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ラガン家
24 思いがけない再会
何度か図書クラブに参加するようになり、何となくだが様子がわかってきた。参加は自由なのでいつも同じメンツではないため、行くたびにメンバーが変わる。会員が何人いるのか知らないが、いつも会う奴もいれば一度しか会わない奴もいる。そんなある時俺はピートと会った。ロゼルス家の養子になった男である。
顔を見て驚いたが、動揺していることを悟られないように接する。ピートはジャックと名乗っていた。本名とは全く違う偽名を名乗ったことに再度俺は驚いた。俺は偽名が考えつかず、結局本名に近い名前を名乗ったのだ。それだけでも俺はピートとは何か違うと思った。
ピートと出会ったことで、俺はあの日のことを思い出していた。アリーとアニーが死んで、ピートがうちに来た日のことだ。彼は何もかも知っていたようだった。本当はアニーが刺繍をし翻訳をしていたこと。アリーがアニーに満足に食事を与えず虐げていたこと、アリーが御者と関係を持っていて子どもたちも俺との子ではないということ。彼は全てを知っていた。そして俺のことを感情のない目で見ていた。無言のまま、俺を責めていたのだ。
あの時俺は何も知らなかった。気づこうともしなかった。あの時俺が考えていたことは、アニーの死について気づかれないようにしないとということだけだった。
何故俺が知らないことをピートは知っているのだろう。ピートが我が家に来たのはあの日が初めてだったと思う。アリーが刺繍や翻訳をしていないことは想像がついたしても、子どもの父親が誰かなんてわかるはずはないのではないか。それも想像でわかったと言うのだろうか。
それとも、ピートはアリーやアニーと接点を持っていたのだろうか。でももしそうなら、アニーを救うはずではないか。ピートはアニーのことを気にしていた。本来は自分と結婚するはずだったと言っていた。アニーがあんな目に合っていたことを知っていたら、黙っているわけがない。
だから、きっとピートは本当は何も知らないのだ。俺は無理矢理にでもそう思うことにした。それにあの時のピートが何を知っていたかなんて、もうどうでもいいことなのだ。あの時のことは今はもう起こるはずがないことなのだから。それでも、俺はピートを警戒した。油断できない男だと思い、なるべく離れた席についた。
何度かクラブに参加してわかったことがあった。時々本の感想を話しているうちに感情的になる奴がいるのだ。泣き出したり、怒り出したり、自分の世界に酔いしれて芝居がかったことを言い出す奴までいる。本を読んで何故そんなことになるのか俺には理解できない。そして今日のメンバーにはそんな奴が1人いた。
奴は何故か涙を流しながら全く関係のない話をし出した。自分がいかに不幸であるか、この世界がいかに住み辛いか、どうしたらより良い世界になるか。奴はまるで演説をしているかの如く語っている。こうなると手がつけられない。シラケた雰囲気が漂う中、ピートは一人穏やかに相槌を打っている。それに気を良くしたのか、奴はピートに向かって話し出した。ピートは奴の話を聞きながら会話を続けていく。いつの間にか奴は落ち着きを取り戻していた。
「ジャックは場を纏めるのが上手いですね」
俺の隣にいた誰かが言った。俺に賛同を求めているのだろう。俺は軽くうなづいた。
「ああいう人がいてくれないとメチャクチャになるよな」
別の誰かが呟き
「この前、ジャックがいなくて悲惨だった」
と、語り出した。感情的に話す人ばかりで収拾がつかなくなったことがあったそうだ。しかしジャックがいればそんなことにはならない。誰もがジャックを尊敬している。彼は一目置かれる存在だった。
俺が知らないだけでピートは何度も参加をしている常連だった。おそらく俺よりも前から入っていたのだろう。以前は親戚だった男、今でも親戚になる予定だった男だ。しかし彼のことを俺は何も知らない。
養子になる前はどこにいたのか、おそらくあまり裕福ではなく身分も低かったのだろう。しかしここでの様子を見ると、かなり優秀であることが分かる。どうしてロゼルス家の、ロゼルス家なんかの養子になったのだろうか。
彼のことを知りたいと思った。いや、彼のことだけではなく、本当はアニーがどうなったか知りたいのだ。遠方に嫁に出したなんて嘘に決まっている。アリーがアニーを手放すはずがないのだ。
以前はアニーの刺繍で結婚が決まった。が、刺繍は出てこなかった。つまりはアニーは刺繍をしなかったということだろう。しなかったのか、できなかったのか。アニーは無事なのだろうか。そもそも、アニーを突き飛ばしたのはアダムだ。アダムはアリーの子だ。アリーの血を引いているのだ。まさかアリーがアニーを・・・。
「顔色が悪いですよ」
俺が考え込んでいる様子を怪訝に思ったのか、隣に座っている男が声をかけてきた。
「彼が言ったことは、あまり気にしない方がいいですよ」
さっきまで喚いていた男は世の中が良くならないのは貴族のせいだと言っていた。おそらく俺が貴族と知っていて、隣の席の男は気遣ってくれたのだろう。そんなことは気にしていないのだが、俺はありがたくその言葉を受け取って会釈をした。いつの間にか会は終了していて、ピートと喚いていた男が連れ立って部屋を出ていくところだった。
「次にジャックが参加するのはいつだろう」
「うまくまた会えるといいですね」
他の連中がそんなことを言い合っている。俺は部屋を出ると、ピートの姿を探したがどこにもいなかった。少しホッとした。
顔を見て驚いたが、動揺していることを悟られないように接する。ピートはジャックと名乗っていた。本名とは全く違う偽名を名乗ったことに再度俺は驚いた。俺は偽名が考えつかず、結局本名に近い名前を名乗ったのだ。それだけでも俺はピートとは何か違うと思った。
ピートと出会ったことで、俺はあの日のことを思い出していた。アリーとアニーが死んで、ピートがうちに来た日のことだ。彼は何もかも知っていたようだった。本当はアニーが刺繍をし翻訳をしていたこと。アリーがアニーに満足に食事を与えず虐げていたこと、アリーが御者と関係を持っていて子どもたちも俺との子ではないということ。彼は全てを知っていた。そして俺のことを感情のない目で見ていた。無言のまま、俺を責めていたのだ。
あの時俺は何も知らなかった。気づこうともしなかった。あの時俺が考えていたことは、アニーの死について気づかれないようにしないとということだけだった。
何故俺が知らないことをピートは知っているのだろう。ピートが我が家に来たのはあの日が初めてだったと思う。アリーが刺繍や翻訳をしていないことは想像がついたしても、子どもの父親が誰かなんてわかるはずはないのではないか。それも想像でわかったと言うのだろうか。
それとも、ピートはアリーやアニーと接点を持っていたのだろうか。でももしそうなら、アニーを救うはずではないか。ピートはアニーのことを気にしていた。本来は自分と結婚するはずだったと言っていた。アニーがあんな目に合っていたことを知っていたら、黙っているわけがない。
だから、きっとピートは本当は何も知らないのだ。俺は無理矢理にでもそう思うことにした。それにあの時のピートが何を知っていたかなんて、もうどうでもいいことなのだ。あの時のことは今はもう起こるはずがないことなのだから。それでも、俺はピートを警戒した。油断できない男だと思い、なるべく離れた席についた。
何度かクラブに参加してわかったことがあった。時々本の感想を話しているうちに感情的になる奴がいるのだ。泣き出したり、怒り出したり、自分の世界に酔いしれて芝居がかったことを言い出す奴までいる。本を読んで何故そんなことになるのか俺には理解できない。そして今日のメンバーにはそんな奴が1人いた。
奴は何故か涙を流しながら全く関係のない話をし出した。自分がいかに不幸であるか、この世界がいかに住み辛いか、どうしたらより良い世界になるか。奴はまるで演説をしているかの如く語っている。こうなると手がつけられない。シラケた雰囲気が漂う中、ピートは一人穏やかに相槌を打っている。それに気を良くしたのか、奴はピートに向かって話し出した。ピートは奴の話を聞きながら会話を続けていく。いつの間にか奴は落ち着きを取り戻していた。
「ジャックは場を纏めるのが上手いですね」
俺の隣にいた誰かが言った。俺に賛同を求めているのだろう。俺は軽くうなづいた。
「ああいう人がいてくれないとメチャクチャになるよな」
別の誰かが呟き
「この前、ジャックがいなくて悲惨だった」
と、語り出した。感情的に話す人ばかりで収拾がつかなくなったことがあったそうだ。しかしジャックがいればそんなことにはならない。誰もがジャックを尊敬している。彼は一目置かれる存在だった。
俺が知らないだけでピートは何度も参加をしている常連だった。おそらく俺よりも前から入っていたのだろう。以前は親戚だった男、今でも親戚になる予定だった男だ。しかし彼のことを俺は何も知らない。
養子になる前はどこにいたのか、おそらくあまり裕福ではなく身分も低かったのだろう。しかしここでの様子を見ると、かなり優秀であることが分かる。どうしてロゼルス家の、ロゼルス家なんかの養子になったのだろうか。
彼のことを知りたいと思った。いや、彼のことだけではなく、本当はアニーがどうなったか知りたいのだ。遠方に嫁に出したなんて嘘に決まっている。アリーがアニーを手放すはずがないのだ。
以前はアニーの刺繍で結婚が決まった。が、刺繍は出てこなかった。つまりはアニーは刺繍をしなかったということだろう。しなかったのか、できなかったのか。アニーは無事なのだろうか。そもそも、アニーを突き飛ばしたのはアダムだ。アダムはアリーの子だ。アリーの血を引いているのだ。まさかアリーがアニーを・・・。
「顔色が悪いですよ」
俺が考え込んでいる様子を怪訝に思ったのか、隣に座っている男が声をかけてきた。
「彼が言ったことは、あまり気にしない方がいいですよ」
さっきまで喚いていた男は世の中が良くならないのは貴族のせいだと言っていた。おそらく俺が貴族と知っていて、隣の席の男は気遣ってくれたのだろう。そんなことは気にしていないのだが、俺はありがたくその言葉を受け取って会釈をした。いつの間にか会は終了していて、ピートと喚いていた男が連れ立って部屋を出ていくところだった。
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