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第十九話「帰還と報告」
夕暮れ時、橙色の光に染まるセフィーロの町。ダンジョンから戻ってきた冒険者たちの喧騒で賑わうギルドのホールに、俺とエルは無事に辿り着いた。疲労は隠せないが、その表情には充実感が満ちている。目的を果たし、この騒がしい場所に戻ってきたことに、心底ホッとした。
ホールの一角、酒を酌み交わしていたグローツが、俺たちの姿を捉えた。その顔に浮かんだのは、嘲るような笑みだ。
「おいおい、なんだ逃げ帰ってきたのか? 七層ってのは甘くねぇだろ?」
彼を取り巻く数人の取り巻きも、ニヤニヤと同調する。その軽薄な声が、俺の耳に不快に響いた。だが、俺は彼らの挑発には乗らず、無言でまっすぐにギルドカウンターへと歩み寄る。エルも、しっかりと俺の隣に立っている。
カウンターの前で立ち止まった俺は、手のひらに魔力を集中させると、収納スキルから一枚の素材を取り出した。それは、七層で手に入れたばかりの石喰い熊の毛皮だ。ゴワゴワとした硬質な毛並みは、まるで岩石のようだ。その重々しい存在感に、耳障りだったグローツたちの笑い声が、ぴたりと止まった。
「石喰い熊……? お前、マジかよ……?」
グローツの取り巻きの一人が、信じられないといった顔で呟く。その目は、俺の手に持つ毛皮に釘付けになっている。
「ああ、運よく手負いの石喰い熊を発見してな。手間が省けて助かったぜ」
俺の言葉に、グローツの顔から嘲笑が消え、眉間に深い皺が刻まれる。
「は? 手負いって……おい、横取りしたのか?」
グローツの低い声に、ホールの空気が一瞬張り詰める。
「でも、条件は“石喰い熊の素材を採ってくること”だったよな?」
俺はグローツの視線から逃げずに、まっすぐに見つめ返した。その言葉に、周囲の冒険者たちの視線が一斉に俺たちに集まる。グローツは一瞬、言葉に詰まり、それから悔しそうに目を細めた。
「どいつにやられた個体だったんだよ」
その問いに答えたのは、ダンジョン六層の小屋で出会ったルッテンだった。
「おそらくは、六足大鎧だろう」
ルッテンが淡々と告げたその名を聞いた瞬間、周囲の空気が凍ったように静まり返った。ギルドホールの喧騒は嘘のように消え去り、数人のベテラン冒険者が、信じられないといった様子で顔を見合わせる。グローツすら、わずかに眉をひそめた。
「……最深層付近の魔物じゃねぇか。七層にいるわけねぇだろ」
「だが、いたんだよ。俺らがこの目で確認している」
ナーダが肩をすくめ、言葉を続ける。
「だから俺たちは逃げた。判断として間違ってなかったと思ってる。言っておくが、俺たちがナオに会ったのは六層の小屋で、そこまではこの二人が自力で辿り着いているぜ」
グローツは黙り込んだまま、俺の手に持つ石喰い熊の毛皮に目を落とした。その表情は、先ほどの尊大な態度からは想像もつかないほど、真剣なものに変わっていた。
「間違いなく本物だな。……認めてやるよ。条件は満たしてる。お前はエルの嬢ちゃんを守ってやれるだけの実力があるってことだ」
彼はゆっくりと酒杯をテーブルに置き、俺に向き直った。
「ついでに俺に催涙ポーションを投げつけたことも、水に流してやる」
「はっ、そんなこともあったな」
俺はわざとらしく肩をすくめ、あっけらかんとした態度で応じた。その様子にムッとしたのか、グローツはしばらくの沈黙ののち、ぽつりとそう言った。
「まぁいい……。だが、七層で六足大鎧が出たって情報は、ギルドに上げとけ。もしマジなら、今後の狩場としての安全が脅かされる。そしたら俺らも対応策を考えなきゃならねぇ」
「当たり前だろ。俺たちも同行する」
俺が頷き、ルッテンが受付嬢に声をかけると、彼女はギルドマスターへの面会を取り付けて戻って来た。二階へと続く階段を上る間、隣を歩くエルが、俺にこっそりと声をかけてきた。
「ねぇ、ナオ君。グローツって……ひょっとして、本当にいい人なのかな?」
その純粋な問いかけに、俺は少し笑ってしまう。
「わっかんねぇや。でも、素直じゃないってことはよく分かったよ」
「はっはっは。もうちっと大人になれば、わかるようになるんじゃねぇか?」
そう言ってルッテンたちが笑っているが、俺だって精神的にはアラサーなわけで……。まったく、人の見た目だけで判断するなよ、と心の中で呟きながら、俺はギルドマスターの待つ部屋へと向かった。
ホールの一角、酒を酌み交わしていたグローツが、俺たちの姿を捉えた。その顔に浮かんだのは、嘲るような笑みだ。
「おいおい、なんだ逃げ帰ってきたのか? 七層ってのは甘くねぇだろ?」
彼を取り巻く数人の取り巻きも、ニヤニヤと同調する。その軽薄な声が、俺の耳に不快に響いた。だが、俺は彼らの挑発には乗らず、無言でまっすぐにギルドカウンターへと歩み寄る。エルも、しっかりと俺の隣に立っている。
カウンターの前で立ち止まった俺は、手のひらに魔力を集中させると、収納スキルから一枚の素材を取り出した。それは、七層で手に入れたばかりの石喰い熊の毛皮だ。ゴワゴワとした硬質な毛並みは、まるで岩石のようだ。その重々しい存在感に、耳障りだったグローツたちの笑い声が、ぴたりと止まった。
「石喰い熊……? お前、マジかよ……?」
グローツの取り巻きの一人が、信じられないといった顔で呟く。その目は、俺の手に持つ毛皮に釘付けになっている。
「ああ、運よく手負いの石喰い熊を発見してな。手間が省けて助かったぜ」
俺の言葉に、グローツの顔から嘲笑が消え、眉間に深い皺が刻まれる。
「は? 手負いって……おい、横取りしたのか?」
グローツの低い声に、ホールの空気が一瞬張り詰める。
「でも、条件は“石喰い熊の素材を採ってくること”だったよな?」
俺はグローツの視線から逃げずに、まっすぐに見つめ返した。その言葉に、周囲の冒険者たちの視線が一斉に俺たちに集まる。グローツは一瞬、言葉に詰まり、それから悔しそうに目を細めた。
「どいつにやられた個体だったんだよ」
その問いに答えたのは、ダンジョン六層の小屋で出会ったルッテンだった。
「おそらくは、六足大鎧だろう」
ルッテンが淡々と告げたその名を聞いた瞬間、周囲の空気が凍ったように静まり返った。ギルドホールの喧騒は嘘のように消え去り、数人のベテラン冒険者が、信じられないといった様子で顔を見合わせる。グローツすら、わずかに眉をひそめた。
「……最深層付近の魔物じゃねぇか。七層にいるわけねぇだろ」
「だが、いたんだよ。俺らがこの目で確認している」
ナーダが肩をすくめ、言葉を続ける。
「だから俺たちは逃げた。判断として間違ってなかったと思ってる。言っておくが、俺たちがナオに会ったのは六層の小屋で、そこまではこの二人が自力で辿り着いているぜ」
グローツは黙り込んだまま、俺の手に持つ石喰い熊の毛皮に目を落とした。その表情は、先ほどの尊大な態度からは想像もつかないほど、真剣なものに変わっていた。
「間違いなく本物だな。……認めてやるよ。条件は満たしてる。お前はエルの嬢ちゃんを守ってやれるだけの実力があるってことだ」
彼はゆっくりと酒杯をテーブルに置き、俺に向き直った。
「ついでに俺に催涙ポーションを投げつけたことも、水に流してやる」
「はっ、そんなこともあったな」
俺はわざとらしく肩をすくめ、あっけらかんとした態度で応じた。その様子にムッとしたのか、グローツはしばらくの沈黙ののち、ぽつりとそう言った。
「まぁいい……。だが、七層で六足大鎧が出たって情報は、ギルドに上げとけ。もしマジなら、今後の狩場としての安全が脅かされる。そしたら俺らも対応策を考えなきゃならねぇ」
「当たり前だろ。俺たちも同行する」
俺が頷き、ルッテンが受付嬢に声をかけると、彼女はギルドマスターへの面会を取り付けて戻って来た。二階へと続く階段を上る間、隣を歩くエルが、俺にこっそりと声をかけてきた。
「ねぇ、ナオ君。グローツって……ひょっとして、本当にいい人なのかな?」
その純粋な問いかけに、俺は少し笑ってしまう。
「わっかんねぇや。でも、素直じゃないってことはよく分かったよ」
「はっはっは。もうちっと大人になれば、わかるようになるんじゃねぇか?」
そう言ってルッテンたちが笑っているが、俺だって精神的にはアラサーなわけで……。まったく、人の見た目だけで判断するなよ、と心の中で呟きながら、俺はギルドマスターの待つ部屋へと向かった。
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*** 週1(土曜午後9時)の投稿を予定しています。
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