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第10話 紅葉と恵玲奈
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週明け月曜日、西恵玲奈は校内北西の離れを訪ねた。予期せぬ来訪者に城咲紅葉は驚いた。恵玲奈に手招きされ、彼女は首をかしげながらお茶を点てている部屋とは異なる和室で、恵玲奈と正対する。囲碁将棋部がまれに活動に使う部屋は座布団が敷かれており、恵玲奈は座るように促す。続いて恵玲奈も正座で座る。
「なんでしょうか」
あまり付き合いのない先輩からの呼出に、こわばった表情の紅葉を恵玲奈はどう和ませようか逡巡する。
「そうそう、私は西恵玲奈。茶道部の恵いるでしょ? そいつのルームメイト。茶道部はどう、楽しい? 私は新聞部と放送部を掛け持っててね、楽しい日々だよ」
一先ず自己紹介をして緊張を解こうとする。
「城咲さんのことも知りたいな」
「あ、はい。城咲紅葉です。中等部の三年二組で、桜花寮に住んでいます。実家は遠くて、その……家族と電話するのが好きです」
促されて紅葉はぽつりぽつりと話し始める。恵玲奈は新聞部で培ってきた聞く力を遺憾なく発揮し、ここ二年ほどの思い出から叶美との出会いについてまで慈しむような口調で紅葉は語り尽くした。
「本当に、叶美のこと好きなんだね」
「お姉さまは優しくて聡明で、純粋で……憧れなんです」
うっすらと頬を染めて話す彼女を見て、恵玲奈はこの場にいない友人の人を惹きつける力の強さに舌を巻いた。すると紅葉は何かを思い出したように口を開いた。
「ところで、西先輩はファッションセンスに自信はありますか?」
「え、あんまり……」
恵玲奈の返答に露骨にしょんぼりとする。そんな彼女に恵玲奈は釈明するように言葉を続けた。
「でもまぁ、叶美の好みとかは分かるよ。ていうか、城咲さんが叶美の好きそうな服を着る感じ? それとも、叶美にこういう服が似合いそうですね、みたいなことが言いたいの?」
「お姉さまをデートに誘いたいのですが、その時に何を着ていけばいいのかと思いまして……」
恵玲奈は足を崩して仰向けになった。離れの天井を眺めながら、デートのコーデについて思いを巡らせた。自分自身のファッションセンスには不安があるが、新聞部としてティーン向けの雑誌はそれなりに目を通している。
「まぁ、取り敢えず私から言えることとして、叶美は水色が好き。しかもパステルカラーっていうか、淡いものが好き。でも城咲さんは色白だし、鮮やかな色が似合うと思うな。赤とか紫……でも春っぽくないのかな。城咲さんはシックにまとめたら大人っぽくなりすぎちゃいそうだし……」
起き上がって、恵玲奈は改めて紅葉の全身を見やる。
「お姉さまはどんな服装が好きなんですか?」
紅葉に問われて恵玲奈は先日の動物公園での叶美のコーディネートを思い出していた。
「あれ、あの時の叶美……赤かったな」
「え?」
さっきと言っていることが違うじゃないかという思いを視線に載せる紅葉。その視線を察知し、慌てて両掌を振る。
「叶美、下着ほっとんど水色なんだけどなぁ。でもまぁ、叶美ってね……可愛いじゃん?」
「え、えぇ」
「めっちゃ美容に気を遣ってるように思うじゃん?」
「は、はぁ」
「ところがどっこい。叶美って自分の容姿に無頓着なの。スキンケアだって最低限だし、服を選ぶのもわりと人任せ。気に入った服をヘビロテしてヨレヨレにしちゃったりね」
「それはあんまりですね!!」
日々のスキンケアや服のコーディネートを考え、実践に移してきた紅葉からすれば、叶美のずぼらさは衝撃的ですらあった。
「なんだか、人に頼らずとも城咲さんファッションも拘ってそうだし、大丈夫そうな気がする。もっと自信持って!」
「あはは……。まぁ、その、自分で考えてみます」
「うん。私、城咲さんのことを応援するからね。何かあったら連絡ちょうだい」
チャットアプリのIDを伝えて恵玲奈は和室を後にした。
「なんでしょうか」
あまり付き合いのない先輩からの呼出に、こわばった表情の紅葉を恵玲奈はどう和ませようか逡巡する。
「そうそう、私は西恵玲奈。茶道部の恵いるでしょ? そいつのルームメイト。茶道部はどう、楽しい? 私は新聞部と放送部を掛け持っててね、楽しい日々だよ」
一先ず自己紹介をして緊張を解こうとする。
「城咲さんのことも知りたいな」
「あ、はい。城咲紅葉です。中等部の三年二組で、桜花寮に住んでいます。実家は遠くて、その……家族と電話するのが好きです」
促されて紅葉はぽつりぽつりと話し始める。恵玲奈は新聞部で培ってきた聞く力を遺憾なく発揮し、ここ二年ほどの思い出から叶美との出会いについてまで慈しむような口調で紅葉は語り尽くした。
「本当に、叶美のこと好きなんだね」
「お姉さまは優しくて聡明で、純粋で……憧れなんです」
うっすらと頬を染めて話す彼女を見て、恵玲奈はこの場にいない友人の人を惹きつける力の強さに舌を巻いた。すると紅葉は何かを思い出したように口を開いた。
「ところで、西先輩はファッションセンスに自信はありますか?」
「え、あんまり……」
恵玲奈の返答に露骨にしょんぼりとする。そんな彼女に恵玲奈は釈明するように言葉を続けた。
「でもまぁ、叶美の好みとかは分かるよ。ていうか、城咲さんが叶美の好きそうな服を着る感じ? それとも、叶美にこういう服が似合いそうですね、みたいなことが言いたいの?」
「お姉さまをデートに誘いたいのですが、その時に何を着ていけばいいのかと思いまして……」
恵玲奈は足を崩して仰向けになった。離れの天井を眺めながら、デートのコーデについて思いを巡らせた。自分自身のファッションセンスには不安があるが、新聞部としてティーン向けの雑誌はそれなりに目を通している。
「まぁ、取り敢えず私から言えることとして、叶美は水色が好き。しかもパステルカラーっていうか、淡いものが好き。でも城咲さんは色白だし、鮮やかな色が似合うと思うな。赤とか紫……でも春っぽくないのかな。城咲さんはシックにまとめたら大人っぽくなりすぎちゃいそうだし……」
起き上がって、恵玲奈は改めて紅葉の全身を見やる。
「お姉さまはどんな服装が好きなんですか?」
紅葉に問われて恵玲奈は先日の動物公園での叶美のコーディネートを思い出していた。
「あれ、あの時の叶美……赤かったな」
「え?」
さっきと言っていることが違うじゃないかという思いを視線に載せる紅葉。その視線を察知し、慌てて両掌を振る。
「叶美、下着ほっとんど水色なんだけどなぁ。でもまぁ、叶美ってね……可愛いじゃん?」
「え、えぇ」
「めっちゃ美容に気を遣ってるように思うじゃん?」
「は、はぁ」
「ところがどっこい。叶美って自分の容姿に無頓着なの。スキンケアだって最低限だし、服を選ぶのもわりと人任せ。気に入った服をヘビロテしてヨレヨレにしちゃったりね」
「それはあんまりですね!!」
日々のスキンケアや服のコーディネートを考え、実践に移してきた紅葉からすれば、叶美のずぼらさは衝撃的ですらあった。
「なんだか、人に頼らずとも城咲さんファッションも拘ってそうだし、大丈夫そうな気がする。もっと自信持って!」
「あはは……。まぁ、その、自分で考えてみます」
「うん。私、城咲さんのことを応援するからね。何かあったら連絡ちょうだい」
チャットアプリのIDを伝えて恵玲奈は和室を後にした。
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