死神はそこに立っている

阿々 亜

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第20話 悪夢

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 少年は少女を追いかけていた。
 夏の夕暮れ、セミの声が聞こえる。
 彼らはひとけのない神社の階段を駆け上っていた。

「ねえ、待ってよ、トモエ」

「遅いよ、エイイチロウ」

 2人は互いに声を掛け合いながら階段を登っていく。
 そして、少女が先に階段を登り切った。

「今日も私の勝ち」

「別に競争なんかしなくていいじゃないか」

 誇らしく言い放つ少女に、少年は不満気だった。

「みんな、待ってるよ、早く行こう」

「行かなきゃ、だめ?」

「そりゃ、そうよ、みんな待ってるんだから」

「なんであいつらと仲良くしなきゃいけないんだよ。別に2人だけで、遊べばいいじゃないか」

 少年は他の子供たちと遊ぶのが不満のようだった。
 そんな少年を少女は聡す。

「だめよ、みんなと今のうちから仲良くしとかなくちゃ。だって……」

「だって、何?」

 そのとき、回りの景色が急に暗くなる。

「もうすぐ、わたしは……」

 少女の背後に黒い死神が現れる。
 死神は大鎌を右から左へ大きくなぎ払う。
 次の瞬間ドサリと少女の首が大地に落ちた。

「いなくなるんだから」

 地に落ちた少女の首は、何事もなかったかのように微笑みながらそう言った。

「うあああああっ」

 栄一郎は叫び声を上げて、目が覚めた。
 そこは、彼の自宅ではなく大学の図書室であった。
 東亜医科大学の図書室は、学生、職員向けに24時間開放されており、IDがあれば、夜間も出入り可能である。
 夜型の学生で、試験前に一晩図書室で過ごす者もいる。
 栄一郎は昨夜、沙耶香の病室を出たあと、図書室で一晩じゅう虫垂炎の手術に関する文献を調べていたのだ。
 そして、いつの間にか机に突っ伏して眠ってしまったのだった。

 初めてのパターンだな……

 栄一郎は鼻根部を指で押さえながら、夢を振り返った。
 いつもの夢は倒れたトモエの傍らに死神が立っているだけで、直接的に死神が何かしていることはなかった。
 現実にはトモエは首が切られていたなどいうことはなかったので、今日の夢は現実とは異なるただの夢なのだろう。

 当直明けに家に帰らず、こんなところで座って寝てたら、さすがに悪い夢くらい見るよな……

 栄一郎は懐から携帯を取り出し時間を確認する。

 7時か……
 日勤帯までまだ時間はあるが、死神のカウンターが0になるまで、もう12時間しかない……

 栄一郎は隣の椅子にかけてあった白衣を着て、図書室を出た。


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