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第7話
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次の日、教室に入ると、時見さんはいつも通り静かに座っていた。私はいつものように彼女に目が行ってしまう。誰も話しかけない、もちろん時見さんも誰かに声をかけることはない。ただその存在が教室にあるだけで、なんだか異質な雰囲気を放っている。
私は、自分が少し気になりすぎていることを感じていた。周囲の人々と同じように、自然に時見さんのことを放っておけばいいのに、それができない。気がつけば視線が彼女に向かっている。
「あ、空凪ちゃん!」
突然、葵ちゃんが声をかけてきた。
「うん、何?」
と振り向くと、葵ちゃんはニコニコと笑っていた。
「今日、放課後にちょっと出かけようよ。前に言ってたカフェ、行きたくない? ほら、駅南のあそこ」
「え、行きたいけど……」
言いながら、私はふと視線を時見さんに向けてしまう。彼女がカフェに行きたがるかどうかは分からない。でも、心のどこかで、彼女が一緒に行ってくれたら、何かが変わるかもしれない気がした。
「うーん、どうしようかな。でも、なんとなく時見さんも誘いたい気がするんだよね」
葵ちゃんは一瞬黙ったあと、私の表情を見てにやっと笑った。
「空凪ちゃん、ほんとうに時見さん気になるんだね」
「え、そ、そんなことないよ!」
急に焦って言い訳をしてしまう自分が恥ずかしい。葵ちゃんがあからさまにわかりやすく笑ったので、私は軽く頭をかいた。
「でも、時見さんも少しは話すようになってきてるし、放課後なら気軽に声をかけてみたら?」
葵ちゃんのその言葉に、少し勇気が湧いた。確かに、放課後なら周囲の目も気にしなくて済むし、ちょっとした会話くらいならできるかもしれない。
「うーん、そうだね……」
そのとき、先生が教室に入ってきたので、私は会話を切り上げて席に戻った。
放課後、教室を出るとき、私は少し躊躇いながらも時見さんを見た。時見さんは、他のクラスメイトがすでに帰った後も、黙々と一人で片づけをしていた。
(どうしよう……)
私はそのまま、少し足を踏み出してみた。心臓がドキドキして、どうしていいか分からない。でも、葵ちゃんが言っていた通り、今のままじゃ何も変わらない。少しだけ勇気を出して、歩み寄ることにした。
「時見さん、今、ちょっといい?」
声をかけると、時見さんははっとした顔をして、すぐに私の方を見た。驚いた様子だったが、すぐにその冷静な表情に戻った。
「何か?」
その一言が、私を一瞬だけ言葉に詰まらせた。
「えっと……、もしよかったら、これから一緒にカフェに行かない?」
少しだけ間があった。時見さんはしばらく私を見つめてから、ゆっくりと口を開いた。
「カフェ? どこの?」
「えっと、駅南のちょっとおしゃれなあのお店。葵ちゃんと行こうと思ってて、時見さんももしよかったらどうかなって思って」
今、言ったことが本当に正しかったのか、少しだけ不安だった。でも、時見さんは私の言葉をしっかりと聞いていた。
「今日はダメで。明日なら別に、構わないけど」
思ってもみなかったその返事に、私はちょっと驚いてしまった。条件付きとはいえ、時見さんは私の誘いに応じてくれた。
「わ、そ、それなら明日、十時に現地で待ち合わせ! いいかな!?」
「えぇ、かまわないわ」
「約束だよ!」
私は手を振って時見さんを見送る。そんな様子を見ていた葵ちゃんが私の隣に立つ。
「どうする? 下見、しておく?」
「う……ううん。明日の楽しみにしておく。ごめんね葵ちゃん。せっかく誘ってくれたのに」
「いいよ、珍しいものが見れたし。時見さんがどうして誘いに応じてくれたかは分からないけど、気を付けていってらっしゃい」
葵ちゃんの言う「気を付けて」が何に対してなのか、咄嗟に分からずいると、葵ちゃんは小さく手を振って教室を後にしてしまった。
何はともあれ、明日……時見さんとカフェ。しかも土曜日ってことは……お休みの日に友達と出かけるなんて。どんな格好していけばいいんだろう……。すごく、楽しみだ。
私は、自分が少し気になりすぎていることを感じていた。周囲の人々と同じように、自然に時見さんのことを放っておけばいいのに、それができない。気がつけば視線が彼女に向かっている。
「あ、空凪ちゃん!」
突然、葵ちゃんが声をかけてきた。
「うん、何?」
と振り向くと、葵ちゃんはニコニコと笑っていた。
「今日、放課後にちょっと出かけようよ。前に言ってたカフェ、行きたくない? ほら、駅南のあそこ」
「え、行きたいけど……」
言いながら、私はふと視線を時見さんに向けてしまう。彼女がカフェに行きたがるかどうかは分からない。でも、心のどこかで、彼女が一緒に行ってくれたら、何かが変わるかもしれない気がした。
「うーん、どうしようかな。でも、なんとなく時見さんも誘いたい気がするんだよね」
葵ちゃんは一瞬黙ったあと、私の表情を見てにやっと笑った。
「空凪ちゃん、ほんとうに時見さん気になるんだね」
「え、そ、そんなことないよ!」
急に焦って言い訳をしてしまう自分が恥ずかしい。葵ちゃんがあからさまにわかりやすく笑ったので、私は軽く頭をかいた。
「でも、時見さんも少しは話すようになってきてるし、放課後なら気軽に声をかけてみたら?」
葵ちゃんのその言葉に、少し勇気が湧いた。確かに、放課後なら周囲の目も気にしなくて済むし、ちょっとした会話くらいならできるかもしれない。
「うーん、そうだね……」
そのとき、先生が教室に入ってきたので、私は会話を切り上げて席に戻った。
放課後、教室を出るとき、私は少し躊躇いながらも時見さんを見た。時見さんは、他のクラスメイトがすでに帰った後も、黙々と一人で片づけをしていた。
(どうしよう……)
私はそのまま、少し足を踏み出してみた。心臓がドキドキして、どうしていいか分からない。でも、葵ちゃんが言っていた通り、今のままじゃ何も変わらない。少しだけ勇気を出して、歩み寄ることにした。
「時見さん、今、ちょっといい?」
声をかけると、時見さんははっとした顔をして、すぐに私の方を見た。驚いた様子だったが、すぐにその冷静な表情に戻った。
「何か?」
その一言が、私を一瞬だけ言葉に詰まらせた。
「えっと……、もしよかったら、これから一緒にカフェに行かない?」
少しだけ間があった。時見さんはしばらく私を見つめてから、ゆっくりと口を開いた。
「カフェ? どこの?」
「えっと、駅南のちょっとおしゃれなあのお店。葵ちゃんと行こうと思ってて、時見さんももしよかったらどうかなって思って」
今、言ったことが本当に正しかったのか、少しだけ不安だった。でも、時見さんは私の言葉をしっかりと聞いていた。
「今日はダメで。明日なら別に、構わないけど」
思ってもみなかったその返事に、私はちょっと驚いてしまった。条件付きとはいえ、時見さんは私の誘いに応じてくれた。
「わ、そ、それなら明日、十時に現地で待ち合わせ! いいかな!?」
「えぇ、かまわないわ」
「約束だよ!」
私は手を振って時見さんを見送る。そんな様子を見ていた葵ちゃんが私の隣に立つ。
「どうする? 下見、しておく?」
「う……ううん。明日の楽しみにしておく。ごめんね葵ちゃん。せっかく誘ってくれたのに」
「いいよ、珍しいものが見れたし。時見さんがどうして誘いに応じてくれたかは分からないけど、気を付けていってらっしゃい」
葵ちゃんの言う「気を付けて」が何に対してなのか、咄嗟に分からずいると、葵ちゃんは小さく手を振って教室を後にしてしまった。
何はともあれ、明日……時見さんとカフェ。しかも土曜日ってことは……お休みの日に友達と出かけるなんて。どんな格好していけばいいんだろう……。すごく、楽しみだ。
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