疾風バタフライ

霜月かずひこ

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第10話

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「今日は練習試合をしますわよっ!」



 一週間後の週末、久しぶりの休日練習で眠気眼だった俺の意識は今宮の一言で覚醒した。

 練習試合? 

 なんで急に? 

 突然の話で混乱する俺をよそに今宮は続ける。



「来るべき県大会は2週間後。正直いって今のままでは練度が足りませんわ。特に越谷廉太郎っ! あれでは県大会を勝ち抜くなど夢のまた夢。短期間でより戦型を洗練する必要がありましてよ」

「……確かにな」



 道畑に勝ったものの、次の試合では特に見せ場もなく敗退してしまっただけに何も言い返せねえ。

 

「というわけで今日は明王大付属高校の2軍の方々に来てもらってますわ」

「「明王大付属!?」」



 突然聞こえてきたビックネームに皆の声が重なった。



「明王大付属って言ったら東京屈指の強豪校じゃねえか」

「わ、私も知ってます」

「サッカーも強いよね」



 明王大付属高校。皆が言うように都内の有名なスポーツ進学校である。

 特に卓球は東京都5連覇中で、昨年の全国シングルスチャンピオンが在籍している他、団体でも全国ベスト3に入るなど凄まじい成績を誇っている。



「そんなところがどうして俺らと試合やんだよ?」

「あら? 私を誰かお忘れですの?」

「……なるほどな」



 そういえば今宮は東京出身だったな。

 加えて今宮は両親も卓球をやっている卓球一家。

 卓球繋がりで何らかのコネがあってもおかしくない。 



「それに知り合いもいますのよ。翼くん!」

「…………失礼します」



 今宮の呼びかけに応じるように体育館のドアが開いた。

 そこから明王大付属のロゴが入った黒いジャージを着た集団がぞろぞろと入って来る。

 さすがは強豪校の連中とあって纏うオーラが一味違うな。

 特にその先頭を歩く一人の男。

 表情が薄く、何を考えてるかわからないのが余計にオーラを醸し出している。

 …………こいつはすごそうだ。

 ごくりと唾を飲み込む俺にそいつは手を差し出してきた。



「……明王大付属1年、泉岳寺翼せんがくじつばさ。今日はよろしく」

「おう、俺は越谷廉太郎。こちらこそ」

「……荷物はここに置いても?」

「いいぜ、自由に使ってくれ」

「それでは」



 パンと手を鳴らし、泉岳寺はそれまでとは一変して強い口調で部員たちに呼びかける。



「おいお前ら! 許可が出たぞ。荷物を置いて集合だ!」

「「はい!」」



 泉岳寺の指示通りにテキパキと行動し、集合する明王大付属のメンバーたち。

 あまりの速さに俺らが声をかける暇もない。

 そして集合を終えると



「整列! そして挨拶!」

「「よろしくお願いします!」」



 体育会系感満載の挨拶をかましてきた。

 こういうのに慣れてる俺や京介は何ともないが、早瀬は少し驚いたようでこっそり京介の後ろに隠れていた。

 その間に今宮は面識があるらしい泉岳寺の下へ。



「今日はよろしくですわ。それにしてもこうやって翼くんと会うのは久しぶりですわね」

「……そうっすね。今宮さんとはあんまり会ってなかったっすね」

「もう! 昔みたいに華怜って呼んではくださいまし! なんか苗字で呼ばれると距離があって嫌ですわ。それとその変な敬語禁止!」

「ご、ごめん。華怜。……これから気を付ける」



 ……なんか意外だ。

 表情が乏しそうな翼が今宮の前ではたじたじになっている。



「ひゅーひゅー。それが噂のあの人かー」

「噂のマドンナってその人ー?」

「うるさい。お前たちは黙ってろ!」



 部員たちからの揶揄に少しムキになって泉岳寺は反応する。

 無表情でとっつきにくそうと思ってたけど、案外苦労人なのかもしれねえな。

 

「……お疲れさん」

「こっちも華怜から色々聞いてるよ、越谷も大変だな」



 肩をポンと叩くと泉岳寺からも察したかのような視線が返ってくる。

 これが天才の相手をする苦労を知る者同士の邂逅ってか。

 俺は泉岳寺にシンパシーを感じずにはいられなかった。

 ってか今宮と知り合いってことは………… 



「やっほー泉岳寺くん久しぶりー」

「……久しぶりだな。朝倉寧々」



 やっぱ朝倉とも面識があんだな。

 とはいってもその雰囲気は今宮の時とは明らかに違っている。

 両者の間には並々ならぬ因縁があるように見えた。



「そろそろ練習に入りましょうか」

「「押忍!」」



 だがそれも一瞬のことで、今宮の鶴の一声によりすぐに準備に取り掛かる。

 人数が多いこともあってあっという間にセット完了。

 普段うちは時間がかかりすぎているから、大所帯は羨ましい。

 

「フォア打ちー」

「「はい!」」



 威勢の良い声と共に練習が開始された。

 交流のため各練習ごとに人を入れ替えていくが、さすがは強豪校。

 全員レベルが高く、京介たちのミスもなんなくカバーしている。

 全員回り切ったところで試合に移行した。



「試合どうします?」

「うーん適当でいいんじゃないかな」

「翼くんはどう思います?」

「華怜が決めたのなら文句はないよ」

「じゃあ団体で」

「「了解」」

 

 などと話し合った結果、ひとまず試合は団体戦形式で行われることに。

 こちらのメンバーは俺、今宮、朝倉の経験者トリオ。

 相手のエースである泉岳寺とは朝倉が対戦する。



「よろしくお願いします」



 勝負は2セット制で行われた。

 俺の対戦相手は2軍の中でも中堅クラスと聞いていたが、名門とだけあって実力は高い。1セット目こそアンチラバーの緩急で押し切れたものの、続く2セット目はしっかりと対応されてしまい、勝負は引き分けとなった。



「お疲れ様ですわ。あのレベルにここまでやれるのなら十分でしょう」

「へへ、ならよかったぜ。今宮こそ頑張れよ」

「言われなくてもそうしますわ」



 俺との交代際に今宮は自身満満な表情を覗かせて台へと向かって行った。 

 その今宮の相手は翼に次ぐ実力者。

 パワーショットに定評がある選手だ。

 試合前の練習の時点ですでに他とは打球音が違っていた。



「……廉太郎。今宮さんの相手めちゃ強そうだけど大丈夫かな」

「大丈夫だろ。だって今宮だぜ」



 不安になった京介が心配そうに聞いてくるが、俺はきっぱりと否定する。



「どういうこと?」

「そういや京介は今宮のガチ試合見るの初めてだったな。まあ見てろよ。すぐわかるから」

「うーん、わかった」



 正直、説明するより見た方が早え。

 京介には無理矢理納得させて俺たちは台の後方に移動し、固唾を飲んで今宮の試合を見守った。



「「お願いします」」



 相手のサーブで試合が始まった。

 回転の種類を読みずらい高等サーブ、YGサーブを駆使して崩しに来る相手に対し、今宮は適切に対応。チャンスボールは与えず、ドライブをして打ち合いに入った。

 しかし相手は男子の、それもパワー型だ。

 打ち合いになったら最後、強烈なのが飛んでくるのは自明なわけで



「くらえっ!」



 案の上、相手は体重を乗せた思い切りのよいパワードライブを打ち込んでくる。

 その威力は普段朝倉が練習で見せるドライブの比ではない。



「ああっ!」



 絶望的な状況に京介が悲鳴を上げたその時、今宮は既に躍動を開始していた。 

 相手のラケットの向きから弾道を予測し、フォア側にステップして移動。

 そして弾速に合わせて体を大きく捻らせ、絶好のタイミングでラケットを振りぬいた。

 ――途端に爆ぜる轟音。

 カウンターに対するカウンター。

 相手は反応すら出来ていなかった。



「い、一体なにが起こったの?」



 どよめきが起こる中、俺はようやく京介の質問に答えた。



「京介。あれが今宮だぜ」



 今宮華怜。その最大の武器は彼女のたぐいまれなボディバランスが可能にするパワードライブ。体重の乗せ方が神がかり的に上手いため、最大限の力で打つことができるのだ。



「でももっとやべえのは基本的な技術の高さだな」



 パワー型にありがちなのは強打を返されると何もできないといったタイプだ。

 だから一番のパワードライブさえ返せれば全く怖くないのだが、今宮だとそうはいかない。読み、戦術への対応力、反射神経、台上技術など卓球に必要とされる能力はどれも一級品でパワープレイを封じたとしても、トップクラスの実力を持っているのだ。 

 かつての朝倉と並び立つとされた実力を持つだけはある。

 そういや朝倉は――

 ふと気になって視線をやると、泉岳寺が話しかけている所だった。



「朝倉寧々、待ってても意味はない。やるぞ」

「いいの泉岳寺くん? 華怜ちゃんの試合見なくてさ」

「見なくても結果はわかる」

「……わかったよ。じゃあやろうか」



 どうやら今宮達の裏で試合をやるらしい。

 練習試合でがちがちに応援するのもあれだから、時間短縮といった感じか。



「おい朝倉」

「何? 越谷君」

「まあなんつーか……その頑張れよ」

「ん、ありがとう♪」



 思う所があって朝倉に一声かけると、横からにやにやと気持ち悪い笑みをした京介がからかってくる。



「廉太郎が心配なんて珍しいね。やっぱり朝倉さんは特別?」

「だあっ! ちげえっての。別に心配なんてしてねえよ」



 なにせ天下無敵の朝倉寧々だ。

 朝倉がそう簡単に負けるはずがねえ。



「――ただな、泉岳寺はあの明王の準レギュラーなんだぜ? 簡単にいく相手とは思えねえんだよ」



 ペン持ち(名前の通りペンを持つようにしてラケットを握る持ち方)の泉岳寺に対し、朝倉はシェイク。性格も戦型も正反対で、なんなら相性さえ悪そうな両者の一戦は朝倉の攻撃で始まった。

 

「いくよっ!」



 朝倉は腰で溜めを作り泉岳寺のツッツキをきれいにドライブした。 

 泉岳寺も当然とばかりにドライブで返すが、朝倉はそれを予期していたかのようにドライブの弾道の先にステップイン。

 体ごと引いてラケットを上からピンポン玉に向かって斜めに振り下ろし、ボールに強烈な下回転を掛ける。

 その強烈な回転に負け、泉岳寺の返球はネットに突き刺さった。



「ちっ」



 悪態をつく泉岳寺に対し、朝倉は苦笑いで語りかける。



「もっと楽しそうにやろーよ。泉岳寺くんがその調子だとやりづらいからさ」

「朝倉寧々。お前にそんなことをする義理はない」

「……はっきり言ってくれるなぁ」



 泉岳寺の態度は相変わらずで朝倉は若干不満そう。

 空気が悪い中、京介だけは呑気に聞いてくる。  



「ねえねえ何なの今のは。朝倉さんは何をしたのさ?」

「あれはカットって呼ばれるボールに下回転をかける技術だぜ。ドライブの反対版だと思えばいい」



 朝倉はカットを用いるカットマン、しかもカットマンの中でも攻撃に転じる回数の多い超攻撃型カットマンである。カットはドライブ以上にセンスを必要とする技術で相当な実力者でもセンスがなければまともなカットはできない。

 そのカットとドライブを即座に切り替えなければいけない超攻撃型カットマンというスタイルはまさに天才にのみ許された戦型だろう。

 ……とそうこうしているうちに朝倉たちの諍いさかいにも終わりが見えてきた。



「ふんだ。華怜ちゃんに言いつけちゃお。私は楽しくやりたいだけなのにってさ」

「……勝手にしろ。そもそも楽しみながら勝てる程俺は甘くはない。来い朝倉寧々、ここからが本番だ」



 泉岳寺の雰囲気が変わった?

 凍てつくような鉄面皮から感じる凄みが増してきている。



「へえ? なら遠慮はしないよ。……ワンラブ」



 対する朝倉もギアを上げてYGサーブで崩しに行く。

 朝倉はカットは言うまでもなく、サーブも一級品だ。

 簡単に返せるような球じゃねえ……のだが、泉岳寺はラケットを反転させると朝倉のバック側を抜けるような短いレシーブで返してきた。

 追いついても次で空いたフォアを打ち抜かれてしまうため、さすがの朝倉と言えどもただ見送るしかない。

 そしてこの一球を機に泉岳寺がペースを握り始める。

 朝倉の幸先の良いスタートなどなかったとばかりに得点を重ね、4点もリードしていた。



「……れ、廉太郎。やばくない? やばくない? 朝倉さん押されてるよぉー」

「こ、越谷さん。寧々さんがぁ……」



 朝倉の思わぬ苦戦を見て京介と珍しくも早瀬が俺に泣きついてくる。



「うるせえ! 二人とも落ち着けって! ……まあやばいのには同意だけどよ」

「ほらやばいんでしょ! どうしてこんなことに」

「そうだな」



 理由は大きく二つある。

 一つは翼の使ってるラバーの特異性。

 翼のラバーは表面がデコボコした粒高ラバーと言われるもので、相手の回転を逆にして返すという特殊な性質がある。

 より正確に言うなら粒が相手の回転をそのまま返すので反対側の相手からすれば結果的に逆になるといった感じだ。



「だから当てるだけで下回転を上回転で返せるし、相手のドライブをブロックすれば下回転で返せるんだよ」

「ええっ! そんなのチートじゃない? あっていいのそれ?」

「いいんだよ。アンチと同じで回転はかけにくいし、それに粒高はアンチと違ってそれなりに人口も多いからな。上級者とかは粒高に慣れてて、まず通じねえ……はずなんだ」



 ――だが泉岳寺の高度な技術がその壁を打ち破ることを可能にした。

 特にラケットを反転させる駆け引きの上手さはもちろん、モーションフェイントや相手の回転を逆手にとっていなす技術、相手の思考を読み取り裏を突く戦術眼などは朝倉や今宮の才能を持ってしても簡単に模倣できるものではない。

 そしてそれらが可能にするこそが泉岳寺が優位に立っている真の理由とも言えるだろう。

 

「……上手くなったね泉岳寺くん」

「上から語るな。俺はお前よりも強い。ずっと昔からな」

「今まで一回も私に勝ったことないのに……それにまだ負けたわけじゃないよ」



 朝倉も意気込んで応戦するものの、戦術の面では泉岳寺が明らかに上で、ついに1セットを落としてしまった。

 圧倒的な反射とボールタッチで相手を翻弄してきたあの朝倉が、今度は逆に翻弄されてるとはな。

 

「負けんなよ朝倉」



 ……お前が負けるとこなんて見たくねえんだよ。

 どちらかに入れ込んでいたつもりはないのに、朝倉を応援している自分に気付いてしまう。

 くそ、何やってんだよ俺。

 気まずくなって視線を逸らすと、試合が終わっていた今宮の姿が目に入った。



「……寧々」



 今宮は手をぎゅっと祈るように結んで、静かに試合を見守っている。

 ……まあ、そうだよな。

 今宮は俺とは比較にならないくらい朝倉の才能を知っているのだ。

 何も思わないはずがねえ。

 

「…………ちっ」



 見間違いか?

 泉岳寺が今宮を見て顔を歪めたような気がしたが、それも一瞬でいつもの無表情に戻っていた。



「いくぞ」



 続く第2セットは泉岳寺から。 

 さっきの不審な様子はどこへやら、泉岳寺の試合運びは堅実なままだ。

 いや、少し堅実すぎるといった方がいいかもしれない。

 事実、泉岳寺が少し守備的になったおかげで朝倉が盛り返し始めている。



「よっと♪」



 左右に揺さぶりに来る翼の打球をカットして、たまらず翼がドライブしたのを朝倉は即座にカウンター一閃。

 ほぼノータイムで行われた返球に周囲からどよめきが起こった。 



「す、すげえ」

「さすがだ」

「……あんなドライブ見たことねえ」



 自分を褒めたてる周囲の声が嬉しかったのか、朝倉も目に見えて上機嫌になる。



「ふふん♪ 乗って来たよ」



 ……ほんと小学生並みに単純だよな。

 呆れはするが、俺は知っている。

 こういう時の朝倉は強い。

 良くも悪くも気分屋な朝倉は周囲のボルテージが上がるにつれて本領を発揮するタイプなのだ。 

 そして俺の読み通り、試合はまもなく朝倉の独壇場となった。



「それっ♪」



 多種多様なカットで翼を手玉に取り、カットするとフェイクを入れてからのドライブなど才能にモノを言わせたプレイで得点を重ねていく。

 1つ1つが曲芸の連続。

 朝倉がプレイするごとに歓声が巻き起こる。

 ……極めつけにはこれだ。



「ゼ、ゼロバウンドだと!?」



 朝倉が横から入れたボールが翼のコート上を転がるように駆け行き、翼が驚嘆の声を漏らした。

 ゼロバウンドとはボールを横から相手コートに入れる際に打球が台とほぼ平行だった時に起こる現象で、某テニス漫画のなんちゃら式ショットのようなモノだと思ってもいい。

 こんなのはできても偶然、いや、その偶然すらまず滅多に起きないのだが朝倉は平然とやってのけた。



 ……だけどあいつには難しいことをしてる自覚はなんてねえんだ。

 あいつはあくまでもただ楽しんでるだけで、連発するスーパープレイですら思いつきの産物に過ぎねえ。

 まさに天衣無縫。

 常識も限界さえも知らずにどこまでも高く飛んでいく、俺の憧れた彼女の真の戦型である。

 それで試合はというと……



「あー楽しかった。またやろうね」

「……次は勝つからな」



 朝倉と泉岳寺がお互いに1セットずつ取り合い引き分けで終了した。

 満足げな朝倉とは対照的に泉岳寺の奴はどこか不服そうで、見かねた今宮が泉岳寺の方へ寄っていく。



「二人とも良い試合でしたわ。ほら翼くんも拗ねてないで」

「別に拗ねてなんか」

「もう、何年の付き合いだと思ってるんですの? ちゃんとかっこよかったですわよ」

「っ!?」



 今宮に髪をわしゃわしゃされて、途端に赤面する泉岳寺。

 泉岳寺の方が身長が高いだけに、今宮が背伸びする格好になっている。

 なんか微笑ましいというか、なんというか……。



「いいなー泉岳寺くん羨ましい」



 おい。俺を見るな俺を。

 朝倉が意味深な視線を俺に送ったせいで、勘違いした今宮が慌てて飛んできた。



「寧々!? もちろん寧々もかっこよかったですわよ!」

「えへへ、華怜ちゃんおおげさだよー」



 ……うわっ、腹黒っ。

 朝倉の奴、「おおげさ」とかいう割には満更でもない感じだし、腹いせとばかりに泉岳寺にペロッと舌を見せてやがる。

 だが泉岳寺はそんな挑発にも表情を崩さず、テキパキと次の指示を出していた。



「……はぁ。各自試合でわかった課題を元に練習。越谷は俺と、華怜は朝倉寧々とやっててくれ」

「「はーい」」



 百合百合しながら卓球台に向かう天才コンビには目もくれず、泉岳寺は俺と台に向かう。

 ――その途中。



「……あいつ絶対殺す」



 俺は聞こえてきた言葉に苦笑しつつ、台に着いたのだった。

  ……まあ、そりゃそうだろうよ。

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