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第6章 物語廻天
朝が来る。
夜の雨は上がり、街は静かに光を取り戻していた。
高層ビルの屋上、濡れた手すりに指を置きながら、
ナギはゆっくりと息を吐いた。
――世界は、何も変わらない。
そう思っていた。
だが、今日だけは違った。
背後でヒールの音が響く。
西園寺笙子。
黒いコートの裾を揺らし、風の中に立っていた。
「あなた、まだここにいたのね。」
ナギは振り返らない。
「ええ。終わらせに来たの。」
「終わらせる?」
笙子の声は、どこか穏やかだった。
「何を?」
「私たちの“救いごっこ”を。」
笙子が微笑む。
「人を救いたい女と、人を支配したい女。
結局、同じところに立ってたのね。」
ナギはゆっくりと彼女の方へ向き直った。
瞳の奥に、かすかな涙が光る。
「あなたは悪夢だった。
でも、私の中の“悪”を見せてくれた。
ありがとう、笙子。」
笙子の肩が震える。
「皮肉ね。
あなたが壊そうとしたこの“裏裁判”は、
最初からあなた自身のための儀式だった。」
ナギはうなずく。
「そう。私は自分を裁きたかった。
でも、あなたが代わりにそれをしてくれた。」
沈黙。
ふたりの間に風が吹く。
遠くで朝日が昇る。
笙子は手に持っていたUSBメモリを差し出した。
「これが最後の記録。
この街の“裏の真実”が全部入ってる。
でも――公開しないで。」
「なぜ?」
「正義なんて、誰かの心を壊すだけだから。」
ナギは受け取らなかった。
代わりに、笙子の手を包んだ。
「正義も、悪も、誰かの祈りの形だよ。
あなたの祈りが悪夢だったとしても、
それが“救い”になる人もいる。」
笙子の目から、一筋の涙が落ちた。
それは冷たい夜露のように、静かに光った。
「ねぇ、ナギ。」
「なに?」
「悪夢の終わりって、どうすれば訪れるの?」
ナギは微笑んだ。
「目を覚ますことじゃない。
“誰かと見ること”よ。」
朝日が二人の顔を照らした。
その光の中で、笙子は静かに笑った。
そして一歩、後ろへ下がった。
「私の役目はここまで。」
「笙子!」
ナギの声が風に消える。
次の瞬間、笙子の姿は光の中に溶けた。
落ちたのか、消えたのか――誰にもわからない。
ただ、空がひときわ澄んで見えた。
ナギは手に残った温もりを見つめ、
ポケットの中の小さな黒いUSBを握りしめた。
その画面の中で、
笙子の声が最後に響いた。
> 「救いは、悪の手の中にある。」
ナギは目を閉じた。
朝の光が、まぶしくて泣きそうだった。
---
夜の雨は上がり、街は静かに光を取り戻していた。
高層ビルの屋上、濡れた手すりに指を置きながら、
ナギはゆっくりと息を吐いた。
――世界は、何も変わらない。
そう思っていた。
だが、今日だけは違った。
背後でヒールの音が響く。
西園寺笙子。
黒いコートの裾を揺らし、風の中に立っていた。
「あなた、まだここにいたのね。」
ナギは振り返らない。
「ええ。終わらせに来たの。」
「終わらせる?」
笙子の声は、どこか穏やかだった。
「何を?」
「私たちの“救いごっこ”を。」
笙子が微笑む。
「人を救いたい女と、人を支配したい女。
結局、同じところに立ってたのね。」
ナギはゆっくりと彼女の方へ向き直った。
瞳の奥に、かすかな涙が光る。
「あなたは悪夢だった。
でも、私の中の“悪”を見せてくれた。
ありがとう、笙子。」
笙子の肩が震える。
「皮肉ね。
あなたが壊そうとしたこの“裏裁判”は、
最初からあなた自身のための儀式だった。」
ナギはうなずく。
「そう。私は自分を裁きたかった。
でも、あなたが代わりにそれをしてくれた。」
沈黙。
ふたりの間に風が吹く。
遠くで朝日が昇る。
笙子は手に持っていたUSBメモリを差し出した。
「これが最後の記録。
この街の“裏の真実”が全部入ってる。
でも――公開しないで。」
「なぜ?」
「正義なんて、誰かの心を壊すだけだから。」
ナギは受け取らなかった。
代わりに、笙子の手を包んだ。
「正義も、悪も、誰かの祈りの形だよ。
あなたの祈りが悪夢だったとしても、
それが“救い”になる人もいる。」
笙子の目から、一筋の涙が落ちた。
それは冷たい夜露のように、静かに光った。
「ねぇ、ナギ。」
「なに?」
「悪夢の終わりって、どうすれば訪れるの?」
ナギは微笑んだ。
「目を覚ますことじゃない。
“誰かと見ること”よ。」
朝日が二人の顔を照らした。
その光の中で、笙子は静かに笑った。
そして一歩、後ろへ下がった。
「私の役目はここまで。」
「笙子!」
ナギの声が風に消える。
次の瞬間、笙子の姿は光の中に溶けた。
落ちたのか、消えたのか――誰にもわからない。
ただ、空がひときわ澄んで見えた。
ナギは手に残った温もりを見つめ、
ポケットの中の小さな黒いUSBを握りしめた。
その画面の中で、
笙子の声が最後に響いた。
> 「救いは、悪の手の中にある。」
ナギは目を閉じた。
朝の光が、まぶしくて泣きそうだった。
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