計略の華

雪野 千夏

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第5話

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「何があった!」
「あ、主任、おはようございます」
セキュリティロックを外し勢いよく扉を開けると、そこには気まずそうに笑う山内がいた。ざっと室内を見渡すが、検査機器に破損もないようだ。
「何があったんだ」
「いやあ、参ったよ山内君。やっぱりあれはだめだね。強度実験はやっぱり機械的にやるべきかもね」
そう言って研究棟で唯一強度確認の実験に使われる通称ラボから顔を出したのは、柚木部長だ。
「おや、望月主任今日は早いですね」
「部長、すごい音がしましたけど」
私に気づくと柚木部長はよれよれの白衣のポケットから手をだし、ひらひらと振った。
「ああ、あれね。大丈夫大丈夫」
「大丈夫って」
私の顔色を見た山内が恐る恐る柚木に進言するが彼は歯牙にもかけない。その山内の顔色の悪さからすると、
「柚木部長、強度実験というのは、先日商品開発部から依頼された新商品の子ども用おもちゃのことですか」
「うんそうだよ」
「重さ500グラムも見たないおもちゃをどうやったらあんな音を立てて破壊出来るんですか」
「あれ?壊れたってよくわかったねえ。僕としては、もう少し頑丈な出来かと思ってたんだけどね。超合金ってふれこみだったじゃない?まさか五キロの鉄で挟んだくらいで砕け散るとか商品開発部もお粗末だよねえ」
からからと笑う柚木に頭が痛くなる。
「柚木部長。私、申し上げましたよね。それは超合金という名前ですが、プラスチック製のおもちゃですと」
「そうだったっけ?」
ぽん、と肩をたたかれた。振り向けば梶谷が首を横に振っていた。
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