いくら剣道有段者だからって異世界で無双なんてちょっと……

楠富 つかさ

文字の大きさ
2 / 7

いくら異世界転移だからってテンプレート通りなんてちょっと……

しおりを挟む
 視界が真っ暗になると、今度は少しずつ視界が開けてきた。明るくなると、目の前には見たことない光景が広がっていた。

「おぉ! 儀式は成功したのだな!」

 目の目には凄まじく豪奢な椅子――その豪華さはもはや玉座――に掛ける恰幅のいい男性。両サイドにはそれこそロールプレイングゲームに出てきそうな金属鎧を纏った人物が二人。腕には楯を装備しており、剣は腰に佩いている。そんな、見るからに王城と思しき空間で、私は刀を持ったまま立ちすくんでいた。

「やっと救世の刀に導かれた勇者を招くことが出来た……。この鞘を頼みに、何年待ったか。ようやく、あの刀が認める御仁に出会えたのか……」
「え、えっと……」

 勇者という言葉を聴き、どうやら創作物によくある異世界へ召喚されたということを少しだが認識し、王様で確定した目の前に男性に声をかけようとしたのだが……。

「む!? その声、刀の持ち主は年端もいかぬ少女だというのか!?」

 十六歳は年端もいかない方なのだろうか。というか、ずっとこちらを見ているはずの王様が、私のいでたちを理解していないことが理解できない……。

「えぇ、そうですとも。ですが、凛々しいお方にございます。まるで在りし日の王妃殿下のように……」

 側に仕える――騎士か兵士か分からないが――男性の一人が王様に告げる。屋内だからか兜はしておらず、その美しい金髪と容貌を晒している。隣にいるもう一人とは鎧の豪奢さが違うことから、何らかの責任者であるかもしれない。そんな風にじっくりと見ていると、

「おっと、勇者様。貴女のお名前は?」

 側に控える男性のもう一人、アイボリーの髪をした男性に名を尋ねられて、雛菊とだけ答えた。

「そうか。ヒナギクというのだな。いい名前だ。それでは王様」

 男性は名乗らず、王様の方を向くと一礼した。何が始まるのか?

「勇者ヒナギクよ。私は盲目故に汝の顔を見ることは出来ぬ。だが、汝の持つ波動を感じることは出来る。頼む、魔王を討ち、この世界に平和をもたらして欲しい……」

 やっぱりそういうことですか……。無茶でしょ!? 確かに剣道をやって十年以上経つし、県で優勝、地区ブロックで準優勝、全国大会でベスト4と、それなり以上の結果は出した。でも、それこそ全国一位を呼びなさいよというところだし、段位も三段。世の中にはもっと超人的に強い人がいるはず。だというのに、どうして私!?

「頼む。この通りだ……」

 王座から立ち上がり、階段を降りて頭を下げる王様。
 一国の主にそこまで誠実に頼み込まれてしまっては……。私は結局、全力を尽くしますと、返事をするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

処理中です...