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流石に入学式の会場であるホールまでは2人はついて来なかった。しかしまだまだ歴代の脳内彼氏たちが登場する可能性はあるわけで。
ホールをパッと見渡すと、明らかに目立つ頭髪がちらほらと見受けられる。アニメや漫画でもたまにある、主要なキャラは髪の色や髪型でモブと区別できるやつだ。
私は目立つ人を避け、なるべく地味な人の隣の空いてる席に腰を下ろす。
「すみません、横失礼します」
「はい、どうぞ」
そう答えた男子生徒の顔を見て驚いた。脳内彼氏だったからではない。普通にイケメンだったからだ。
「アリーナ・エルンと申します」
「ジャック・ワットです。同級生だから、敬語はやめません?」
「ええ、ワットくんよろしく」
名前を聞いても思い浮かぶキャラはいない。現実だってクラスに何人かはかっこいい人がいるから、そんな感じなのだろうか。
いちいち私の設定を細かく反映させるこの世界を作った誰かを恨んでいたけど、少し感謝した。それより、やっぱりこの世界のスタンダードは西洋風の名前なのね。爪が甘いのではなくて、中学2年生の時の私は、こだわって原作のままの名前をつけたみたいだ。
ワットくんは私が登城させたキャラたちとは違い、熱っぽい視線で見てきたりしない。ただアリーナを愛されキャラにするために絶世の美少女にしているので、ワットくんは年頃の男子高校生らしく少しだけ恥ずかしそうな顔をしている。
妄想の中だから分かりやすく愛を囁かれたり、行動を起こして欲しいと思っていたけど、現実だと考えるとこれくらいがちょうどいい。
前世で一度も熱烈にモテたことがないから知らなかったけれど、初対面から愛情度マックスで来られると、いくら好みのイケメンでも引いてしまうらしい。
ちょっと、ちょっとだけだけど、モテモテの太田先輩が自分にベタ惚れじゃない相手を好きになった気持ちが分かる。
ワットくんじゃなくても、私が登場させたキャラ以外となら、愛を少しずつ育むことも可能かもしれない、そんなことを考えていると壇上にいる人物と目が合う。
今壇上では在校生代表挨拶として、生徒会長が話している。そう、生徒会長だ。確実に私の歴代脳内彼氏のうちの1人だと思い、なるべく見ないようにしていた。
壇上の生徒会長は涼しげな目元の男性で、髪色は黒で髪型も平凡な感じだ。しかし、その美貌が只者ではないことを物語っていると言うか、はい、私の中学生の時に好きだったキャラ、長谷川右京さんですね。
右京さんの視線があまりに痛くて目を逸らす。背中は冷や汗がダラダラだ。
右京さんは私から視線を外さずに最後まで挨拶をし終えると、壇上から降りる。右京さんがあまりにも私の方を見るので、周りがちらちらとこちらを見る。
あ、これも憧れていた周りにひそひそされるやつ! 実際にされるとただただ居心地が悪いだけなことがよく分かった。
「知り合い?」
「ううん」
「そっか」
ワットくんとの間になんとなく気まずい雰囲気が流れる。
別に右京さんが悪いわけではない。彼だって原作の作品中では、別に女性をじっと見るようなキャラではない。むしろ女性キャラとの絡み自体少ないキャラだった。全ては中学2年生の漫画好きな1人の少女の願望のせいなのだ。
そのまま後は何事もなく入学式は終わり、それぞれの教室へと行くことになった。
「あ、式も終わりみたいだから、よかったら一緒にクラス分けを見てから教室に行かない?」
「うん」
なんだか青春って感じだなぁ。十数年ぶりに味わう青春に心をときめかせていると、ホールから出たあたりでワットくんの足が止まる。
なんだろうとワットくんの背から顔を覗かせると、そこには入学式前に別れたはずの一くんと太田先輩がいた。しかもその後ろにはよくは見えないけど、キラキラとした人たちも見えた。恐らく私の脳内彼氏たちが控えている。
ワットくんの顔は見えないけど、なんとなくどんな表情をしているかは想像がつく。
ホールの出入り口は確かここ以外にもあるはずだ。入学式の最中暇で観察している時に、通路らしきものを発見した。そちらに行こうと後ろを向きかけてから、慌てて前に向き直る。
来てる、右京さんが来てる。ついでに言うと、なんで前が進まないのか不審がるたくさんの人混みに紛れて、鮮やかな髪色も見える。じわじわ鮮やかな髪色と派手な髪型が近づいてくる。
前門の一くんと太田先輩、後門の右京先輩、状態だ。しかもそれぞれの後ろには、他にもたくさんの登場人物らしい人たち。
どうしようとワットくんを見上げると、彼はひきつった笑みを浮かべている、とてと嫌な予感。
「ごめん、本当にごめん! エルンさんごめん!」
そう叫ぶように言うと、ワットくんはすごい勢いで走って行ってしまった。後には残された私。ワットくん、とても足が速いんだね。
分かるよ、普通に生きてたら面倒事に巻き込まれたくないよね。私もそう、逃げ出したい。
突然のワットくんの行動に驚いたのか立ち止まっていた一くんと太田先輩がまたこちらに向かってくる。後ろからは右京さんの圧も感じるし、先ほどから視界に鮮やかな髪色も目に入るようになってしまった。
私は一体何人の彼氏たちをこの小説に登場させたのだろうか。そしてその全員のフラグを無事折ることはできるのだろうか。
この世界を作った人、私は愛を少しずつ育むような普通の恋愛はできますか? あ、こういうモノローグも少女漫画みたいで憧れてたやつだ。
ホールをパッと見渡すと、明らかに目立つ頭髪がちらほらと見受けられる。アニメや漫画でもたまにある、主要なキャラは髪の色や髪型でモブと区別できるやつだ。
私は目立つ人を避け、なるべく地味な人の隣の空いてる席に腰を下ろす。
「すみません、横失礼します」
「はい、どうぞ」
そう答えた男子生徒の顔を見て驚いた。脳内彼氏だったからではない。普通にイケメンだったからだ。
「アリーナ・エルンと申します」
「ジャック・ワットです。同級生だから、敬語はやめません?」
「ええ、ワットくんよろしく」
名前を聞いても思い浮かぶキャラはいない。現実だってクラスに何人かはかっこいい人がいるから、そんな感じなのだろうか。
いちいち私の設定を細かく反映させるこの世界を作った誰かを恨んでいたけど、少し感謝した。それより、やっぱりこの世界のスタンダードは西洋風の名前なのね。爪が甘いのではなくて、中学2年生の時の私は、こだわって原作のままの名前をつけたみたいだ。
ワットくんは私が登城させたキャラたちとは違い、熱っぽい視線で見てきたりしない。ただアリーナを愛されキャラにするために絶世の美少女にしているので、ワットくんは年頃の男子高校生らしく少しだけ恥ずかしそうな顔をしている。
妄想の中だから分かりやすく愛を囁かれたり、行動を起こして欲しいと思っていたけど、現実だと考えるとこれくらいがちょうどいい。
前世で一度も熱烈にモテたことがないから知らなかったけれど、初対面から愛情度マックスで来られると、いくら好みのイケメンでも引いてしまうらしい。
ちょっと、ちょっとだけだけど、モテモテの太田先輩が自分にベタ惚れじゃない相手を好きになった気持ちが分かる。
ワットくんじゃなくても、私が登場させたキャラ以外となら、愛を少しずつ育むことも可能かもしれない、そんなことを考えていると壇上にいる人物と目が合う。
今壇上では在校生代表挨拶として、生徒会長が話している。そう、生徒会長だ。確実に私の歴代脳内彼氏のうちの1人だと思い、なるべく見ないようにしていた。
壇上の生徒会長は涼しげな目元の男性で、髪色は黒で髪型も平凡な感じだ。しかし、その美貌が只者ではないことを物語っていると言うか、はい、私の中学生の時に好きだったキャラ、長谷川右京さんですね。
右京さんの視線があまりに痛くて目を逸らす。背中は冷や汗がダラダラだ。
右京さんは私から視線を外さずに最後まで挨拶をし終えると、壇上から降りる。右京さんがあまりにも私の方を見るので、周りがちらちらとこちらを見る。
あ、これも憧れていた周りにひそひそされるやつ! 実際にされるとただただ居心地が悪いだけなことがよく分かった。
「知り合い?」
「ううん」
「そっか」
ワットくんとの間になんとなく気まずい雰囲気が流れる。
別に右京さんが悪いわけではない。彼だって原作の作品中では、別に女性をじっと見るようなキャラではない。むしろ女性キャラとの絡み自体少ないキャラだった。全ては中学2年生の漫画好きな1人の少女の願望のせいなのだ。
そのまま後は何事もなく入学式は終わり、それぞれの教室へと行くことになった。
「あ、式も終わりみたいだから、よかったら一緒にクラス分けを見てから教室に行かない?」
「うん」
なんだか青春って感じだなぁ。十数年ぶりに味わう青春に心をときめかせていると、ホールから出たあたりでワットくんの足が止まる。
なんだろうとワットくんの背から顔を覗かせると、そこには入学式前に別れたはずの一くんと太田先輩がいた。しかもその後ろにはよくは見えないけど、キラキラとした人たちも見えた。恐らく私の脳内彼氏たちが控えている。
ワットくんの顔は見えないけど、なんとなくどんな表情をしているかは想像がつく。
ホールの出入り口は確かここ以外にもあるはずだ。入学式の最中暇で観察している時に、通路らしきものを発見した。そちらに行こうと後ろを向きかけてから、慌てて前に向き直る。
来てる、右京さんが来てる。ついでに言うと、なんで前が進まないのか不審がるたくさんの人混みに紛れて、鮮やかな髪色も見える。じわじわ鮮やかな髪色と派手な髪型が近づいてくる。
前門の一くんと太田先輩、後門の右京先輩、状態だ。しかもそれぞれの後ろには、他にもたくさんの登場人物らしい人たち。
どうしようとワットくんを見上げると、彼はひきつった笑みを浮かべている、とてと嫌な予感。
「ごめん、本当にごめん! エルンさんごめん!」
そう叫ぶように言うと、ワットくんはすごい勢いで走って行ってしまった。後には残された私。ワットくん、とても足が速いんだね。
分かるよ、普通に生きてたら面倒事に巻き込まれたくないよね。私もそう、逃げ出したい。
突然のワットくんの行動に驚いたのか立ち止まっていた一くんと太田先輩がまたこちらに向かってくる。後ろからは右京さんの圧も感じるし、先ほどから視界に鮮やかな髪色も目に入るようになってしまった。
私は一体何人の彼氏たちをこの小説に登場させたのだろうか。そしてその全員のフラグを無事折ることはできるのだろうか。
この世界を作った人、私は愛を少しずつ育むような普通の恋愛はできますか? あ、こういうモノローグも少女漫画みたいで憧れてたやつだ。
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