日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人

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第5章 銀河宇宙との出会い

5.4 対シーラムム帝国、地球での会議

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 誠司は、地球連邦政府の主任科学アドバイザーとして、ニューヨークにおいてシーラムム帝国との出会いに係る諸問題を話し合うための会議に出席していた.


 これには、現地においてシーラムム帝国のシカマール特使と協議を交わして、友好条約及び通商条約のたたき台を作成した、マリア・キャンベル特使とその補佐官サーマル・グガブ、さらに同席した水巻清太郎少将が加わっていた。
 加えて、シーラムム帝国の超大型戦闘艦と戦った責任者である地球防衛軍緊急展開艦隊司令官ジョバリエ・マックラン中将に、地球防衛軍総司令官ジャックリン・セイバー大将さらにヤタガラ星系地球大使のジョージ・トンプソンの他諸補佐官が8名出席している。

 最初に、地球防衛軍からヤタガラ星からの連絡と、その結果として緊急展開艦隊派遣までのいきさつが、ジョージ・トンプソンとジャックリン・セイバー大将から語られ、さらにシーラムム帝国の超大型戦闘艦との戦いの推移と結果が、緊急展開艦隊司令官ジョバリエ・マックラン中将から説明された。

 シカマール特使等から、地球連邦とシーラムム帝国の間の友好条約及び通商条約のたたき台の説明があった。さらに同特使から、地球を含めて三十七か国(三十七星系)からなる、地球友好同盟とシーラムム帝国との友好条約のたたき台の説明があった。

 ちなみに、二〇二八年の現時点において、地球連邦としての骨格はほぼ固まっている。
 すなわち、ホープ星及びホランゾン改めミルシャーナ星の臨時政府を含めて七十五の国が代議員を出して連邦議会が構成されている。

 このうち旧G7が優先自決権を持っているが拒否権などはない。さらに2035年にはホープ星及びミルシャーナ星政府が、同様に優先議決権を得ることになっている。これらの惑星は、今は連邦政府による行政官に治められているが、選挙による政府を成立させた場合は、それそれ一つの惑星を代表しているという意味合いからの割り当てだ。

 また、現状では税金の7割が各国政府、3割が連邦政府に入るようになっており、連邦政府は星系間の外交及び所得3倍増計画を始め地球全体の力の底上げを担っているほかに、地球防衛軍をコントロールして地球防衛の任を担っている。

 所得3倍増計画の経過は極めて順調であり、すでに過去開発途上国と言われていた諸国については、連邦政府からの莫大な資金投入の元に迅速で計画的な開発が続けられてきた結果、そのGDPはすでに3倍をはるかに上回って、現状で最低の国でも一人1万ドルに達している。

 一方で、いわゆる先進国およびそのレベルに近かった国々については連邦政府からの直接投資が無かったこともあってその所得の伸びが緩い。さらに、商取引手法等が地球頭脳により改められて、富むものにより富が集まるようなシステムが変更されて、より広く分配されるシステムになってきている。

 これについては、当然富裕層から猛烈な非難があったが、地球頭脳により、それまでのシステムが如何に富むものに富が集まるシステムになっていたかを暴かれ、世論が完全に従来の経済システムへの不信、熱狂的な変革への期待が高まり富裕層が声を出すことができなくなった。

 さらには、その世論の元に、そうした自分たちに都合のいいシステムで富を築き上げてきた富裕層への風当たりが極めて強くなり、その風の中で税制も累進課税の強化、相続税の適用によって富裕層が世代を超えて存続が出来なくなるシステムへと変わっていった。

 商取引については、大企業、財閥を中心とする大資本が、地球頭脳のよる広く利益を分散させようとする資本支配に抗ったが、全地球および他の2惑星で巨額な資金を運用している連邦政府に敵うわけはなく、なすすべもなくその変更に追随するしかなかった。

 このように、地球は、国・地域による格差が是正され、さらに個人の格差も是正されるように動いているのである。この変化については、『共産主義化』という非難が出されて、とりわけ共産主義を嫌悪する人が多いアメリカ合衆国において声高に非難された。これに対して、阿賀連邦大統領の有名な演説がこの非難に答えている。

「確かに、今連邦で全地球および2つの植民惑星に対して進めている改革は、共産主義化に向かっていると言えばそうかも知れません。しかし、皆さん考えてみてください。過去世界一の金持ちは千億ドルの資産を持っていましたし、わずか六七人の最も富裕な人の財産は残りの半数の人三十五億人の持つ財と等しいという事実がありました。
 どういう手段でその富を築いたのか知りませんが、そういうシステムが存在していた、そして今も部分的に存在していることは事実であります。ある個人にそのような巨額な財が必要でしょうか?

 普通に働きながら、食べて、衣類を着て、住んで、ある程度の楽しみに費用を費やしても、生活するだけなら、一人年間1万ドルあれば十分でしょう。どうやっても使い切れない巨額の財産を持っている人は往々にしてもっとその財を増やそうとします。
 そして、財産が大きければ大きいほどそれは可能で、容易だったのです。間違いなく、今連邦政府のよって改められる前のシステムを続けた場合には、富の偏在はもっと進んでいたでしょう。

 今連邦が進めている所得3倍増計画を始める前の時点で、全地球の平均のGDPは一人当たりにして約8千ドルでした。8千ドルあれば、豊かでないにしても十分生活は出来ます。しかし、その世界においては、七十数億人の内十億人が飢えていました。これはなぜか?明らかに富の偏在のためです。
 これを我々、とりわけ豊かな国々の我々は見て見ぬ振りをしました。実際私も、日本と言う国の政治の責任者でしたのでよくわかっていますが、その日本でも貧困者は居て餓死する人もいたのです。

 ですから、政治家として世界の飢えている人を救えとは言えませんでしたし、もしそういえば日本の問題を解決するのが先だろうと言われていたでしょう。しかしながら、今私たちは宇宙のかなたに住む長い歴史を持つ進んだシステムと技術を持つ国々と向き合っています。
 しかも、ラザニアム帝国との戦争を通じて、我々の地球はそれらの国々をまとめて軍事的にリーダーシップを取る必要が出てきました。私たち地球人が、これらの人々の前で胸を張って振舞っていくためには、我々地球人の生活が恥ずかしくはないものである必要があると私は思います。

 我々が調べた結果、現在我々が友好関係にある三十六惑星のすべてで、地球の直前の過去ほど富の偏在がひどい国はありませんでした。さらには、所得3倍増計画が始まった段階で、皆さんもご存知の通り、これら三十六惑星の所得の最も低い惑星で地球の2倍ありました。そして、それらの諸惑星の最も低い所得層で平均の半分程度です。これらのすべては地球より大幅に長い文明社会の歴史をもっており、安定した社会を築いてきた結果そうなったのです」

 阿賀大統領は、カメラを見つめる少し間を置く。
「共産主義?何が悪いのですか。三十六惑星の進化の歴史が示しています。社会の成熟、進化は少なくとも財の平準化に向くのです。つまり我々はまだ未熟で野蛮なのです。
 富を持つことが成功と考えられるような社会は未熟なのです。過去において、共産主義は試されましたが、残念ながら人間の未熟さによって明らかに失敗に終わりました。つまり、人間には共産主義は早すぎたのです。

 そこにおいて、いま地球連邦は地球頭脳というバイアスが全くかかっていない道具を使うことで、限りある財を最も効率よく使って人々が快適かつ楽しく暮らせるような社会を作ることを進めています。
 これを共産主義化と呼ぶなら呼んでください。そして、宇宙の中で進歩した種族として胸をはるために、もう富を築くことが成功と考えるのはやめましょう」

 阿賀大統領はもう一度言葉を切って、目線をいったん下げた後再度カメラを見つめて再度話始める。
「もう一つ大事なことがあります。それは、知能強化プログラムの進捗です。ご存知のように、連邦政府は2025年に最初は12歳から20歳の若者に対して知能強化処置を処方して、その後は子供が12歳になり次第処方しています。この知能強化によってご存知のように大体元の知能の1.5~1.7倍に向上します。
 このプログラムを初めてすでに6年ですが、この間に続々と若き天才が生まれておりまして、これは当然若者人口の多い国ほど知能強化を受ける若者が多いのです。ですから、出生率の高い途上国と言われていた地域からそうした天才が多く生まれています。

 間違いなく、知的能力の高い人材は国の力を高めますから、いわゆる途上国と言われた地域がこの所得3倍増計画とあいまって逆に先進国になる日も間近かもしれませんね。
 その、知能強化を受けた人材の特徴として、富に対する執着が薄いという点が指摘されています。こうしたことからも、進化した人類は富の蓄積を成功とは考えないのだろうと思っています。ご清聴ありがとうございました」

 この阿賀の演説は永く様々なところで引用されるほど好評で、結果として連邦政府の政策への表だっての非難は収まった。

 さて、話は逸れたがシーラムム帝国との交戦、その後一転して友好条約と通商条約交渉となった点について、まず地球防衛軍総司令官のジャックリン・セイバー大将から、敵艦との戦いに引き込まれたことになったことについて、やむを得なったことの追認と、結果についての賞賛があった。

「ヤタガラ星をいわば人質に取られた以上、戦いに引きずり込まれた点はやむを得んな。しかし、シーラムム帝国の兵員がアバターであるとはな。
 人体を脳まで全く同じように複製し、記憶を自由に移し替え、また休止中の肉体を劣化の無いように保管して、必要に応じていつでも復活できる。想像も出来ないテクノロジーの差だ。しかし、莫大な費用がかかるはずであるし、それでも実用化するというのは、それをもってしても文明国であることがわかるな」
 ジャックリン・セイバー大将が言う。

「その割に、わが方がたぶんアバターを使っていないのは承知のうえで、戦闘を強要するのは余り文明人らしくは無いですな」
 部下の死亡について、家族に悔やみの言葉を送る必要のある、マックラン中将はぼやいて言う。

「たしかに、今回戦死された方々は大変残念ですが、彼らの犠牲があればこそ、今回のようにシーラムム帝国のようにまともに戦えば絶対に敵わない相手と対等な条約を結べます。
 それにつけても、マックラン中将の指揮による戦いは誠に見事でした。なにより、あのマイクロジャンプの使いかたが今回あの超大型艦を撃破できた鍵ですね」
 阿賀大統領が褒める。

「いえ、私どもの緊急展開艦隊には、超空間攻撃システムを積んだギャラクシー型は配備されていません。ですが、超空間攻撃システムはいずれにせよ近く防御方法が開発されるというのが私の考えで、よく中央研究所に牧村誠司博士を訪ねて相談に行っていたのですよ。マイクロジャンプは牧村博士の指導のおかげで実用化出来ました」
 マックラン中将が言い、阿賀大統領は驚いて誠司を見る。

「ええ、私も超空間攻撃システムは、何時かは防御方法を開発されるとは思っていましたが、シーラムム帝国が正確にシステムを把握している所をみるとまず間違いなく防御法も攻撃法も判っていると思います。
 マイクロジャンプは確かに安全マージンを削り取ることで実用化はしていますが、実際のところ危険性は殆どありません。あれは、単に制御方法のシーケンスを少し弄れば実施できるのですよ。
 でも、大きな相対速度を持たせた無人攻撃機をいわば特攻に使うのは全くマックラン中将のオリジナルです。見事な作戦でした」
 誠司が淡々と言う。

「しかし、超空間攻撃システムが無力化されてしまう、さらに敵がそのシステムを備えている場合には、防御法を備えないといつこちらがやられるかもしれない。防御法はあるのでしょうか?」
 そのように、今後は総司令官セイバー大将が心配して言う。

「防ぐ方法は超空間タグの精密探知を妨害してやればいいので、問題ないですよ。超空間攻撃システムにアタッチメントを付けて、ソフトを少し弄ればいいのでむつかしくはありません。すぐ、アタッチメントは量産させます」
 誠司が何でもないように言うが、セイバー大将が続いて心配そうに言う。

「それも問題だが、わが軍の決定的な兵器が無力化されたというのも大問題だ。シーラムム帝国は、あの超大型艦が2千隻以上配備しているというから、とても殴り合いでは勝てないだろう」

「ええ、今回のマックラン中将の戦いがヒントになって考えていることがありますから、近く何とかなると思います」誠司が答える。

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