kotookiー館花琴音と織木 真々の境界線の鏡ー

天咲琴乃 あまさき ことの

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別々の鏡

7話

第7話 戻る場所、進む場所

戻る場所と、進む場所は、
同じじゃなくていい。
それを理解するまでに、
少し時間がかかった。

同じ机で仕事をし、
同じ締切に追われ、
同じ世界を見ているつもりでいた頃は、
立ち位置の違いに名前をつけなかった。

でも今は、はっきり分かる。

私は、言葉のほうへ小説サイトの活動の場へ戻っている。
誰かの声を代弁するのではなく、
自分の文章として世界を切り取る場所へ。

原稿用紙に向かう時間が増え、
取材や資料に没頭する日が続く。
孤独だけど、静かで、正直だ。

彼は、前へ進んでいる。
配信者の企画、現場の調整、
人と人をつなぐための動線を引く。
混雑の中で、空気を読み続ける仕事だ。

戻るのと、進むのは、方向が違う。
でも、優劣じゃない。

「一緒にやらなくなったね」
そう言われることはあっても、
違和感はなかった。

むしろ、無理がなくなった。

  織木はたくさん企画に呼ばれ、プロデュースもしている。ほかのグループの専属台本師にもなった。

連絡は短い。
報告は要点だけ。
感情は、各自で処理する。

それで関係が壊れるなら、
最初から、続かなかったはずだ。

境界線を引くことは、
距離を取ることじゃない。
役割を尊重することだ。

戻る場所があるから、
私は進みすぎない。
進む場所があるから、
彼は立ち止まらない。

その分業が、
いまの私たちを支えている。

夜、ふと鏡を見る。
疲れているけれど、顔色は悪くない。
迷っている表情も、ない。

戻る場所を選んだ自分と、
進む場所を選んだ彼。
どちらも、間違っていない。

また同じ場所に立つ日が来るかもしれない。
来ないかもしれない。

それでもいい。

大切なのは、
戻れる場所を失わないまま、進めること。

境界線は、未来を制限しない。
未来を選べる余地を、残してくれる。

私は原稿を閉じ、
次の章の構想をメモに落とした。
彼はきっと、別の場所で次の準備をしている。

同じ線の上にいなくても、
同じ鏡に映る必要はない。

戻る場所と、進む場所。
それぞれが選んだ先で、
私たちは、まだ続いている。

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