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第13話 紅葉とデート(後編)
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二人が入ったのは全国チェーンの喫茶店、トワイライトコーヒー。コーヒーや軽食、スイーツの他に最近ではタピオカミルクティーも飲めるお店として人気だ。店内は今日も混雑している。少し待ってからテーブルへ通される。
「デートの定番といえばお茶ですよ」
そう力説する紅葉が飲んでいるのは抹茶ラテ。一方の叶美はアイスココアを飲んでいる。抹茶系以外の甘いものは苦手だと言う紅葉は他に注文しなかったが、叶美はシュークリームを追加で注文した。
「さっきまでは雰囲気に呑まれて言えなかったけど、今日はコンタクトなんだね。髪もストレートだし、可愛いよ」
「まぁ、気付いてくださって嬉しいです」
そう言って笑顔を浮かべる紅葉は年相応の雰囲気を放っており、なぜだか叶美はそれが嬉しかった。
「この後どうする?」
「そうですね、本屋さんには行きたいです。あとルームメイトにお土産を買って、それからは……どうしましょう?」
「せっかくだし何か記念になるような……。ねぇ、お揃いのヘアピンでも買わない?」
「いいんですか!? 嬉しいです」
「決まりだね」
喫茶店を後にした二人は、同じフロアにある書店を巡った後、雑貨屋へと向かった。女性向けの可愛いアイテムを揃えた店にはアクセサリーの類いも充実している。
「これなんてどうですか?」
紅葉が見せたのは、星もモチーフにした二つセットのヘアピン。色はゴールドとシルバー。
「色違いもいいかなって、どうでしょう?」
「うん、可愛いね。じゃあ、私お会計してくるよ」
「あ、そんな」
ごそごそと財布を取り出そうとする紅葉を制し、叶美はヘアピンを持ってレジへ向かう。
「わたしの方がお姉さんなんだから、これくらい気にしないで。高いものでもないし」
「は、はい。お姉さま。ありがとうございます」会計を済ませて紅葉のところに戻る。
「紅葉ちゃん、どっちにするの?」
ヘアピンを開封すると紅葉はシルバーを指差した。叶美はそのシルバーのヘアピンを紅葉の髪につけてあげる。前髪が少し重めな印象の紅葉、その表情が少し明るくなる。叶美も自分でゴールドのヘアピンをつけると、紅葉に似合うか問う。
「はい、似合います。私も、どうですか?」
「うん。いい感じ。ね、このままプリ撮ろう?」
「え、あ、私……あまり撮ったことないです」
少し戸惑いを見せる紅葉の手を引いてエスカレーターの方へ向かう。
「わたしもあんまり撮ったことないけど、ここの三階にゲームセンターがあって、その奥に機械があるってのは知っててさ。行こう」
「そう言えば映画館の反対側がゲームコーナーでしたね。ガヤガヤ感が苦手で入ったことないんです」
「確かにねぇ。流石に土曜日は混むね」
店内にかかる音楽やゲームの音、人の声、その大きさに二人が圧倒される。そんな一帯を抜けると、プリントシールの機械が並ぶエリアがある。
「これがいいかな」
「何がどう違うのか分からないんですけど……」
「これは、シンプルに写真に文字とかスタンプが押せるタイプでね。お化粧したようになったり、肌がめっちゃ白くなったりっていうタイプじゃないやつ。本当に記念に撮るって感じなんだ」
「詳しいですね」
「ほぼほぼ受け売りだよ。最近のプリって“盛れる”タイプが人気だけど、わたしはどうにもアレが苦手でね、自分が自分じゃなくなってる感じがするって言うとちょっと大げさなのは分かってるけどさ」
そんな叶美の言葉になるほどと紅葉が頷く。ブースに入って操作を進めると、音声ガイダンスが撮影のカウントダウンを告げる。
「じゃ、撮ろうか」
「はい!」
三種類写真を撮るのだが、その三種類目に、
「大好きです。お姉様」
「ふぇ?」
ほっぺに柔らかな感触を覚え、紅葉の方を勢いよく向く叶美。そこには顔を真っ赤にしている彼女が。
「えへへ、今日は楽しかったですし、嬉しかったですし、それで、その……お礼みたいな。うぅ、恥ずかしくなってきました。あ、私、エスカレーターの辺りで待ってますから!」
ブースからダッシュで逃げ出す紅葉。叶美は一先ず、撮影された写真に日付を手書きし、星と少しのハートスタンプを押して完成させた。ゲームコーナーを抜けてエスカレーターの方へ行くと、紅葉はベンチに座っていた。
「お待たせ」
「あ、えっと」
「はい、これ」
おどおどする彼女に、プリントシールのシートを渡す。
「ありがとう、ございます」
まだ頬を紅く染める彼女に、少しだけ悪戯心が湧いてきた叶美。すぐ隣に腰を下ろすと彼女の頬に――
「ちゅっ」
軽くキスをした。
「お、お姉さま!?」
「わたしからもお礼だよ」
「お姉様は少し意地悪です」
「そうかな?」
「はい。でも、そんなお姉さまも大好きです。さぁ、一階に行きましょう」
下りのエスカレーターに乗りながら、叶美が紅葉に問いかける。
「ルームメイトにお土産買うんだよね。何を買うの?」
「そうですね、エクレアがいいかなと。クリームが好きなんです」
叶美は聞きながら、紅葉に話を促す。
「元々、中一の時は別のルームメイトだったんですけど、菊花に移動したのをきっかけに二年から今のルームメイトが来て、ふわっとした妹系ですね。デートをするには、ちょっと子供っぽいかもしれないです」
菓子店でエクレアを購入すると、紅葉は改めて叶美に一礼した。
「今日は本当に楽しかったです。さぁ帰りましょう」
「うん。あのさ……ううん、何でも無い」
紅葉からのキス、紅葉へのキス。それを思いながら、紅葉の言葉その真意を問いたくて… …問えない。叶美のそんな懊悩を知ってか知らずか、スマートフォンを確認した紅葉が叶美を急かす。
「お姉さま、電車の時間を確認したら、もう少しで電車来ちゃいます。少し急ぎましょう」
「う、うん!!」
無事に電車に間に合った二人はその後、学園前駅で降りて来た道を辿り寮に帰ってきた。
紅葉は朝、叶美の部屋に持ち込んだ洋服を回収し、
「私、今日のこと絶対忘れません」
「大げさだよ。でも、わたしも楽しかった。ありがと、紅葉ちゃん」
「そんな、私こそありがとうございました。では、お姉さま。失礼します」
「うん、じゃあね」
高等部菊花寮の入り口で叶美に見送られ自室へと帰宅した。
「デートの定番といえばお茶ですよ」
そう力説する紅葉が飲んでいるのは抹茶ラテ。一方の叶美はアイスココアを飲んでいる。抹茶系以外の甘いものは苦手だと言う紅葉は他に注文しなかったが、叶美はシュークリームを追加で注文した。
「さっきまでは雰囲気に呑まれて言えなかったけど、今日はコンタクトなんだね。髪もストレートだし、可愛いよ」
「まぁ、気付いてくださって嬉しいです」
そう言って笑顔を浮かべる紅葉は年相応の雰囲気を放っており、なぜだか叶美はそれが嬉しかった。
「この後どうする?」
「そうですね、本屋さんには行きたいです。あとルームメイトにお土産を買って、それからは……どうしましょう?」
「せっかくだし何か記念になるような……。ねぇ、お揃いのヘアピンでも買わない?」
「いいんですか!? 嬉しいです」
「決まりだね」
喫茶店を後にした二人は、同じフロアにある書店を巡った後、雑貨屋へと向かった。女性向けの可愛いアイテムを揃えた店にはアクセサリーの類いも充実している。
「これなんてどうですか?」
紅葉が見せたのは、星もモチーフにした二つセットのヘアピン。色はゴールドとシルバー。
「色違いもいいかなって、どうでしょう?」
「うん、可愛いね。じゃあ、私お会計してくるよ」
「あ、そんな」
ごそごそと財布を取り出そうとする紅葉を制し、叶美はヘアピンを持ってレジへ向かう。
「わたしの方がお姉さんなんだから、これくらい気にしないで。高いものでもないし」
「は、はい。お姉さま。ありがとうございます」会計を済ませて紅葉のところに戻る。
「紅葉ちゃん、どっちにするの?」
ヘアピンを開封すると紅葉はシルバーを指差した。叶美はそのシルバーのヘアピンを紅葉の髪につけてあげる。前髪が少し重めな印象の紅葉、その表情が少し明るくなる。叶美も自分でゴールドのヘアピンをつけると、紅葉に似合うか問う。
「はい、似合います。私も、どうですか?」
「うん。いい感じ。ね、このままプリ撮ろう?」
「え、あ、私……あまり撮ったことないです」
少し戸惑いを見せる紅葉の手を引いてエスカレーターの方へ向かう。
「わたしもあんまり撮ったことないけど、ここの三階にゲームセンターがあって、その奥に機械があるってのは知っててさ。行こう」
「そう言えば映画館の反対側がゲームコーナーでしたね。ガヤガヤ感が苦手で入ったことないんです」
「確かにねぇ。流石に土曜日は混むね」
店内にかかる音楽やゲームの音、人の声、その大きさに二人が圧倒される。そんな一帯を抜けると、プリントシールの機械が並ぶエリアがある。
「これがいいかな」
「何がどう違うのか分からないんですけど……」
「これは、シンプルに写真に文字とかスタンプが押せるタイプでね。お化粧したようになったり、肌がめっちゃ白くなったりっていうタイプじゃないやつ。本当に記念に撮るって感じなんだ」
「詳しいですね」
「ほぼほぼ受け売りだよ。最近のプリって“盛れる”タイプが人気だけど、わたしはどうにもアレが苦手でね、自分が自分じゃなくなってる感じがするって言うとちょっと大げさなのは分かってるけどさ」
そんな叶美の言葉になるほどと紅葉が頷く。ブースに入って操作を進めると、音声ガイダンスが撮影のカウントダウンを告げる。
「じゃ、撮ろうか」
「はい!」
三種類写真を撮るのだが、その三種類目に、
「大好きです。お姉様」
「ふぇ?」
ほっぺに柔らかな感触を覚え、紅葉の方を勢いよく向く叶美。そこには顔を真っ赤にしている彼女が。
「えへへ、今日は楽しかったですし、嬉しかったですし、それで、その……お礼みたいな。うぅ、恥ずかしくなってきました。あ、私、エスカレーターの辺りで待ってますから!」
ブースからダッシュで逃げ出す紅葉。叶美は一先ず、撮影された写真に日付を手書きし、星と少しのハートスタンプを押して完成させた。ゲームコーナーを抜けてエスカレーターの方へ行くと、紅葉はベンチに座っていた。
「お待たせ」
「あ、えっと」
「はい、これ」
おどおどする彼女に、プリントシールのシートを渡す。
「ありがとう、ございます」
まだ頬を紅く染める彼女に、少しだけ悪戯心が湧いてきた叶美。すぐ隣に腰を下ろすと彼女の頬に――
「ちゅっ」
軽くキスをした。
「お、お姉さま!?」
「わたしからもお礼だよ」
「お姉様は少し意地悪です」
「そうかな?」
「はい。でも、そんなお姉さまも大好きです。さぁ、一階に行きましょう」
下りのエスカレーターに乗りながら、叶美が紅葉に問いかける。
「ルームメイトにお土産買うんだよね。何を買うの?」
「そうですね、エクレアがいいかなと。クリームが好きなんです」
叶美は聞きながら、紅葉に話を促す。
「元々、中一の時は別のルームメイトだったんですけど、菊花に移動したのをきっかけに二年から今のルームメイトが来て、ふわっとした妹系ですね。デートをするには、ちょっと子供っぽいかもしれないです」
菓子店でエクレアを購入すると、紅葉は改めて叶美に一礼した。
「今日は本当に楽しかったです。さぁ帰りましょう」
「うん。あのさ……ううん、何でも無い」
紅葉からのキス、紅葉へのキス。それを思いながら、紅葉の言葉その真意を問いたくて… …問えない。叶美のそんな懊悩を知ってか知らずか、スマートフォンを確認した紅葉が叶美を急かす。
「お姉さま、電車の時間を確認したら、もう少しで電車来ちゃいます。少し急ぎましょう」
「う、うん!!」
無事に電車に間に合った二人はその後、学園前駅で降りて来た道を辿り寮に帰ってきた。
紅葉は朝、叶美の部屋に持ち込んだ洋服を回収し、
「私、今日のこと絶対忘れません」
「大げさだよ。でも、わたしも楽しかった。ありがと、紅葉ちゃん」
「そんな、私こそありがとうございました。では、お姉さま。失礼します」
「うん、じゃあね」
高等部菊花寮の入り口で叶美に見送られ自室へと帰宅した。
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