暗殺娘と影武者姫

楠富 つかさ

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黒と銀

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 ――時は戻る。

「どうして……貴女、毒が……」

 効かないはずがない、黒は愕然としていた。彼女がこれまで長い時間をかけて得てきた毒への耐性、そしてそれが為す毒の口移し。致死毒を口から流し込んだはずなのに、どうしてか姫は死にそうにない。

「ああ、やっと……やっとお会いできましたわ」
「何を言っているの……?」
「ずっと貴方をお待ちしておりましたのよ……救世主さま」

 銀髪の少女は頬を染めながら、うっとりとした表情で黒を見つめていた。

「私はただの暗殺者だ……」
「えぇ、分かっておりますとも。さぁ、私をここから連れ出してください」
「……えぇいこうなったら!」

 黒は作戦を変更し、腰から短刀を抜いた。……しかし。
 銀髪の少女は黒の手首をつかみ、足払い。押し倒したかのように黒髪の少女に覆いかぶさる。

「うふふ、早くしないと誰か来てしまうかもしれませんね?」
「くっ……離せ!なんで死なない!?」

 少女は黒の手を押さえつけると、今度は自分のドレスに手をかけた。

「何する気だ……?」

「まあ、そんな怖い顔しないでくださいまし?」

 少女は自らの身体を露わにした。豊満な肉体に似合う白い下着、胸を覆うブラジャーとガーターベルトだけの姿が月光に照らされる。そしてその下腹部には……。

「まさか、呪印……? 嘘だ、王家の人間に呪印があるわけがない!」

 呪印は魔力のない人間に刻み付ける後付けの魔力回路。刻み付けるときに常軌を逸した痛みを生じさせるそれは、魔力の高い貴族の中でも一流、王家の人間にはあるはずがないのだ。

「わたくし、影武者ですの。本当の名前を奪われアリスティアとしてしか生きられない……哀れな人形ですの」
「だからって何故、私にこんなことを」
「わたくしが”本物”になるため。……わたくしに、殺しの技術を教えて欲しいのですわ。だから、ここから連れ出してください」
「……わかった」

 この時、初めて黒衣の少女は銀髪の偽姫の瞳を見た。それは濁りを湛え悪意に支配された者の眼光だった。

「……分かった。私は黒、そう呼べ。お前は……銀だ。今日から銀と名乗れ」
「ありがとうございます、黒。これからよろしくお願いしますね」

 こうして二人は出会った。王都の夜は更けていく。
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