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「こんなに素晴らしい作品を見たのは初めてです!」
興奮した様子で早口になるエレス・ビンガー先生。その横には何故だかマダム・リゼ先生までいらっしゃる。
「リサ嬢はあのクラスには相応しくありません」
と、アメリアさんが言えば、エレス先生もマダム・リゼ先生も大きくうなづいている。
「今年の子爵、男爵令嬢はハッキリ言って貴族令嬢とは思えないくらいに自由奔放です。正直言ってあんなに出来の悪いクラス、初めて受け持ちます」
と、マダム・リゼ先生は静かに話し出した。その横ではエレス先生が大袈裟にうなづきながら「私もそう思います」とか「本当に落ち着きがありませんよね、あの子達」などと相槌を打っている。
「リサ嬢は公爵・侯爵クラスに在籍した方がいいのでは?」
アメリアさんの提案に私は大きく首を振る。は?アメリアさん、何言ってるの?そんなクラスに入れられたら問題が山積みになるじゃないの。私は何度も首を振る。無理だよ、そんなの。
「わ、私ではとても・・・分不相応で・・・」
何とか流れを変えようと両手を前に出して拒否してみた。
「そう、それです!」
クワっと目を大きく見開き、突然マダム・リゼ先生が叫んだ。いやいや、何がそれなんだ。思わずビクッとなる。いきなり大声出すなんて行儀悪くないか、と思ったが黙った。なんか、黙ってないとヤバいと思ってしまったのだ。
「その控えめな態度がよろしいのです。同じことをあのクラスの子に言ったら、ホイホイと賛同しますよ」
「家庭での教育がいかに行き届いていないか分かりますね。今年は本当に最悪です」
何があったのかわからないが、苦虫を噛み潰したような顔つきでうなづき合うマダム・リゼ先生とエレス先生。教師とは常に苦労するものなのだろう。いや、それでも私に関しては買い被りすぎだろう。
「いや、公爵クラスはまずいでしょう」
それまでは大人しく2人の話を聞いていたダン様が話に加わる。
「貴族のしきたりを学ぶためにも授業を受けてもらうつもりでいましたが、マナーも刺繍も及第点であれば・・・」
「お待ちください!」
マダム・リゼ先生がダン様の言葉を遮った。マナーの先生が身位が上のダン様の話を遮るって相当まずいんじゃないの?と、私は驚いてマダム・リゼ先生を見た。しかし先生は何も気にしていないように拳を握りしめ、前のめりになってダン様に向き合っている。
「リサ嬢には是非とも私の助手になっていただきたいのです!」
は?助手?助手って何?
「リサのマナーは完璧です。公爵クラス、いえ、王侯クラスに匹敵するでしょう。是非とも王女様のお教室で私の助手として・・・」
何言ってんの?饒舌に話すマダム・リゼ先生を私は思いきり睨んでしまった。正気?なんかおかしくなってない?と、失礼ながら先生を疑っている。だが、先生はなおも話を続ける。
「リサに教えることは私にはありません。むしろ私がリサに教えを乞いたいくらいです。そのくらいにリサのマナーは完璧ですし、優雅なのです」
「いえいえ、お待ちください」
黙ってうなづいていたはずのエレス先生が一歩ダン様に近づいた。その圧に負けたのかダン様が一歩後ずさる。
「リサの刺繍の腕はその作品でわかるでしょう。今までこんなに素晴らしい作品をご覧になったことがありますか?リサの技術は素晴らしいものがあります。陛下に献上するのは間違いございませんが、国宝として推薦させていただきたい。私は今まで人に刺繍を教えて参りましたし、自分でも作品を作って参りました。刺繍に関しては自分が国で一番と自負しておりましたが、それは誤りでございます。私は井の中の蛙。そう実感できたのでございます」
エレス先生は息継ぎもせず早口でそう言った。よく見ると瞬きもしていない。怖い。怖すぎる。
「私は引退させていただきます。リサの作品を見た後では、私は人に教えることはできません。もう自分で針を持つこともできないでしょう。余生は田舎に篭り、静かに暮らすつもりです。ですので後任はぜひリサに・・・」
エレス先生はそう言ってかけていたメガネを静かに外し、ハンカチを両目に当てた。ちょっと全員落ち着いてもらえないかな。この異様な状態をどうすればいいのか考えてしまうのだった。
興奮した様子で早口になるエレス・ビンガー先生。その横には何故だかマダム・リゼ先生までいらっしゃる。
「リサ嬢はあのクラスには相応しくありません」
と、アメリアさんが言えば、エレス先生もマダム・リゼ先生も大きくうなづいている。
「今年の子爵、男爵令嬢はハッキリ言って貴族令嬢とは思えないくらいに自由奔放です。正直言ってあんなに出来の悪いクラス、初めて受け持ちます」
と、マダム・リゼ先生は静かに話し出した。その横ではエレス先生が大袈裟にうなづきながら「私もそう思います」とか「本当に落ち着きがありませんよね、あの子達」などと相槌を打っている。
「リサ嬢は公爵・侯爵クラスに在籍した方がいいのでは?」
アメリアさんの提案に私は大きく首を振る。は?アメリアさん、何言ってるの?そんなクラスに入れられたら問題が山積みになるじゃないの。私は何度も首を振る。無理だよ、そんなの。
「わ、私ではとても・・・分不相応で・・・」
何とか流れを変えようと両手を前に出して拒否してみた。
「そう、それです!」
クワっと目を大きく見開き、突然マダム・リゼ先生が叫んだ。いやいや、何がそれなんだ。思わずビクッとなる。いきなり大声出すなんて行儀悪くないか、と思ったが黙った。なんか、黙ってないとヤバいと思ってしまったのだ。
「その控えめな態度がよろしいのです。同じことをあのクラスの子に言ったら、ホイホイと賛同しますよ」
「家庭での教育がいかに行き届いていないか分かりますね。今年は本当に最悪です」
何があったのかわからないが、苦虫を噛み潰したような顔つきでうなづき合うマダム・リゼ先生とエレス先生。教師とは常に苦労するものなのだろう。いや、それでも私に関しては買い被りすぎだろう。
「いや、公爵クラスはまずいでしょう」
それまでは大人しく2人の話を聞いていたダン様が話に加わる。
「貴族のしきたりを学ぶためにも授業を受けてもらうつもりでいましたが、マナーも刺繍も及第点であれば・・・」
「お待ちください!」
マダム・リゼ先生がダン様の言葉を遮った。マナーの先生が身位が上のダン様の話を遮るって相当まずいんじゃないの?と、私は驚いてマダム・リゼ先生を見た。しかし先生は何も気にしていないように拳を握りしめ、前のめりになってダン様に向き合っている。
「リサ嬢には是非とも私の助手になっていただきたいのです!」
は?助手?助手って何?
「リサのマナーは完璧です。公爵クラス、いえ、王侯クラスに匹敵するでしょう。是非とも王女様のお教室で私の助手として・・・」
何言ってんの?饒舌に話すマダム・リゼ先生を私は思いきり睨んでしまった。正気?なんかおかしくなってない?と、失礼ながら先生を疑っている。だが、先生はなおも話を続ける。
「リサに教えることは私にはありません。むしろ私がリサに教えを乞いたいくらいです。そのくらいにリサのマナーは完璧ですし、優雅なのです」
「いえいえ、お待ちください」
黙ってうなづいていたはずのエレス先生が一歩ダン様に近づいた。その圧に負けたのかダン様が一歩後ずさる。
「リサの刺繍の腕はその作品でわかるでしょう。今までこんなに素晴らしい作品をご覧になったことがありますか?リサの技術は素晴らしいものがあります。陛下に献上するのは間違いございませんが、国宝として推薦させていただきたい。私は今まで人に刺繍を教えて参りましたし、自分でも作品を作って参りました。刺繍に関しては自分が国で一番と自負しておりましたが、それは誤りでございます。私は井の中の蛙。そう実感できたのでございます」
エレス先生は息継ぎもせず早口でそう言った。よく見ると瞬きもしていない。怖い。怖すぎる。
「私は引退させていただきます。リサの作品を見た後では、私は人に教えることはできません。もう自分で針を持つこともできないでしょう。余生は田舎に篭り、静かに暮らすつもりです。ですので後任はぜひリサに・・・」
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