死神はそこに立っている

阿々 亜

文字の大きさ
上 下
41 / 41

最終話 死神狩り

しおりを挟む

「うあああああっ」

 栄一郎は叫び声を上げて飛び起きた。
 はあはあと息を荒らげながら、周囲を見回す。
 そこは、外科外来の点滴室だった。

「おう、気が付いたか」

 仕切りのカーテンを開け、山本が顔を出す。

「山本先生……俺はいったい……」

「外来棟のホールを歩いてる最中に倒れたんだよ。周囲のスタッフが対応したが、バイタルは全く問題なし。で、1番近かったここに運んだ。安心しろ、心電図もとったけど、さすがにお前までブルガダなんてことはなかったよ」

「そうですか……」

 夢……
 だったのか……

 栄一郎は状況を理解したあと、顔中に張り付いた汗を拭った。

「お前、もうまる3日帰ってないだろ。さすがに倒れるわ。今日はもういいから、帰れ」

「はい……ありがとうございます……」 

 山本がその場を去ろうとしたところを、栄一郎はあることが気になり山本を呼び止めた。

「山本先生!!」

「うん、何だ?」

 栄一郎は山本の傍らを見た。
 そこには何もいない。

 やっぱり……
 夢か……

「いえ、すみません。なんでもありません」

「お前やっぱり疲れてるよ。早く帰れ」

 山本はそう言残して去っていった。
 一人残された栄一郎は、その場でゆっくりと息を吐いた。

 山本先生の言う通り……
 無理し過ぎたかな……

 栄一郎はお言葉に甘えて早退しようと考え、ベッドから足を下ろした。
 が、そこであることに気が付いた。
 先程から背後になんとも言えない嫌な感覚があることに。
 栄一郎は恐る恐る自分の背後に目をやり、そして驚愕した。
 そこに死神が立っていた。

「なっ……」

 栄一郎は声にならない悲鳴を上げた。
 死神は何も語らず、ただそこに立っている。

 俺に……
 死神が憑いたということか……

 栄一郎の視界は、死神の胸元の数字を捉えた。

 691…
 俺の寿命はあと691日ということか……

 栄一郎は携帯を取り出し、カレンダーで死亡予定の日を割り出す。

 再来年の……
 3月31日……

 栄一郎にとって、その日は特別な日だった。

 俺の……
 初期研修が終わる日……

 栄一郎は絶望し、泣いた。
 ようやく自分が医者になった理由を思い出し、これから頑張って一人前の医者になろうと思っていた。

 それなのに……
 これからなのに…

 神様に逆らうヤツを……
 一人前の医者にはさせないってことか……

 栄一郎は死神を睨みつける。
 が、死神は何も応えない。


『じゃあ、もし、二人ともお医者さんになれたら、一緒に困ってる人を助けようよ』


 栄一郎は、トモエとの約束を思い出し、涙を拭った。

 691日……
 あと、691日もある……
 その間に、一人でも多く、死神から患者を救ってやる!!

 栄一郎は立ち上がって部屋を出た。

 病院内に潜む死神を狩るために……


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

仲村 嘉高
2024.03.01 仲村 嘉高
ネタバレ含む
解除
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

皇帝(実の弟)から悪女になれと言われ、混乱しています!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:79

見ることの

min
児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

聖女が帰らなかったので婚約は破棄された

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:16

庭師見習いは見た!お屋敷は今日も大変!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:16

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。