黒の救済ー物語廻天ー悪で悪を倒す物語

天咲琴乃 あまさき ことの

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第1章 正義の死

雨が降っていた。
都会のネオンを溶かすような、灰色の雨。
ナギは駅前の横断歩道をゆっくりと渡っていた。傘の縁から滴る水が、黒いコートの肩を濡らす。

スマホの通知が鳴った。「無罪確定」――ニュース速報。
その名前を見た瞬間、足が止まる。
あの男。あの事件。
七年前、彼の証言ひとつで少女が死に、ナギの人生も壊れた。

「正義なんて、結局、口のうまい奴の味方だよね。」
小さく笑った。
人が信じる“正しさ”が、どれだけ簡単に裏返るかを、彼女はもう知っていた。

ナギはかつて詐欺師だった。
名刺には「人間観察コンサルタント」と書いていたが、
実際は“嘘を見抜くために、嘘を売る”女だった。
相手の目の揺れ方、声の高さ、沈黙のタイミング。
ほんの数秒で「その人の弱点」がわかる。
それが、彼女の武器であり呪いだった。

夜のカフェ。
雨宿りの客で混み合う店内の奥、ナギは窓際の席でコーヒーを冷ましていた。
ニュースキャスターが笑顔で「司法の公正が証明されました」と語る。
その言葉の、どこに公正があるというのか。
少女の母親が泣き崩れた映像が、無音で流れた。
ナギはその母親の名を知っている。
――自分を“先生”と呼んでいた、かつての相談者だった。

テーブルに置いた手が震えていた。
怒りか、後悔か、もうわからない。
ただ、体の奥底から冷たい決意が湧き上がる。
「法が救わないなら、私が救う」
心の中で、静かに呟く。

そのとき、向かいの席に誰かが座った。
コートを脱ぎ、濡れた髪を軽く払う仕草。
彼は黙ってナギの前に警察手帳を置いた。
「もう、詐欺師はやめたって聞いたけどな。」
ナギは目を細める。
――元刑事、ユウ。
七年前、同じ事件を追っていた男。
彼もまた、あの判決で全てを失った一人だった。

「まだ怒ってるのか?」
「怒ってない。ただ、終わらせてないだけ。」
ユウは少し笑った。
「……そうか。なら、俺と組まないか。
 法じゃ裁けない奴らを、俺たちのやり方で。」

雨音が一層強くなった。
窓を叩く水滴が、心臓の鼓動と重なる。
ナギはコーヒーを一口飲み、冷めた苦味を舌に残した。
「悪で悪を倒す――それ、あなたの流行り文句?」
「いいや。」
ユウは立ち上がり、背を向けながら言った。
「俺たちの、生き残り方だ。」

ナギは少しだけ笑った。
それは七年ぶりの、心からの笑いだった。

雨が上がる。
夜の街に、ひとすじの光が差していた。
その光が、正義か悪か――まだ誰にも分からない。

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