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第5章 銀河宇宙との出会い

5.16 銀河防衛軍の戦い2

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 皆川艦長のガイア335号艦はイーター移転点のDで、イーター浸食拡大防止の作戦に従事していた。
 先日の会議において、銀河防衛軍の方針が、現在イーター汚染の拡大が続いている転移点B、C,Dについて現状で改修の済んだ艦を活用してイーターの拡大防止策を取ることになったのだ。こうして汚染の拡大を食い止め、イーター吸引装置を設置した超大型艦が完成する都度、イーターに汚染された惑星の浄化を行うことになっている。

 しかし、今後の浄化措置は、惑星にとりついたイーターの体組織を吸入して殺す処理であるため、前に転移中で宇宙空間にその体全体が存在していた場合より効率が悪く、イーター吸入装置を設置した2艦の超大型艦がかかっても小イーターに分裂させて個々に殺処分できるまで大体100日を要する。

 この改修中の超大型艦は2,000艦であり、超大型艦2艦が組んで年間3惑星のイーターを浄化でき、さらに作戦会議の時点でイーターに汚染された惑星は25,000個以上あるため、全艦の改修が終了するまで1年かかることを考慮すると、全体で約9年以上の実施期間が必要になる。

 ちなみに、イーター拡大のメカニズムは、まず惑星を取り込んだ時点で、通常数10億の知的生命やその家畜の生命力を吸い取ることで大きくその体重量を増加させ、十分な生命力が得られた場合には直ちに別の惑星にその腕を延伸させて、別の惑星を取り込むことでその生息範囲を拡大していくことになる。

 また、同時に惑星を改造して、繁殖力の強い原始的な生物が生息しやすい熱帯・温帯雨林にしてその生息に敵した形にする。巨大惑星の場合には、環境を物理的な変えることはないが、やはり繁殖力の強い生物を選択的に残して繁殖させる。

 こうして、吸収できる生命を増やしてできるだけその体を大きくして、その体を細く伸ばし、さらに超空間に潜り込みつつ別の星系に拡大していくのだ。先日の新しい転移点での戦いのように、このような移動時のイーターは比較的脆弱であるため、ゼータ照射によってイーターの移動を防げることが出来ることが確かめられた。

 そこで、比較的早く改修が進んでいるガイア型レベルのゼータ照射砲搭載艦をB,C,D各転移点に500艦ずつ配置して、重力検知と超空間検知を併用してイーターの移動を検知して、その結果に基づいて長く伸ばしたイーターをずたずたに切り割いていく。この結果として小イーターに分裂したものを、さらにゼータ照射で殲滅していくのである。

 転移点Dでは、ガイア型の大きさに近いシーラムム帝国の超空間ジャンプ船ミズマル型1267号艦に座乗する帝国軍のシーラス中将が、司令官としてこの宙域の作戦の指揮を執っている。転移点Dには旗艦を除き500艦が割り当てられているので、5艦ずつの百の艦隊を形成してそれぞれ座標で決められた宙域を割り当てられている。

 各担当宙域では、最初に担当宙域の調査を行って、現に腕を伸ばして拡大中のイーター、及び質量が大きく拡大の可能性が高いものをチェックしている。この調査に基づいて、現に拡大中のイーターを発見した場合にはその分隊は調査を中止して直ちに攻撃にかかり、隣接の宙域を担当する分隊が攻撃中の分隊の宙域の調査を引き継ぐ。このようにして、最初の2週間に35箇所の拡大中のイーターが発見されて攻撃された。

 ガイア335号艦の皆川艦長は分隊司令官となって、同じ地球防衛軍所属のガイア225号艦、228号艦、268号艦及び295号艦を指揮している。彼らの分隊は、担当空域を調査開始後1週間で拡大中のイーターを発見した。
 皆川艦長は、分隊参謀を兼ねているジョン・クラマー副長と共に指令室のイーターの立体映像を見つめていた。この映像は僚艦4隻の艦長も見ている。分隊参謀のクラマー副長が状況を説明し攻撃案を提案する。

「イーターの腕はすでに5光年を越えてきており、彼らの目標の星系まで残り2光年ですね。途中3カ所で超空間に潜っており、通常空間に現れている体の長さは十光分です。最初の潜り込み点をA1で以下A2、A3とし、また通常空間への出現点は同様にB1、B2、B3とします。
 本艦335号がB3を担当し、以下225号がA3、228号がB2、268号がA2、295号がB1を担当して、それぞれセータ砲の照射を行います。

 先の戦訓では、このように移動時には照射は一撫ですれば十分ですが、イーターの再結合を防ぐため100万㎞程度の範囲を照射する必要がありますから、時速10万㎞で照射しながらイーターの体に沿って移動することになります。その結果としてB1-A2、B2-A3及びB3以降は分断されるので、小イーターに分裂するはずです。
 その後は、個々の小イーターを殲滅していきますが、全体で1億8千万㎞の体長の渡っての照射ですので、たぶん2週間位の期間は必要です。従って、最初のイーターの分断に2週間、小イーターの殲滅に2週間ですから、大体1ヵ月の時間が必要です」

 225号艦の艦長のエレナ・ジガールが口をとがらせて言う。
「なにしろ、イーターが馬鹿でかいので時間がかかってしょうがないわねえ」

「そうだな。しかし、なにしろ全作戦の遂行には10年かかろうかという規模の大きい戦いだからね。それで、私はクラマー参謀の作戦でいいと思うが、皆に異論はないかな?」
 皆川が聞くと皆口々に賛成する。
「よし、では実行にかかってくれ。私はシーラス司令官に経過と作戦を報告しておく」

 水と緑に恵まれたジラーラク星は、8つの星系を統べるジラーラク人のふるさとであり、人口は55億人、他の6つの居住惑星を含めるとジラーラク人の人口は230億人に達する、いや達していた。
 すでに、植民惑星3つの住民の生命が失われたことはわかっており、その損失は85億人に達する。最初に、ジラーラク連合政府に植民惑星マゲダから超空間通信による連絡が入ったのは5年前であった。

 その知らせは、次々に人々が苦しみながら死んでいくというものであり、当然最初に疑われたのは疫病であるため、すぐさまマゲダ惑星政府は死亡者が生じている地区を隔離しようとした。しかし、あらゆる努力は無駄であり、その後も連絡が取れなくなる土地がどんどん広がっていき、結局5日の内にマゲダ星からの連絡は絶えた。

 無論、ジラーラク連合政府は迅速に対応した。2日の内に、全てジャンプ船からなる2隻の商船を転用した病院船に5艦の戦闘艦を付けて送り出した。しかし、7隻の艦隊がマゲダ星の軌道に乗ったとき、いきなり巨大な加速をもって襲って来た巨岩によって病院船2隻と3艦の戦闘艦が破壊されたが、2艦の戦闘艦のみは最大加速で逃れつつ、レールガンの連射と斥力装置を過負荷になるまで使ってかろうじて逃れた。

 この混乱の中でマゲダ星からの連絡は途絶え、かろうじてマゲダ星の衛星基地の要員200人ほどが救いだされた。しかし、あらゆる人の手を介した連絡はなくなり、その後の継続的な望遠鏡による観察で、マゲダ星においてはすでにあらゆる人工的な活動は停止していることが確かめられた。

 さらには、農場等の観察から家畜についても横たわって動かないことも確認された。このことから、マゲダ星の30億人及び家畜約120億の生命も失われたものと判断された。
 当然のことながら、このマゲダ星の悲劇は、ジラーラク連合全体大ニュースとして報じられ、人々にとって大きな衝撃を与えた。この結果、この問題は政治的にも大きな圧力となって、ジラーラク連合として早急に何らかの方向を出すことが求められたが、当然政府首脳にとって、一つの惑星が僅か数日で滅びるような事態は傍観できない。

 ジラーラク連合諸惑星は、母星ジラーラクを始め、今般住民が失われたマゲダの他にシラント、ヒタゲ、シーラムラ、アマンドラ、スリムーススの5惑星であるが、いずれもジラーラク星に連合事務所を持っており、ただちに会議を開いて総力を挙げた調査に取り掛かることになった。

 調査は当然、惨劇のあったマゲダ星が中心になったが、連合軍に350艦あるジャンプ可能な艦のうち150艦が近傍の星系で同じような現象が起きていないか確認のための調査に狩りだされた。マゲダ星については、5隻の調査船に30艦の連合軍の戦闘艦が護衛について慎重に調査が進められた。

 結果として、主として三次元精密質量検出器と、飛び交う岩石や土塊または水を避けながら無人機により採取したサンプルの分析結果からイーターの存在が認識された。また、同時に送り出した多数の調査船により酸素の呼吸生物の住む惑星125及び巨大惑星23(ただし、巨大惑星については厚い大気圏内の外にイーターの体が出ていない場合には発見できないので、見落としているものが多いと想定された)がイーターに取り込まれていることが発見された。

 それを、三次元図化して、明らかにイーターがジラーラク連合のテリトリーに迫っていることが見いだされた。
 それからは、ジラーラク連合の最良の人材が集められて、イーターの退治法が研究されたが、発見できない内に人口27億の惑星シラントにイーターの手が伸びているのが見いだされた。最初は糸のような腕が惑星のとりつきそれがぐんぐん太り、シラントの大気中に広がっていくが、当面は広がるだけで犠牲は出ていない。

 発見が遅れたのは、イーターが延ばす腕というか糸を検知できなかったことによるものであるが、すでに惑星にイーターに入り込まれている現在打つ手がない。ここで、惑星政府として対処がまずかったのは、その対策の発表なしに、イーターが惑星に入り込んだ事実を早々に発表してしまったことだ。
 そして、イーターに対して打つ手がないのは周知のことだから、唯一の方法は惑星シラントから逃げ出すしか手がないのは自明のことで、実際にあらゆる人々は宇宙港を目指した。その結果、惑星シラントの宇宙港は地獄になった。

 サーヤは十二歳の少女であり、父は貿易関係の仕事をしていて豊かな家庭に育った。家の居間でのんびりタブレットを弄っていたサーヤは、突然顔色を変えて家に帰って来た父を見て驚いたが、父は構わず叫ぶ。
「おお、サーヤ居たか。良かった。母さん、母さん!すぐ出かけるぞ」

 台所にいた母が血相を変えた夫に驚き問う。
「まあ、あなたどうしたの?」

「イーターが来た。このシラントは全滅する。すぐに逃げ出すぞ。十分でどうしても必要な物だけ持ってきてくれ」
 父の言葉に、「ええ、イーターが!」母は恐怖を目に浮かべ叫び、父が付け加える。

「ああ、もうすぐ、1時間後に発表するらしい。友人のラナルから連絡があった。それから後では宇宙空港には近づけないだろう。ラムジル号に乗ることになっているが、当然荷物は制限される。急いでくれ」
 父が時計を見ながらこのように話した後、サーヤは母にせかされながら準備をして、十分後大きめのバッグにとりあえずの着かえと貴重品を詰めた。

 サーヤ一行はコミューターに乗って空港に急いだが、途中から宇宙港までの幹線道路にどんどんコミューターが増えてくるし、血走った目で道を走っている人もいる。交通量によって自動で制御するシグナルによって、幹線道路では殆ど止まらないコミューターが2回目に止まる。

 その時、親子づれの人が駆け寄って窓を叩く。「開けて、この子だけでも乗せて!」サーヤは父を見るが、父は彼女に向けて頭を振ってすぐ前を見る。
 宇宙港のゲートで三十分ほど待たされたが、その間に多くのコミューターが入れずAIの操縦により排除されている。サーヤたちが乗ったコミューターは、ゲートにようやくさしかかったが、サーヤの心配を笑うようにゲートはすぐ開き、建物にも父が差し出したカードによってすぐ通ることが出来た。

 様々な手続きの後に、出発ゲートに向かって歩くとき振り返ったサーヤには、宇宙港を十重二十重に取り巻くコミューターと群衆が見えた。その後、サーヤは外の様子を見ることはなく、ラムジル号というジャンプ機能がない惑星内航行の商船に定員の6倍の人数ではあったが乗ること出来た。

 その結果、シラント星でのイーターの生命力吸収が始まる1日前に十分な距離を稼ぎ、最終的にはアマンドラ星への避難船に乗ることが出来た。しかし、サーヤは遠ざかっていく惑星の映像を見ながら、残されて間違いなく死んでいく友人たちを思い、また彼らを押しのけて助かった後ろめたさに痛む胸を抱えていた。
 
 また、サーヤ達が達が出発した宇宙港は、彼女らが通過した15分後閉鎖されたが、宇宙港の警備員と外から押し入ろうする群衆とのもみ合いになり、そこには武器を持つ治安維持隊の者も混じっていたようで、銃による打ち合いになった結果、遂には群衆が宇宙港に雪崩れ込んだ。

 しかし、すでに大部分の宇宙船は出発しており、残った宇宙船も出発準備を整えて、銃器を持った群衆が走り寄ったときはドアを閉めつつあった。この宇宙港では、そのもみ合いで死亡したものは多くは無かった。だが、シラント星最大の首都宇宙港では重火器が持ち出されて、火器によって1万人以上は殺され、数千人が圧死し、離陸中の宇宙船が撃ち落とされてさらに数千人が死んだ。

 結局、シラント星から避難できたものは27億中の12万人余であり、残りの大部分は脱出に伴う混乱で数万人が死んだ他は、狡猾にも惑星に十分体物質を満たすまで待ったイーターによって生命力を吸い取られ殺された。
 シラント星からわずか10日遅れて、ヒタゲ星が襲われた。この場合は、イーターの移動のメカニズムが判っていたので、イーターの接近が探知されて、連合軍がイーターにレーザー砲及び斥力装置で近づけないように攻撃すると共に、あらゆる船が集められて、惑星の脱出が行われた。

 しかし、連合軍の攻撃は殆どと言っていいほど効果がなく、一方で28億の人々を救い出すことは到底出来ず、わずか5千万人が助け出せたのみである。
 この脱出の際には、連合軍戦闘艦が出撃して斥力装置で宇宙港の周りに斥力の壁を作って一定以上の人々の侵入を防ぎつつ脱出が行われた結果になった。
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