1 / 31
ファーストナイト
しおりを挟む
闇夜を煌々と照らす満月の下に、蠢く影が一つ。それは石造りの城の側にある巨木の枝にあった。影の正面には希少な玻璃を用いた窓があった。絹とおぼしき布の先に、ほのかに揺れる灯りとそこに写る人影があった。
刹那、鉤の付いた縄が投げられ、窓枠に掛かる。影は木製の窓枠を外し、玻璃を割ることなく部屋に転がり込んだ。部屋の主はうら若き乙女であった。美しい銀の髪、炎に照らされてなお白い肌、夜着といえども豪奢な白のドレスは清楚でありながら、炎が生み出す陰影によってその豊満な肉体を露わにする。
「――――」
思いもしない闖入者に声を上げようとする部屋の主。しかしそれは叶わない。
「んじゅ……じゅぶ、くちゅ」
闖入者の唇で、口を封じられる部屋の主。長い接吻の中で、影が纏っていた黒のフードが外れる。影もまた一人の少女であった。栗色の髪、黒い瞳、黄みがかった肌、肉付きの悪い細身だが、やがて部屋の主を押し倒し尚も接吻を続ける。月が照らす中での淫らな行為、しかしこれは夜這いではない。影の正体は暗殺者。
「んじゅぶ……ちゅぱ、ずじゅぅ」
幼き日より毒に慣された身体は、粘膜接触によって他者を死に至らしめる程の毒すら効かない。しかし……。
「ん……!」
「はぁ……はぁ、はぁ」
銀髪の少女は顔を紅潮させ、息も乱れているが、これは毒によるものではない。
「なんで、死なないの……」
体制を整え腰の小刃の柄に手を伸ばす少女。そんな彼女に、銀髪の少女はあろうことか縋るように抱きつき、こう言ったのだ。
「ようやくお会い出来ましたわ。わたくしの……救世主さま」
そう言って彼女は、涙を浮かべた目で見つめてくる。
少女の名はアリスティア・フォン・マルドゥク。この国の姫である。そして少女は、目の前にいる黒衣の少女に問うた。
「ねえ、救世主さまのお名前は?」
「……」
沈黙する黒衣の少女。その顔は困惑していた。
(どうして……)
この国の姫を暗殺するために黒衣の少女は育てられた。これまでに何度も暗殺の任務を遂行し、全てを達成せしめてきた。とりわけ毒物の取り扱いには自信があり、今回も毒殺で決行しようとしていた。初めての失敗に、少女は動揺を抑えきれなかったのだ。
刹那、鉤の付いた縄が投げられ、窓枠に掛かる。影は木製の窓枠を外し、玻璃を割ることなく部屋に転がり込んだ。部屋の主はうら若き乙女であった。美しい銀の髪、炎に照らされてなお白い肌、夜着といえども豪奢な白のドレスは清楚でありながら、炎が生み出す陰影によってその豊満な肉体を露わにする。
「――――」
思いもしない闖入者に声を上げようとする部屋の主。しかしそれは叶わない。
「んじゅ……じゅぶ、くちゅ」
闖入者の唇で、口を封じられる部屋の主。長い接吻の中で、影が纏っていた黒のフードが外れる。影もまた一人の少女であった。栗色の髪、黒い瞳、黄みがかった肌、肉付きの悪い細身だが、やがて部屋の主を押し倒し尚も接吻を続ける。月が照らす中での淫らな行為、しかしこれは夜這いではない。影の正体は暗殺者。
「んじゅぶ……ちゅぱ、ずじゅぅ」
幼き日より毒に慣された身体は、粘膜接触によって他者を死に至らしめる程の毒すら効かない。しかし……。
「ん……!」
「はぁ……はぁ、はぁ」
銀髪の少女は顔を紅潮させ、息も乱れているが、これは毒によるものではない。
「なんで、死なないの……」
体制を整え腰の小刃の柄に手を伸ばす少女。そんな彼女に、銀髪の少女はあろうことか縋るように抱きつき、こう言ったのだ。
「ようやくお会い出来ましたわ。わたくしの……救世主さま」
そう言って彼女は、涙を浮かべた目で見つめてくる。
少女の名はアリスティア・フォン・マルドゥク。この国の姫である。そして少女は、目の前にいる黒衣の少女に問うた。
「ねえ、救世主さまのお名前は?」
「……」
沈黙する黒衣の少女。その顔は困惑していた。
(どうして……)
この国の姫を暗殺するために黒衣の少女は育てられた。これまでに何度も暗殺の任務を遂行し、全てを達成せしめてきた。とりわけ毒物の取り扱いには自信があり、今回も毒殺で決行しようとしていた。初めての失敗に、少女は動揺を抑えきれなかったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる