準備を進めているので連携が上手く行っていないからだ」
~・~・~
株価は企業の業績だけで決まるものではない。現在の業績より将来を期待して株価が決まるのである。開発情報、提携協業、出店、海外展開など業績に大きな影響を与える情報を事前に知る事が出来れば株価が上がる前に購入出来る。株価が百円の時に購入して三百円になった時に売却すれば二百円の利益になる。一千万円分買っていれば二千万円の利益になる。逆に不祥事なら値崩れ前の株を借りて売り飛ばし下落後に買い戻して株を返せば差額が手元に残る空売りで利益を出す。この事前情報による抜け駆けがインサイダー取引と言われるものである。証券取引所では違法な取引が行われない様に常時監視を行っているのである。
ウォール街ではリチャード・ワンが買い増している株には事件が起きると囁かれるようになって数年が経っていた。インサイダー取引の噂は日常茶飯事である。確実に利益が得られる情報を前に誘惑に負ける者は毎日のように現れては市場から消されていく。特定の企業で同一の株主番号の取引が際立てば、その企業の内部情報が洩れているとして捜査が行われる。不特定の企業に対して同一の株主番号の取引が際立てば証券取引関係者の中から情報が洩れているとして捜査が行われる。しかし、リチャード・ワンの場合は不特定の企業の情報を証券関係者が知る前に取引を行っていた。リチャード・ワンの手法にウォール街は自分自身の利益の為に関心を持っていた。美国の連邦捜査局は富の流出を防ぐ為に関心を持っていた。
リチャード・ワンの疑惑の取引を分析していくと美国内情報だけでは起こり得ないインサイダー疑惑が混ざっていた。それは中国報道官の発言を起点に株価が動く取引だった。中国が輸出を制限すれば美国の輸入業者がダメージを受け株価が下がる。中国が経済刺激策を行えば美国の輸出企業の株価が上がる。企業の将来の業績が現在の株価を決めるからだ。
欧州の証券取引所でも同じ取引をしていたリチャード・ワン。広範囲で疑惑の取引を展開出来る情報網がありながらルートの解明が出来なかった。彼に分析結果と言われればお終いである。神のお告げと言われてしまえば逮捕に持ち込めない。
逮捕するにはリチャード・ワンの手口の解明が必要だった。連邦捜査局の手駒の一つがリチャード・ワンと接点があった。
その記者もリチャード・ワンの噂を知っていた。彼が選ぶ銘柄は近いうちに株価が大きく変化する。手法は二種類しかない、合法と非合法の白と黒だけだ。白の領域にある黒のグラデーションで他者より黒に近づいた者が市場の利益を吸い上げる事が出来る。しかし、黒に近づき過ぎると誰かが黒の領域に背中を押す世界だ。他人の成功を単純に喜ぶ者はいない。
リチャード・ワンの手法を解明し自分がスクープを打てば記者として名声が上がる。合法な手法ならマスターすればよい。非合法なら手口を連邦捜査局の知人に売ればいい。お金の偏在は経済の活性を損なうからだ。
記者はリチャード・ワンへの取材が難しいとは考えていなかった。記者発表からは気さくで考えを広めるための努力は惜しまない印象を受けていたからだ。しかし、メール取材には答えても対面取材も電話取材もタイミングが悪いと一切断られてしまった。不思議な対応だった。まるで実在していないかのような対応だったが、リチャード・ワンの代理人として投資会社に姿を現した王雪美は実在する。彼女にコンタクトを試みてもひまわり計画サイトに書かれている程度の回答だけ。投資家の面を質問すれば『代理で動いているだけで申し上げる事はない』としか回答がなかった。
判然としないリチャード・ワンの別の面を知らしめたのが印度人ハッカーのガネーシャだった。軍事機密の中にひまわり計画があると暴露したのだ。ガネーシャのサイトにあるひまわり計画の資料は本物と同じ形式だった。計画責任者は王雪美だった。タイミング良くガネーシャの家族が立て続けに死亡した事でインサイダー疑惑より重要度が高い事件だと思われた。しかし、ガネーシャ自身には異変はなく曝露情報も放置されたままだった。
局内での判断が分かれてしまった。軍主導のひまわり計画説と軍に売り込まれたひまわり計画説だった。軍主導であれば国外であってもガネーシャと資料一式は焼失しているはず。関係者の一致した見解だった。それだけに、ガネーシャの生存は軍に売り込まれた資料の証左との意見に傾いていった。
ガネーシャとは別ルートの情報でも疑惑が生じた。証券会社に登録してあるリチャード・ワンの住所はシンガポールの高級住宅街となっていたが該当する邸宅が存在しなかった。正確には『王』姓の邸宅は数邸あったがリチャード・ワンと関係する人物は一人も見つからなかった。ひまわり計画のサイトのIPアドレスからの割り出しも行われた。塩城にあるレンタルサーバーが使われていたが、運営会社の問い合わせ先が存在しなかった。これは軍属の会社の可能性を示しており、ひまわり計画は軍主導の可能性が高まった。
リチャード・ワンの調査を進めると一民間人の枠を超えているのは間違いなかったが交友関係が見えてこなかった。ネット民のVR説を前に、別件逮捕・言い掛かり逮捕で引き摺りだす切り札が脳裏に浮かぶ捜査担当者たちだった。
今度は『リチャード・ワンの不可解な取引』と題してあった。おおよそ政府発表の一月前に問題となる企業の株の空売りを行い発表後に返済買いを行っていた。逆に国策で株価の上昇が見込まれる企業も一月前に購入して発表後に売り抜けを行っていた。他にも企業の小さなニュースにも大量の買い注文を入れ株価が上がりだすと売り抜ける黒に近いグレーゾーンの株価操作も仕掛けていた。外国企業に対しても、関税圧力が掛る前に空売りを行い政府発表の後に返済買いを行っていた。圧力解除の前に購入して発表後に売り抜けていた。ここ数年、あからさまと言える黒に近いグレーゾーンの取引を続けているにも関わらず、行政からの指導が入らない状態であると情報が寄せられた。と結んでいた。
「大姐、亜州経済の特集は随分踏み込んだ内容に思うけど、これはアウトですよね?」
エンジニア担当は、前回の特集とは違いリチャード・ワンにインサイダー取引を疑う内容に悪意を感じ取っていた。
「二回目の取材依頼も断ったから、こんな記事で報復しているつもりのようだ」
ドクター・ワンは説明の続きをシナリオ担当に目配せした。
「実は、彼らの行動はシナリオの範囲内です。亜州経済が嫌がらせの記事を書きたいと思う頃に取引データのエビデンス付きで証券取引所の本物のアドレスでメールを送りました。こちらの思惑通りの記事が出てきました」
エンジニア担当は納得がいかない顔をしていた。どう考えてもリチャード・ワンに不利な内容で将来の動きに制約を与える可能性が高いと感じているからだ。
「美国がガネーシャの投稿に興味を示していると情報が入ったので、ひまわり計画の主導権をリチャード・ワンが持っている事を明確にする必要がありました」
エンジニア担当は説明が足りないと促している。
「取引に有利な情報を引き出すために、ひまわり計画を売り込んだと印象付ければ良いのです。そして、実害が美国に及んでいれば軍事データのひまわり計画からインサイダー取引のひまわり計画へと認識が変わる筈です」
「美国が動いた時のシナリオが発動されたと言う事かな?」
エンジニア担当の問いに、シナリオ担当は頷いて答えた。
「今回の件も、知名度が上がった副作用と考えているが肝心のひまわりシステムの設置が進んでいない方が問題だ」
「大姐、彼らの足並みは揃いましたか?」
「想定内だが遅れを生じている。彼らは全体像を知らされぬまま個別に準備を進めているので連携が上手く行っていないからだ」
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株価は企業の業績だけで決まるものではない。現在の業績より将来を期待して株価が決まるのである。開発情報、提携協業、出店、海外展開など業績に大きな影響を与える情報を事前に知る事が出来れば株価が上がる前に購入出来る。株価が百円の時に購入して三百円になった時に売却すれば二百円の利益になる。一千万円分買っていれば二千万円の利益になる。逆に不祥事なら値崩れ前の株を借りて売り飛ばし下落後に買い戻して株を返せば差額が手元に残る空売りで利益を出す。この事前情報による抜け駆けがインサイダー取引と言われるものである。証券取引所では違法な取引が行われない様に常時監視を行っているのである。
ウォール街ではリチャード・ワンが買い増している株には事件が起きると囁かれるようになって数年が経っていた。インサイダー取引の噂は日常茶飯事である。確実に利益が得られる情報を前に誘惑に負ける者は毎日のように現れては市場から消されていく。特定の企業で同一の株主番号の取引が際立てば、その企業の内部情報が洩れているとして捜査が行われる。不特定の企業に対して同一の株主番号の取引が際立てば証券取引関係者の中から情報が洩れているとして捜査が行われる。しかし、リチャード・ワンの場合は不特定の企業の情報を証券関係者が知る前に取引を行っていた。リチャード・ワンの手法にウォール街は自分自身の利益の為に関心を持っていた。美国の連邦捜査局は富の流出を防ぐ為に関心を持っていた。
リチャード・ワンの疑惑の取引を分析していくと美国内情報だけでは起こり得ないインサイダー疑惑が混ざっていた。それは中国報道官の発言を起点に株価が動く取引だった。中国が輸出を制限すれば美国の輸入業者がダメージを受け株価が下がる。中国が経済刺激策を行えば美国の輸出企業の株価が上がる。企業の将来の業績が現在の株価を決めるからだ。
欧州の証券取引所でも同じ取引をしていたリチャード・ワン。広範囲で疑惑の取引を展開出来る情報網がありながらルートの解明が出来なかった。彼に分析結果と言われればお終いである。神のお告げと言われてしまえば逮捕に持ち込めない。
逮捕するにはリチャード・ワンの手口の解明が必要だった。連邦捜査局の手駒の一つがリチャード・ワンと接点があった。
その記者もリチャード・ワンの噂を知っていた。彼が選ぶ銘柄は近いうちに株価が大きく変化する。手法は二種類しかない、合法と非合法の白と黒だけだ。白の領域にある黒のグラデーションで他者より黒に近づいた者が市場の利益を吸い上げる事が出来る。しかし、黒に近づき過ぎると誰かが黒の領域に背中を押す世界だ。他人の成功を単純に喜ぶ者はいない。
リチャード・ワンの手法を解明し自分がスクープを打てば記者として名声が上がる。合法な手法ならマスターすればよい。非合法なら手口を連邦捜査局の知人に売ればいい。お金の偏在は経済の活性を損なうからだ。
記者はリチャード・ワンへの取材が難しいとは考えていなかった。記者発表からは気さくで考えを広めるための努力は惜しまない印象を受けていたからだ。しかし、メール取材には答えても対面取材も電話取材もタイミングが悪いと一切断られてしまった。不思議な対応だった。まるで実在していないかのような対応だったが、リチャード・ワンの代理人として投資会社に姿を現した王雪美は実在する。彼女にコンタクトを試みてもひまわり計画サイトに書かれている程度の回答だけ。投資家の面を質問すれば『代理で動いているだけで申し上げる事はない』としか回答がなかった。
判然としないリチャード・ワンの別の面を知らしめたのが印度人ハッカーのガネーシャだった。軍事機密の中にひまわり計画があると暴露したのだ。ガネーシャのサイトにあるひまわり計画の資料は本物と同じ形式だった。計画責任者は王雪美だった。タイミング良くガネーシャの家族が立て続けに死亡した事でインサイダー疑惑より重要度が高い事件だと思われた。しかし、ガネーシャ自身には異変はなく曝露情報も放置されたままだった。
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