3 / 14
私、モテ期が来たようです(後) ※ルーシー視点
しおりを挟む
もう成人をした、という実感はありましたが、やはり周りの同級生が家業を継いでいると聞くと、焦るものがあります。
今の自分の境遇が、仕事をクビになった状態ですから、なおさら。
お母さんから渡されたメモに目を落としながら、歩みを進めます。
まずは八百屋に行って、夕飯の野菜を買おうと思います。八百屋に近寄ると、よく見知ったおじさんではなく、若い男性が店先に立っています。
私が近寄ると、男性は目を丸くして、驚いたようでした。
「こんにちは」
「こ、んにち……は」
挨拶をすると、男性は口ごもりながら返してくれます。
「お、もしかしてルーシーちゃんか? 久しぶり! 綺麗になったなぁ。あ、これは息子のアダムだよ。覚えてるか?」
「アダムくん!? 覚えているわ。久しぶり」
「……久しぶりです」
奥から見知ったおじさんが顔を出し、若い男性がアダムくんなことを教えてくれました。
アダムくんは私の1歳年下、子守もしたことがある仲です。とはいっても、お屋敷に奉公に出てからずっと、機会もなかったので会ってはいなかったのですが。
懐かしさから、アダムくんをついつい見てしまいますが、アダムくんは目を合わせてくれません。
恥ずかしがってるのかな? しばらく会ってなかったし。
「アダムくん?」
「えっと、その……あんまりにも綺麗になっていたので、ビックリして」
黙り込むアダムくんの顔をつい覗き込みながら名前を呼ぶと、アダムくんは真っ赤な顔のままとんでもないことを言ってくれます。おじさんにも同じようなことを言われたとはいえ、やっぱりおじさんから言われるのと、年頃の男性から言われるのとでは違うわけで。
顔が熱く、アダムくんに負けず劣らず赤くなっている自信があります。これ以上何を話していいかも分からず、おじさんからお野菜を受け取ると慌てて八百屋を出てしまいました。
お野菜を買った後は、お肉を買いに行きます。熱くなった顔をパタパタと扇ぎながら、八百屋さんの向かいの肉屋に行くと、既にこれまた若い男性が待ち受けていました。
アダムくんとは違い、彼は私が誰だか分かっているようで、くりくりと大きな瞳を輝かせてこっちを見ています。あの目、見覚えがあるような?
「ルーシー、分かるか? リックだ!」
「あー、リック!」
名前を聞いて、私も彼が誰だか思い出しました。同い年のリックは、一緒に何度か遊んだ仲です。アダムくんと違い、5年ほど前に再会してはいますが、男性の5年は結構大きいようで、誰だか分かりませんでした。
5年前より、背も伸びていますし、筋肉質になっている気がします。
「今日は家のおつかいか?」
「うん、夕飯のお買い物。豚肉はあるかしら?」
そう答え、肉屋のショーケースの中を覗き込めば、リックはなんの料理に使う肉なのか確かめてから、ちょうど良さそうな豚肉を出してくれました。
「そういえば、子供のころ、結婚しようとか話したの覚えてる?」
しっかりと仕事をしている同級生の成長に驚いていると、リックがふと思いついたように、幼い頃の話をしました。
リックの言う通り、小さな頃、特に仲がよかったリックからは何度か大きくなったら結婚しようと言われていました。あの頃は割と本気ではい、と答えていた気がします。懐かしくて思わず微笑みました。
「今でも、そうしたいと思ってるって言ったら?」
リックが急に耳に口を近づけながら、声を落とします。
背中がぞくぞくして、思わず近くにあったリックの顔を見上げました。背も伸びて、男らしく骨ばった顔、でも子供のころと変わらない犬のような丸い、人懐っこい瞳。
その瞳がスッと、獰猛な獣のように細められたのを見て、目の前にいるのが本当にあのリックなのか分からなくなってきました。
せっかく冷ました顔の熱がまた上がるのを感じます。
「私、まだ買うものあるから!」
慌てて言い訳をしながら、肉屋を出ると、リックは後を追いかけてはいきませんでしたが、少し寂しそうな顔をしているように見えました。
その後はパン屋さんに行っても、その途中の道中でも、今までそんなことはなかったのに、たくさんの男性に声をかけられました。最初のうちは、モテているようで嬉しかったんですけど、段々と疲れてきた頃に、漸く家に到着しました。
はあ、とため息をつきながらリビングの椅子に腰かけようとする私に、山ほど縁談を申し込む手紙を抱えた父が見えたのでした。どうやら、せっかくの実家なのに、心が休まる暇もなさそうです。
今の自分の境遇が、仕事をクビになった状態ですから、なおさら。
お母さんから渡されたメモに目を落としながら、歩みを進めます。
まずは八百屋に行って、夕飯の野菜を買おうと思います。八百屋に近寄ると、よく見知ったおじさんではなく、若い男性が店先に立っています。
私が近寄ると、男性は目を丸くして、驚いたようでした。
「こんにちは」
「こ、んにち……は」
挨拶をすると、男性は口ごもりながら返してくれます。
「お、もしかしてルーシーちゃんか? 久しぶり! 綺麗になったなぁ。あ、これは息子のアダムだよ。覚えてるか?」
「アダムくん!? 覚えているわ。久しぶり」
「……久しぶりです」
奥から見知ったおじさんが顔を出し、若い男性がアダムくんなことを教えてくれました。
アダムくんは私の1歳年下、子守もしたことがある仲です。とはいっても、お屋敷に奉公に出てからずっと、機会もなかったので会ってはいなかったのですが。
懐かしさから、アダムくんをついつい見てしまいますが、アダムくんは目を合わせてくれません。
恥ずかしがってるのかな? しばらく会ってなかったし。
「アダムくん?」
「えっと、その……あんまりにも綺麗になっていたので、ビックリして」
黙り込むアダムくんの顔をつい覗き込みながら名前を呼ぶと、アダムくんは真っ赤な顔のままとんでもないことを言ってくれます。おじさんにも同じようなことを言われたとはいえ、やっぱりおじさんから言われるのと、年頃の男性から言われるのとでは違うわけで。
顔が熱く、アダムくんに負けず劣らず赤くなっている自信があります。これ以上何を話していいかも分からず、おじさんからお野菜を受け取ると慌てて八百屋を出てしまいました。
お野菜を買った後は、お肉を買いに行きます。熱くなった顔をパタパタと扇ぎながら、八百屋さんの向かいの肉屋に行くと、既にこれまた若い男性が待ち受けていました。
アダムくんとは違い、彼は私が誰だか分かっているようで、くりくりと大きな瞳を輝かせてこっちを見ています。あの目、見覚えがあるような?
「ルーシー、分かるか? リックだ!」
「あー、リック!」
名前を聞いて、私も彼が誰だか思い出しました。同い年のリックは、一緒に何度か遊んだ仲です。アダムくんと違い、5年ほど前に再会してはいますが、男性の5年は結構大きいようで、誰だか分かりませんでした。
5年前より、背も伸びていますし、筋肉質になっている気がします。
「今日は家のおつかいか?」
「うん、夕飯のお買い物。豚肉はあるかしら?」
そう答え、肉屋のショーケースの中を覗き込めば、リックはなんの料理に使う肉なのか確かめてから、ちょうど良さそうな豚肉を出してくれました。
「そういえば、子供のころ、結婚しようとか話したの覚えてる?」
しっかりと仕事をしている同級生の成長に驚いていると、リックがふと思いついたように、幼い頃の話をしました。
リックの言う通り、小さな頃、特に仲がよかったリックからは何度か大きくなったら結婚しようと言われていました。あの頃は割と本気ではい、と答えていた気がします。懐かしくて思わず微笑みました。
「今でも、そうしたいと思ってるって言ったら?」
リックが急に耳に口を近づけながら、声を落とします。
背中がぞくぞくして、思わず近くにあったリックの顔を見上げました。背も伸びて、男らしく骨ばった顔、でも子供のころと変わらない犬のような丸い、人懐っこい瞳。
その瞳がスッと、獰猛な獣のように細められたのを見て、目の前にいるのが本当にあのリックなのか分からなくなってきました。
せっかく冷ました顔の熱がまた上がるのを感じます。
「私、まだ買うものあるから!」
慌てて言い訳をしながら、肉屋を出ると、リックは後を追いかけてはいきませんでしたが、少し寂しそうな顔をしているように見えました。
その後はパン屋さんに行っても、その途中の道中でも、今までそんなことはなかったのに、たくさんの男性に声をかけられました。最初のうちは、モテているようで嬉しかったんですけど、段々と疲れてきた頃に、漸く家に到着しました。
はあ、とため息をつきながらリビングの椅子に腰かけようとする私に、山ほど縁談を申し込む手紙を抱えた父が見えたのでした。どうやら、せっかくの実家なのに、心が休まる暇もなさそうです。
0
あなたにおすすめの小説
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです
ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる