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第3章 黒いカウンセラー
翌週の夜。
ナギは小さなビルの三階、明かりの落ちたオフィスにいた。
机の上にはプリントアウトされた数十枚の相談記録。
西園寺笙子のカウンセリングデータだ。
「相談者の不安を一度“共感”で受け取り、
その直後に“罪悪感”で縛る」
ページの端に、ナギはそう書き込んだ。
笙子のカウンセリングは一見完璧だった。
優しい言葉、落ち着いた声。
でも、ナギはその裏に支配の設計図を見た。
──癒しの言葉ほど、人を無力にする。
ナギは知っている。自分もかつてそうしてきた。
パソコンの画面には匿名の書き込み。
「笙子に救われた」「笙子先生のおかげで生きてる」
だが、そのアカウントの一部は同一IPだった。
“笙子自身による自作自演”。
虚構の信頼を積み上げ、依存を加速させていた。
カチッ。
ドアが開く音。
ユウが入ってきた。
手には黒い封筒。
「調べた。笙子の口座、裏で“相談料”を受け取ってる。
表のカウンセリング以外に、“特別セッション”って名目でな。」
ナギはファイルを閉じた。
「金だけじゃない。人を“管理”するのが目的。」
ユウは黙って頷いた。
「次の依頼だ。ある男が笙子に人生を壊されたらしい。」
写真には、やつれた男の姿。
その目の奥に、まだ彼女への“愛”が残っていた。
ナギはため息をついた。
「依存の鎖は切れない。
切れるのは、“真実”を見せたときだけ。」
その夜、ナギは男に会った。
彼は、笙子にすべてを預けたあと、
家族を失い、職も失ったという。
「でも、まだ……彼女を憎めないんです。」
男の声はかすれていた。
ナギは静かに言った。
「あなたを壊したのは彼女じゃない。
“救われたい”っていうあなた自身よ。」
男は顔を歪めた。
真実はいつも刃だ。
癒しよりも、深く刺さる。
帰り際、ナギは気づいた。
男の机の上に、赤い封筒があった。
封を開けると、一枚の紙。
――《黒の救済へ、ようこそ。次の駒はあなた。》
ナギの指が止まる。
差出人の署名には、優雅な筆致でこう書かれていた。
西園寺笙子。
背筋が凍る。
ナギが笙子を追っているつもりで、
すでに彼女の“舞台”に立たされていた。
遠くで鐘が鳴る。
まるで見えない法廷の開廷を告げるように。
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