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第12話 紅葉とデート(前編)
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そして土曜日。紅葉は白のカットソーに赤いチェックのスカートを穿いて、お気に入りの服を何着か抱えて叶美の部屋を尋ねた。足下は黒のハイソックスに歩きやすいスニーカーを合わせている。場合によっては叶美に自分の服を着てもらえるかもしれないと期待を胸に抱きながら、先に知らされていた叶美の部屋の扉をノックする。
「いらっしゃい。ごめんね、この格好で」
「いえいえ。お邪魔します」
叶美はペールブルーのルームウェア姿で紅葉を出迎えた。うっすらと化粧をしている紅葉と異なり、叶美はノーメイクのままだが髪は普段通りハーフアップに結われている。
「なんだかそのままでもオシャレに見えるなぁ」
「そんなことないですよ。何着か持ってきたので、お姉さまに選んで欲しいです。お姉さまも着てみていいですから」
そう言って紅葉はブラウスやスカートをベッドの上に広げる。その中から一着、叶美が手に取ったのはオフショルのカットソーだった。
「紅葉ちゃん、肩とか出すんだ。ちょっと意外かも」
「これはボルドーレッドなので、肩を出した方が抜け感があっていいんですよ」
叶美は感心したように声を出して、ルームウェアのトップスをおもむろに脱ぎ姿見の前で身体にあてて見た。あまりにも当たり前のように脱ぐものだから、紅葉はつい見入ってしまった。前に恵玲奈が言っていたように、下着は淡いブルーで少し使い込んでいるように見えた。
「可愛いかもこれ。あんまり着ない色だから下はどうしたらいいの?」
「え、あ……グレーのロングスカートだと、少し秋みたいだから、デニムか白のパンツ、ホットパンツとか持ってませんか?」
「あぁ、パンツはあんまり持ってないや。スカートばっかり」
「では花柄のスカートなんてありませんか?」
「それならあるかも」
そう言うと叶美はカットソーを一度ベッドに置き、タンスを探し始める。
「寒くありませんか?」
「平気だよー」
ゆるく返答する叶美だが、上半身はブラジャーのみ。せめてキャミソールくらい着ないのかと問いかける紅葉。
「そっか。忘れてた。待って、先にスカート探すから。去年買った気がするんだよねぇ。二回くらいしか着てないけど」
その言葉に紅葉は肩を落とす。買ってしまい込むなんて勿体ないし、花柄のスカートは何かと相性がいい春先のマストアイテムなのに、と。
「見付けた! 良かったぁ、シワになってない。ていうか、いいの? これ、借りちゃって」
「いいので取り敢えず服を着てください!」
さしもの紅葉ももう我慢の限界だった。そんな紅葉を不思議そうに眺めながら、キャミソール、カットソーの順に袖を通し、スカートも穿く。
「じゃあ次は紅葉ちゃんの番だね。わたしの服も見てみる?」
何着か叶美が服を取り出す。ボトムスはスカートばかりだが、トップスはTシャツもあればニットもある。寒色系が多い中、紅葉は赤いラインの入ったジャケットを手に取る。
「これ、大人っぽくていいですね。これ、羽織らせてもらいます」
「よーし、服装OK! 出掛けよ」
「ちょっと待ってください! 一切お化粧せず出掛けるつもりですか? 色つきリップくらいしませんか? 休日なんですよ?」
頷くより他ない叶美の顎に手を添え、リップクリームを塗る紅葉。艶やかな色味を湛える唇に、紅葉はつい魅入られてしまう。ハッと正気に戻った瞬間、間接キスをしてしまったことにも気付く。
「似合う? 変じゃない?」
そんな彼女に気付かない叶美に、肩すかしをくらったような気分になりつつも、赤らむ顔を見られないように先に部屋を出る紅葉。
「似合ってますよ。さ、行きましょう」
連れだって寮を後にし、駅へ向かう。学園前駅から下りに三駅、六礼駅直結のスターパレスショッピングモールへやって来た。
「ふふ、お姉さまとデートに来られて幸せですわ」
楽しそうな紅葉に思わず叶美も相好を崩す。叶美からすれば二週連続のデートだ。とは言え、デートのなんたるかを知っているわけではないし、
「一先ず二階へ行きましょうか」
紅葉に言われるがままブティックの並ぶ二階へと向かうと、友達とのショッピングという感じしかせず叶美も気楽に楽しめる。……と思っていたのだが。
「これもお姉さまに似合うと思うのですが、あぁ、こちらも捨てがたい」
「……えっと、あれ?」
数多くのアイテムが並ぶショップを見回すと、紅葉はまるで人が変わったように服を見て、そして漁る。次々に叶美に宛がっては、あぁでもないこうでもないと頭を悩ます。
「どうなさいました? お気に召しませんでしたか?」
「あ、いや、そんなことないよ? ただ、紅葉ちゃんの服は見なくていいのかなって?」
次々に服を見せられ、元からファッションの知識のない叶美は気圧されるばかりだ。それに視界にチラリと見える値札を見る限り、けっこうお値段が張る。
「試着だけでもして行きましょう。ね?」
これが一番だと決めた服を渡し、試着室へ叶美を促す。試着室への持ち込み制限がなく全身フルコーデで手渡した紅葉は満足顔だ。
「き、着替えた……よ?」
程なくして試着室から叶美が出てくる。先ほどまでとは異なり、よりガーリーで春めいた色合いにまとまっている。
薄桃色のパフスリーブブラウスはレースがあしらわれており、透け感があることからインナーに白いキャミソールを着て色合いに変化を持たせる。ボトムはふんわりと広がるフレアスカートで、色合いは白からピンクのグラデーション。
「どう、かな?」
「すごく可愛いですよ、お姉さま」
「えへへ、ありがとう紅葉ちゃん。まぁ、高いから買えないんだけどさ」
そう言って再び試着室のカーテンを閉める叶美。一点ずつ丁寧に戻して、着てきた服に戻る。
「お待たせ。春物の売り尽くしをやるようだったら、狙ってみようかな」
「その時はまた、ご一緒しますね」
「うん、ありがと。次は紅葉ちゃんの――」
「少し休憩にお茶しましょうよ」
紅葉の洋服を見ようと提案しようとしたところ、逆にお茶を提案されてしまった。誘ってきたのが紅葉である以上、エスコートは任せるしかないと叶美は紅葉に手を引かれるままブティックエリアを後にした。
「いらっしゃい。ごめんね、この格好で」
「いえいえ。お邪魔します」
叶美はペールブルーのルームウェア姿で紅葉を出迎えた。うっすらと化粧をしている紅葉と異なり、叶美はノーメイクのままだが髪は普段通りハーフアップに結われている。
「なんだかそのままでもオシャレに見えるなぁ」
「そんなことないですよ。何着か持ってきたので、お姉さまに選んで欲しいです。お姉さまも着てみていいですから」
そう言って紅葉はブラウスやスカートをベッドの上に広げる。その中から一着、叶美が手に取ったのはオフショルのカットソーだった。
「紅葉ちゃん、肩とか出すんだ。ちょっと意外かも」
「これはボルドーレッドなので、肩を出した方が抜け感があっていいんですよ」
叶美は感心したように声を出して、ルームウェアのトップスをおもむろに脱ぎ姿見の前で身体にあてて見た。あまりにも当たり前のように脱ぐものだから、紅葉はつい見入ってしまった。前に恵玲奈が言っていたように、下着は淡いブルーで少し使い込んでいるように見えた。
「可愛いかもこれ。あんまり着ない色だから下はどうしたらいいの?」
「え、あ……グレーのロングスカートだと、少し秋みたいだから、デニムか白のパンツ、ホットパンツとか持ってませんか?」
「あぁ、パンツはあんまり持ってないや。スカートばっかり」
「では花柄のスカートなんてありませんか?」
「それならあるかも」
そう言うと叶美はカットソーを一度ベッドに置き、タンスを探し始める。
「寒くありませんか?」
「平気だよー」
ゆるく返答する叶美だが、上半身はブラジャーのみ。せめてキャミソールくらい着ないのかと問いかける紅葉。
「そっか。忘れてた。待って、先にスカート探すから。去年買った気がするんだよねぇ。二回くらいしか着てないけど」
その言葉に紅葉は肩を落とす。買ってしまい込むなんて勿体ないし、花柄のスカートは何かと相性がいい春先のマストアイテムなのに、と。
「見付けた! 良かったぁ、シワになってない。ていうか、いいの? これ、借りちゃって」
「いいので取り敢えず服を着てください!」
さしもの紅葉ももう我慢の限界だった。そんな紅葉を不思議そうに眺めながら、キャミソール、カットソーの順に袖を通し、スカートも穿く。
「じゃあ次は紅葉ちゃんの番だね。わたしの服も見てみる?」
何着か叶美が服を取り出す。ボトムスはスカートばかりだが、トップスはTシャツもあればニットもある。寒色系が多い中、紅葉は赤いラインの入ったジャケットを手に取る。
「これ、大人っぽくていいですね。これ、羽織らせてもらいます」
「よーし、服装OK! 出掛けよ」
「ちょっと待ってください! 一切お化粧せず出掛けるつもりですか? 色つきリップくらいしませんか? 休日なんですよ?」
頷くより他ない叶美の顎に手を添え、リップクリームを塗る紅葉。艶やかな色味を湛える唇に、紅葉はつい魅入られてしまう。ハッと正気に戻った瞬間、間接キスをしてしまったことにも気付く。
「似合う? 変じゃない?」
そんな彼女に気付かない叶美に、肩すかしをくらったような気分になりつつも、赤らむ顔を見られないように先に部屋を出る紅葉。
「似合ってますよ。さ、行きましょう」
連れだって寮を後にし、駅へ向かう。学園前駅から下りに三駅、六礼駅直結のスターパレスショッピングモールへやって来た。
「ふふ、お姉さまとデートに来られて幸せですわ」
楽しそうな紅葉に思わず叶美も相好を崩す。叶美からすれば二週連続のデートだ。とは言え、デートのなんたるかを知っているわけではないし、
「一先ず二階へ行きましょうか」
紅葉に言われるがままブティックの並ぶ二階へと向かうと、友達とのショッピングという感じしかせず叶美も気楽に楽しめる。……と思っていたのだが。
「これもお姉さまに似合うと思うのですが、あぁ、こちらも捨てがたい」
「……えっと、あれ?」
数多くのアイテムが並ぶショップを見回すと、紅葉はまるで人が変わったように服を見て、そして漁る。次々に叶美に宛がっては、あぁでもないこうでもないと頭を悩ます。
「どうなさいました? お気に召しませんでしたか?」
「あ、いや、そんなことないよ? ただ、紅葉ちゃんの服は見なくていいのかなって?」
次々に服を見せられ、元からファッションの知識のない叶美は気圧されるばかりだ。それに視界にチラリと見える値札を見る限り、けっこうお値段が張る。
「試着だけでもして行きましょう。ね?」
これが一番だと決めた服を渡し、試着室へ叶美を促す。試着室への持ち込み制限がなく全身フルコーデで手渡した紅葉は満足顔だ。
「き、着替えた……よ?」
程なくして試着室から叶美が出てくる。先ほどまでとは異なり、よりガーリーで春めいた色合いにまとまっている。
薄桃色のパフスリーブブラウスはレースがあしらわれており、透け感があることからインナーに白いキャミソールを着て色合いに変化を持たせる。ボトムはふんわりと広がるフレアスカートで、色合いは白からピンクのグラデーション。
「どう、かな?」
「すごく可愛いですよ、お姉さま」
「えへへ、ありがとう紅葉ちゃん。まぁ、高いから買えないんだけどさ」
そう言って再び試着室のカーテンを閉める叶美。一点ずつ丁寧に戻して、着てきた服に戻る。
「お待たせ。春物の売り尽くしをやるようだったら、狙ってみようかな」
「その時はまた、ご一緒しますね」
「うん、ありがと。次は紅葉ちゃんの――」
「少し休憩にお茶しましょうよ」
紅葉の洋服を見ようと提案しようとしたところ、逆にお茶を提案されてしまった。誘ってきたのが紅葉である以上、エスコートは任せるしかないと叶美は紅葉に手を引かれるままブティックエリアを後にした。
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