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アリー
69 再会
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過去に戻っている。これは紛れもない事実だ。私はなんとか落ち着こうと頭を整理しようとした。しかし落ち着くことができない。
「レイモンドを呼んで!」
私はメイドに言いつけた。そうだ、レイモンドに会えば全て解決する。結婚した後もレイモンドと2人きりになれば気分が落ち着いた。ラガン家での生活は色々と面倒なことも多かったからだ。だからレイモンドに会って、いつものように過ごせばいいのだと思った。
しばらくして部屋に来たのは、まだあどけなさが残る少年のレイモンドだった。その姿を見ると、やはり過去に戻ったということが現実だと思う。彼は不安げな様子でこちらを見ていた。
「レイモンド!」
それでも顔を見たら安心してしまい、私は彼に駆け寄った。
「ひっ」
彼は小さく呟き、後退った。顔が引き攣っている。その瞬間、思い出した。彼は最初の頃、消極的だった。しかし、回を重ねるうちにそんなことは忘れていった。子どもができたときは喜んでいたし、何も知らないブライアン様のことを2人で笑ったこともあった。
夫ではないのにこんなことは許されない。最初のうち、彼はそんなことをよく言っていた。ブライアン様とは政略結婚。お飾りの妻なのだから何も気にしなくていいと何度も言い聞かせた。本当に何度も言い聞かせたのだ。あの時の苦労をもう一度しなくてはいけないのだろうか。
いや、今はそんなこと考える暇はないのだ。私は彼に抱きつく。彼の身体は硬直していて、明らかに戸惑っているようだ。その反応を少し寂しく感じた。
「レイモンド、私よ。わかる?」
彼の身体は小刻みに震えていた。まるで小動物のようだ。私は彼の胸に顔を埋める。薄っぺらい胸板にガッカリしたが、まだ少年なのだから仕方ないと考え直した。
「お、お嬢様」
彼にはずっとお嬢様と呼ぶように命令していた。結婚した後もずっとだ。本来なら奥様と言うべきだったのだが、お嬢様と通させた。彼の前では結婚したことを忘れたかったのだ。
ぎこちなく彼が私を呼んだので、私はものすごく嬉しくなった。いきなり過去に戻ってしまったが、彼がいれば大丈夫。そう思ったからだ。過去に戻ったのは私だけだろうか。レイモンドはどうなのだろうか。聞いてみたかったが、どう聞けばいいかわからない。
「ア、アニー様を探しに行かないと・・・」
振り絞るような声でレイモンドは言った。
「アニーを?」
彼の胸から顔を外し、私は彼を見上げた。レイモンドは私を見ないように遠くを見ながら、軽くうなづいた。
「ピート様から全員で探しに出るようにと・・・」
あの憎たらしい貧乏人の息子の顔を思い出した。結婚してから会うことがなかったので半ば忘れていた。そうだ、祖父が亡くなり両親は役立たずだったので、家の中のことはピートに任せていた。だからピートが命令をしたのか。
「いいわよ、あんな奴のことなんか聞かなくても」
「で、でも・・・」
「それより・・・」
私はそう言って、彼の首にそっと唇を押し当てた。
「ヒィッ」
彼は情けない声を出した。その様子を私は面白く思った。最初は私もよくわからなかった。祖父から「新妻の嗜み」という本を渡されていたが、字ばかりで理解できなかった。たまに出てくる絵だけを見て、レイモンドで試してみた。彼の反応が面白くて、片っ端から試してみた。
今ならあの本の内容がよくわかる。書いていないことも知っている。思えばあの本は生ぬるい内容だった。今ならもっと上級な内容を書くこともできる。でも・・・、私は字を書くことが苦手だ。
そんなことを考えながら、私はレイモンドを見ていた。彼の目には恐怖が浮かんでいた。彼は私のように過去に戻ったわけではないのだ。もし過去に戻ってきたのなら、違う反応をするはずだからだ。
「命令よ、私の言うことを聞きなさい」
私はニンマリと笑った。
「私はあなたの子どもを産むのよ」
彼の耳元でそう囁く。
「えっ」
心底驚いた顔をしている彼を見たら、私は楽しくてたまらなくなった。
「お嬢様は・・・ラガン家のブライアン様とご結婚されるのでは・・・」
「ふふっ、そうよ」
わざと彼の耳に息を吐くと、彼の身体がピクンと動いた。子どもなのにこれで反応するのね。大人になってもそうだったわ。私はなおも続ける
「私はブライアン様と結婚するの、でもね、あなたの子どもを産むのよ」
彼の目は大きく見開いている。
「そ、そんなこと・・・」
「嘘じゃないわ」
そう言いながら、今度は彼の首筋をゆっくりと舌で舐めた。
「ヒッ・・・」
彼はまたもや声をあげたが、その声の本当の意味を私はよくわかっていた。
「子どもは2人。最初は女の子。そして次は男の子よ・・・」
今度は指で舐めたところを触る。彼が震えている。この程度の刺激でも彼がどうなるか知っているが、それは大人になってから。まだ少年の彼がどうなるかはわからない。それを見るのも楽しみだ。
「そ、そんな。子どもは結婚しないとできないはず・・・」
彼は泣きそうになりながらも言い返した。確かに許せない話なんだろうが、これは事実だ。私が経験したことなのだから。そう言いたい気持ちをグッと抑える。
コンコンコン!
その時、慌ただしくノックの音がした。
「入りなさい」
言い終わる前に勢いよくドアが開く。ピートが立っていた。
「アニーがいなくなったので、屋敷の者全員で探すつもりです。レイモンドも連れて行きますから」
レイモンドがホッとしたような顔をしたのがカチンときた。それにピートは偉そうに何故私に命令するのだろう。
「アニーがいなくなったくらいで何?レイモンドまで連れて行くのは許さないわ」
「人が足りないんです。それとも、自分で探しに行きますか?」
ピートは表情も変えずに言った。こいつはいつも人を小馬鹿にしているような目をしている。初めて会った時からそうだった。ムカつく奴だ。
「誰がアニーなんかを」
私がそう言った時には、もうピートはレイモンドの手を引いて部屋を出るところだった。ふざけるな!と大声で怒鳴ったが、ピートもレイモンドも戻ってくることはなかった。
「レイモンドを呼んで!」
私はメイドに言いつけた。そうだ、レイモンドに会えば全て解決する。結婚した後もレイモンドと2人きりになれば気分が落ち着いた。ラガン家での生活は色々と面倒なことも多かったからだ。だからレイモンドに会って、いつものように過ごせばいいのだと思った。
しばらくして部屋に来たのは、まだあどけなさが残る少年のレイモンドだった。その姿を見ると、やはり過去に戻ったということが現実だと思う。彼は不安げな様子でこちらを見ていた。
「レイモンド!」
それでも顔を見たら安心してしまい、私は彼に駆け寄った。
「ひっ」
彼は小さく呟き、後退った。顔が引き攣っている。その瞬間、思い出した。彼は最初の頃、消極的だった。しかし、回を重ねるうちにそんなことは忘れていった。子どもができたときは喜んでいたし、何も知らないブライアン様のことを2人で笑ったこともあった。
夫ではないのにこんなことは許されない。最初のうち、彼はそんなことをよく言っていた。ブライアン様とは政略結婚。お飾りの妻なのだから何も気にしなくていいと何度も言い聞かせた。本当に何度も言い聞かせたのだ。あの時の苦労をもう一度しなくてはいけないのだろうか。
いや、今はそんなこと考える暇はないのだ。私は彼に抱きつく。彼の身体は硬直していて、明らかに戸惑っているようだ。その反応を少し寂しく感じた。
「レイモンド、私よ。わかる?」
彼の身体は小刻みに震えていた。まるで小動物のようだ。私は彼の胸に顔を埋める。薄っぺらい胸板にガッカリしたが、まだ少年なのだから仕方ないと考え直した。
「お、お嬢様」
彼にはずっとお嬢様と呼ぶように命令していた。結婚した後もずっとだ。本来なら奥様と言うべきだったのだが、お嬢様と通させた。彼の前では結婚したことを忘れたかったのだ。
ぎこちなく彼が私を呼んだので、私はものすごく嬉しくなった。いきなり過去に戻ってしまったが、彼がいれば大丈夫。そう思ったからだ。過去に戻ったのは私だけだろうか。レイモンドはどうなのだろうか。聞いてみたかったが、どう聞けばいいかわからない。
「ア、アニー様を探しに行かないと・・・」
振り絞るような声でレイモンドは言った。
「アニーを?」
彼の胸から顔を外し、私は彼を見上げた。レイモンドは私を見ないように遠くを見ながら、軽くうなづいた。
「ピート様から全員で探しに出るようにと・・・」
あの憎たらしい貧乏人の息子の顔を思い出した。結婚してから会うことがなかったので半ば忘れていた。そうだ、祖父が亡くなり両親は役立たずだったので、家の中のことはピートに任せていた。だからピートが命令をしたのか。
「いいわよ、あんな奴のことなんか聞かなくても」
「で、でも・・・」
「それより・・・」
私はそう言って、彼の首にそっと唇を押し当てた。
「ヒィッ」
彼は情けない声を出した。その様子を私は面白く思った。最初は私もよくわからなかった。祖父から「新妻の嗜み」という本を渡されていたが、字ばかりで理解できなかった。たまに出てくる絵だけを見て、レイモンドで試してみた。彼の反応が面白くて、片っ端から試してみた。
今ならあの本の内容がよくわかる。書いていないことも知っている。思えばあの本は生ぬるい内容だった。今ならもっと上級な内容を書くこともできる。でも・・・、私は字を書くことが苦手だ。
そんなことを考えながら、私はレイモンドを見ていた。彼の目には恐怖が浮かんでいた。彼は私のように過去に戻ったわけではないのだ。もし過去に戻ってきたのなら、違う反応をするはずだからだ。
「命令よ、私の言うことを聞きなさい」
私はニンマリと笑った。
「私はあなたの子どもを産むのよ」
彼の耳元でそう囁く。
「えっ」
心底驚いた顔をしている彼を見たら、私は楽しくてたまらなくなった。
「お嬢様は・・・ラガン家のブライアン様とご結婚されるのでは・・・」
「ふふっ、そうよ」
わざと彼の耳に息を吐くと、彼の身体がピクンと動いた。子どもなのにこれで反応するのね。大人になってもそうだったわ。私はなおも続ける
「私はブライアン様と結婚するの、でもね、あなたの子どもを産むのよ」
彼の目は大きく見開いている。
「そ、そんなこと・・・」
「嘘じゃないわ」
そう言いながら、今度は彼の首筋をゆっくりと舌で舐めた。
「ヒッ・・・」
彼はまたもや声をあげたが、その声の本当の意味を私はよくわかっていた。
「子どもは2人。最初は女の子。そして次は男の子よ・・・」
今度は指で舐めたところを触る。彼が震えている。この程度の刺激でも彼がどうなるか知っているが、それは大人になってから。まだ少年の彼がどうなるかはわからない。それを見るのも楽しみだ。
「そ、そんな。子どもは結婚しないとできないはず・・・」
彼は泣きそうになりながらも言い返した。確かに許せない話なんだろうが、これは事実だ。私が経験したことなのだから。そう言いたい気持ちをグッと抑える。
コンコンコン!
その時、慌ただしくノックの音がした。
「入りなさい」
言い終わる前に勢いよくドアが開く。ピートが立っていた。
「アニーがいなくなったので、屋敷の者全員で探すつもりです。レイモンドも連れて行きますから」
レイモンドがホッとしたような顔をしたのがカチンときた。それにピートは偉そうに何故私に命令するのだろう。
「アニーがいなくなったくらいで何?レイモンドまで連れて行くのは許さないわ」
「人が足りないんです。それとも、自分で探しに行きますか?」
ピートは表情も変えずに言った。こいつはいつも人を小馬鹿にしているような目をしている。初めて会った時からそうだった。ムカつく奴だ。
「誰がアニーなんかを」
私がそう言った時には、もうピートはレイモンドの手を引いて部屋を出るところだった。ふざけるな!と大声で怒鳴ったが、ピートもレイモンドも戻ってくることはなかった。
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