子爵家をクビになったと思ったら、なぜかモテ期がきました

小鳥遊 ひなこ

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僕の計画がくるったようだ ※ライオネル視点

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 可愛い可愛い僕のルーシーが、なぜか、そうなぜか、クビになったと思い込んでいると連絡を受けた。



 そんなどこか抜けているルーシーに初めて会ったのは、10歳の時。庭師のハンテーヌが連れてきたのが出会いだ。

 一目惚れだった。ブラウンの髪はふわふわで、彼女が歩くたびにふんわりいい香りとともに揺れて、瞳は美しいオリーブ色。少し垂れ目のルーシーの瞳を見ているととろけてしまいそうだった。
 中身も素晴らしくて、もう既に周りにおぼっちゃま扱いをされていた僕を、1人の男の子として扱ってくれた。優しくて、少し抜けている、そんな女の子だった。
 奉公に出る先を探していると言うから、ぜひうちに、と必死で父様と母様を説得した。あまりの必死さにか、ルーシーは我が家の最年少の使用人になった。
 仕事を始めてからのルーシーは優秀で、すぐに礼儀作法や簡単な仕事を覚えた。僕に対して前みたいに話しかけてくれないのは残念だったけど、両親や他の使用人の間で、彼女の評価が上がるのはなんだかとても嬉しかった。

 この頃には、この気持ちを淡い初恋で終わらせるつもりはなくなっていたので、少しずつ外堀を埋め始めた。



 僕、ライオネル・ブラウンは子爵家の次男である。我が家に爵位は父上の子爵しかないので、家と爵位は継がないことになっている。
 長男である兄、レオナルドはそれなりに優秀な人であったので、特にそのことで揉めることはなかった。
 爵位を継がない子息は大抵、後継のいない貴族家に婿入りする。僕もそれを求められているだろうし、順当にいけばそうなる。
 しかし、しかしだ。僕はルーシーが好きである。できれば駆け落ちまがいなことなどせずに、周りに認められて彼女を娶りたい。
 そう高くはない身分、そして次男であること、運命は僕に味方をしていた。

 話は変わるが、我が家は貧乏貴族である。領地は広いが、あまり豊かでないのが原因で、ここ数年の不作が家計を逼迫している。
 つまり、我が家の家計を助けさえすれば、父母もそんな大きな声でルーシーとの結婚に反対はしないだろう、と考えた。
 幸いにも、貧乏とはいえ貴族の端くれ、高給との呼び声高い王宮騎士団に入る資格はある。後は剣の腕だけだ。
 そう気づいた日から、家族も驚くほど剣の練習に精を出し、気づけば年齢にしてはそれなりの地位にまで上り詰めていた。
 まずは1つ目、クリア。



 さて、僕が見染めたルーシー・ハンテーヌは大変可愛らしい。もちろん、周りも放っておかないほどに。

 ルーシーが他に目移りしないようにラブレターを握りつぶすことにした。我が家に届く手紙を確認する執事のリチャードにお願いし、ルーシー宛の手紙は一回僕に確認させてもらえるようにした。
 かなり呆れられたし、怒られそうにもなったが、僕の必死な様子にリチャードが折れた。
 ルーシーに届く手紙のうち、見知らぬ男性からのものは全て僕が預かった。申し訳ないけど、中身を確認し、問題がなければ間違えて開けたとルーシーに手渡した。
 家にいる使用人や出入りする商人にも、ルーシーを口説かないよう念を押した。

 ルーシーは何も怪しまずに、先輩のメイドに年頃になっても男性からのお誘いが何もない、とこぼすほどだった。
 とても申し訳ない気持ちにはなったけど、大丈夫、責任は取る。出入りの商人にも、そこらの町人にも負ける気がしない。

 それから、ルーシーの実家には、ルーシーを装って、縁談を断る旨の手紙を出した。
 ルーシーの筆跡を真似し、可愛らしい封筒と便箋まで使ったソレは、どうやら怪しまれることもなく、ハンテーヌ家に届いたらしい。
 縁談さえないのです、とルーシーはまた先輩メイドにこぼしたそうだ。



 こうして、僕の準備があらかた完了した頃、城内で行われた模擬戦のトーナメントでの戦果を受けて、昇進と武勲章の授与が決まった。僕の年齢を考えれば、十分過ぎる功績だ。
 僕とルーシーの年齢を考えても、そろそろ父様と交渉をする頃合いだろう。

 授与式を来週に控え、父様になんと切り出すか考えているところに、旧友のエドワードがやって来た。
 エドワードは男爵家の嫡男で、甘やかして育てられたような男だった。爵位はうちよりも下だが、ブラウン家より金がある家で、面と向かっては言わないが裏ではそのことを馬鹿にさえしていることを、僕は知っていた。
 追い返しても良かったが、暇だったのもあり、応接室に通して話をしていた。
 やはりエドワードは話がつまらない男で、適当に聞き流していると、急に旧友の名を出して、手紙を持って来いと言う。図々しい男だと思いつつ、自室に手紙を取りに行く。

 手紙をしまっている戸棚を開けながら、送り主、アルフレッドの顔を思い浮かべる。
 代々騎士を輩出している家柄の出身で、エドワードと違い、話も面白い。驕ったところがなく、誰にでも優しい男で、結局騎士にはならずに学者になったと手紙に書いていた。
 しかし、あの男がいくらエドワードが相手とはいえ、そんな不義理な真似をするだろうか? 確かエドワードの家とアルフレッドの家は、親同士の付き合いもあったはずだ。
 そこまで考えたところで、僕は慌てて手紙を掴むと、部屋を飛び出した。

 エドワードの性格も嫌いだったが、なにより女好きなところが嫌いだったことを思い出したのだ。奴はアルフレッドの話を出す直前、ルーシーのことを横目に見ていた。
 奴のことである、アルフレッドが旧友達に定期的に手紙を出すことを知っていて、僕を厄介払いしたのだろう。
 慌てていたことがばれない程度に急いで応接室に戻り、扉を開ければ、ルーシーの腕を握り、口説いているようなエドワードがそこにいた。
 頭に血がのぼる。僕が長い時間をかけて、口説くための道のりを整備していると言うのに、あと一週間で準備が完了するというこのタイミングで、余計なことをしてくれた。

 「何をしている!」

 思っていた以上に大きな声が出た。慌てた様子でルーシーとエドワードが振り返る。
 わざと、ツカツカと足音を立てて近寄ると、ルーシーの腕に当たらないよう、エドワードの手だけを叩き落とす。

「ライオネル、このメイドがうちで雇ってくれないかと言い寄ってきたんだ!」
「ライオネル様、あの、私」

 エドワードが見え透いた嘘を言うと、ルーシーが青ざめた顔で言葉を紡ごうとする。
 ルーシーは僕のせいで、男性から口説かれた経験もないから、エドワードが怖かったことだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいで、毅然とした態度で、ルーシーの言葉を制す。無理に話させたくはなかった。

「ルーシ、すまないがエドワードと話をつける。暇を出そう。君を信じてる、エドワードが何かしたんだろう。もちろん話はつける」

 何事かをエドワードが喚いているが、僕の耳には入らない。
 ふと、ルーシーの顔を覗き込めば、可哀想に青ざめて小さく震えている。

「ルーシー?」

 声が大きく、きつかったかもしれない。僕のせいで余計怯えさせたかと思い、なるべく優しく呼びかけ、華奢な肩に手を置く。
 ルーシーがこちらを見つめる、その顔は少しだけ落ち着いたように見えた。

「実家に帰っていなさい、必要なものだけとりあえず持っていけば良い」

 怖い思いをさせただろうから、少し休暇を取らせ、実家で休んで欲しかった。
 荷が足りなければすぐに送ってあげられるし、なるべく早く実家に戻り、安心させたい。
 メイドの中でなるべくルーシーと仲の良いもの(とは言ってもどのメイドもルーシーを好いていたし、ルーシにも好かれていたと思う)を呼び、事情を手短に話し、ルーシーの荷の用意と馬車の手配をお願いする。
 ルーシーとメイドが退出する頃には、文句を言っていたエドワードもいつのまにか青ざめていた。

「エドワード、分かるな? うちや僕への暴言も知っていたが、今まで見過ごしてきた」

エドワードの顔がさらに青くなり、体を小さくする。

「気づいていないとでも思っていたか? 甘く見られたものだ。我が家は貧乏だろうとなんだろうと子爵家だ、お前の家はなんだったかな?」

そう言えば、エドワードは小さく男爵です、と呟く。

「賢いお前ならどうなるか、分かっているだろうと思うが……、すぐにうちから出て行け。二度とルーシーにも僕にも近寄るな」

 鋭い声で命じれば、エドワードは驚くほどのスピードで応接室を出て、帰って行った。
 そのあまりのスピードに驚いたのか、廊下にいたリチャードが顔を覗かせる。

「ライオネル様、お友達はどうされたのです?」
「……友達ではない。彼は昔の知り合いで、オズワルド男爵の嫡男だ。今度からはオズワルド家がいる集まりには出ないと、父上と仲の良い家に知らせてくれ。うちを侮辱された」

 リチャードはしばし考えたあと、かしこまりました、と部屋を後にした。
 元々そう付き合いもない家であるし、オズワルド男爵自体いい評判は聞かない人である。父様も何も言わないだろう。
 小さくため息をついた後、一週間後用に頭の中で考えていた父様を説得する原稿を、急いですぐに説得できるものへと変更していった。


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