祖国を追放された聖女の私を拾ったのは敵国の皇帝陛下!? ~裏切られ聖女の復讐譚~

楠富 つかさ

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帝国編

第10話 皇帝との邂逅

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 気が付けば目の前には青空が広がっていた。……私はまだ生きている。
 女神さまとご先祖様との出会いは夢だったのだろうか……いや、身体の中をめぐる力が強まっている。あの出会いは夢ではない。だとしたら、超常的な力で……私は生きながらえたということか。

「おう、お主、目が覚めたか」

 空を見上げたままの私にかけられた声は、幼いながら古風な話し方をするものだった。
 グラッツォン帝国とエフェタリア王国は元々は同じ言語を使っていたと聞く。だとすれば、この話し方をするのは……帝国人。

「趣味の魚釣りに興じておったら思わぬ大物が釣れたわい。名乗れるか?」

 顔を覗かせてきたのは、青みがかった銀髪の少女。きりっと吊り上がった瞳は金色……その色が示す意味それは彼女がグラッツォン帝国皇帝家に連なるものという意味だ。
 私は慌てて起き上がり、片膝を立てて首を垂れる。

「ほぉ、妾が誰かは分かるようじゃな。お主、セレーナ・センティエラじゃな?」
「――な!?」
「なにを驚く? レジエール大滝から流れてきた黒髪のおなご、それなりに品位と教養があれば、察することなぞ朝飯前さ」

 名前を言い当てられたことに驚き、思わず顔を上げてしまう。皇帝家の少女は終始笑みを浮かべている。どうやら帝国の情報網はすでに聖女追放の報せを感知しているようだ。ひょっとしたら帝国中に私の失態が知れ渡っているのかもしれない。

「王都を追放された無能な聖女が意趣返しに亡者の封印を解き、王国は崩壊寸前だそうじゃないか」
「……無能なのは認めます。ですが、亡者の封印は意図的に解いたものではないのです!!」
「ほぉ。なるほど、確かにお主にそこまでの度胸があるようには思えんな。さしずめ、封印が解けてしまった責任をお主に押し付けているということか。本来なら聖女を追放したエフェタリア王家が負わなければならない責任を、な」

 目の前の彼女の洞察力、推理力には舌を巻くばかりだった。
 帝国がどこまで王国の現状を知っているのか尋ねようとしたとき、

――ぐぅ~――

「おうおう、腹が減ったか。ならばこれを食え」

 彼女に渡されたのは串に刺された焼き魚だった。きっとさっきまでこの川で泳いでいたのだろう。
 何本かあるうちの一本を手渡され、彼女もそのうちの一本にかじりつく。

「いただきます」
「背中から食すとよいぞ。はらわたは苦いからな」

 言われた通り、背中側の身をかじる。身は柔らかく、ほどよく塩気もある。どうやらただ焼いたわけではなく、塩がふられていたようだ。
 久しぶりの食事は涙が出るほどおいしくて、彼女が苦いといったはらわたまで気づけばすっかり食べ終えてしまった。

「少し落ち着いたら歩くぞ。帝都リターシャまでな。そしたら聖女の生存を祝して歓待しよう」
「あ、ありがとうございます。……その、あなたのお名前を聞いてもいいですか?」

 釣りの後片付けをする少女は私を見つめると、にやりと笑みを浮かべた。

「そうか、名乗っておらんかったな。妾はミスリアム・ゴルダイト=グラッツォン――先帝亡き今、妾こそがグラッツォン皇帝じゃ」

 彼女との出会いは……すべてを失った私に女神様が与えてくださった反撃への旗印だった。
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