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第5章 銀河宇宙との出会い
5.6 シーラムム帝国のラザニアム帝国断罪
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流石にシーラムム帝国はラザニアム帝国断罪への手際のレベルが違っていた。
ヤタガラ星の協議からわずか1週間後、地球への超空間通信による打診があって、これを受けて地球も同盟国、並びにミルシャーナ星のシャーナ人へのラザニアム帝国断罪の会議への出席の打診と依頼を行った。
これは、同盟諸国には、シーララム帝国議会におけるラザニアム帝国への裁きの場へ参加打診であるが、地球と滅ぼされかけたシャーナ人は参加が必須であるので、シャーナ人の代表へは出席依頼である。地球の同盟諸国へは、ラザニアム帝国への技術漏洩を恐れてこれまで超空間通信の技術を公開していなかった。
これは、地球とラザニアム帝国の戦役の時点ではラザニアム帝国は超空間通信の技術を持っておらず、この技術を獲得した場合には比較的容易に超空間攻撃システムの防御方法を開発することが出来るからである。
しかし、シーラムム帝国がその防御の技術をすでに持っていること、さらにシーラムム帝国がラザニアム帝国を無罪とすることはないと考えらえれることから、同盟諸国へもその技術を公開して、当面地球防衛軍の連絡所に置いてあるものを使わせるようにした。
これで、同盟諸国との今回の参加要請がスムーズにいくようになったのだ。ちなみに前章で述べたように、ラザニアム帝国は、すでに超空間通信と超空間攻撃システムの防御方法はすでに開発済であるため、この措置は結果的に正しい。その結果として、36の同盟諸国の内、独立を保ったアサカラ星を除いた35の内で、12個の惑星が証言に立つことを表明した。
同盟諸国についてはシーラムム帝国の連絡船3隻が代表者の迎えに行ったが、地球に関しては、自らシーラムム帝国の帝都のあるマズラ・シーララム星に行くことを希望して許された。そこで、ミルシャーナ星のシャーナ人の移動は地球が引き受けた。
なおラザニアム帝国の関係者の召喚は無論強制であり、シーラムム帝国自らが当たる。
ある日、ラザニアム帝国の帝都のあるラザニアム星系に、シーラムム帝国の巨大戦闘艦が出現して、悠々と恒星系内を移動して帝都惑星に迫ってきた。それに対応して、ラザニアム帝国のなけなしの6艦の大型戦闘艦が巨大戦闘艦に迫って警告した。
「こちらは、ラザニアム帝国防衛隊、何の目的でこの星系に現れたか。目的と所属を明らかにせよ。さもなくば攻撃する」
それに対して巨大艦から回答がある。
「こちらはシーラムム帝国の第21宇宙艦隊に属するシラムムス17号である。我がシーラムム帝国議会の名において貴国政府に通達がある。そちらの帝都惑星に大きな遅れ無しに電波の届く距離1千万㎞までまで接近する。妨害するもの排除する」
その通達に、ラザニアム帝国の艦隊司令官は攻撃指令を出す。
「帝都惑星まで、その距離まで近づけるわけにはいかん。攻撃する!」
その通告と共に、最も接近していた2艦から亜光速ミサイル百発を撃ち放った。それに対して、シラムムス17号からは熱線砲が放たれ、その太い熱線に触れたミサイルはたちまち蒸発して消滅し、さらにその光の棒はミサイルを放った2艦を薙ぐ。
その結果、2艦とも船体を大きく抉られ全艦の機能を停止した。
「こちらはシラムムス一七号だ。そちらのなけなしの艦全てを廃艦にするか?おとなしく通せ。少なくとも惑星には触れない」
この通告にラザニアム帝国の戦闘艦は退くしかなかった。
惑星に近づいたシラムムス17号から、惑星すべての放送・通信機能を占領するほどの大容量の電波による通告がされた。
「こちらはシーラムム帝国の第21宇宙艦隊に属するシラムムス17号である。シーラムム帝国議会の名において通告する。ラザニアム帝国とその責任者に対して、お前たちが過去成してきた多数の民族虐殺の罪により、我がシーラムム帝国議会の特別聴聞会への召喚が決定された。
貴星の自転5回の後に今から連絡する座標に我が連絡船が迎えに訪れる。10人以下の責任者の代表団を選定して、連絡する座標に待機せよ。拒否は許されない。
わが力を示すために、今から2時間後に、12基の惑星周囲の軌道にある要塞を破壊するので要員は今から退去させよ」
ラザニアム帝国においては、当然皇帝もその政府の要人も同時にこの放送は受け取っており、皇帝は宰相及び軌道要塞を管轄する軍務大臣に命を下す。
「シーラムム帝国は人権などという世迷言を掲げている政体だ。要塞からの退去はするな。かれらの命が要塞の破壊に対する保険になる」
しかしながら、2時間後に超巨大戦闘艦シラムムス十七号の直近の軌道要塞が、1つは例の熱線砲でその中央を打ち抜かれ、さらに熱線がその破壊の拡大していく。もう1基は大口径レールガンであろうが白熱した小爆発が要塞の中央に起きそこに巨大な白熱する穴が空いた。いずれも、乗員約1万名に殆ど生存者はいないだろう。
「われを試すな。1時間後に残り十基を破壊する」
シラムムス17号からの通告である。
「皇帝陛下、これはやむを得ません。乗員を退去させましょう。いたずらに、臣民の命を損ねるだけです」
宰相が皇帝に進言する。
この時点では、シーラムム帝国に捕らえられた探険船はすでに解放されて帝都星に帰っていたため、そのシーラムム帝国の途方もない国力と桁違いの戦力、また、ラザニアム帝国が過去に多くの民族を殺戮したことを責められるであろうことは知らされていたのだ。
ちなみに、探険船の幹部はシーラムム帝国でいらざるトラブルを起こし、さらにシーラムム帝国にあらゆるデータを渡したということで処刑されている。しかし、自分の版図における絶対的な立場からこうして他惑星に傍若無人の態度をとり、情報の秘匿の重要性の意識が薄いのはラザニアム帝国のとりわけ軍人の伝統である。しかし、結果が悪ければ責任を取らされるのもまた伝統である。
皇帝は宰相に同意して軍務大事に命令する。
「残念ながら効果は無かったな。要塞から乗員は直ちに退去させよ。それから、シーラムム帝国へ回答せよ。『わが帝国から責任者を選んで指定の地点・時間に送る』とな」
これに対して、軍務大臣、宰相が「陛下の仰せのとおりに」と従う。
ラザニアム帝国の皇帝以下の幹部が集まっての会議である。すでに、軌道要塞はすべてその中央を大きく撃ち抜かれて破壊されているが、シーラムム帝国は親切にも破片が飛び散ることで、ラザニアム星に落ちないように斥力装置を使って、残骸を集めている。
最初に宰相が言う。
「今回については、最大の問題はシーラムム帝国が我が帝国の重要な情報を全て把握していることです。また、探険船が知らされきた情報によると、彼我の戦力の差は仮に地球からの艦隊の奪取がなくとも絶対的なものであるということです。軍事的にはどうあっても勝てないでしょう」
宰相が言いながら軍務大臣を見ると、大臣も頷く。
「はい、しかも今や我にまともな戦力はありませんので、敵わぬまでもの抵抗もできません」
「うむ、それを承知しているがゆえに、余は彼らの要求をのまざるを得ないと判断したのだ。いずれにせよ拒否できないような条件を出してこようし、軌道要塞への措置を見る限り、彼らは我々がそれによって被る被害には基本的には受容しよう」
皇帝が冷静に言うが、内務大臣が激高して叫ぶ。
「皇帝陛下が、いかに相手が巨大とはいえ、そのような我が帝国の栄光を汚すような召喚に応じて、罪人のごとく裁かれることを決断するとは。陛下にはラザニアム帝国の誇りはないのですか!」
「この件は、我が帝国の根本的なドクトリンに沿ってやってきたことを、他の巨大な国家群とも交流のあるシーラムム帝国という存在にとって許されないということで咎めてきたものだ。
確かに我々の考えでは、弱者は強者に何をされても受容するしかないということだ。しかし、残念ながら我々の帝国は絶対的な強者ではなかったのだ。おまえは、そのように言うが、判っているのか?かの地球人が我々を滅ぼそうと思えば滅ぼせたことを」
皇帝が反論する。
「そ、そのようなことはあり得ない!あのような軟弱な民族が、あ奴らにはそのような強さは無いのです」
「弱いものを好きなように扱う、ということが強いということなら、我々は確かに強かったな。しかし、今や我々は弱い存在になり下がった。地球どころか、かっては隷属させていた民族にも敵わない。ましておや、シーラムム帝国などと言う強大な相手にはな。
忘れてはならんのは、かっての我々の論理から言えば、我々ラザニアム帝国を滅ぼし、臣民を皆殺しにするのは合理的な判断であるということだ。しかし、地球もシーラムム帝国も違う判断基準をもっているので、裁くという迂遠なことをしようとしているのだ。
お前は感情的になっているだけだ。宰相、この者は今の地位はふさわしくない。処刑せよ」
内務大臣の言葉に対して皇帝はあくまで冷静に言って宰相に命じる。
「はい陛下お心のままに」
宰相は頭を下げ衛兵を呼び、衛兵が当該大臣を連れ去る。
「さて、今回の裁きは、いずれにせよ逃れられない。また、その結果は我々の価値判断からすれば、我が民族すべてを抹殺するという結論しかない。
しかしながら、シーラムム帝国の者たちの判断基準はまた異なる。余はすでに表明しているように、わが帝国の弱い者は抹殺して良いという判断基準は、我々も弱い存在になるうるということが明らかになった現在では捨てなければならない。
また、シーラムム帝国は、自らが十分豊かであることから弱者から財を取りあげることはしない。そういう意味では、わが帝国の成してきたことは彼らの論理から言えば、厳しく罰すべき行為であろう」
会議の場に出席している一同からすれば、皇帝のいうことは論理的に正しいことは明らかである。
皇帝はさらに続ける。
「今回の裁きは、我々の態度・出方次第では民族抹殺もあり得る」
その言葉に流石に出席者の顔色が変わるのを見ながら皇帝は続ける。
「しかし、彼らはそうはしたくない。それは、彼らの帝国の統治のあり方を見れば明らかである。しかし、無罪はまたあり得ない。従って、余の方針は、まず我々の在り方が誤っていた、罪であったことを認める。
そして、今後わが帝国は、その罪を償うために賠償金を現在支払っているわけであるのでこれは誠意をもって続ける。さらに、滅ぼした民族に対してはすでに惑星は取り上げられているが、わが帝国が集めて整理している個々の民族の記録を収めた記念館をそれぞれの惑星に建て我々が悔いている証とする。
しかし、これでは不十分だろう」
皇帝は出席者を見渡すと、大半のものは頷いている。
「こうして、わが民族の存続そのものを危うくさせたような誤った政策を続けてきた、余、並びに歴代の皇帝は罰せられるべきである。この度の裁きには余、自ら出席する。
その際のこのように述べ、余は自死または処刑されることを申し出る、さらに歴代の皇帝については、記念館を建てて誤った政策を行ってきたものであることを明記する。このように、この度わがラザニアム帝国は帝政を終え、共和制に移行する」
そう言って皇帝は出席者を見渡す。
「へ、陛下!」
宰相は皇帝に向かって手を差し伸べるがやがて俯く。このようにラザニアム帝国としての最後の会議は終わった。
シーラムム帝国議会の特別議会への地球からの出席者は、連邦政府の外務大臣ファアガ・フェルナンドにシーラムム帝国担当になったマリア・キャンベルに決まった。使った船は、連邦政府専用船として作られたスターオーシャン号であり、さまざまな分野の専門家による調査チームが乗り込んでいるが、誠司もあらゆるコネを使いまくって恵一と一緒に乗っている。
ことし三十四歳になった誠司は、いままで、同盟惑星に何度も行こうとしたが、多忙というか、彼を離したくない勢力に妨げられて果たせず、今回は阿賀大統領に直談判してようやく果たせたのだ。
巨大国家シーラムム帝国の帝都星であるマズラ・シーラムムは、太陽系から二千二百光年の彼方にあり太陽に似た恒星マズラ星から1億4千万㎞の距離を公転している。惑星直径は地球の1.2倍であるが、密度が小さいために重力はほぼ地球と同じであり、海の面積が表面積の半分しかないので陸地は極めて広大である。
この惑星には八十八億の人口が集中しているが、十万年の歴史のなかで大地の改良が進んで、高山を除き不毛の大地がないため、人々は緑豊かな里にゆったりと暮らしている。主都機能のある都市はさすがに中心部はビルが集中しているが、高さはせいぜい百mに抑えられていて、さまざまな意匠をこらした建物がさまざまな向き、形で混沌としているようで、どこを見ても気持ちが安らぐ空間を作っている。
ヤタガラ星の協議からわずか1週間後、地球への超空間通信による打診があって、これを受けて地球も同盟国、並びにミルシャーナ星のシャーナ人へのラザニアム帝国断罪の会議への出席の打診と依頼を行った。
これは、同盟諸国には、シーララム帝国議会におけるラザニアム帝国への裁きの場へ参加打診であるが、地球と滅ぼされかけたシャーナ人は参加が必須であるので、シャーナ人の代表へは出席依頼である。地球の同盟諸国へは、ラザニアム帝国への技術漏洩を恐れてこれまで超空間通信の技術を公開していなかった。
これは、地球とラザニアム帝国の戦役の時点ではラザニアム帝国は超空間通信の技術を持っておらず、この技術を獲得した場合には比較的容易に超空間攻撃システムの防御方法を開発することが出来るからである。
しかし、シーラムム帝国がその防御の技術をすでに持っていること、さらにシーラムム帝国がラザニアム帝国を無罪とすることはないと考えらえれることから、同盟諸国へもその技術を公開して、当面地球防衛軍の連絡所に置いてあるものを使わせるようにした。
これで、同盟諸国との今回の参加要請がスムーズにいくようになったのだ。ちなみに前章で述べたように、ラザニアム帝国は、すでに超空間通信と超空間攻撃システムの防御方法はすでに開発済であるため、この措置は結果的に正しい。その結果として、36の同盟諸国の内、独立を保ったアサカラ星を除いた35の内で、12個の惑星が証言に立つことを表明した。
同盟諸国についてはシーラムム帝国の連絡船3隻が代表者の迎えに行ったが、地球に関しては、自らシーラムム帝国の帝都のあるマズラ・シーララム星に行くことを希望して許された。そこで、ミルシャーナ星のシャーナ人の移動は地球が引き受けた。
なおラザニアム帝国の関係者の召喚は無論強制であり、シーラムム帝国自らが当たる。
ある日、ラザニアム帝国の帝都のあるラザニアム星系に、シーラムム帝国の巨大戦闘艦が出現して、悠々と恒星系内を移動して帝都惑星に迫ってきた。それに対応して、ラザニアム帝国のなけなしの6艦の大型戦闘艦が巨大戦闘艦に迫って警告した。
「こちらは、ラザニアム帝国防衛隊、何の目的でこの星系に現れたか。目的と所属を明らかにせよ。さもなくば攻撃する」
それに対して巨大艦から回答がある。
「こちらはシーラムム帝国の第21宇宙艦隊に属するシラムムス17号である。我がシーラムム帝国議会の名において貴国政府に通達がある。そちらの帝都惑星に大きな遅れ無しに電波の届く距離1千万㎞までまで接近する。妨害するもの排除する」
その通達に、ラザニアム帝国の艦隊司令官は攻撃指令を出す。
「帝都惑星まで、その距離まで近づけるわけにはいかん。攻撃する!」
その通告と共に、最も接近していた2艦から亜光速ミサイル百発を撃ち放った。それに対して、シラムムス17号からは熱線砲が放たれ、その太い熱線に触れたミサイルはたちまち蒸発して消滅し、さらにその光の棒はミサイルを放った2艦を薙ぐ。
その結果、2艦とも船体を大きく抉られ全艦の機能を停止した。
「こちらはシラムムス一七号だ。そちらのなけなしの艦全てを廃艦にするか?おとなしく通せ。少なくとも惑星には触れない」
この通告にラザニアム帝国の戦闘艦は退くしかなかった。
惑星に近づいたシラムムス17号から、惑星すべての放送・通信機能を占領するほどの大容量の電波による通告がされた。
「こちらはシーラムム帝国の第21宇宙艦隊に属するシラムムス17号である。シーラムム帝国議会の名において通告する。ラザニアム帝国とその責任者に対して、お前たちが過去成してきた多数の民族虐殺の罪により、我がシーラムム帝国議会の特別聴聞会への召喚が決定された。
貴星の自転5回の後に今から連絡する座標に我が連絡船が迎えに訪れる。10人以下の責任者の代表団を選定して、連絡する座標に待機せよ。拒否は許されない。
わが力を示すために、今から2時間後に、12基の惑星周囲の軌道にある要塞を破壊するので要員は今から退去させよ」
ラザニアム帝国においては、当然皇帝もその政府の要人も同時にこの放送は受け取っており、皇帝は宰相及び軌道要塞を管轄する軍務大臣に命を下す。
「シーラムム帝国は人権などという世迷言を掲げている政体だ。要塞からの退去はするな。かれらの命が要塞の破壊に対する保険になる」
しかしながら、2時間後に超巨大戦闘艦シラムムス十七号の直近の軌道要塞が、1つは例の熱線砲でその中央を打ち抜かれ、さらに熱線がその破壊の拡大していく。もう1基は大口径レールガンであろうが白熱した小爆発が要塞の中央に起きそこに巨大な白熱する穴が空いた。いずれも、乗員約1万名に殆ど生存者はいないだろう。
「われを試すな。1時間後に残り十基を破壊する」
シラムムス17号からの通告である。
「皇帝陛下、これはやむを得ません。乗員を退去させましょう。いたずらに、臣民の命を損ねるだけです」
宰相が皇帝に進言する。
この時点では、シーラムム帝国に捕らえられた探険船はすでに解放されて帝都星に帰っていたため、そのシーラムム帝国の途方もない国力と桁違いの戦力、また、ラザニアム帝国が過去に多くの民族を殺戮したことを責められるであろうことは知らされていたのだ。
ちなみに、探険船の幹部はシーラムム帝国でいらざるトラブルを起こし、さらにシーラムム帝国にあらゆるデータを渡したということで処刑されている。しかし、自分の版図における絶対的な立場からこうして他惑星に傍若無人の態度をとり、情報の秘匿の重要性の意識が薄いのはラザニアム帝国のとりわけ軍人の伝統である。しかし、結果が悪ければ責任を取らされるのもまた伝統である。
皇帝は宰相に同意して軍務大事に命令する。
「残念ながら効果は無かったな。要塞から乗員は直ちに退去させよ。それから、シーラムム帝国へ回答せよ。『わが帝国から責任者を選んで指定の地点・時間に送る』とな」
これに対して、軍務大臣、宰相が「陛下の仰せのとおりに」と従う。
ラザニアム帝国の皇帝以下の幹部が集まっての会議である。すでに、軌道要塞はすべてその中央を大きく撃ち抜かれて破壊されているが、シーラムム帝国は親切にも破片が飛び散ることで、ラザニアム星に落ちないように斥力装置を使って、残骸を集めている。
最初に宰相が言う。
「今回については、最大の問題はシーラムム帝国が我が帝国の重要な情報を全て把握していることです。また、探険船が知らされきた情報によると、彼我の戦力の差は仮に地球からの艦隊の奪取がなくとも絶対的なものであるということです。軍事的にはどうあっても勝てないでしょう」
宰相が言いながら軍務大臣を見ると、大臣も頷く。
「はい、しかも今や我にまともな戦力はありませんので、敵わぬまでもの抵抗もできません」
「うむ、それを承知しているがゆえに、余は彼らの要求をのまざるを得ないと判断したのだ。いずれにせよ拒否できないような条件を出してこようし、軌道要塞への措置を見る限り、彼らは我々がそれによって被る被害には基本的には受容しよう」
皇帝が冷静に言うが、内務大臣が激高して叫ぶ。
「皇帝陛下が、いかに相手が巨大とはいえ、そのような我が帝国の栄光を汚すような召喚に応じて、罪人のごとく裁かれることを決断するとは。陛下にはラザニアム帝国の誇りはないのですか!」
「この件は、我が帝国の根本的なドクトリンに沿ってやってきたことを、他の巨大な国家群とも交流のあるシーラムム帝国という存在にとって許されないということで咎めてきたものだ。
確かに我々の考えでは、弱者は強者に何をされても受容するしかないということだ。しかし、残念ながら我々の帝国は絶対的な強者ではなかったのだ。おまえは、そのように言うが、判っているのか?かの地球人が我々を滅ぼそうと思えば滅ぼせたことを」
皇帝が反論する。
「そ、そのようなことはあり得ない!あのような軟弱な民族が、あ奴らにはそのような強さは無いのです」
「弱いものを好きなように扱う、ということが強いということなら、我々は確かに強かったな。しかし、今や我々は弱い存在になり下がった。地球どころか、かっては隷属させていた民族にも敵わない。ましておや、シーラムム帝国などと言う強大な相手にはな。
忘れてはならんのは、かっての我々の論理から言えば、我々ラザニアム帝国を滅ぼし、臣民を皆殺しにするのは合理的な判断であるということだ。しかし、地球もシーラムム帝国も違う判断基準をもっているので、裁くという迂遠なことをしようとしているのだ。
お前は感情的になっているだけだ。宰相、この者は今の地位はふさわしくない。処刑せよ」
内務大臣の言葉に対して皇帝はあくまで冷静に言って宰相に命じる。
「はい陛下お心のままに」
宰相は頭を下げ衛兵を呼び、衛兵が当該大臣を連れ去る。
「さて、今回の裁きは、いずれにせよ逃れられない。また、その結果は我々の価値判断からすれば、我が民族すべてを抹殺するという結論しかない。
しかしながら、シーラムム帝国の者たちの判断基準はまた異なる。余はすでに表明しているように、わが帝国の弱い者は抹殺して良いという判断基準は、我々も弱い存在になるうるということが明らかになった現在では捨てなければならない。
また、シーラムム帝国は、自らが十分豊かであることから弱者から財を取りあげることはしない。そういう意味では、わが帝国の成してきたことは彼らの論理から言えば、厳しく罰すべき行為であろう」
会議の場に出席している一同からすれば、皇帝のいうことは論理的に正しいことは明らかである。
皇帝はさらに続ける。
「今回の裁きは、我々の態度・出方次第では民族抹殺もあり得る」
その言葉に流石に出席者の顔色が変わるのを見ながら皇帝は続ける。
「しかし、彼らはそうはしたくない。それは、彼らの帝国の統治のあり方を見れば明らかである。しかし、無罪はまたあり得ない。従って、余の方針は、まず我々の在り方が誤っていた、罪であったことを認める。
そして、今後わが帝国は、その罪を償うために賠償金を現在支払っているわけであるのでこれは誠意をもって続ける。さらに、滅ぼした民族に対してはすでに惑星は取り上げられているが、わが帝国が集めて整理している個々の民族の記録を収めた記念館をそれぞれの惑星に建て我々が悔いている証とする。
しかし、これでは不十分だろう」
皇帝は出席者を見渡すと、大半のものは頷いている。
「こうして、わが民族の存続そのものを危うくさせたような誤った政策を続けてきた、余、並びに歴代の皇帝は罰せられるべきである。この度の裁きには余、自ら出席する。
その際のこのように述べ、余は自死または処刑されることを申し出る、さらに歴代の皇帝については、記念館を建てて誤った政策を行ってきたものであることを明記する。このように、この度わがラザニアム帝国は帝政を終え、共和制に移行する」
そう言って皇帝は出席者を見渡す。
「へ、陛下!」
宰相は皇帝に向かって手を差し伸べるがやがて俯く。このようにラザニアム帝国としての最後の会議は終わった。
シーラムム帝国議会の特別議会への地球からの出席者は、連邦政府の外務大臣ファアガ・フェルナンドにシーラムム帝国担当になったマリア・キャンベルに決まった。使った船は、連邦政府専用船として作られたスターオーシャン号であり、さまざまな分野の専門家による調査チームが乗り込んでいるが、誠司もあらゆるコネを使いまくって恵一と一緒に乗っている。
ことし三十四歳になった誠司は、いままで、同盟惑星に何度も行こうとしたが、多忙というか、彼を離したくない勢力に妨げられて果たせず、今回は阿賀大統領に直談判してようやく果たせたのだ。
巨大国家シーラムム帝国の帝都星であるマズラ・シーラムムは、太陽系から二千二百光年の彼方にあり太陽に似た恒星マズラ星から1億4千万㎞の距離を公転している。惑星直径は地球の1.2倍であるが、密度が小さいために重力はほぼ地球と同じであり、海の面積が表面積の半分しかないので陸地は極めて広大である。
この惑星には八十八億の人口が集中しているが、十万年の歴史のなかで大地の改良が進んで、高山を除き不毛の大地がないため、人々は緑豊かな里にゆったりと暮らしている。主都機能のある都市はさすがに中心部はビルが集中しているが、高さはせいぜい百mに抑えられていて、さまざまな意匠をこらした建物がさまざまな向き、形で混沌としているようで、どこを見ても気持ちが安らぐ空間を作っている。
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