祖国を追放された聖女の私を拾ったのは敵国の皇帝陛下!? ~裏切られ聖女の復讐譚~

楠富 つかさ

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王国編

第4話 旅路

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 エフェドニアを出て三日が経った。ファリアのおかげもあって夜盗を撃退したり、食べられる野草で食事をしたりと、ワイルドな生活にもすっかり慣れてしまった。やはり女の二人旅というのはなかなかに険しい。
 しかし幸いなことに、聖女追放についての情報はまだ国中に広まったわけではなかった。というのも、エフェタリア南部は牧歌的な地域であり、大きな要塞が一つあるが軍事的にはそこに一極集中しており、小さな農村には兵士など一切いないのだ。情報の伝達は主に中央から各街の兵士、そして兵士から住民へとされる。

「さようなら、旅の人」
「えぇ。いつかまた」

 昨夜は小さな村の村長にお世話になった。宿すらない小さな村がこの南部の地域には多い。南は帝国領だし、旅をするのは中央に奉公に行くものか、中央から帰省してくるものくらいだ。

「もう三日くらい歩けばバクルムスですね」

 ファリアの言葉に頷く。すっかり歩くのにも慣れてしまった。村長さんがちょっとした食事も持たせてくれたし、この辺りは水も豊かだ。川沿いに歩いていればそのうちに着く。
 風は心地良く、小高い丘を登ってきたかいあってか歩き始めた頃よりも涼しく感じられるようになった。小鳥のさえずりや川のせせらぎ、聖女としての務めばかりを考えていた頃には聞いていても気にすることすらなかった音の多さに思わず驚いてしまった。

「一応、実家に手紙は出したのですがちゃんと届いているでしょうかねえ」

 ファリアがぽつりと呟いた。手紙の配達は脚力に自信のある何人もの若者が、身体能力強化の魔法をかけられた上で、交代で走ることで為されている。ファリアは仕事を辞めたことと、行く当てのない友人ルーンを連れて帰省することを手紙にしたためたらしい。
 村にはっきりと聖女の顔を覚えている人がいなければいいのだけれど。とはいえ、髪は切ったし歩いている最中に多少の日焼けもした。印象はがらっと変わったのではないだろうか。

「あまり川に近付かないでくださいよ。うっかり落ちたら帝国まで流されちゃいますからね」
「その前に大滝があるから、流れ着くまで生きていられるかが問題ね」

 小高い丘に沿う川がどうして低地から高地へ流れていくのか、それには水に含まれている魔力の性質が大きく影響している。魔力は一箇所に集まることで、他の同属性魔力を引き寄せる性質を帯びる。
この小川の果てにあるのはエフェタリア王国とグラッツォン帝国との国境であるレジエール湖とレジエール大滝だ。湖と大滝の水に含まれる魔力に吸い寄せられるように、川の水も私たちと同じようにこの丘を登っていくのだ。

「この先に川が少し曲がるところがあるんですけど、そこが小さな湖のようになっているので、今日はそこで野営をしましょう」

 丘の一番上まで登ったタイミングで、昼休憩を取る。その中でファリアが今夜の野営地を指差した。けっこうな距離があるようだが、そこに着く頃にはほぼ日が落ちるらしい。
 祈りをやめて四日が過ぎた。そろそろ伝えてもいいかもしれない。

「実は聖女の家系には祈り続ける本当の理由が伝わっているのだけど」

 食事を済ませて歩き出すと、私はいよいよファリアにこれから王都に起きる惨劇について伝えた。
 王都エフェドニア北西に、小さな遺跡がある。それは異世界から現われた勇者ではなく、魔王を封じるために聖女が一人犠牲になった場所だった。聖女の祈りによってこれまで封印がされてきたが、今はもう祈っていない……祈りの効果が届かない場所まで来てしまったこともあり、いつ封印が解けてもおかしくない状況なのだ。

「え、え?? 王都は大丈夫なんですか。屋敷の人たちのこと、あんなに心配していたセレーナ様が見捨てるようなまねはしませんよね??」
「一応、聖女の館は安全よ。亡者が恐れる力が染みついている場所だから。その点で言えば、教会も安全ね。加護があるから」
「で、でもどうしてそれを言わなかったんですか?」
「信じてもらえないでしょうから。亡者が復活した後のことは分からないわ。ひどい女でしょう?」

 もとを正せば国が聖女を無駄だと切り捨てたからだが、歴代の聖女が自分たちの役割について啓蒙してこなかったのも原因だ。エフェタリアが滅ぶか否かは、王国兵の練度次第だ。聖女の館にある文献をいくつか読んだが、亡者は単体での脅威は低いが、物量で圧倒してくるらしい。

「その亡者は、いつか王国外にまで版図を広げるのでしょうか」
「それも分からない。亡者に思考があるのかすら、知り得ないことよ」
「そうですか。それでも、わたしはいつまでもセレー……、ルーンちゃんと一緒にいますから」
「そうね。私はいい友に恵まれたわ」

 もっとも、私が寝ている間に邪なイタズラをしようとする点については断じて許さないのだけれど。
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