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#2 ランチと秘密
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次の日、教室に入ると神崎さんの周りに人が集まっていた。昨日、短時間でも二人きりでお話できたのが夢みたいだ。
「おはよう、神崎さん」
「うん、おはよー」
神崎さんが挨拶を返すと、周りにいた人達も次々にあいさつをした。やっぱり、人気者なんだなぁ。
私はいつも通り自分の席に座る。そして鞄から本を取り出して読み始めた。神崎さん達はそれからも何やら会話をしていたが、気にせず本を読んでいると、神崎さんがこちらを向いたので目が合ってしまった。
彼女はニコッと笑って小さく手を振ってきたので、私もぎこちないながらも笑顔を作って応えた。そんな私の勇気も周囲の取り巻きにあっさりと覆われてしまい、私は再び手元の本に視線を落とすのだった。
昼休みになると、私は中庭に向かうことにした。今日は天気もいいから外で食べるには絶好のチャンスだ。そう思って弁当を持って立ち上がったところで、肩をトントンと叩かれた。振り返るとそこには神崎さんがいた。彼女は小さな包みを持っている。
「よかったら一緒に食べようよ」
まさかのお誘いに、私は困惑してしまった。神崎さんなら他にも友達がいっぱいて、ひょっとしたら大人数になってしまうのではと考えが悪い方に走って、貴重なお誘いなのに断ってしまおうとかいう思いが脳裏をよぎると……。
「安心して、二人きりだから」
その言葉はまるでヒロインのようで、というか私の考えがスケスケみたいで無性に恥ずかしかったけど、断る理由はなくなったので、ぎこちないながら頷いた。「じゃあ行こっか」
こうして私たちは二人で昼食をとることになった。
中庭に出ると、私たち以外にも数人の生徒の姿があった。ベンチに座っていたり芝生の上で寝転んでいたりと思い思いの行動をとっている。
神崎さんは持ってきた小さめのお弁当箱を開ける。中にはサンドイッチがぎっしりで、隅にプチトマトが添えられていた。
「可愛いお弁当だね」
「ママが作ってくれるんだけど、実はママってお料理苦手なの。これも買ってきたものを詰め替えているだけ」
「え、そうなんだ……じゃあお夕飯とかは?」
「じっくり時間をかければ大丈夫だから、その辺は問題ないの。花音さんはお弁当どうしてるの?」
「うちは両親が忙しいから……自分で作ってるの」
私の場合は朝起きてから作るというよりも、夜のうちに作り置きしたものとか冷凍食品を詰めただけのもので、彩りだとか栄養バランスなんてものは全然考えてなくて、ただ毎日同じものを食べているという感じだ。味だって多分それなりのものだ。
私がしょんぼりした様子に気付いたのか、神崎さんは少し考えるような仕草をして言った。
「その玉子焼きは花音さんが自分で焼いたの?」
「う、うん。玉子焼きとウインナーは今朝焼いたやつ」
「じゃあプチトマトと交換しない? 花音さんのお弁当、野菜少ないし。お願い、実はプチトマト少し苦手なの」
そう言って神崎さんは自分の弁当箱を差し出してきた。
確かに私のお弁当は野菜が少ない。とりわけ生野菜は少し値が張ることもあって滅多に入らない。玉子焼きは三切れ入れたから、一つくらいあげたっていい。神崎さんに食べてもらうなんて緊張してしまうが。
というか、さっきのプチトマトが苦手だって告白した神崎さん、可愛すぎる……。天使なのかと思った。
「そうだ、箸がないから。あーんして」
そう言って既に神崎さんが口を開けて待っているじゃないか。どうしよう、神崎さん歯並びすら綺麗だ……。
「あ、あーん」
ぎこちなくなってしまったが、人にあーんするのなんて初めてだから許してほしい。口の中に放り込むと、神崎さんは満足そうに咀しゃくした。
「ふふ、花音さんの家では甘い玉子焼きなのね。美味しいわ。じゃあ、お返し」
そう言って神崎さんはあろうことか指先で摘まんだプチトマトを差し出してきたじゃないか。神崎さんはニコニコと微笑んでいる。
神崎さんのきれいな指に私の歯が触れないよう気を付けてプチトマトを受け取ろうとする。なんというか……神崎さんのペットになったような気分だった。その妙な力みのせいか、プチトマトを噛んでしまい果汁が飛ぶ。神崎さんの綺麗な白い指に、トマトの果汁がつたう。
「あら……花音さん、舐めて?」
「え?」
「ふふ、冗談よ」
そう言って神崎さんは自身の親指に舌を這わす。綺麗な神崎さんの、どこか淫靡な姿になぜか目が離せなかった。もし、私が舐めていたら……どんな反応をしただろう。
「私はね、けっこういろんなことをいろんな人に秘密にしているの」
ウェットティッシュで指先をぬぐった後、神崎さんが話し出した。私にはよく分からないが、きっと私なんかには想像もできないような複雑な事情があるのだろうと、とりあえず黙って聞くことにした。神崎さんは続ける。
「私がライトノベルとかアニメが好きなこと、友達には内緒にしているし。それに、ママが毎日彩りとして入れてくれるプチトマト、実は苦手だってことをママは知らない。でも、花音はどっちも知ってる」
突然の呼び捨てに困惑する私。私も両親に秘密を隠して生きている。それは私自身、きっとわかってもらえるようなものじゃないと思っているからだ。しかし、そんな私と違って、神崎さんはそんな自分の一面をさらけ出せる相手が欲しいということだろうか。
そんなことを考えていると、神崎さんは私の耳元に顔を近づけてきた。
そして囁くように言った。
「だから、これからはもっと仲良くしようね?」
その声はまるで私の心臓を鷲掴みにするかのような妖艶さと、甘美な響きがあった。
「私は花音のことを花音って呼ぶから、花音も好きに呼んでね」
「う、うん……ゆ、百合子ちゃん」
「ふふ、ありがと。またね、花音」
神崎さん……ううん、百合子ちゃんとこれ以上仲良くなったら、私……どうなっちゃうんだろう。
「おはよう、神崎さん」
「うん、おはよー」
神崎さんが挨拶を返すと、周りにいた人達も次々にあいさつをした。やっぱり、人気者なんだなぁ。
私はいつも通り自分の席に座る。そして鞄から本を取り出して読み始めた。神崎さん達はそれからも何やら会話をしていたが、気にせず本を読んでいると、神崎さんがこちらを向いたので目が合ってしまった。
彼女はニコッと笑って小さく手を振ってきたので、私もぎこちないながらも笑顔を作って応えた。そんな私の勇気も周囲の取り巻きにあっさりと覆われてしまい、私は再び手元の本に視線を落とすのだった。
昼休みになると、私は中庭に向かうことにした。今日は天気もいいから外で食べるには絶好のチャンスだ。そう思って弁当を持って立ち上がったところで、肩をトントンと叩かれた。振り返るとそこには神崎さんがいた。彼女は小さな包みを持っている。
「よかったら一緒に食べようよ」
まさかのお誘いに、私は困惑してしまった。神崎さんなら他にも友達がいっぱいて、ひょっとしたら大人数になってしまうのではと考えが悪い方に走って、貴重なお誘いなのに断ってしまおうとかいう思いが脳裏をよぎると……。
「安心して、二人きりだから」
その言葉はまるでヒロインのようで、というか私の考えがスケスケみたいで無性に恥ずかしかったけど、断る理由はなくなったので、ぎこちないながら頷いた。「じゃあ行こっか」
こうして私たちは二人で昼食をとることになった。
中庭に出ると、私たち以外にも数人の生徒の姿があった。ベンチに座っていたり芝生の上で寝転んでいたりと思い思いの行動をとっている。
神崎さんは持ってきた小さめのお弁当箱を開ける。中にはサンドイッチがぎっしりで、隅にプチトマトが添えられていた。
「可愛いお弁当だね」
「ママが作ってくれるんだけど、実はママってお料理苦手なの。これも買ってきたものを詰め替えているだけ」
「え、そうなんだ……じゃあお夕飯とかは?」
「じっくり時間をかければ大丈夫だから、その辺は問題ないの。花音さんはお弁当どうしてるの?」
「うちは両親が忙しいから……自分で作ってるの」
私の場合は朝起きてから作るというよりも、夜のうちに作り置きしたものとか冷凍食品を詰めただけのもので、彩りだとか栄養バランスなんてものは全然考えてなくて、ただ毎日同じものを食べているという感じだ。味だって多分それなりのものだ。
私がしょんぼりした様子に気付いたのか、神崎さんは少し考えるような仕草をして言った。
「その玉子焼きは花音さんが自分で焼いたの?」
「う、うん。玉子焼きとウインナーは今朝焼いたやつ」
「じゃあプチトマトと交換しない? 花音さんのお弁当、野菜少ないし。お願い、実はプチトマト少し苦手なの」
そう言って神崎さんは自分の弁当箱を差し出してきた。
確かに私のお弁当は野菜が少ない。とりわけ生野菜は少し値が張ることもあって滅多に入らない。玉子焼きは三切れ入れたから、一つくらいあげたっていい。神崎さんに食べてもらうなんて緊張してしまうが。
というか、さっきのプチトマトが苦手だって告白した神崎さん、可愛すぎる……。天使なのかと思った。
「そうだ、箸がないから。あーんして」
そう言って既に神崎さんが口を開けて待っているじゃないか。どうしよう、神崎さん歯並びすら綺麗だ……。
「あ、あーん」
ぎこちなくなってしまったが、人にあーんするのなんて初めてだから許してほしい。口の中に放り込むと、神崎さんは満足そうに咀しゃくした。
「ふふ、花音さんの家では甘い玉子焼きなのね。美味しいわ。じゃあ、お返し」
そう言って神崎さんはあろうことか指先で摘まんだプチトマトを差し出してきたじゃないか。神崎さんはニコニコと微笑んでいる。
神崎さんのきれいな指に私の歯が触れないよう気を付けてプチトマトを受け取ろうとする。なんというか……神崎さんのペットになったような気分だった。その妙な力みのせいか、プチトマトを噛んでしまい果汁が飛ぶ。神崎さんの綺麗な白い指に、トマトの果汁がつたう。
「あら……花音さん、舐めて?」
「え?」
「ふふ、冗談よ」
そう言って神崎さんは自身の親指に舌を這わす。綺麗な神崎さんの、どこか淫靡な姿になぜか目が離せなかった。もし、私が舐めていたら……どんな反応をしただろう。
「私はね、けっこういろんなことをいろんな人に秘密にしているの」
ウェットティッシュで指先をぬぐった後、神崎さんが話し出した。私にはよく分からないが、きっと私なんかには想像もできないような複雑な事情があるのだろうと、とりあえず黙って聞くことにした。神崎さんは続ける。
「私がライトノベルとかアニメが好きなこと、友達には内緒にしているし。それに、ママが毎日彩りとして入れてくれるプチトマト、実は苦手だってことをママは知らない。でも、花音はどっちも知ってる」
突然の呼び捨てに困惑する私。私も両親に秘密を隠して生きている。それは私自身、きっとわかってもらえるようなものじゃないと思っているからだ。しかし、そんな私と違って、神崎さんはそんな自分の一面をさらけ出せる相手が欲しいということだろうか。
そんなことを考えていると、神崎さんは私の耳元に顔を近づけてきた。
そして囁くように言った。
「だから、これからはもっと仲良くしようね?」
その声はまるで私の心臓を鷲掴みにするかのような妖艶さと、甘美な響きがあった。
「私は花音のことを花音って呼ぶから、花音も好きに呼んでね」
「う、うん……ゆ、百合子ちゃん」
「ふふ、ありがと。またね、花音」
神崎さん……ううん、百合子ちゃんとこれ以上仲良くなったら、私……どうなっちゃうんだろう。
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