1 / 1
食材の買い出し
しおりを挟む
うちでも作りたい。の一言で都内に向かう電車の中にいる。
事の発端はフェスタの慰労会と称して友人とランチに行った事だ。慰労会なのか友人を励ます会なのか実体は知らないけど単純にランチの口実にフェスタを使っている可能性もある。ハッキリしているのは、嫁が美味しい物を食べている時も会社でワンコインのお弁当だった事だ。
ランチで行ったのは友人お勧めの泰料理。落ち着いた内装でランチでなければ高くて入れない店が第一印象だそうだ。ディナータイムでもワンコインで売っているお弁当を食べている身としては『ふーん』としか言いようがなかったけど。
そのランチメニューがとても美味しかったらしい。パクチ―が苦手でない嫁はトロピカルな気分で味わうのに夢中で、何を食べたのかまるで覚えていないそうだ。それに気づいたのが食後のデザートに寄ったケーキ屋さんでの事だ。
スパイシーをクリーミーで包んだ料理で辛い物が苦手な人でも大丈夫な味わいでナスと牛肉が入っていたのは見て分かったそうだ。肝心の料理の名前は泰語をカタカナで表記と、分かった様な良く分からない日本語での料理の説明だった。お互いに「美味しかった」としか言い表せなかったそうだ。
隣りの席ではスマホで検索している。フリック入力の速さに目を奪われそうになるが、久しく横顔を見ていなかった事に気がついた。最近テーブルを挟んで尋問される事が多いような、その印象に全てが上書きされたような、どちらにしても睨まれる事がないのは良い事だ。
外国料理と食材で検索を掛けているが、中華や韓国料理の食材が上位を占めている。どれもこれも御徒町や新大久保の名店ばかりだ。タイ料理で検索すると何故か台湾料理が上位に出てくる。台湾料理も中華料理だと思うけど、検索する人の勘違いに合わせるのが検索エンジンの学習結果のようだ。正しい検索者はなにで検索すると泰料理に辿り着くのかは謎だが、東南アジア料理で検索するとベトナム料理が上位に表示される。
一つハッキリしているのは、どの店に行くにも山手線に乗り換えなければ辿り着けない事だ。
「真理子さん、山手線に乗り換えないとどの検索地にも辿り着けませんよ」
現状を理解したようだ。手をしっかり掴んでいる。
「では、参ります」
ドアが開くとそのまま階段に直行。エスカレーターでは順番待ちで一列車遅れる事もあるからだ。コンコースに上がると別の列車の乗降客で溢れ無秩序にそれぞれの行き先に向かって歩いている。
視野に入る全ての人の動きを見ながら人の隙間が出来るところを繋ぎ合わせるように目的のホームを目指す。自分の陰で前が見えない真理子さんには握った手を右に左に動かしながらエスコートをしていく。振り返らなくても握った手の感触で戸惑う事なくピッタリついて来ているのが分かる。
日頃の連携がスーパーのゴンドラで活きたと言いたくなったが、墓穴を掘る予感が自分を寡黙にした。
新大久保で降りたけどハングル文字ばかりでタイ語の看板は見当たらない。韓国料理や韓国食材、韓国雑貨で有名な場所だからハングル文字の看板ばかりは納得の風景だけど目当てのタイ料理の食材は見当たらない。
店先から広がる甘辛い匂いに心が揺さぶられるけど、隣りはそれ処ではないらしい。通り沿いの食材店に入っても韓国の辛い食材ばかりでタイの食材はどこにもない。
やっと見つけたタイ語の看板もタイ料理の店で食材はおいていない。
「美味しそうな韓国食材を売っているから、それにしませんか?」
と、提案してみる。
「つぎ、行きます」
と、地下鉄の駅まで連れて行かれる。何が何でも手に入れるつもりだ。まるで天秤座だな。決まるまでは天秤棒が右に左に振れるのに片方に決まるとそれしかなくなる。そして、とことん突っ走って結果を出すようになる。どっちが天秤座だか分からない。
電車を待つ間、目的の駅に着く間、ひたすら検索をしている。ダイレクトにタイ食材で検索をしているが調味料で出てくるのはナンプラーのようだ。日本の醤油みたいな魚醤でクリーミーな味わいは無理っぽいと、落ち込んでいる。
「ここで降ります」
と言われた駅は上野御徒町だった。
「乗り換えます」
どうやら、目的地は浅草のようだ。アメ横にもそれらしい店があったはずだけどタイ食材では検索で出てこなかったのだろうか?
浅草と言えば浅草寺、隅田川を渡ればスカイツリー、お祭りアイテムのイメージしかないけれどタイ食材店のイメージが出てこない。改札を抜けレトロな地下街を行くと天井の低さが気になるのは僕だけ。嫁はすいすい歩いて行く。でも、独特の雰囲気は苦手らしい通路の真ん中を歩いている。
立ち止まった店はタイ料理だった。しかも、店の名前が違うらしい。日本人相手でも同郷人相手でも食材売るより料理の方が儲かるのは分かる気がする。
嫁は落胆するより先に踵を返して歩き出した。分かる気がする。アメ横より先にこちらを選んだのも納得だ。
「買い物デートも悪くないですね」
と、声を掛けるとちょっと嬉しそうに見上げてくる。
「次は、アメ横ですか?」
「・・・・、あそこ苦手なんだよね」
やはり、浅草に賭けていたんだ。でも、クリーミーな調味料って何だろう?
クリーミーと言えばミルクだけど牛乳ならすぐ分かるはず。あの友人はポンコツだから仕方ないとしても水牛のミルクでも使っているのかな? でも日本じゃ無理っぽいな。日本で手に入るミルク・・・?
「ココナッツミルクを入れておけば、らしくなるのでは?」
ハッとして振り返る嫁。思い切り足を踏むと、足早に行ってしまった。
え? えー・・・・?
事の発端はフェスタの慰労会と称して友人とランチに行った事だ。慰労会なのか友人を励ます会なのか実体は知らないけど単純にランチの口実にフェスタを使っている可能性もある。ハッキリしているのは、嫁が美味しい物を食べている時も会社でワンコインのお弁当だった事だ。
ランチで行ったのは友人お勧めの泰料理。落ち着いた内装でランチでなければ高くて入れない店が第一印象だそうだ。ディナータイムでもワンコインで売っているお弁当を食べている身としては『ふーん』としか言いようがなかったけど。
そのランチメニューがとても美味しかったらしい。パクチ―が苦手でない嫁はトロピカルな気分で味わうのに夢中で、何を食べたのかまるで覚えていないそうだ。それに気づいたのが食後のデザートに寄ったケーキ屋さんでの事だ。
スパイシーをクリーミーで包んだ料理で辛い物が苦手な人でも大丈夫な味わいでナスと牛肉が入っていたのは見て分かったそうだ。肝心の料理の名前は泰語をカタカナで表記と、分かった様な良く分からない日本語での料理の説明だった。お互いに「美味しかった」としか言い表せなかったそうだ。
隣りの席ではスマホで検索している。フリック入力の速さに目を奪われそうになるが、久しく横顔を見ていなかった事に気がついた。最近テーブルを挟んで尋問される事が多いような、その印象に全てが上書きされたような、どちらにしても睨まれる事がないのは良い事だ。
外国料理と食材で検索を掛けているが、中華や韓国料理の食材が上位を占めている。どれもこれも御徒町や新大久保の名店ばかりだ。タイ料理で検索すると何故か台湾料理が上位に出てくる。台湾料理も中華料理だと思うけど、検索する人の勘違いに合わせるのが検索エンジンの学習結果のようだ。正しい検索者はなにで検索すると泰料理に辿り着くのかは謎だが、東南アジア料理で検索するとベトナム料理が上位に表示される。
一つハッキリしているのは、どの店に行くにも山手線に乗り換えなければ辿り着けない事だ。
「真理子さん、山手線に乗り換えないとどの検索地にも辿り着けませんよ」
現状を理解したようだ。手をしっかり掴んでいる。
「では、参ります」
ドアが開くとそのまま階段に直行。エスカレーターでは順番待ちで一列車遅れる事もあるからだ。コンコースに上がると別の列車の乗降客で溢れ無秩序にそれぞれの行き先に向かって歩いている。
視野に入る全ての人の動きを見ながら人の隙間が出来るところを繋ぎ合わせるように目的のホームを目指す。自分の陰で前が見えない真理子さんには握った手を右に左に動かしながらエスコートをしていく。振り返らなくても握った手の感触で戸惑う事なくピッタリついて来ているのが分かる。
日頃の連携がスーパーのゴンドラで活きたと言いたくなったが、墓穴を掘る予感が自分を寡黙にした。
新大久保で降りたけどハングル文字ばかりでタイ語の看板は見当たらない。韓国料理や韓国食材、韓国雑貨で有名な場所だからハングル文字の看板ばかりは納得の風景だけど目当てのタイ料理の食材は見当たらない。
店先から広がる甘辛い匂いに心が揺さぶられるけど、隣りはそれ処ではないらしい。通り沿いの食材店に入っても韓国の辛い食材ばかりでタイの食材はどこにもない。
やっと見つけたタイ語の看板もタイ料理の店で食材はおいていない。
「美味しそうな韓国食材を売っているから、それにしませんか?」
と、提案してみる。
「つぎ、行きます」
と、地下鉄の駅まで連れて行かれる。何が何でも手に入れるつもりだ。まるで天秤座だな。決まるまでは天秤棒が右に左に振れるのに片方に決まるとそれしかなくなる。そして、とことん突っ走って結果を出すようになる。どっちが天秤座だか分からない。
電車を待つ間、目的の駅に着く間、ひたすら検索をしている。ダイレクトにタイ食材で検索をしているが調味料で出てくるのはナンプラーのようだ。日本の醤油みたいな魚醤でクリーミーな味わいは無理っぽいと、落ち込んでいる。
「ここで降ります」
と言われた駅は上野御徒町だった。
「乗り換えます」
どうやら、目的地は浅草のようだ。アメ横にもそれらしい店があったはずだけどタイ食材では検索で出てこなかったのだろうか?
浅草と言えば浅草寺、隅田川を渡ればスカイツリー、お祭りアイテムのイメージしかないけれどタイ食材店のイメージが出てこない。改札を抜けレトロな地下街を行くと天井の低さが気になるのは僕だけ。嫁はすいすい歩いて行く。でも、独特の雰囲気は苦手らしい通路の真ん中を歩いている。
立ち止まった店はタイ料理だった。しかも、店の名前が違うらしい。日本人相手でも同郷人相手でも食材売るより料理の方が儲かるのは分かる気がする。
嫁は落胆するより先に踵を返して歩き出した。分かる気がする。アメ横より先にこちらを選んだのも納得だ。
「買い物デートも悪くないですね」
と、声を掛けるとちょっと嬉しそうに見上げてくる。
「次は、アメ横ですか?」
「・・・・、あそこ苦手なんだよね」
やはり、浅草に賭けていたんだ。でも、クリーミーな調味料って何だろう?
クリーミーと言えばミルクだけど牛乳ならすぐ分かるはず。あの友人はポンコツだから仕方ないとしても水牛のミルクでも使っているのかな? でも日本じゃ無理っぽいな。日本で手に入るミルク・・・?
「ココナッツミルクを入れておけば、らしくなるのでは?」
ハッとして振り返る嫁。思い切り足を踏むと、足早に行ってしまった。
え? えー・・・・?
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
疎遠だった幼馴染が彼女と別れて私に会いに来るようになったのだけど
くじら
恋愛
図書館の定位置には、いつも黒縁メガネの女生徒がいる。
貴族同士の見栄の張り合いや出世争いから距離を置いて穏やかに過ごしていたのに、女生徒の幼馴染が絡んでくるようになって…。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる