祖国を追放された聖女の私を拾ったのは敵国の皇帝陛下!? ~裏切られ聖女の復讐譚~

楠富 つかさ

文字の大きさ
5 / 15
王国編

第5話 ファリアの家族

しおりを挟む
 さらに三日の時間をかけて、私たちはファリアの実家があるバクルムスの村までやってきた。穀倉地帯ということもあり、食糧は豊富そうだ。あちこちからパンを焼くような香ばしい匂いが漂ってくる。

「私の家はあれです。アポルスの樹が植わっているところ」

 アポルスは秋口に真っ赤な果実をつける果樹だ。今の時期は白い小さな花を咲かせる。花から既に甘い香りがほのかに香っていた。バクルムスの村ではいくつかの家で果樹が育てられているようだ。
 家の作りは基本的に木材と麦わら、それと土壁が多い。実家ということもあり、ノックもなしに扉を開ける。入って直ぐがリビングだろうか、やや広い空間になっている。そこから扉が三つ見える。階段はなく平屋だが、その分天井が高めで広々とした空間に見える。

「おぉ、帰ってきたか。で、そちらがルーンさんかい? 初めまして。ファリアの父でルームスといいます」
「遠いところよくぞ来てくださった。私はファリアの母でリセラといいます。自分の家だと思ってゆっくりしていってください」

 ファリアの両親は思ったより若かった。ファリアが確か十五になるから、三十半ばくらいになると思っていたが、三十になったかならないかといったように見える。それに、ファリア以外に子供が三人いる。
 長男で元気のいいマーカスと次女で人見知り気味なラフィと次男でまだ幼いブランクだ。三人は久しぶりの再会となったファリアにべったりで、ファリアも私と二人きりの時に見せない慈愛に満ちた表情を浮かべている。

「ルーンさんはファリアの同僚で、行く当てがなくってうちに来たんだろう?」
「あ、ルーンでいいです。仕事で失態を……それで、えぇ」
「あら、聖女さまも厳しいところがあるのね。よくファリアは今までお勤めを全うできたわね」

 私はご両親に巧い具合に話を合わせつつ、一応は自分の印象を悪くしないように仕事のミスで怒ったのは主人である聖女ではなく、執事のトップということにしつつ、ファリアは私を庇ったせいで一緒に暇を出されたという感じに話を進めた。

「なるほどね。メイドさんだったわけだし、ある程度の家事はまかせても大丈夫なのよね?」

 ……しまった。普通はそうなるよね。聖女の私には炊事も洗濯も一切できない。とはいえ、今の私はセレーナではなくルーン。ちょっと口ごもるが誤魔化すにも限界がある。

「ルーンは仕事が出来なくて暇を出されたんだから、期待しちゃだめだよ母さん」

 実際に出来ないのだから、ここでファリアに言い返すのはおかしい。だからといって言われっぱなしというのもモヤモヤする。

「あぁ、じゃああの子たちの面倒を見てはくれないかい? そうしてくれるだけで、あたしが動ける時間が増えるからさ」

 そう言ったリセラさんの視線の先には三人の子供達。なるほど、十歳、六歳、三歳くらいに見えるあの三人を構っていたら、家事は遅々として進まないだろう。子供の面倒を見た経験もないが、とにかくあの三人と打ち解けるところから始めればいいのだろう。

「えっと、よろしくね」
「ルーンだよな。よろしく。姉ちゃんより年下なのか? 平べったいけど」

 ……早速、マーカスが私に言ってはならないことを言い放ってしまった。

「私!! 十八だから!! 大人なの!!」

 聖女だったし、平民よりよっぽどきちんとした食事を摂っていたはずなのに、こればかりは血筋なのだろうか。胸が小さい。ずっと気にしていた……。正直、ファリアだって抜群に大きいわけじゃないけど、確かに膨らんでいる。私よりよっぽど……ある。

「あー悪かったな。元気出せよ」

 ……マーカスは悪いやつじゃない。取り敢えずそれは分かった。が、私の田舎暮らしの幸先はあまり良いとは言い難かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...