Fatal reunion〜再会から始まる異世界生活

霜月かずひこ

文字の大きさ
14 / 50
第一章:自罰的な臆病者

第十三話 デートwithゴースト

しおりを挟む
「――でその迷宮とやらに来たわけだけど……なんで迷宮がになってるのよ!?」

「何か問題でも?」

 したり顔で答えると、小春はヒステリックに叫ぶ。

「大有りよ! 迷宮って言ったら普通は命がけで財宝を掴み取る神秘と冒険の象徴でしょ? それがどうして家族連れで楽しめるような良い感じの施設になってるわけ?」

「まぁ普通はそうだよね。一応言うと……この迷宮も昔はそうだったんだよ」

 迷宮・クラッシュベルト。
 通称は第一の迷宮。
 王都グランツブルグの大通りの一画に位置するこの迷宮の歴史は古く、ちょうど今から500年前、歴代屈指の賢王とされたコスモニア王の治世にまで遡る。

 当時、街中に街中に突如として迷宮が現れたとあってそれはもう大騒ぎになったらしい。
 事態を重く見たコスモニア王の鶴の一声で、国中からあらゆる英傑が集められ、迷宮を攻略。街中にある迷宮ということで何徹底的に調べ上げられたことで迷宮は完全に丸裸となり、迷宮としての性質をほとんど喪失してしまったそうだ。

 それからは街の観光名所として機能していたのだが、10年ほどの前に当時の王の提案でお化け屋敷型テーマパークとして生まれ変わったんだとか。

「何か釈然としないわね」

「でも意外と悪くないっしょ?」

「ええ。まさか異世界に来てまでお化け屋敷に入ることになるとは思っても見なかったけど中々クオリティは高いわ。特に出てくるお化けの迫力と言ったら……まるで本物だわ」

「そりゃそうだよ。ゴーストなんだし」

「え?」

「仮にも元は迷宮。本物のゴーストくらい出るよ」

「氷夜! そういう大事なことは早く言いなさいよね!? 危うく払いのけようとして触れちゃうところだったわよ!?」

「心配しなくても大丈夫だって。子どもでも倒せるような強さのゴーストしか出ないんで。物理攻撃は効かないけどゲームよろしく聖水でも振りかければイチコロさ」

「そ、そう。だったら安心……とは言えない気がするんですけど」

「まぁ……この世界の基準だと安心ってことなんだと思うよ」

「先輩方っ! 話はそこまでです! そろそろ退治しないとゴーストたちが襲ってきますよ?」

「おっとと。そうだった。全く……せっかちは嫌われるだけなのに」

 俺はやれやれと肩をすくめてからゴーストたちに向き直った。
 敵は2体。
 この数なら俺でもどうにか出来る。

「よっと」

 受付で貰った聖水を懐から取り出し、ゴーストたちに向かって振りまくと彼らは静かに浄化されていった。

「ほら案外簡単に倒せるっしょ?」

「はぁ……そういう問題じゃないのよ。言っておくけど私は別に怖がってない。ただ本物の幽霊が相手なら警戒せざるを得ないってだけで……」

「またまたぁ~小春ってば強がらなくてもいいのに。いざとなれば俺くんが守るからさ。俺くんはお化けとか全く怖くないし?」

「はいはい。どうしようもなくなった時はあんたに頼るわ。ところで氷夜。あんたの後ろになんかいるみたいだけど?」

「だからそういうのは効かないって…………」

 振り返るとそこにはゴーストが、

「ってひいいやあああああ!」

 怖い怖い怖い!
半狂乱になりながら聖水を辺り一面に振りまきまくると、ゴーストたちは消滅していった。
 とそんな一部始終を見ていた二人が呆れたように溜息を吐く。

「…………高白先輩」

「……あんたって本当に恰好が付かないわよね」

「余計なお世話だい!」

 それからというと俺たちは全力でデートを満喫した。
 お化け屋敷にもう一回入ったり、近くにあった射的屋で遊んだり。

完成された孤高の所業マスターオブディード!」

 景品を打ち落とすためにわざわざ固有魔法を使って弾を正確に誘導した際には、

「…………最低ね」

「……………そこまでしますか?」

 二人からゴミを見るかのような視線を向けられたりした。
 もちろん明日の準備だって欠かせない。
 雑貨屋でロープや手袋、その他迷宮探索に必要な物一式を買いそろえた。
 そうして散々遊び、気付いた頃にはすっかり日が暮れていたのだった。

「では皆さん、私はここで失礼しますね」

「ええ。今日はありがとね。あんたがいてくれて助かったわ」

「はい! 私もご一緒出来て楽しかったです。高白先輩、鈴崎先輩をちゃんと送ってあげてくださいね?」

「え? ちょ!」

 最後にとんでもない爆弾を落として、恵ちゃんは来た道を引き返して行った。

「――行くわよ氷夜」

「あ、うん」

 小春は何も気にしてないのだろうか。
 ふと疑問が浮かんだが、考える暇はない。
 カトレアさんの宿までの少しの間、俺は小春と連れ添って歩く。

「ねえ氷夜、あんたはこの世界が好き?」

「どうしたんだよ。藪からスティックに」

「……別にただ気になっただけよ。それでどうなの?」

「まぁ……それなりには気に入ってるよ」

 この世界に来てから早一年。
 彼女もチートもないけど、なんだかんだ安定した生活を送れるようにはなってきたからな。

「そう。実は私も結構気に入ってるんだ」

 ……へぇ。

「意外だな。てっきり一刻も早くおさらばしたいのかと思ってたよ」

「確かに初めの頃はさっさと日本に帰りたかったわ。でもこっちで過ごしている内に少しずつだけど愛着が湧いてきちゃったのよ」

「だから迷宮の攻略をわざわざ明日に早めたのか」

「そうよ。好きになればなるほど別れがつらくなる……なんてふざけた理由でね」

 まるで小学生みたいだわと、らしくもない自嘲をする小春。
 そんな小春が見ていられなくて、俺はついつい余計なことを口走ってしまう。

「だ、大丈夫だって! 今生の別れってわけじゃないんだよ。時空石さえ手に入ればいつでも向こうとこっちを往来できるようになるんだし……」

「そもそもその時空石が手に入れられるかで不安になってるんですけど?」

「あっ!?」

 しまった。
 よりにもよって地雷を踏み抜いてどうする!?

「いや、えっと…………違くて、そういうつもりじゃ……」

 必死に誤魔化そうとするが、俺のちっぽけな脳みそでは解決策を生み出せない。
 何もできないまま、ごにょごにょと言葉にもならない言葉を捻り出していると、小春はどっと笑いだした。

「ふ、ふふふふふ……ふふふ、あっはははは! 何よそれ。慰めるのが下手くそにも程があるわよっ!?」

「…………笑いすぎだよ」

「ごめんごめん。なんかあんたを見てたらどうでも良くなってきたわ。ありがと。おかげで緊張もほぐれたわ」

「は?」

 イミガワカラナイ。
 アリガトウ?
 ナンデ?

 俺はむしろ小春の不安を煽っただけだ。
 なのにどうして小春は俺に感謝するんだ?
 アリエナイ、アッテハナラナイ。
 …………

「氷夜、氷夜!」

「あ、ああ」

 変な考えごとをしていたせいか、カトレアおばさんの宿に着いていることに気付いていなかった。

「もうちゃんとしなさいよね」

「ごめん」

「はぁ……私の見送りはここまででいいから、今日は早く寝て明日に備えなさい」

 お母さんみたいなことを言ってから、小春は宿の中へ消えていく。

「……わかってるよ」

 その後ろ姿を見ながら俺は大きく溜息を吐いた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...