kotookiー境界線の鏡のむこうへー2人の台本師ー

天咲琴乃 あまさき ことの

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戻る場所

6話

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第6話 兄と弟の距離

まひろくんは、いつも少し遅れて現れる。
空気を読むのが下手なわけじゃない。
ただ、読む前に動いてしまうだけだ。

「え、もう終わった? 早くない?」
そう言いながら、資料を覗き込む。
場の流れが変わっていることに気づいていない顔。

弟分の配信者仲間……。


彼は感情で動く。
熱量があり、正直で、裏表がない。
その分、現場の温度に影響されやすい。

「一緒にやらないの?」
「前みたいにさ」

悪気はない。
むしろ、純粋な疑問だ。

私は少し考えてから答える。
「今は、それぞれでやるんだよ」

まひろくんは一瞬だけ黙る。
納得したわけじゃない。
でも、否定もしない。

兄は、ここで口を挟まない。
説明もしないし、説得もしない。
弟が自分で理解するまで、待つ。

それが、この距離だ。

弟ぶんは守りたい存在だけど、
守りすぎると、育たない。
兄貴分(織木)はそれを知っている。

まひろくんはそのうち、
自分の企画、
自分の表現を見つけるだろう。
焦っている今は、まだ途中だ。

「まあ、また一緒にやればいいか」
そう言って、まひろくんは笑う。

その軽さが、救いでもある。

兄は静かに場を整え、
私は言葉を整える。
弟は転びながら、前に出る。

役割は違う。
立つ場所も違う。

でも、線はつながっている。

兄と弟の距離は、
上下じゃない。
近づきすぎないことを、
互いに許しているだけだ。

まひろくんが去ったあと、
織木は一言だけ言った。

「大丈夫。あの子は、自分で選ぶ」

私は頷く。
それでいい。

境界線は、
守る人と、越えようとする人、
両方がいて初めて、形になる。

鏡に映るのは、
三人分の立ち位置。

兄は前に出ない。
弟は前に出たがる。
私は、戻る場所を持っている。

その配置が、
今の私たちには、ちょうどよかった。
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