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王国編
第6話 王都の異変
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小さな村での穏やかな生活。決して豊かとはいえない暮らしだったが、聖女として務めに迫られていた時よりもよっぽど心が落ち着く。それもまた、豊かさなのではないかと考えられるようになった。バクルムスでの日々で一つ分かったことがある。私は意外と子供の扱いが巧い。最初に失言を放ったマーカスに対してはちょっと厳しく、人見知りなラフィも一度懐けば私にもうべったりだ。ブランクのお世話はまだまだ大変で、リセラの力を何度も借りてはいるが、私が抱いてももう泣かなくなった。これがたった三日での出来事なのだから、聖女としての人心掌握術も伊達ではないといったところだろう。
「どうよファリア。私にだって出来ることはあるんだから」
「ふふ、きっとルーンが子供達と同じ目線でいられるからだろうね」
子供っぽいと言われたような気もするが、まあいいとしよう。
「ルーンお姉ちゃんあやとりしよう!!」
そう、ラフィを魅了したのは私のあやとりの妙技だ。ファリアの先代のメイド長、私の育ての親といってもいいメイドから教わったあやとりでラフィと打ち解けることが出来た。ブランクをだっこしながらラフィとあやとりで遊ぶ。
「ルーン、行商人が来ているらしいからマーカスと一緒におつかいを頼めるかい? その間ファリアは料理を頼むよ。あたしゃブランクにお乳をあげるからさ」
リセラに頼まれ買い物に行くことにした。エフェタリア王国ではエレンスという通過が流通しているが、辺境といって差し支えないこの地では物々交換の方が主流だ。麦や薪を抱えるマーカスと連れだって行商人がいるという村長の家へ向かうことにした。
「おーっす、じいさん。行商人はまだいるか?」
マーカスはわりと私以外にも失礼な態度を見せがちらしい。こういう男は将来、嫁に苦労をかけかねないなんてリセラがぼやいていたのを思い出す。しっかり窘めてから、行商人に麦と薪を渡す。
「麦の実りもいいし薪の乾燥度合も悪くない。この辺りじゃ採れない野菜なんかどうだい? これもおまけしてもいいよ?」
王都からやや南の地域で採れる瓜の類いだ。確か名前はゴルーンだったはず。おまけに提案されたのはエフェタリア唯一の沿岸地域、東部で獲れた魚の干物だった。
「まぁいいだろう。ただし、この瓜はあの木の実とセットだ。じゃなきゃ苦くて食えない。なんてったって俺はお子様だからな」
マーカスが指差したのは橙色の果実。これも東部で獲れるマゴレンの実だ。潮風を浴びることで甘くなるらしいが、生食するには甘すぎるらしく苦味や酸味のあるものと一緒に煮込んでソースにするらしい。
「かっかっか。なるほど。いいだろう、持っていけ」
「商談成立だな」
ゴルーン瓜もいくつかあるものから一つ指定したくらいだし、マーカスはモノを見る目が養われているのだろうか。それはさておき、私は行商人に王都が今どうなっているかを訪ねた。祈りが途絶えて十日以上が経った。これで亡者が復活していなかったとしたら、それはそれでいいのだが……私の役目が無意味だということが事実になってしまう。それについては不服なのだが。
「なんだか最近、怪物が現われたとかで近付くことを避ける商人が多くてね。オイラはここで麦や薪をできるだけ馬車に積み込んで、王都で高く売りさばくつもりさ」
「怪物? 危なくないんですか? いや、王都には聖女さまもおられるし……逆に安全?」
さも無関係のような口ぶりで問う。どの口が言うんだと自分で自分が嫌になる。
「その辺りはオイラにはまだ分からん。王都の騎士たちが対応しているらしいが。まぁ、稼ぐためにはこんな安全な村ばかりじゃなくて、危険な場所にも行くのが商人ってやつさ」
エフェタリアはここ十年以上、大規模な戦争をしていない。帝国と領土を接することにはなったが、流石に帝国も大規模な戦争を望んでいるわけではない。
王都の騎士が対応できるくらいなら、亡者の脅威もそこまで強いわけではないのだろう。いずれ沈静化することを祈っておくとしよう。……その祈りが届くかはさておき。
「よーし、戻るか」
麦わらで編んだ籠に交換したものを入れて、私たちは村長宅を後にした。
「どうよファリア。私にだって出来ることはあるんだから」
「ふふ、きっとルーンが子供達と同じ目線でいられるからだろうね」
子供っぽいと言われたような気もするが、まあいいとしよう。
「ルーンお姉ちゃんあやとりしよう!!」
そう、ラフィを魅了したのは私のあやとりの妙技だ。ファリアの先代のメイド長、私の育ての親といってもいいメイドから教わったあやとりでラフィと打ち解けることが出来た。ブランクをだっこしながらラフィとあやとりで遊ぶ。
「ルーン、行商人が来ているらしいからマーカスと一緒におつかいを頼めるかい? その間ファリアは料理を頼むよ。あたしゃブランクにお乳をあげるからさ」
リセラに頼まれ買い物に行くことにした。エフェタリア王国ではエレンスという通過が流通しているが、辺境といって差し支えないこの地では物々交換の方が主流だ。麦や薪を抱えるマーカスと連れだって行商人がいるという村長の家へ向かうことにした。
「おーっす、じいさん。行商人はまだいるか?」
マーカスはわりと私以外にも失礼な態度を見せがちらしい。こういう男は将来、嫁に苦労をかけかねないなんてリセラがぼやいていたのを思い出す。しっかり窘めてから、行商人に麦と薪を渡す。
「麦の実りもいいし薪の乾燥度合も悪くない。この辺りじゃ採れない野菜なんかどうだい? これもおまけしてもいいよ?」
王都からやや南の地域で採れる瓜の類いだ。確か名前はゴルーンだったはず。おまけに提案されたのはエフェタリア唯一の沿岸地域、東部で獲れた魚の干物だった。
「まぁいいだろう。ただし、この瓜はあの木の実とセットだ。じゃなきゃ苦くて食えない。なんてったって俺はお子様だからな」
マーカスが指差したのは橙色の果実。これも東部で獲れるマゴレンの実だ。潮風を浴びることで甘くなるらしいが、生食するには甘すぎるらしく苦味や酸味のあるものと一緒に煮込んでソースにするらしい。
「かっかっか。なるほど。いいだろう、持っていけ」
「商談成立だな」
ゴルーン瓜もいくつかあるものから一つ指定したくらいだし、マーカスはモノを見る目が養われているのだろうか。それはさておき、私は行商人に王都が今どうなっているかを訪ねた。祈りが途絶えて十日以上が経った。これで亡者が復活していなかったとしたら、それはそれでいいのだが……私の役目が無意味だということが事実になってしまう。それについては不服なのだが。
「なんだか最近、怪物が現われたとかで近付くことを避ける商人が多くてね。オイラはここで麦や薪をできるだけ馬車に積み込んで、王都で高く売りさばくつもりさ」
「怪物? 危なくないんですか? いや、王都には聖女さまもおられるし……逆に安全?」
さも無関係のような口ぶりで問う。どの口が言うんだと自分で自分が嫌になる。
「その辺りはオイラにはまだ分からん。王都の騎士たちが対応しているらしいが。まぁ、稼ぐためにはこんな安全な村ばかりじゃなくて、危険な場所にも行くのが商人ってやつさ」
エフェタリアはここ十年以上、大規模な戦争をしていない。帝国と領土を接することにはなったが、流石に帝国も大規模な戦争を望んでいるわけではない。
王都の騎士が対応できるくらいなら、亡者の脅威もそこまで強いわけではないのだろう。いずれ沈静化することを祈っておくとしよう。……その祈りが届くかはさておき。
「よーし、戻るか」
麦わらで編んだ籠に交換したものを入れて、私たちは村長宅を後にした。
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