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第3話 彼女の人生
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1ヶ月前
春樹のバカ、春樹のバカ、春樹のバカ、春樹のバカ、春樹のバカ.........
山内由衣は、京王大学の合格発表のあと、家路を急ぎながら、心の中で鈴村春樹のことを罵倒し続けていた。
受験落ちてるから、バカなんだけど、そういうことじゃなくてバカ!!
1年ほど前、由衣は春樹の前でなんとなく、「第一志望、京王にしようかな......」と呟いた。
数日後、春樹が「俺、京王行くことにした」と言い出した。
由衣は、なんとくな京王にしようかなという程度だったのだが、春樹が京王に行くと言い出したので、本気で京王を第一志望に定めたのだ。
由依は京王に受かったら、春樹に告白するつもりだった。
そのために勉強も頑張った。
だが、その努力は今無に還った。
春樹が落ちてしまったのだ。
由依は平静を装っていたが、あまりのショックで春樹をその場に残して帰ってきてしまった。
私だけ受かってどうすんのよ!?
この状況で告白したら、めちゃめちゃ気まずいでしょ!!
ぐるぐると頭の中でそんなことを考えながら、家に着いたとき、携帯の着信が鳴った。
画面には「春樹」と表示されていた。
げ、春樹......
今はできれば話したくなかった。
一瞬無視しようかとも思ったが、さすがに可哀想なので、出ることにした。
「もしもし、なんか用......え、はい.......あ、その携帯の持ち主は鈴村春樹って言って私の同級生ですけど......え......」
電話の内容を聞き、由衣の顔はどんどん青褪めていった。
春樹が事故に遭ったと知り、由衣は春樹の両親に連絡をとりつつ、搬送された病院に向かった。
由衣が病院に到着したあと、程なく春樹の両親も到着した。
春樹は事故現場からずっと心肺停止状態で、心拍再開の見込みはないとのことで、春樹の両親立会の元、死亡確認がなされた。
家族ではない由衣は立会を許可されなかった。
由衣は待合室で一人泣いた。
春樹の両親達は泣きながらも、葬儀業者の選定やその後の手続きに追われた。
その間、由衣はずっと一人で泣き続けた。
春樹の死亡確認から1時間くらい経ったあと、待合室に春樹の母が戻ってきた。
「おばさん.......」
由衣は泣きながら春樹の母に抱きついた。
「あの子は馬鹿な子だよ。また、あの時と同じことをやって......しかも、今度は死んじゃうなんて......」
二人は泣きながら、ひとしきり話し合ったあと、待合室を出た。
「春樹の遺体、家に連れて帰るんですか?」
「いいえ、実はちょっと事情があって、春樹の遺体はNew Lifeっていう会社に預けることになったの」
春樹の母によると、死亡確認後、New Lifeという会社の奥田という人物が面会に来たのだという。
春樹は事故前に同社の人格移植サービスに契約しており、オプションで突然の死亡時には人格を抜き出して保存するサービスが付いていたらしい。
そして、人格を保存しておき、もしドナーが見つかれば、別人として生きることが可能なのだという。
「そんなドナーなんてそうそう見つからないでしょうけど、死後5時間以内だったら人格を抜き出せるっていうから、お願いすることにしたの」
由衣はその話を聞いて叫んだ。
「おばさん!! その人の連絡先教えてください」
1か月後、New Life 研究開発部の一室。
由衣はベッドに横になっており、周囲の機械から伸びた多数のコードが由衣の頭部につながっていた。
「本当によろしいのですか?」
横に立っていた奥田が由衣に問いかけた。
「ええ、お願いします」
由衣は強い意志のこもった目でそう言った。
準備は万全だ。
春樹の両親を1か月かけて説得した。
由衣の両親の前では、この1か月変な発言をしたり、部屋に閉じこもったり、何かに悩んで様子がおかしくなっているという印象を与え、春樹の人格を移植してもバレにくくしてある。
春樹が由衣の体と人生を遠慮なく使えるように、由衣のことを嫌いになるような最低の手紙もしたためた。
「なぜ、そこまで......」
奥田は由衣の行動が理解できなかった。
由衣の行動は言うなれば、身代わりに死ぬに等しいのだ。
「私の5歳以降の人生は、春樹がくれたものなんです」
「え?」
「私、5歳のときに赤信号で横断歩道を渡ろうとして車に轢かれかけて、それを春樹が突き飛ばして助けてくれたんです。春樹はかわりに大けがをして、死にかけたんですけど、その時はなんとか助かりました。その当時は私も小さかったので、よく理解してなかったんですけど、両親からそのときのことを何度も聞かされるうちに、だんだんアイツのことが好きになって。それで、私の人生はアイツにもらったものだから、死ぬまでアイツのために生きようって思うようになったんです。それなのに、アイツこんなに早く死んじゃって。あいつバカでしょ。子供の頃と同じことやって、今度は死んじゃったんですよ」
由衣はからからと笑った。
「私の人生はアイツからもらったものなんです。だから、アイツに返すんです」
由衣はにっこり微笑んだ後、目を閉じた。
奥田は無言でうなずいてモニターに向かい、キーボードとマウスを操作する。
そして、山内由衣の脳から山内由衣が抜き出されていった。
それからさらに1週間後。
卒業式で鈴村春樹の欠損した記憶が戻ってから数時間経過している。
場所は同じくNew Life 研究開発部の一室である。
山内由衣は目を覚ました。
「あれ......」
由衣は周りを見回す。
意識がなくなる前と同じく、傍らには奥田が立っている。
「気分は大丈夫ですか?山内由衣さん」
「ええ、人格の移植はどうなったんですか?」
「それは、これを読んでいただくのが早いかと......」
奥田はそう言って、懐から手紙を取り出した。
「鈴村春樹さんからあなたへのお手紙です」
由衣は手紙を受け取り、中を確認した。
由衣へ
余計なことしやがって、何様のつもりだ!?
こんなことして俺が喜ぶとでも思ったか!?
俺がこのあと何十年生きれても、お前がいなかったら意味ないだろ!?
いいか、よく聞け!!
(というか、よく読め!!)
俺は由衣が好きだ!!
大好きだ!!
世界で一番好きだ!!
物心ついたときからずっと好きだ!!
由衣のためだったら死んでもいいと思ってる!!
(いや、それで一回死にかけたけど......)
だから、俺のためにお前が死ぬなんて許さない!!
俺の分はお前が生きろ!!
分かったな!!
PS
あらためて京王合格おめでとう。
幸せな一生を送ってくれ。
春樹
「ばか......なんで、生きてるうちに好きって言ってくれなかったのよ......」
でも、私も同じだ......
春樹が生きてるうちに、好きって言えなかった......
由衣は手紙を握りしめて泣いた。
横にたたずむ奥田がある疑問を口にした。
「山内さん、もしかしてこうなるってわかってたんじゃないですか? 鈴村さんが死んでることは遅かれ早かれバレたでしょうし、そうしたら彼はすぐにあなたの目論見に気づく。実際にそうなりましたし、あなた方の関係なら、それくらいわかっていたでしょう」
「卒業式に一緒に出たかったんですよ」
由衣は涙をぬぐってぽつりとそうつぶやいた。
「私と春樹は、幼稚園も、小学校も、中学校も、高校もずっと一緒でした。でも、それももう終わりです。だから、春樹の人格と私の体で最後の卒業式に一緒に出たかったんです」
由衣はそう言って立ち上がった。
「これで私は春樹を卒業できます」
目を真っ赤に腫らした由衣はそう言ってにっこりと微笑んだ。
春樹のバカ、春樹のバカ、春樹のバカ、春樹のバカ、春樹のバカ.........
山内由衣は、京王大学の合格発表のあと、家路を急ぎながら、心の中で鈴村春樹のことを罵倒し続けていた。
受験落ちてるから、バカなんだけど、そういうことじゃなくてバカ!!
1年ほど前、由衣は春樹の前でなんとなく、「第一志望、京王にしようかな......」と呟いた。
数日後、春樹が「俺、京王行くことにした」と言い出した。
由衣は、なんとくな京王にしようかなという程度だったのだが、春樹が京王に行くと言い出したので、本気で京王を第一志望に定めたのだ。
由依は京王に受かったら、春樹に告白するつもりだった。
そのために勉強も頑張った。
だが、その努力は今無に還った。
春樹が落ちてしまったのだ。
由依は平静を装っていたが、あまりのショックで春樹をその場に残して帰ってきてしまった。
私だけ受かってどうすんのよ!?
この状況で告白したら、めちゃめちゃ気まずいでしょ!!
ぐるぐると頭の中でそんなことを考えながら、家に着いたとき、携帯の着信が鳴った。
画面には「春樹」と表示されていた。
げ、春樹......
今はできれば話したくなかった。
一瞬無視しようかとも思ったが、さすがに可哀想なので、出ることにした。
「もしもし、なんか用......え、はい.......あ、その携帯の持ち主は鈴村春樹って言って私の同級生ですけど......え......」
電話の内容を聞き、由衣の顔はどんどん青褪めていった。
春樹が事故に遭ったと知り、由衣は春樹の両親に連絡をとりつつ、搬送された病院に向かった。
由衣が病院に到着したあと、程なく春樹の両親も到着した。
春樹は事故現場からずっと心肺停止状態で、心拍再開の見込みはないとのことで、春樹の両親立会の元、死亡確認がなされた。
家族ではない由衣は立会を許可されなかった。
由衣は待合室で一人泣いた。
春樹の両親達は泣きながらも、葬儀業者の選定やその後の手続きに追われた。
その間、由衣はずっと一人で泣き続けた。
春樹の死亡確認から1時間くらい経ったあと、待合室に春樹の母が戻ってきた。
「おばさん.......」
由衣は泣きながら春樹の母に抱きついた。
「あの子は馬鹿な子だよ。また、あの時と同じことをやって......しかも、今度は死んじゃうなんて......」
二人は泣きながら、ひとしきり話し合ったあと、待合室を出た。
「春樹の遺体、家に連れて帰るんですか?」
「いいえ、実はちょっと事情があって、春樹の遺体はNew Lifeっていう会社に預けることになったの」
春樹の母によると、死亡確認後、New Lifeという会社の奥田という人物が面会に来たのだという。
春樹は事故前に同社の人格移植サービスに契約しており、オプションで突然の死亡時には人格を抜き出して保存するサービスが付いていたらしい。
そして、人格を保存しておき、もしドナーが見つかれば、別人として生きることが可能なのだという。
「そんなドナーなんてそうそう見つからないでしょうけど、死後5時間以内だったら人格を抜き出せるっていうから、お願いすることにしたの」
由衣はその話を聞いて叫んだ。
「おばさん!! その人の連絡先教えてください」
1か月後、New Life 研究開発部の一室。
由衣はベッドに横になっており、周囲の機械から伸びた多数のコードが由衣の頭部につながっていた。
「本当によろしいのですか?」
横に立っていた奥田が由衣に問いかけた。
「ええ、お願いします」
由衣は強い意志のこもった目でそう言った。
準備は万全だ。
春樹の両親を1か月かけて説得した。
由衣の両親の前では、この1か月変な発言をしたり、部屋に閉じこもったり、何かに悩んで様子がおかしくなっているという印象を与え、春樹の人格を移植してもバレにくくしてある。
春樹が由衣の体と人生を遠慮なく使えるように、由衣のことを嫌いになるような最低の手紙もしたためた。
「なぜ、そこまで......」
奥田は由衣の行動が理解できなかった。
由衣の行動は言うなれば、身代わりに死ぬに等しいのだ。
「私の5歳以降の人生は、春樹がくれたものなんです」
「え?」
「私、5歳のときに赤信号で横断歩道を渡ろうとして車に轢かれかけて、それを春樹が突き飛ばして助けてくれたんです。春樹はかわりに大けがをして、死にかけたんですけど、その時はなんとか助かりました。その当時は私も小さかったので、よく理解してなかったんですけど、両親からそのときのことを何度も聞かされるうちに、だんだんアイツのことが好きになって。それで、私の人生はアイツにもらったものだから、死ぬまでアイツのために生きようって思うようになったんです。それなのに、アイツこんなに早く死んじゃって。あいつバカでしょ。子供の頃と同じことやって、今度は死んじゃったんですよ」
由衣はからからと笑った。
「私の人生はアイツからもらったものなんです。だから、アイツに返すんです」
由衣はにっこり微笑んだ後、目を閉じた。
奥田は無言でうなずいてモニターに向かい、キーボードとマウスを操作する。
そして、山内由衣の脳から山内由衣が抜き出されていった。
それからさらに1週間後。
卒業式で鈴村春樹の欠損した記憶が戻ってから数時間経過している。
場所は同じくNew Life 研究開発部の一室である。
山内由衣は目を覚ました。
「あれ......」
由衣は周りを見回す。
意識がなくなる前と同じく、傍らには奥田が立っている。
「気分は大丈夫ですか?山内由衣さん」
「ええ、人格の移植はどうなったんですか?」
「それは、これを読んでいただくのが早いかと......」
奥田はそう言って、懐から手紙を取り出した。
「鈴村春樹さんからあなたへのお手紙です」
由衣は手紙を受け取り、中を確認した。
由衣へ
余計なことしやがって、何様のつもりだ!?
こんなことして俺が喜ぶとでも思ったか!?
俺がこのあと何十年生きれても、お前がいなかったら意味ないだろ!?
いいか、よく聞け!!
(というか、よく読め!!)
俺は由衣が好きだ!!
大好きだ!!
世界で一番好きだ!!
物心ついたときからずっと好きだ!!
由衣のためだったら死んでもいいと思ってる!!
(いや、それで一回死にかけたけど......)
だから、俺のためにお前が死ぬなんて許さない!!
俺の分はお前が生きろ!!
分かったな!!
PS
あらためて京王合格おめでとう。
幸せな一生を送ってくれ。
春樹
「ばか......なんで、生きてるうちに好きって言ってくれなかったのよ......」
でも、私も同じだ......
春樹が生きてるうちに、好きって言えなかった......
由衣は手紙を握りしめて泣いた。
横にたたずむ奥田がある疑問を口にした。
「山内さん、もしかしてこうなるってわかってたんじゃないですか? 鈴村さんが死んでることは遅かれ早かれバレたでしょうし、そうしたら彼はすぐにあなたの目論見に気づく。実際にそうなりましたし、あなた方の関係なら、それくらいわかっていたでしょう」
「卒業式に一緒に出たかったんですよ」
由衣は涙をぬぐってぽつりとそうつぶやいた。
「私と春樹は、幼稚園も、小学校も、中学校も、高校もずっと一緒でした。でも、それももう終わりです。だから、春樹の人格と私の体で最後の卒業式に一緒に出たかったんです」
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