暗殺娘と影武者姫

楠富 つかさ

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暗殺者の出自

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――時は遡る。


 王都の貧民街の一角にある教会。そこでは何人もの孤児が共同生活をしていた。資金に乏しく、シスターは孤児のうち男児を労働力として闇奴隷商人に何人か売却して資金を得ていた。ある日、一人の少女が教会から姿を消した。彼女の名はマリアベル。孤児の中でも最年長だった彼女は、教会の裏手にある森で薬草摘みのアルバイトをしていた。
 ある朝、彼女が戻ってこないことを不審に思った他の子供達は探し回ったが見つからない。昼過ぎになっても戻らない彼女を心配した者達が捜索隊を結成し、森の中を探していると一台の馬車を発見した。

「おい、誰かいるぞ」
「女の子だ」
「怪我をしているようだ」
「助けてあげよう」

 馬車内にいたのはマリアベルだった。意識を失っているのかぐったりとしている。明らかに乱暴された後だった。
 シスターたちはこれまで女児を性奴隷として売却することは最後の一線として、せずにいたのだが……マリアベルの一件の後から性奴隷の売却を始めた。そんな闇孤児院をいつしか一人の男が支配するようになった。
 それからは地獄だった。
 孤児の食事に少量ずつ毒物を入れるようになり、孤児は明らかに数を減らした。少しずつ毒物への耐性を得ていった孤児たちに、暗器の扱いを覚えさせ暗殺者として育て上げたのだ。暗器の訓練と並行して行われたのが薬物投与による強化訓練だ。薬漬けにされ、薬物中毒になった子供には更なる苦痛が与えられた。それは拷問であり、また虐待でもあった。

「――」

 その中でもとりわけ優秀な少女がいた。名を奪った孤児院の支配者は少女を黒と呼んだ。男は孤児たちを色で呼んでいた。赤、青、黄、緑、紫、桃、白、橙、灰、茶、黒。男のお気に入りは緑の髪の子供や青い目の子供のほうだったが、特に気に入っていたのが黒の髪を持つ少女であった。黒は様々な任務をこなしてきたが、中でも毒の扱いに秀でておりそれを男はほめたたえた。

「素晴らしい、お前は天才だよ。これで私の野望も達成できるだろう」
「はい、父様」

 孤児たちはこの男を父と呼び、もう何年もの月日が経っていた。そして――――
「では、次の命令を与える。お前たちには王城へ侵入しアリスティア姫を暗殺してもらう。紫、桃、茶は周囲の見張りや邪魔者を、姫を暗殺するのは黒……お前だ」
「はい」
「いいか?必ず殺すんだぞ」
「はい、父様」
「行け」
「はっ!」
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