27 / 50
第二章:他罰性の化け物
第二十四話 小悪魔の問いかけ
しおりを挟む
遅れましたがようやく更新です。
お待たせして申し訳ありません。
***
「はぁ……ひどい目に遭ったわ」
アシュリンの魔法によって一気に城へとやって来た私たちは一直線に氷夜の部屋を目指していた。
「大袈裟ですねぇ。ちょっと空を飛んだだけじゃないですか」
「ちょっとってあんたねぇ」
いきなり300メートル上空に連れていかれたこっちの身にもなってほしい。
あんなの人間ロケットにされたようなものだ。
「だいたいなんであんたは平気なのよ?」
「私はムチャ様の加護がありますので」
「くっ……」
そうだった。
言葉で聞いた時は何も思わなかったけど。
神をその身に宿しているなんて冷静に考えたらズルすぎないかしら。
「羨ましいですか?」
「別に? ないものをねだっても仕方ないでしょ?」
半分は本心、もう半分は強がりでそう言うとアシュリンは嫌ったらしい笑みを向けてくる。
「その通りですね。私は強くて小春様が弱いだけです。ざーこざーこ♡ざこ小春様」
「はいはい」
煽られるのはもう慣れた。
こういう雑な煽りはまともに相手にしないのが吉ね。
幸いにも氷夜の病室は城の西側にある。
正門からは少し遠いけどいつもの調子を取り戻すには最適な距離だった。
「入るわよ氷夜」
ノックをして中に入る。
当然、返事はない。
ベットに腰をかけて覗き込んでみても、私の幼馴染は相も変わらずきれいな顔で眠っている。
「…………氷夜」
こうして見ていると何もできなかった自分を思いだして腹が立つ。
でもくよくよしてたって仕方がない。
「……やるわよアシュリン」
ばちっと頬を叩いて私は気合を入れなおした。
「ロクサムはフラワーアレジメントにするのがいいのかしら?」
「はい。粉末にして風邪薬にする他、アロマとしても活用できますが、その形が一番オーソドックスかと」
「……そっか。そういう使い方もあるのね」
ロクサムの意外な活用方法に感心していると、アシュリンは澄ました顔で軽口を飛ばしてくる。
「……最も効果的なのは小春様のキスだとは思いますが」
「するわけないでしょ!?」
「そうですか。残念ですが仕方がないですね~。ムチャ様~出番ですよぉ~」
「了解よぉ」
気だるげなアシュリンの呼びかけに応じて、ムチャ様は貯め込んでいたロクサムをぶちゃっと机の上に吐き出した。
「どぉ? ちゃんと食べずに保存できてたでしょぉ? ゲプっ」
「最後ので台無しよ!」
確かに変にべたついていたりはしていないけど、吐き出し方が嘔吐の時のそれだったので触れたくはない。
「ぐっ……でも贅沢は言ってられないわね。いいわ。さっさとやりましょう」
「はい」
私たちは机に散らばったロクサムを手に取り、作業に取り掛かった。
作業と言ってもやることは簡単。
近くに置いてあったピクニックバスケットの底に土台となるスポンジを敷き詰める。
そしてロクサムを適切なサイズにカット。
切り口を叩き潰して長持ちするようにした後、全体のバランスを見ながらロクサムを一本ずつ土台のスポンジに挿していく。
「……小春様、ロクサムだけだと味気ないので他の花も入れたほうがいいかと」
「でもそれだとロクサムが余らない?」
「余った分はドライフラワーにしてしまえばいいんですよ。そちらは私たちでやっておきますから」
「そうね。じゃあそっちは任せたわよ」
断る理由もないので手に持っていた数本のロクサムを手渡すと、アシュリンはわざとらしくお辞儀をする。
「承知しました。凄腕メイドのアシュリンちゃんにお任せあれ」
「はいはい」
ほんと……調子がいいわね。
アシュリンの人を小馬鹿にしたかのような態度は最初から変わっていない。
でも数時間も一緒に過ごしていればなんとなくの人となりは掴めてきた。
「…………案外、悪い奴じゃないのよね」
頼んだことはきっちりやってくれるもの。
「何か言いましたか?」
「何でもないわ」
なんてアシュリンと話しながら作業に取り掛かること数十分。
ついにロクサムを使ったフラワーアレンジメントが完成した。
「よし」
これで氷夜も多少は良くなるはずよ。
私は期待を胸に作り上げたフラワーアレンジメントを氷夜の傍にある小さな机の上に置く。
でもいつまで経っても氷夜が目覚めることはなかった。
「気は済みましたか?」
「え?」
はっきりと突き刺すかのようなアシュリンの言葉。
それを理解できなかったのか、それとも理解したくなかったのか。
思考が凍り付いてしまった私にアシュリンはさらに冷や水を浴びせる。
「ロクサムは癒しの効果があるだけのただの花。あくまでも気休めにしかなりません。それくらいあなただってわかっていたでしょう?」
「そう……ね」
わかっていた……つもりだった。
ロクサムを手に入れたところで氷夜は目覚めないかもしれないって。
でも心のどこかではなんとかなると考えていた。
だからこそ氷夜が目覚めないという現実が重くのしかかる。
「…………氷夜」
どうしよう。
どうしたら氷夜は目を覚ますの?
このまま氷夜が一生目を覚まさなかったら私は……
「――もういいじゃないですか」
「っ!?」
「小春様はやるべきことをなされたと思います。氷夜様への償いが必要であるかはそもそも疑問ではありますが、そうだとしても充分すぎるほどでしょう」
「…………」
確かにそうかもしれない。
これ以上は私の責任ではないのかもしれない。
「かもしれないけど、そういうことじゃないでしょ?」
「はぁ……強情ですね。氷夜様を好いているわけでもないでしょう?」
「ええ、そうね。別に好きじゃないわ」
「ではなぜ? 発言の八割は虚言、頼りがいもなく、怯えてばかりの顔面偏差値五十五。そんな救いようもない男を救わなければならない理由とは一体なんです?」
「それは…………」
アシュリンが生半可な言葉では納得しないことくらいわかっていた。
だから私も覚悟を決めて、思い浮かんだ一つの答えを口にする。
「――目の前に困っている人がいる。助ける理由なんてそれで充分でしょ」
「はぁ?」
アシュリンは何を言っているのかわからないとばかりに口をパクパクとさせる。
でもそれも一瞬のことで、どっと腹を抱えて笑い出した。
「ぷっふぅ! 何を言い出すかと思えば小春様……そ、そんな小学生みたいな…………」
キャラが崩れているのも気にせず、けらけらと三下みたいな笑い方をするアシュリン。
そうしてしばらく笑って満足したのか、いつもの調子に戻って冷たく吐き捨てる。
「…………小春様は馬鹿なんですか?」
「ええ。悔しいけど否定はできないわ」
理由なんてうまく説明できない。
なんでそうしたいのかも本当のところは私にもわかっていない。
でも一つだけわかることがある。
このまま氷夜を見捨てたら私は一生後悔するって。
「だから悪いけど私は氷夜を諦めないわよ」
さっきまで軽く絶望してた癖に開き直ってそう言うと、アシュリンは大きくため息を吐いた。
「はぁ……わかりましたよ。私の負けです。負けたついでに一つ話しておくと、ロクサムなんかよりもずっと確実な方法がありますよ」
「ほ、本当!?」
「落ち着いてください」
思わず詰め寄ってしまった私を制止しつつ、アシュリンは続ける。
「私たちのガルザーネ族に伝わる秘術・精神合一。それを使って氷夜様の精神世界に直接入り込んでたたき起こしてしまおうという寸法です」
「な、なんでそんな大事なことを先に教えてくれなかったのよ!?」
「聞かれませんでしたから。そもそも秘術なのでそう易々と教えるものではないですし」
くっ……どこまでが本気でそう言ってるかはわかりそうもないわね。
とはいえ秘術と言われてしまえば納得するしかないし、本題はそこじゃない。
「じゃあアシュリン、今すぐ氷夜の精神世界へ行って氷夜を起こして」
「無理です」
即答だった。
「ど、どうして!?」
「この魔法は自分に好意を抱いている者にしか使えません。誰だって嫌いな人間には自分の心を覗かれたくないものでしょう? 私は氷夜様から嫌われていましたからまず不可能ですね」
「そう? 氷夜が誰かを嫌いになるってあんまり想像がつかないわよ?」
「同族嫌悪というものですよ。私はそんな氷夜様が大好きなのですが」
「あんたねぇ……さっきは頼りないだとか氷夜のことを散々こき下ろしてたじゃない?」
「頼りないのと好きかどうかは全く別の話ですよ。決して手に入らない宝石を追い求めるよりも、すぐに手に入る腐りかけのパンの方が腹を満たすにはちょうどいい、それだけのことです」
「…………アシュリン」
誰かを好きになる理由がそんな悲しい理由でいいの?
諦観に満ちたアシュリンのセリフに、衝動的にそう言ってしまいたくなったけれど、それはなんだか傲慢なことに思えて、私は二の句が継げなくなる。
「さて話を戻しましょう」
そんな雰囲気を感じ取ったのか、アシュリンは小さく咳払いをして話題を強引に切り替えた。
「ここまで話せば小春様も察しがついているでしょうが、今から小春様には私たちの秘術を覚えて頂きます。秘術と言っても術式魔法に分類されるので小春様も習得できるはずです」
先程までとは打って変わって、いつものように明るい調子でアシュリンは続ける。
「いちいち教えるのは面倒ですので実際に小春様の精神世界へ入ってそこで教えることにします。小春様の心に直接術式を刻んだ方が手っ取り早いかと」
「それはいいけど私は何をすればいいの?」
「とりあえず横になってください。精神世界に入っている間は意識がなくなっていますので」
「わかったわ」
アシュリンの指示に従って、氷夜の隣のベットに横たわる。
するとアシュリンはどこからか取り出した鎖を私に巻き付けてきた。
「ちょちょっと!? これは何なの?」
「私と小春様を繋ぐパスの代わりとなるものです。そうお気になさらず」
……気にするななんて無理に決まってるでしょ。
私はそう口にする代わりにアシュリンにジト目を向けるが、当の本人はどこ吹く風だ。
「まずは私の手を握ってください。それからゆっくり深呼吸」
「ええ」
アシュリンの呼吸に合わせて私も深呼吸。
「「……………」」
う、うん。
これはこれで恥ずかしいわね。
「次に私と同じものをイメージしてください。今回はロクサムを」
「了解よ」
言われるがまま、アシュリンと行った花畑を頭の中に描く。
すると不思議なことに段々と意識が遠のいていく。
「では行きますよ。精神合一」
アシュリンが言霊を唱えた次の瞬間、私の意識は別の世界へと移動していた。
お待たせして申し訳ありません。
***
「はぁ……ひどい目に遭ったわ」
アシュリンの魔法によって一気に城へとやって来た私たちは一直線に氷夜の部屋を目指していた。
「大袈裟ですねぇ。ちょっと空を飛んだだけじゃないですか」
「ちょっとってあんたねぇ」
いきなり300メートル上空に連れていかれたこっちの身にもなってほしい。
あんなの人間ロケットにされたようなものだ。
「だいたいなんであんたは平気なのよ?」
「私はムチャ様の加護がありますので」
「くっ……」
そうだった。
言葉で聞いた時は何も思わなかったけど。
神をその身に宿しているなんて冷静に考えたらズルすぎないかしら。
「羨ましいですか?」
「別に? ないものをねだっても仕方ないでしょ?」
半分は本心、もう半分は強がりでそう言うとアシュリンは嫌ったらしい笑みを向けてくる。
「その通りですね。私は強くて小春様が弱いだけです。ざーこざーこ♡ざこ小春様」
「はいはい」
煽られるのはもう慣れた。
こういう雑な煽りはまともに相手にしないのが吉ね。
幸いにも氷夜の病室は城の西側にある。
正門からは少し遠いけどいつもの調子を取り戻すには最適な距離だった。
「入るわよ氷夜」
ノックをして中に入る。
当然、返事はない。
ベットに腰をかけて覗き込んでみても、私の幼馴染は相も変わらずきれいな顔で眠っている。
「…………氷夜」
こうして見ていると何もできなかった自分を思いだして腹が立つ。
でもくよくよしてたって仕方がない。
「……やるわよアシュリン」
ばちっと頬を叩いて私は気合を入れなおした。
「ロクサムはフラワーアレジメントにするのがいいのかしら?」
「はい。粉末にして風邪薬にする他、アロマとしても活用できますが、その形が一番オーソドックスかと」
「……そっか。そういう使い方もあるのね」
ロクサムの意外な活用方法に感心していると、アシュリンは澄ました顔で軽口を飛ばしてくる。
「……最も効果的なのは小春様のキスだとは思いますが」
「するわけないでしょ!?」
「そうですか。残念ですが仕方がないですね~。ムチャ様~出番ですよぉ~」
「了解よぉ」
気だるげなアシュリンの呼びかけに応じて、ムチャ様は貯め込んでいたロクサムをぶちゃっと机の上に吐き出した。
「どぉ? ちゃんと食べずに保存できてたでしょぉ? ゲプっ」
「最後ので台無しよ!」
確かに変にべたついていたりはしていないけど、吐き出し方が嘔吐の時のそれだったので触れたくはない。
「ぐっ……でも贅沢は言ってられないわね。いいわ。さっさとやりましょう」
「はい」
私たちは机に散らばったロクサムを手に取り、作業に取り掛かった。
作業と言ってもやることは簡単。
近くに置いてあったピクニックバスケットの底に土台となるスポンジを敷き詰める。
そしてロクサムを適切なサイズにカット。
切り口を叩き潰して長持ちするようにした後、全体のバランスを見ながらロクサムを一本ずつ土台のスポンジに挿していく。
「……小春様、ロクサムだけだと味気ないので他の花も入れたほうがいいかと」
「でもそれだとロクサムが余らない?」
「余った分はドライフラワーにしてしまえばいいんですよ。そちらは私たちでやっておきますから」
「そうね。じゃあそっちは任せたわよ」
断る理由もないので手に持っていた数本のロクサムを手渡すと、アシュリンはわざとらしくお辞儀をする。
「承知しました。凄腕メイドのアシュリンちゃんにお任せあれ」
「はいはい」
ほんと……調子がいいわね。
アシュリンの人を小馬鹿にしたかのような態度は最初から変わっていない。
でも数時間も一緒に過ごしていればなんとなくの人となりは掴めてきた。
「…………案外、悪い奴じゃないのよね」
頼んだことはきっちりやってくれるもの。
「何か言いましたか?」
「何でもないわ」
なんてアシュリンと話しながら作業に取り掛かること数十分。
ついにロクサムを使ったフラワーアレンジメントが完成した。
「よし」
これで氷夜も多少は良くなるはずよ。
私は期待を胸に作り上げたフラワーアレンジメントを氷夜の傍にある小さな机の上に置く。
でもいつまで経っても氷夜が目覚めることはなかった。
「気は済みましたか?」
「え?」
はっきりと突き刺すかのようなアシュリンの言葉。
それを理解できなかったのか、それとも理解したくなかったのか。
思考が凍り付いてしまった私にアシュリンはさらに冷や水を浴びせる。
「ロクサムは癒しの効果があるだけのただの花。あくまでも気休めにしかなりません。それくらいあなただってわかっていたでしょう?」
「そう……ね」
わかっていた……つもりだった。
ロクサムを手に入れたところで氷夜は目覚めないかもしれないって。
でも心のどこかではなんとかなると考えていた。
だからこそ氷夜が目覚めないという現実が重くのしかかる。
「…………氷夜」
どうしよう。
どうしたら氷夜は目を覚ますの?
このまま氷夜が一生目を覚まさなかったら私は……
「――もういいじゃないですか」
「っ!?」
「小春様はやるべきことをなされたと思います。氷夜様への償いが必要であるかはそもそも疑問ではありますが、そうだとしても充分すぎるほどでしょう」
「…………」
確かにそうかもしれない。
これ以上は私の責任ではないのかもしれない。
「かもしれないけど、そういうことじゃないでしょ?」
「はぁ……強情ですね。氷夜様を好いているわけでもないでしょう?」
「ええ、そうね。別に好きじゃないわ」
「ではなぜ? 発言の八割は虚言、頼りがいもなく、怯えてばかりの顔面偏差値五十五。そんな救いようもない男を救わなければならない理由とは一体なんです?」
「それは…………」
アシュリンが生半可な言葉では納得しないことくらいわかっていた。
だから私も覚悟を決めて、思い浮かんだ一つの答えを口にする。
「――目の前に困っている人がいる。助ける理由なんてそれで充分でしょ」
「はぁ?」
アシュリンは何を言っているのかわからないとばかりに口をパクパクとさせる。
でもそれも一瞬のことで、どっと腹を抱えて笑い出した。
「ぷっふぅ! 何を言い出すかと思えば小春様……そ、そんな小学生みたいな…………」
キャラが崩れているのも気にせず、けらけらと三下みたいな笑い方をするアシュリン。
そうしてしばらく笑って満足したのか、いつもの調子に戻って冷たく吐き捨てる。
「…………小春様は馬鹿なんですか?」
「ええ。悔しいけど否定はできないわ」
理由なんてうまく説明できない。
なんでそうしたいのかも本当のところは私にもわかっていない。
でも一つだけわかることがある。
このまま氷夜を見捨てたら私は一生後悔するって。
「だから悪いけど私は氷夜を諦めないわよ」
さっきまで軽く絶望してた癖に開き直ってそう言うと、アシュリンは大きくため息を吐いた。
「はぁ……わかりましたよ。私の負けです。負けたついでに一つ話しておくと、ロクサムなんかよりもずっと確実な方法がありますよ」
「ほ、本当!?」
「落ち着いてください」
思わず詰め寄ってしまった私を制止しつつ、アシュリンは続ける。
「私たちのガルザーネ族に伝わる秘術・精神合一。それを使って氷夜様の精神世界に直接入り込んでたたき起こしてしまおうという寸法です」
「な、なんでそんな大事なことを先に教えてくれなかったのよ!?」
「聞かれませんでしたから。そもそも秘術なのでそう易々と教えるものではないですし」
くっ……どこまでが本気でそう言ってるかはわかりそうもないわね。
とはいえ秘術と言われてしまえば納得するしかないし、本題はそこじゃない。
「じゃあアシュリン、今すぐ氷夜の精神世界へ行って氷夜を起こして」
「無理です」
即答だった。
「ど、どうして!?」
「この魔法は自分に好意を抱いている者にしか使えません。誰だって嫌いな人間には自分の心を覗かれたくないものでしょう? 私は氷夜様から嫌われていましたからまず不可能ですね」
「そう? 氷夜が誰かを嫌いになるってあんまり想像がつかないわよ?」
「同族嫌悪というものですよ。私はそんな氷夜様が大好きなのですが」
「あんたねぇ……さっきは頼りないだとか氷夜のことを散々こき下ろしてたじゃない?」
「頼りないのと好きかどうかは全く別の話ですよ。決して手に入らない宝石を追い求めるよりも、すぐに手に入る腐りかけのパンの方が腹を満たすにはちょうどいい、それだけのことです」
「…………アシュリン」
誰かを好きになる理由がそんな悲しい理由でいいの?
諦観に満ちたアシュリンのセリフに、衝動的にそう言ってしまいたくなったけれど、それはなんだか傲慢なことに思えて、私は二の句が継げなくなる。
「さて話を戻しましょう」
そんな雰囲気を感じ取ったのか、アシュリンは小さく咳払いをして話題を強引に切り替えた。
「ここまで話せば小春様も察しがついているでしょうが、今から小春様には私たちの秘術を覚えて頂きます。秘術と言っても術式魔法に分類されるので小春様も習得できるはずです」
先程までとは打って変わって、いつものように明るい調子でアシュリンは続ける。
「いちいち教えるのは面倒ですので実際に小春様の精神世界へ入ってそこで教えることにします。小春様の心に直接術式を刻んだ方が手っ取り早いかと」
「それはいいけど私は何をすればいいの?」
「とりあえず横になってください。精神世界に入っている間は意識がなくなっていますので」
「わかったわ」
アシュリンの指示に従って、氷夜の隣のベットに横たわる。
するとアシュリンはどこからか取り出した鎖を私に巻き付けてきた。
「ちょちょっと!? これは何なの?」
「私と小春様を繋ぐパスの代わりとなるものです。そうお気になさらず」
……気にするななんて無理に決まってるでしょ。
私はそう口にする代わりにアシュリンにジト目を向けるが、当の本人はどこ吹く風だ。
「まずは私の手を握ってください。それからゆっくり深呼吸」
「ええ」
アシュリンの呼吸に合わせて私も深呼吸。
「「……………」」
う、うん。
これはこれで恥ずかしいわね。
「次に私と同じものをイメージしてください。今回はロクサムを」
「了解よ」
言われるがまま、アシュリンと行った花畑を頭の中に描く。
すると不思議なことに段々と意識が遠のいていく。
「では行きますよ。精神合一」
アシュリンが言霊を唱えた次の瞬間、私の意識は別の世界へと移動していた。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます
水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。
勇者、聖女、剣聖――
華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。
【戦術構築サポートAI】
【アンドロイド工廠】
【兵器保管庫】
【兵站生成モジュール】
【拠点構築システム】
【個体強化カスタマイズ】
王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。
だが――
この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。
最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。
識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。
「今日からお前はレイナだ」
これは、勇者ではない男が、
メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。
屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、
趣味全開で異世界を生きていく。
魔王とはいずれ戦うことになるだろう。
だが今は――
まずは冒険者登録からだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる