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デコ・メガネ:豊彦バージョン
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『デコ・メガネを掛けて来てね』
彼女のリクエストは不可解なものだった。メガネを掛けている僕にデコ・メガネを掛けてほしいとは・・・、化粧とかお洒落とか関係なく素で接しているのがオンラインの良いところ。それを目に映る全てをデコレーションするメガネなんて真逆だな。でも、ここで断って会えなくなるのも本意ではないし。
彼女とは今までに沢山チャットをした。気がつくと何でも話をしていた。どんな話をしていても興味を持ってくれた。興味があるから的を射た質問をしてくる。意見が違ってもお互いに尊重し合える。話をすればするほど声を聴いてみたいチャットだけでは分からない事を知りたいと思うようになっていた。
~・~・~
待ち合わせの時間よりだいぶ早く着いた。時間を約束したのだから、きちんと守りたい。それだけだったが、行きかう人々を見ると言うのも興味深いものだった。
周りに興味を示さず通り過ぎる人がほとんどだった。待ち合わせをしている人は、自分の相手を探すと真っ直ぐ近づいていく。
・・・、待ち人に興味を示しながら、通り過ぎようとする女性がいる。知り合いがいるのか待ち人をチェックしながら通り過ぎて行った。メガネを掛けていた。映美さんは目が悪いと言っていたから今の女性かもしれない。でも、通り過ぎてしまった。メガネは嫌いと言っていたからコンタクトで来るかもしれない。まだ、待ち合わせの時間にはなっていないから、別の人だったのだろう。
! 背後かもしれない。この位置では壁際で待っている映美さんに気がつかないかも。と、周りを見てもそれらしい人はいない。
「はじめまして、豊彦くん?」
やっぱり後ろか !
「あ、こっち見ないで恥ずかしい・・・」
なんなんだ、この緊迫感は。でも、女性で良かった。
「あ、はじめまして、映美さん?」
「はい、映美です。さっそくなんだけど、デコ・メガネのデータを転送して良いですか?」
今日初めて会って顔も見てないのに、普通すぎる。デコ・メガネを外すと振り向かないようにして渡した。
何かをしているのは、背中越しに分かる。ピッタリくっついている背中がごそごそ動くからだ。レンズ越しに見えるモノを拡張現実にする。どういう設定で何を見せようとしているのか? 見る人全部女性・・・・まさか背が低いオッサンなのか! いや、女性の声だったしメガネを受け取る手も女性だった。まさかオバンか!
「はい、設定できました」
後ろ手にデコ・メガネを受け取ると、周りを見た・・・何も変わっていない。背広姿のオッサンはオッサンに見える。しわくちゃ婆ちゃんは、しわくちゃに見える。ペットの顔はペットに見える。
恐る恐る振り返ると、女性がいる。普通に美人だ。アニメのような大きな瞳にエルフの耳かもと疑ったけど、普通だ。デコ・メガネが必要な理由が全然分からない。でも、チャットでの印象通り、映美さん本人に間違いはない。
二人で行くなら・・・最初は美術館と決めていた。小説と違って作者の思いをそのまま受け止める事ができるからだ。時代や言語を超えて作者と向き合い、作者のメッセージを受け止める。映美さんとならこの感覚を共有できるはずと、気がつくと絵の前で語っていた。
それを映美さんは聞いてくれた。
お昼は噴水広場のイベント屋台。自分の中では本日の最難関だと思っている。アレルゲン問題だ。映美さんが前もって言わないのは軽度だからだとしても、無いに越したことはない。ご飯にスパイスチキンにサラダ。これなら大丈夫。映美さんにメニューを確認すると別々のメニューだった。なるほど、違うメニューなら交換ができる。
でも、店員さんにはアレルゲンの確認はする。言葉が片言でもアレルゲンは理解してくれていた。これでホントに大丈夫なのかは心配。
二人で食べるランチは美味しかった。美術館での話をしながら普通におかずをシェアしていた。初対面とは思えない普通な感じだった。
午後は博物館でゆっくりしようと思う。科学の体験コースを小学生に紛れてやるのも面白いかもしれない。
「ランチも終わったから、博物館に行こう」
映美さんと普通に過ごしている。チャットでは知る事ができなかったけど、一緒にいる事に特別感がないのは良い事だと感じていた。
映美さんは立ち上がると、一歩を踏み出した。そのまま傾いていく。とっさに支えたものの彼女の何かを掴もうとした両手が顔面を直撃してデコ・メガネを吹き飛ばしていた。
「え・・・」
映美さんはメガネ掛けるとこんなに可愛くなるのに・・・そうだった、メガネは似合わないとチャットでよく言っていた。なるほど、デコ・メガネの設定はメガネを消す設定だったのか。言われてみれば、メガネを掛けている人がいなかった。まじまじと見入ってしまった。
「メガネなんて、二度と掛けないよ。だって素顔の方が可愛いから」
涙ぐんでいた映美さんがにっこりした。
彼女のリクエストは不可解なものだった。メガネを掛けている僕にデコ・メガネを掛けてほしいとは・・・、化粧とかお洒落とか関係なく素で接しているのがオンラインの良いところ。それを目に映る全てをデコレーションするメガネなんて真逆だな。でも、ここで断って会えなくなるのも本意ではないし。
彼女とは今までに沢山チャットをした。気がつくと何でも話をしていた。どんな話をしていても興味を持ってくれた。興味があるから的を射た質問をしてくる。意見が違ってもお互いに尊重し合える。話をすればするほど声を聴いてみたいチャットだけでは分からない事を知りたいと思うようになっていた。
~・~・~
待ち合わせの時間よりだいぶ早く着いた。時間を約束したのだから、きちんと守りたい。それだけだったが、行きかう人々を見ると言うのも興味深いものだった。
周りに興味を示さず通り過ぎる人がほとんどだった。待ち合わせをしている人は、自分の相手を探すと真っ直ぐ近づいていく。
・・・、待ち人に興味を示しながら、通り過ぎようとする女性がいる。知り合いがいるのか待ち人をチェックしながら通り過ぎて行った。メガネを掛けていた。映美さんは目が悪いと言っていたから今の女性かもしれない。でも、通り過ぎてしまった。メガネは嫌いと言っていたからコンタクトで来るかもしれない。まだ、待ち合わせの時間にはなっていないから、別の人だったのだろう。
! 背後かもしれない。この位置では壁際で待っている映美さんに気がつかないかも。と、周りを見てもそれらしい人はいない。
「はじめまして、豊彦くん?」
やっぱり後ろか !
「あ、こっち見ないで恥ずかしい・・・」
なんなんだ、この緊迫感は。でも、女性で良かった。
「あ、はじめまして、映美さん?」
「はい、映美です。さっそくなんだけど、デコ・メガネのデータを転送して良いですか?」
今日初めて会って顔も見てないのに、普通すぎる。デコ・メガネを外すと振り向かないようにして渡した。
何かをしているのは、背中越しに分かる。ピッタリくっついている背中がごそごそ動くからだ。レンズ越しに見えるモノを拡張現実にする。どういう設定で何を見せようとしているのか? 見る人全部女性・・・・まさか背が低いオッサンなのか! いや、女性の声だったしメガネを受け取る手も女性だった。まさかオバンか!
「はい、設定できました」
後ろ手にデコ・メガネを受け取ると、周りを見た・・・何も変わっていない。背広姿のオッサンはオッサンに見える。しわくちゃ婆ちゃんは、しわくちゃに見える。ペットの顔はペットに見える。
恐る恐る振り返ると、女性がいる。普通に美人だ。アニメのような大きな瞳にエルフの耳かもと疑ったけど、普通だ。デコ・メガネが必要な理由が全然分からない。でも、チャットでの印象通り、映美さん本人に間違いはない。
二人で行くなら・・・最初は美術館と決めていた。小説と違って作者の思いをそのまま受け止める事ができるからだ。時代や言語を超えて作者と向き合い、作者のメッセージを受け止める。映美さんとならこの感覚を共有できるはずと、気がつくと絵の前で語っていた。
それを映美さんは聞いてくれた。
お昼は噴水広場のイベント屋台。自分の中では本日の最難関だと思っている。アレルゲン問題だ。映美さんが前もって言わないのは軽度だからだとしても、無いに越したことはない。ご飯にスパイスチキンにサラダ。これなら大丈夫。映美さんにメニューを確認すると別々のメニューだった。なるほど、違うメニューなら交換ができる。
でも、店員さんにはアレルゲンの確認はする。言葉が片言でもアレルゲンは理解してくれていた。これでホントに大丈夫なのかは心配。
二人で食べるランチは美味しかった。美術館での話をしながら普通におかずをシェアしていた。初対面とは思えない普通な感じだった。
午後は博物館でゆっくりしようと思う。科学の体験コースを小学生に紛れてやるのも面白いかもしれない。
「ランチも終わったから、博物館に行こう」
映美さんと普通に過ごしている。チャットでは知る事ができなかったけど、一緒にいる事に特別感がないのは良い事だと感じていた。
映美さんは立ち上がると、一歩を踏み出した。そのまま傾いていく。とっさに支えたものの彼女の何かを掴もうとした両手が顔面を直撃してデコ・メガネを吹き飛ばしていた。
「え・・・」
映美さんはメガネ掛けるとこんなに可愛くなるのに・・・そうだった、メガネは似合わないとチャットでよく言っていた。なるほど、デコ・メガネの設定はメガネを消す設定だったのか。言われてみれば、メガネを掛けている人がいなかった。まじまじと見入ってしまった。
「メガネなんて、二度と掛けないよ。だって素顔の方が可愛いから」
涙ぐんでいた映美さんがにっこりした。
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