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しおりを挟むスタンピードが起きたのは昼だった。マリアンヌは家にいて、聞いたことのないような動物の鳴き声を聞いた。その鳴き声はとても大きく耳を塞ぐほどで、感じたことのないくらいの居心地の悪さを感じた。
ここにいてはいけない。逃げなくては。
マリアンヌはそう思ったが、駆けつけたマーサとメアリに地下室に連れて行かれた。屋敷には地下室があるということを彼女は初めて知った。
「魔獣が王都に現れました」
マーサは冷静に話していたが、手が小刻みに震えていた。マリアンヌの手を握るメアリの手もまるで氷のように冷たい。それでも2人はなんでもないように装っている。全て自分を安心させるためだとマリアンヌはわかっていたが、逆にそれがマリアンヌには不満だった。
「王都には結界が張られているのでしょう?魔獣が入ってくるはずがないわ」
マリアンヌは何かの間違いだと思っていた。魔獣などは王都から離れた森などに生息しているはずだ。人がいるところには来ないと聞いている。
「そうですわ。今に騎士の皆様が退治してくださいます」
マーサはそう言っていたが、瞳は曇っていた。騎士では退治できないのかもしれない。マリアンヌはなんとなくそう思った。
結界があるのに魔獣が入ってきたというなら、結界を無視できるほどの力のある魔獣ということになる。外から聞こえる鳴き声はかなり大量に聞こえるから、そんなに力のある魔獣がたくさんいるわけがない。おそらく結界が破れたか剥がれたかだろう。だとしたら結界を貼り直すしかない。
我が国は女神と契約して結界を張っている。人の魔力だけでは限界がある結界も女神が関わることでより強固な結界が出来上がる。だから我が国では今までスタンピードの被害はなかったのだ。女神と通信できる魔術師が女神にお伺いを立て結界を貼り直す。今この国では女神と通信できる魔術師は何人いるのだろうか。マリアンヌにはわからないが、そう多くはないということはわかる。
女神が契約を解除したのかもしれない。歴史を教えてくれた家庭教師から聞いた話がある。女神は人のために存在するのではない、人があまり勝手な振る舞いをすると女神は怒ってしまうかもしれない。家庭教師はそう言って、どこで女神が行いを見ているかわからないから常に正しい行動をしなさいと笑った。
その時は、そんな例え話で常に公爵令嬢らしくありなさいと説教されたのだと思った。マリアンヌにはみんなそんなことを言って行動を制限してくる。だから神妙にうなづいてはいたけど、あまり真剣に考えていなかった。
だが今、魔獣が大量に現れた。魔獣を征伐するために騎士の人たちが戦っているはずだ。その中にはレオポールお兄様がいる。
お兄様はとても強い。だから魔獣に負けるわけがない。そうは思うが、あれだけたくさんの魔獣を本当に退治できるのだろうか。怪我をするかもしれない。騎士はお兄様だけではない。他の騎士の人たちは無事だろうか。誰かが怪我をしたり、怖い思いをしたり、痛い思いをするはずだ。
女神を怒らせるようなことは自分はしていないと思うが、他の誰かがしたのかもしれない。もしここに女神様がいたら、謝って助けてもらうのに。マリアンヌは心の中で何度も祈った。
女神様、助けてください。
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