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第十八話「石喰い熊」
森の中で聞いたバキバキという木のへし折れる音、その発生源へと駆けつけた俺たち、そこで見たのは――
「あれが石喰い熊か」
大柄な男、それこそグローツよりもさらに一回り大きく、ずんぐりむっくりとした体格、ともすれば着ぐるみのように見えるが、だがしかし可愛げなんて一切ない。
その前足には石のような瘤があることが確認できる。だがその個体は……。
「あれ、手負いだよな」
その薄茶色の体毛にこびりついた血、そして噛み傷のようなものが見える。狩人ナーダがその傷を訝しげに見つめる。
「妙だな、この層に石喰い熊相手に引けを取らない魔物なんて……いるか?」
「石喰い熊の同士討ちってことは?」
俺の問いかけにナーダは首を横に振った。あの嚙み傷は石喰い熊の口よりさらに大きいらしい。確かに、石喰い熊は身体の大きさに対して頭はそこまで大きくないように見える。
「手負いの獣は危険が大きい」
「だが、あと何手か攻撃すれば倒せるんじゃないか?」
ルッテンとナーダは否定的な反応だったが、俺だって無策で吶喊するわけじゃない。収納から取り出したのは二層で手に入れたオオムカデの毒液、最初の戦闘では落ちなかったが、三層に降りる直前で戦ったオオムカデから手に入れることができた。
「これを矢の先端に塗って射る。いけるか、エル?」
「うん、やってみる。狙うのは頭でいいよね」
「あぁ、頼む」
気が立っているのだろう、木を相手に暴れる石喰い熊の頭部目掛けて矢が放たれる。毒矢といえど、一撃では倒せないだろう。石喰い熊の咆哮で森がざわつく。他の魔物が集まるのか、はたまた逃げ出すのか。雄叫びを上げ続ける石喰い熊だが気が散っているのか、こちらに敵意を向けているわけではないようだ。
俺は槍を構えて駆け出す。硬質の毛皮に覆われた腹部に槍を突き刺した瞬間、闇雲に振り回していた石喰い熊の右腕が俺を捉えた。
「ぐぁっ……!」
倒木に肩を打ち付けるが、なんとか立ち上がる。ささくれが脇腹に刺さったのか、わずかに出血している。だが、石喰い熊も暴れたせいで毒が回ったのか、徐々に動きが緩慢になっていき、やがて倒れ伏してそのまま霧のように消えていった。
「ナオ君! 怪我が……!」
「これくらい、ポーション一本で治る」
「仕方ない坊やね。私に任せなさい」
駆け寄ってきたセレスが治癒術を発動して、温かい光が傷口を包む。出血が止まり、打ち身のような痛さがあった肩も、痛みが消えていった。
「石喰い熊とは俺もよく殴り合ったもんだ。いい気迫だったぜ、ほら石喰い熊の毛皮だ」
ヴェンから素材を受け取り収納に入れる。周囲の警戒をしているルッテンとナーダだが、ナーダが何かに気付き、森のある方向を指さす。
「……おかしい。近くに、魔力の濃い反応がある。あっちだ」
その正体が石喰い熊に噛みついた魔物かもしれない。どうするつもりなのかルッテンの方を見やると、
「見に行くか。正体を確かめて討伐するか、場合によっては上に報告する。陣形はナオとエルを守るように囲む」
先頭からルッテン、俺、エル、セレス、その両横にヴェンとナーダという陣形で進む。ほどなくしてルッテンが左腕で進むのを制する。どうやら何か見つけたらしい。俺もよく目を凝らしてみると、やたら太い古木の根本に妙なシルエットがある。
「あれは……六足大鎧だな。なんでこんなところに……」
グローツ越しに見えたその姿は、なんと評していいのか分からない。虫なのか、獣なのか。その見た目をざっくり言うなら、足が六本ある巨大なアルマジロというところか。六足大鎧という名前は確かにその通りか。
「あいつ、本来は何層にいるんだ?」
「十層……らしい。正直、俺らもまだ十層には入ったことがないから、伝聞でしかない。あの堅そうな見た目の通り、防御力もさることながら、歯が鋭くて噛みつきの攻撃力も高い強敵だ。……退くぞ。お前らの目的は石喰い熊の素材、俺らの適性は八層、冷静に考えて十層級の魔物と戦闘をする意味はない」
俺もエルもルッテンに全面同意だ。六足大鎧の素材で鎧を作ったら強そうだなとは思うが、石喰い熊相手に負傷した俺に、あいつと戦えるなんて思えない。
ヴェンだけは少し悔しそうな顔をしている。強敵と戦うのが生きがいなのだろうが、それに俺たちを巻き込まないでほしい。
「こっちにはまだ気付いていないみたいだな。そのまま撤収だ」
「仕方ないな」
「賢明ね」
幸い、先程の石喰い熊の咆哮で他の魔物は逃げ出したのか、六層に上がるまで他の魔物と会敵はしなかった。
「三層で休息後、そのまま出よう。ギルドに報告するまで俺らも付き合う」
「あぁ、よろしく頼むぜルッテン」
六層の魔物を倒しつつ、俺たちはクルーア・ダンジョンからの離脱に向けて進み始めた。
「あれが石喰い熊か」
大柄な男、それこそグローツよりもさらに一回り大きく、ずんぐりむっくりとした体格、ともすれば着ぐるみのように見えるが、だがしかし可愛げなんて一切ない。
その前足には石のような瘤があることが確認できる。だがその個体は……。
「あれ、手負いだよな」
その薄茶色の体毛にこびりついた血、そして噛み傷のようなものが見える。狩人ナーダがその傷を訝しげに見つめる。
「妙だな、この層に石喰い熊相手に引けを取らない魔物なんて……いるか?」
「石喰い熊の同士討ちってことは?」
俺の問いかけにナーダは首を横に振った。あの嚙み傷は石喰い熊の口よりさらに大きいらしい。確かに、石喰い熊は身体の大きさに対して頭はそこまで大きくないように見える。
「手負いの獣は危険が大きい」
「だが、あと何手か攻撃すれば倒せるんじゃないか?」
ルッテンとナーダは否定的な反応だったが、俺だって無策で吶喊するわけじゃない。収納から取り出したのは二層で手に入れたオオムカデの毒液、最初の戦闘では落ちなかったが、三層に降りる直前で戦ったオオムカデから手に入れることができた。
「これを矢の先端に塗って射る。いけるか、エル?」
「うん、やってみる。狙うのは頭でいいよね」
「あぁ、頼む」
気が立っているのだろう、木を相手に暴れる石喰い熊の頭部目掛けて矢が放たれる。毒矢といえど、一撃では倒せないだろう。石喰い熊の咆哮で森がざわつく。他の魔物が集まるのか、はたまた逃げ出すのか。雄叫びを上げ続ける石喰い熊だが気が散っているのか、こちらに敵意を向けているわけではないようだ。
俺は槍を構えて駆け出す。硬質の毛皮に覆われた腹部に槍を突き刺した瞬間、闇雲に振り回していた石喰い熊の右腕が俺を捉えた。
「ぐぁっ……!」
倒木に肩を打ち付けるが、なんとか立ち上がる。ささくれが脇腹に刺さったのか、わずかに出血している。だが、石喰い熊も暴れたせいで毒が回ったのか、徐々に動きが緩慢になっていき、やがて倒れ伏してそのまま霧のように消えていった。
「ナオ君! 怪我が……!」
「これくらい、ポーション一本で治る」
「仕方ない坊やね。私に任せなさい」
駆け寄ってきたセレスが治癒術を発動して、温かい光が傷口を包む。出血が止まり、打ち身のような痛さがあった肩も、痛みが消えていった。
「石喰い熊とは俺もよく殴り合ったもんだ。いい気迫だったぜ、ほら石喰い熊の毛皮だ」
ヴェンから素材を受け取り収納に入れる。周囲の警戒をしているルッテンとナーダだが、ナーダが何かに気付き、森のある方向を指さす。
「……おかしい。近くに、魔力の濃い反応がある。あっちだ」
その正体が石喰い熊に噛みついた魔物かもしれない。どうするつもりなのかルッテンの方を見やると、
「見に行くか。正体を確かめて討伐するか、場合によっては上に報告する。陣形はナオとエルを守るように囲む」
先頭からルッテン、俺、エル、セレス、その両横にヴェンとナーダという陣形で進む。ほどなくしてルッテンが左腕で進むのを制する。どうやら何か見つけたらしい。俺もよく目を凝らしてみると、やたら太い古木の根本に妙なシルエットがある。
「あれは……六足大鎧だな。なんでこんなところに……」
グローツ越しに見えたその姿は、なんと評していいのか分からない。虫なのか、獣なのか。その見た目をざっくり言うなら、足が六本ある巨大なアルマジロというところか。六足大鎧という名前は確かにその通りか。
「あいつ、本来は何層にいるんだ?」
「十層……らしい。正直、俺らもまだ十層には入ったことがないから、伝聞でしかない。あの堅そうな見た目の通り、防御力もさることながら、歯が鋭くて噛みつきの攻撃力も高い強敵だ。……退くぞ。お前らの目的は石喰い熊の素材、俺らの適性は八層、冷静に考えて十層級の魔物と戦闘をする意味はない」
俺もエルもルッテンに全面同意だ。六足大鎧の素材で鎧を作ったら強そうだなとは思うが、石喰い熊相手に負傷した俺に、あいつと戦えるなんて思えない。
ヴェンだけは少し悔しそうな顔をしている。強敵と戦うのが生きがいなのだろうが、それに俺たちを巻き込まないでほしい。
「こっちにはまだ気付いていないみたいだな。そのまま撤収だ」
「仕方ないな」
「賢明ね」
幸い、先程の石喰い熊の咆哮で他の魔物は逃げ出したのか、六層に上がるまで他の魔物と会敵はしなかった。
「三層で休息後、そのまま出よう。ギルドに報告するまで俺らも付き合う」
「あぁ、よろしく頼むぜルッテン」
六層の魔物を倒しつつ、俺たちはクルーア・ダンジョンからの離脱に向けて進み始めた。
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