13 / 15
帝国編
第10話 皇帝との邂逅
しおりを挟む
気が付けば目の前には青空が広がっていた。……私はまだ生きている。
女神さまとご先祖様との出会いは夢だったのだろうか……いや、身体の中をめぐる力が強まっている。あの出会いは夢ではない。だとしたら、超常的な力で……私は生きながらえたということか。
「おう、お主、目が覚めたか」
空を見上げたままの私にかけられた声は、幼いながら古風な話し方をするものだった。
グラッツォン帝国とエフェタリア王国は元々は同じ言語を使っていたと聞く。だとすれば、この話し方をするのは……帝国人。
「趣味の魚釣りに興じておったら思わぬ大物が釣れたわい。名乗れるか?」
顔を覗かせてきたのは、青みがかった銀髪の少女。きりっと吊り上がった瞳は金色……その色が示す意味それは彼女がグラッツォン帝国皇帝家に連なるものという意味だ。
私は慌てて起き上がり、片膝を立てて首を垂れる。
「ほぉ、妾が誰かは分かるようじゃな。お主、セレーナ・センティエラじゃな?」
「――な!?」
「なにを驚く? レジエール大滝から流れてきた黒髪のおなご、それなりに品位と教養があれば、察することなぞ朝飯前さ」
名前を言い当てられたことに驚き、思わず顔を上げてしまう。皇帝家の少女は終始笑みを浮かべている。どうやら帝国の情報網はすでに聖女追放の報せを感知しているようだ。ひょっとしたら帝国中に私の失態が知れ渡っているのかもしれない。
「王都を追放された無能な聖女が意趣返しに亡者の封印を解き、王国は崩壊寸前だそうじゃないか」
「……無能なのは認めます。ですが、亡者の封印は意図的に解いたものではないのです!!」
「ほぉ。なるほど、確かにお主にそこまでの度胸があるようには思えんな。さしずめ、封印が解けてしまった責任をお主に押し付けているということか。本来なら聖女を追放したエフェタリア王家が負わなければならない責任を、な」
目の前の彼女の洞察力、推理力には舌を巻くばかりだった。
帝国がどこまで王国の現状を知っているのか尋ねようとしたとき、
――ぐぅ~――
「おうおう、腹が減ったか。ならばこれを食え」
彼女に渡されたのは串に刺された焼き魚だった。きっとさっきまでこの川で泳いでいたのだろう。
何本かあるうちの一本を手渡され、彼女もそのうちの一本にかじりつく。
「いただきます」
「背中から食すとよいぞ。はらわたは苦いからな」
言われた通り、背中側の身をかじる。身は柔らかく、ほどよく塩気もある。どうやらただ焼いたわけではなく、塩がふられていたようだ。
久しぶりの食事は涙が出るほどおいしくて、彼女が苦いといったはらわたまで気づけばすっかり食べ終えてしまった。
「少し落ち着いたら歩くぞ。帝都リターシャまでな。そしたら聖女の生存を祝して歓待しよう」
「あ、ありがとうございます。……その、あなたのお名前を聞いてもいいですか?」
釣りの後片付けをする少女は私を見つめると、にやりと笑みを浮かべた。
「そうか、名乗っておらんかったな。妾はミスリアム・ゴルダイト=グラッツォン――先帝亡き今、妾こそがグラッツォン皇帝じゃ」
彼女との出会いは……すべてを失った私に女神様が与えてくださった反撃への旗印だった。
女神さまとご先祖様との出会いは夢だったのだろうか……いや、身体の中をめぐる力が強まっている。あの出会いは夢ではない。だとしたら、超常的な力で……私は生きながらえたということか。
「おう、お主、目が覚めたか」
空を見上げたままの私にかけられた声は、幼いながら古風な話し方をするものだった。
グラッツォン帝国とエフェタリア王国は元々は同じ言語を使っていたと聞く。だとすれば、この話し方をするのは……帝国人。
「趣味の魚釣りに興じておったら思わぬ大物が釣れたわい。名乗れるか?」
顔を覗かせてきたのは、青みがかった銀髪の少女。きりっと吊り上がった瞳は金色……その色が示す意味それは彼女がグラッツォン帝国皇帝家に連なるものという意味だ。
私は慌てて起き上がり、片膝を立てて首を垂れる。
「ほぉ、妾が誰かは分かるようじゃな。お主、セレーナ・センティエラじゃな?」
「――な!?」
「なにを驚く? レジエール大滝から流れてきた黒髪のおなご、それなりに品位と教養があれば、察することなぞ朝飯前さ」
名前を言い当てられたことに驚き、思わず顔を上げてしまう。皇帝家の少女は終始笑みを浮かべている。どうやら帝国の情報網はすでに聖女追放の報せを感知しているようだ。ひょっとしたら帝国中に私の失態が知れ渡っているのかもしれない。
「王都を追放された無能な聖女が意趣返しに亡者の封印を解き、王国は崩壊寸前だそうじゃないか」
「……無能なのは認めます。ですが、亡者の封印は意図的に解いたものではないのです!!」
「ほぉ。なるほど、確かにお主にそこまでの度胸があるようには思えんな。さしずめ、封印が解けてしまった責任をお主に押し付けているということか。本来なら聖女を追放したエフェタリア王家が負わなければならない責任を、な」
目の前の彼女の洞察力、推理力には舌を巻くばかりだった。
帝国がどこまで王国の現状を知っているのか尋ねようとしたとき、
――ぐぅ~――
「おうおう、腹が減ったか。ならばこれを食え」
彼女に渡されたのは串に刺された焼き魚だった。きっとさっきまでこの川で泳いでいたのだろう。
何本かあるうちの一本を手渡され、彼女もそのうちの一本にかじりつく。
「いただきます」
「背中から食すとよいぞ。はらわたは苦いからな」
言われた通り、背中側の身をかじる。身は柔らかく、ほどよく塩気もある。どうやらただ焼いたわけではなく、塩がふられていたようだ。
久しぶりの食事は涙が出るほどおいしくて、彼女が苦いといったはらわたまで気づけばすっかり食べ終えてしまった。
「少し落ち着いたら歩くぞ。帝都リターシャまでな。そしたら聖女の生存を祝して歓待しよう」
「あ、ありがとうございます。……その、あなたのお名前を聞いてもいいですか?」
釣りの後片付けをする少女は私を見つめると、にやりと笑みを浮かべた。
「そうか、名乗っておらんかったな。妾はミスリアム・ゴルダイト=グラッツォン――先帝亡き今、妾こそがグラッツォン皇帝じゃ」
彼女との出会いは……すべてを失った私に女神様が与えてくださった反撃への旗印だった。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く
腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」
――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。
癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。
居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。
しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。
小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる